決定された日本の気候変動対策目標案、やはり「不十分」
2015/07/21
2015年7月17日、政府は、地球温暖化対策推進本部の決定を受けて、国連気候変動枠組条約事務局に日本としての「約束草案」を提出しました。その内容は、2030年に向けた温室効果ガス排出量削減目標ですが、きわめて不十分だといわざるをえないものです。WWFは、改めて声明を発表し、草案の問題点を指摘するとともに、国内対策および国際交渉において、日本政府がその責任に見合った役割を果たすよう求めました。
気候変動の脅威のボーダーライン「2度未満」
今、地球温暖化によると考えられるさまざまな影響が、世界の各地から報告され、また予測されています。
IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の予測では、世界の平均気温が、産業革命前と比較して、1度上昇するだけでも、熱波や大雨、洪水などの異常気象のリスクが高くなるとされ、2度の上昇では、北極海の氷やサンゴ礁など微妙なバランスで成り立つ自然環境が、深刻な危険にさらされると考えられています。
さらに、3度以上の気温上昇は、生物多様性や世界経済全体に広範囲にわたる影響を及ぼし、4度以上になると、穀物の生産量の落ち込みや魚の漁獲量の変化などがあいまって、世界的な安全保障にも、取り返しのつかない影響が起きる可能性が指摘されています。
こうした予測を踏まえ、現状の国連の温暖化対策の会議では、「世界的な気温上昇を産業革命前と比較して2度未満に抑えること」を、国際的な共通目標とし、そのために必要とされるCO2(二酸化炭素)などの温室効果ガスの排出削減が議論されてきました。
「2度未満」を抑えるために必要な措置は?
世界の平均気温上昇を2度未満に抑えるためには、世界全体の温室効果ガスの排出量を2050年までに2010年比で約40~70%削減する必要があると考えられています。
このため、2015年6月にドイツで開催されたG7では、首脳たちこの70%に近い削減への合意を表明すると同時に、21世紀の間に世界経済を、現在の石油や石炭などに依存した形から、「脱炭素化」させることについても合意しました。
しかし、その中にあって、世界第5位の排出国である日本は、高い技術や経済的な能力を有しているにもかかわらず、過去20年間、大きな排出量の削減が達成できてきませんでした。
2015年7月17日、日本政府は、「2030年までに2013年比で26%削減」という新たな温暖化防止のための目標を発表しましたが、これも、2010年比に換算すると、約18%の削減にしかなりません。
2030年の国民一人当たりの排出量の見込みでも、欧州に及びません。
また今後、世界経済が「脱炭素化」に向かう意思を示しつつある中で、日本がこうした低炭素にかかわる分野で技術的な優位性や競争力を低下させていく恐れもあります。
年末のCOP21に向けて 日本として採るべき道は
IPCCの報告書では、アジア地域における地球温暖化の深刻な影響として、洪水と熱波、そして食料や水不足が3大リスクとして挙げられています。
このうち、熱波による被害(熱中症による死亡など)や洪水による被害は、気温が4度上昇した場合に比べ、上昇が2度に抑えられた場合、取り返しのつかないような影響のリスクが、かなり軽減されることが明示されています。
今回、日本政府が発表した温暖化防止の目標は、「2度未満」に気温上昇を抑える上で、十分な責任を果たすものとはいえません。
この課題について、これまでに幾度も声明や提言を行なってきたWWFジャパンは、日本が削減目標を発表した同日、あらためて声明を発し、草案の問題点を指摘するとともに、国内対策および国際交渉において、日本が世界と未来に対し、その責任に見合った役割を果たすよう、強く求めました。
2015年11~12月には、フランスのパリで、世界の気候変動に関する、重要な国連会議COP21(国連気候変動枠組条約第21回締約国会議)が開催されます。
国際社会が、2020年以降の地球温暖化防止に向けた、新しい対策の枠組みについて、合意を交わすこの会議に向けて、日本が提示した2030年に向けての温室効果ガス排出量削減目標案の問題点と、これからとるべき姿勢が、問われています。