動物の愛護及び管理に関する法律改正に対する要望書


環境省自然環境局総務課動物愛護管理室 御中
自民党どうぶつ愛護議員連盟 御中
自民党ペット関連産業・人材育成議員連盟 御中
公明党動物愛護管理推進委員会 御中
立憲民主党 環境部門会議 御中
犬猫の殺処分ゼロを目指す動物愛護議員連盟 御中
爬虫類・両生類を考える議員連盟 御中
 
公益財団法人 世界自然保護基金ジャパン

 

日本は、生物多様性条約(平成5・12・21、条約9号)を批准し、同条約の理念を遂行するために生物多様性基本法(平成20年法律第58号)を制定している。また、2010年には、生物多様性条約第10回締約国会議を愛知県で開催し、世界の合意として愛知目標を作り上げた。

現在、地球環境は、様々な人間活動の影響により生物多様性の劣化が進み深刻な現状に陥っている。

今般、改正される動物の愛護及び管理に関する法律(昭和48年法律第105号)(以下、動愛法)が対象とする愛玩動物等による自然環境や生物多様性への影響の回避は、避けて通れない現実となっている。
 特に法制度上の問題として、1)法の目的と対象物の不備がある。さらに法制度の欠陥から生じる 2)自然環境への被害、3)人の生活環境への被害、が挙げられる。

そこで、当公益法人は、以下問題の解決に大きく寄与するため、以下の10項目について要望する。

① 法の目的規定の中に動物の管理が生活環境だけでなく自然環境にも配慮して行われることを盛り込むべきである。(第1条)

  • 「動物の管理に関する事項を定めて動物による人の生命、身体及び財産に対する侵害並びに生活や自然環境の保全上の支障を防止する」とする。
  • ペット由来の外来生物「アライグマ、チョウセンシマリス、ハムスター、カミツキガメ、アカミミガメ、グリーンアノール等」が自然環境に与える影響は、甚大であり同法の目的規定の改訂が必要な時代となっている。
  • 絶滅のおそれがある種(国際条約または原産国の法律によって取引規制されているカワウソや国や自治体により国内捕獲が禁止されている南西諸島生息の爬虫類等)がペットとして多く取引され、種の絶滅の危機を高めている。

② 動物の愛護及び管理に関する法律(昭和48年法律第105号)(以下、動愛法)において、定義規定を設けるべきである。

  • 通常、法を執行する上において、必要な定義規定が欠落していること自体に問題がある。施行上必要不可欠な定義を明確にすべきである。例えば、第7条の「動物の所有者」とは誰を指すかどのような所有状況にあるのか曖昧である。遺棄された動物について、責任を問えないなど支障をきたす。
  • また動愛法の対象とする動物について、家庭動物、展示動物、実験動物、産業動物など動物の対象区分定義を明確に規定することが必要である。
  • 島嶼域をはじめ、生態系に影響を与え問題となっているネコなど、所有者が不明瞭な動物個体がどこまで動愛法の対象なのか、どこからが外来生物法あるいは、鳥獣保護法等の対象となるのかを、明確に記すべきである。

③ 人獣共通感染症(以下、ズーノーシス) やワンヘルス・アプローチに基づく動物由来感染症対策による影響を回避するなど、制度等の手立てが必要である。

(関連法:感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(平成十年法律第百十四号)、狂犬病予防法(昭和二十五年法律第二百四十七号)、検疫法(昭和二十六年法律第二百一号)、等)

  • 狂犬病やSFTSなどのズーノーシスによる人間への影響は、深刻であるが、ペットの対策は、野放し状態にあり、感染症リスクを高めることに繋がる。
  • ドイツでは、ネコ媒介の感染症が畜産業への大打撃になりうるとの視点で法整備がすすめられている。特に、トキソプラズマ感染は、中間宿主の家畜や人および野生動物に感染しており要注意である。畜産業では野放しネコが多いと飼育ブタの感染率が高くなる事例があり、沖縄での感染率は依然高い。生肉食(ヤギ)など注意が必要である。
  • 我が国において野放しネコの感染症の罹患率は高く、希少な野生動物種が生息する地域(例えば奄美大島ではアマミノクロウサギ、トゲネズミ、ケナガネズミ)で、野生種への感染が確認されている。感染経路として土壌や水などの病原菌やウィルスの汚染も起こしている。
  • 感染症の分野においてワンヘルス・アプローチの考え方をもとに所管する厚生労働省も連携して取り組む必要がある。従って、縦割りで議論すべき問題ではなく、環境省と厚生労働省は共管で取り組むべきである。

④ 飼育動物の逸脱の防止措置に関する管理徹底を努力規定から義務規定とすべきである(第7条3項)

  • 動物の所有・占有者は、逸走を防止する措置を講ずるよう規定されているが、努力義務にとどまっている。狂犬病予防法に定めるイヌやネコ等であっても、常時行動抑制がなされていない事例が地域によっては少なくない。
  • 認知外の繁殖や逸走による野生生物化または外来生物としての周辺の野生生物や生態系へ、大きな影響要因となっている地域もある。飼育動物だけでなく、家畜や実験動物などに起因する外来生物の発生と被害対策のため、外来生物法(特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律)で対象動物となる本法対象動物種の国内の地域間での移動行為に関し、厳しく予防的規制を盛り込む必要がある。なお規定整備にあたり、特に生物多様性の豊かな地域や外来生物の影響がより深刻である離島域が抱えるこれら課題を踏まえ整備する必要がある。
  • イヌ、ネコに限らず飼育管理下にある生物の従前の飼育習慣や認識を転換することや教育活動も重要である。これらについては、関係機関・省庁を超えた取り組み推進に関し協議事業連携を図る検討会の設置および自治体や民間活動の支援を目指した国による支援事業化をすすめる必要がある。

⑤ 地方公共団体による、動物愛護推進員及び地域の協議会への支援・連携の強化と、自治体の実施事項を義務化すべきである(第9条)

  • 動物種に応じた過剰な多頭飼育及び衛生や福祉面等での飼育管理状況の確認・指導については、公的機関が責任を担い実施する必要がある。
  • この実施にあたり、動物愛護推進員やその支援と連携を行う協議会の自治体としての予算、専門的情報や法制度面での実施支援など、必要な措置を講ずることについて、努力義務から実施義務と位置づけるべきである。

⑥ 絶滅のおそれがある種については取扱事業者を厳格に管理できる仕組みを導入すべきである(第10条)

  • 絶滅のおそれがある希少種(ワシントン条約で取引規制されている種や国や自治体により捕獲が禁止されている種等)については、取引により希少種の存続に影響を及ぼさないようにすること、施設内、取引個体間での感染症予防の徹底という側面から取扱業者を許可制にする。(例:種の保存法の希少種保全認定動物園等のみが希少種の取引を行えるなどする)
  • 動物園等が学術目的で入手した上記希少種の繁殖個体の取引については、許可を受けた事業者間のみとする。
  • 事業者間での上記希少種取引については、取引履歴の確認が取れる公的なデータベースや照会制度の構築を図るべき。

⑦ 都道府県知事の立ち入り検査の実施や勧告・命令等の権限規定を、実施すべき義務規定に変更すべきである(第23条、24条、32条、33条、34条)

  •  第一種動物取扱業者の情報提供義務違反など法律が順守されていないケースが多くみられ、希少種の違法取引や動物の不適切な飼育などを誘発している。都道府県知事が行う第一種動物取扱業者への勧告や検査等を義務化し法執行の強化を図るべきである。

⑧ 動物愛護推進員の権限の強化と自治体の支援体制を明文化すべきである(第38条)

  • 動愛法の規定に基づく適正な飼育管理及び行政による補助制度について、飼い主への普及とともに必要な指導・助言・斡旋等の役割は重要である。
  • 所有責任を負わない無責任な餌やりや、未登録や多頭での飼育及び放し飼い、さらに山林などへの遺棄・放畜が後を絶たない。
  • 地域の監視や情報の収集と共有及び適切な飼育や制度の活用を推進するため、動物愛護推進員の役割は重要であるものの、都道府県ごとに技量の選定や任命基準もあいまいであり、また活動実態が有効かつ十分に機能しているとは言えない。さらに多くの推進員が、自己負担により、ボランティアで活動を行っている。
  • 都道府県及び自治体は推進員の活動を、経費等の資金面、必要な情報とともに、公的立場で活動権限であることを明示・説明する標章や証明書の付与等の規定を明文化する必要がある。

⑨ 動物愛護推進員の支援及び民間団体による地域での補完的体制の強化に関する規定の拡大をすべきである(第39条)

  • 推進員の活動および執行力を強化するため、行政による支援と共に、推進員同士及び警察や動物愛護センターなどを含む行政と推進員相互の連携を強化することが必要である。
  • この体制を強化するため、協議会の位置づけを都道府県レベル及び自治体レベルで公的事業として地域ごとの課題や問題地域に応じた活動プランと、重点的に推進員の活動を支援する仕組みを、現状を踏まえて検討する必要がある。
  • 協議会については、本法における違法行為の摘発・検挙にともない専門知識を有する警察の継続的な参加協力を得ること。この良例として、兵庫県が公的に位置づけ行っているアニマルポリスと称する、県警の一機関の事例を参考に、逮捕権を有する専門担当部局が推進員など民間活動との補完協働体制を整える必要がある。

⑩ マイクロチップの装着を、イヌ・ネコのほか、IUCNが定める侵略的外来生物で我が国内で飼育され装着が可能な種について全頭装着を義務化すべきである(附則14条)

  • 本法の対象動物のうち、ネコおよび狂犬病予防法で鑑札の装着が義務化されているイヌも、個体の生涯にわたり登録情報の識別が確実となるマイクロチップの装着を、すべての個体を対象にすることが必要である。
  • またIUCNによる世界の侵略的外来生物ワースト100に指定されているヤギなど、我が国でも問題となっている種については、家畜動物として登録されているもの以外の飼育下にある個体は、マイクロチップの装着を義務化すべきである。併せて、外来生物法で指定されている生物についてのリスク評価を重点施策として進める必要がある。
  • また各都道府県のすべての動物保護センターや自治体の保健所において、職員への定期的な使用研修や全国共通のマニュアルの整備をすすめるとともに、市民からの問い合わせに随時確認・照会できる体制を整備すること。
  • 現在一部民間団体に任されているマイクロチップの登録情報のデータベースについて、公的な機関による「全国ペット戸籍制度」を設ける必要がある。
以上

お問い合わせ先

C&M室プレス担当 Email: press@wwf.or.jp

この記事をシェアする

人と自然が調和して
生きられる未来を目指して

WWFは100カ国以上で活動している
環境保全団体です。

PAGE TOP