被災地の海で新しい人と海の関係を築く人たち


自然保護室の前川です。
先日、宮城県北部漁業士会の研修会に講師として出席してきました。

漁業士とは、地域の指導に携わる優れた漁業者の方が任命されるもので、宮城県では、北部、南部、中部の3区域に分かれて定期的な情報交換や研修を実施しています。

今回の研修会では、県の養殖振興プランが話題として提供され、私からも海の環境に配慮した養殖の証「ASC認証」のについてお話をさせてもらいました。

昨年11月、宮城県漁協志津川支所戸倉事務所が手掛けるマガキの養殖が、国内初となるこのASC認証の本審査を受けました。

これは、戸倉の漁業者の皆さんが、震災と復興を契機に、以前は当たり前だったカキの過密養殖をやめ、「持続可能な養殖」のあり方を模索する中で手掛けている試みの一つです。

戸倉のカキ

持続可能な養殖の証であるASCのマーク

勉強会に参加されていた戸倉の漁業士からは、「震災後、養殖密度を1/3に減らしたことで、カキがいきいきと育つようになっただけでなく、作業にかかる時間も大幅に減り、より良い生産を目指す余裕が出てきた」との発言があり、「たくさん作れば良い」という意識も変わりつつあるとのこと。

戸倉では現在もASCの認証審査が続けられていますが、こうした取り組みに対しては、県内の他の地域でも関心が広がっています。

あの大震災からもうすぐ約5年。

宮城県の養殖の生産基盤は復旧しつつあるとはいえ、いまだ震災の痛手は消えず、将来の持続的生産と発展を見据えた、経営や販売、生産、品質の改善が必要とされています。

すでに120を超える世界の養殖場が認証を取得し、国際的なエコラベルとしても信頼される「ASC認証」が、そうした県の取り組みを支える手立ての一つとして、地域の海の保全と、震災からの復興に貢献してくれることを期待しています。

関連情報

研修会の様子。昨年、宮城県が策定した養殖振興プランでは、ASC認証のほか、HACCP(ハサップ:食品加工におけるリスクと品質の管理に関する制度)やハラール認証(イスラム諸国に食品を輸出するための制度)が推進対象として位置づけられています。

この記事をシェアする

自然保護室(海洋水産 グループ長)
前川 聡

修士(動物学・北海道大学)
渡り性水鳥の全国調査および国際保全プログラムのコーディネーター業務、WWFサンゴ礁保護研究センター(沖縄県石垣島)での住民参加型の環境調査および普及啓発業務、海洋保護区の設定および管理状況の評価業務等に従事後、2011年より東日本大震災復興支援プロジェクトと水産エコラベルの普及および取得支援に携わる。養殖業成長産業化推進協議会委員。

日本各地の漁師町を訪ねては、持続的な養殖や漁業の推進のために関係者の方々と話し合いをしています。道すがら、普段はなかなか見ることができない風景や鳥を見つけては、一人ほくそえんでいます。もちろん、新鮮な魚介とお酒も! 健康診断の数値が気になるAround Fifty

人と自然が調和して
生きられる未来を目指して

WWFは100カ国以上で活動している
環境保全団体です。

PAGE TOP