種の保存法政令指定種アユモドキの生息地における京都スタジアム(仮称) 計画に関する公共事業評価に対する意見書


意見書 2015年5月25日

京都府知事 山田啓二 殿

(公財)世界自然保護基金ジャパン
会長 徳川恒孝

拝啓 時下益々ご清栄のこととお慶び申し上げます。
日頃より、自然環境の保全にご尽力を賜り誠にありがとうございます。

世界自然保護基金ジャパンは、亀岡市において計画されている京都スタジアムの建設によって、国が天然記念物および種の保存法による国内希少野生動植物種として保護している希少淡水魚アユモドキが絶滅することを危惧し、京都府知事および亀岡市長に対してその保護を求める要望書を平成26年4月23日付で提出させて頂きました。また、本年1月13日付で同計画に対し京都府知事および公共事業評価委員会委員長宛に、環境保全専門家会議の意見を尊重し、予防原則に基づき手続きが完了した上で、公共事業評価委員会に掛けるよう、慎重な対応をするよう要望書を提出致しました。

しかしながら、先般行われた専門家会議で京都府および亀岡市は『今後、水田環境に関する実証実験などの調査や環境保全専門家会議の検討と「実施設計・建設工事」の一体的な発注を並行して進め、調査検討の結果を「実施設計」の内容、「建設工事」の内容に反映させ、事業の途中の時点でも計画を柔軟に変更していく新たな事業方式(デザインビルド)を導入するとの考えを委員に示した』と聞きます。また、20日の夜に開かれた環境保全専門家会議では、多くの課題が未解決の状態で建設事業の目的にアユモドキの保全を明記した新たな計画案が了承されました。

現時点ではまだ、スタジアムの立地や配置がアユモドキの生息や繁殖に悪影響を及ぼすのか、あるいは悪影響を回避できるのかについて、科学的な根拠に基づいた環境影響評価は、出されていません。また、柔軟に計画を変更するとは言うものの、見直しの基準や手続きは不明瞭で、アユモドキの存続が保障されるかどうか、今の時点では確証が得られていません。実証実験結果さえ判明していないなか、水田や水路の消失などアユモドキ生息域の改変を伴う現予定地内での建設を前提とした「実施設計や建設工事」費の予算化を行うことは、アユモドキへの悪影響の回避や自然との共生が可能であるという根拠がなく到底支持できるものではありません。

生物の多様性は、微妙な均衡を保つことによって成り立っており、科学的に解明されていない事象が多く、一度損なわれた生物の多様性を再生することが困難であること、科学的知見の充実に努めつつ生物の多様性を保全する予防的な取組方法が重要であるとしております。また、1992年の環境と開発に関する国際連合会議(UNCED)リオデジャネイロ宣言の第15原則に示された予防原則(環境に重大かつ不可逆的な影響を及ぼす仮説上の恐れがある場合、科学的に因果関係が十分証明されない状況でも、規制措置を可能にする考え)に基づいて判断しなければなりません。
国連が行ったミレニアム生態系評価によると、世界の生きものの種の数は、人間による自然資源の消費と排出物による汚染の影響がない時代に比べて、100~1000倍のスピードで減り続けているといわれています。このままの状態が続き、生態系が「臨界点(ティッピングポイント)」を迎えると、地域もしくは地球規模のスケールで、生物多様性とその恵みに甚大な変化が生じ、すぐに回復させることが困難になります。その結果、私たちが今、恵みを受けている生物多様性が劇的に損なわれる可能性が高いとされています。

貴職におかれましては、環境保全専門家会議の意見や夏季に行われる実証実験の結果、そのデータに基づく科学的な環境影響評価の結果を待ち、予防的な保全対策の方針が確定するなど、予防原則に基づく手続きが完了した上で、公共事業評価委員会に掛けるよう、十分慎重にご対応くださるよう、お願い申し上げます。

敬具


公共事業評価委員会 委員長 小林潔司 殿

(公財)世界自然保護基金ジャパン
会長 徳川恒孝

拝啓 時下益々ご清栄のこととお慶び申し上げます。
日頃より、自然環境の保全にご尽力を賜り誠にありがとうございます。

世界自然保護基金ジャパンは、亀岡市において計画されている京都スタジアムの建設によって、国が天然記念物および種の保存法による国内希少野生動植物種として保護している希少淡水魚アユモドキが絶滅することを危惧し、京都府知事および亀岡市長に対してその保護を求める要望書を平成26年4月23日付で提出させて頂きました。また、本年1月13日付で同計画に対し京都府知事および公共事業評価委員会委員長宛に、環境保全専門家会議の意見を尊重し、予防原則に基づき手続きが完了した上で、貴委員会で審議するよう、慎重な対応をするよう要望書を提出致しました。

しかしながら、先般行われた専門家会議で京都府および亀岡市は『今後、水田環境に関する実証実験などの調査や環境保全専門家会議の検討と「実施設計・建設工事」の一体的な発注を並行して進め、調査検討の結果を「実施設計」の内容、「建設工事」の内容に反映させ、事業の途中の時点でも計画を柔軟に変更していく新たな事業方式(デザインビルド)を導入するとの考えを委員に示した』と聞きます。また、20日の夜に開かれた環境保全専門家会議では、多くの課題が未解決の状態で建設事業の目的にアユモドキの保全を明記した新たな計画案が了承されました。

現時点ではまだ、スタジアムの立地や配置がアユモドキの生息や繁殖に悪影響を及ぼすのか、あるいは悪影響を回避できるのかについて、科学的な根拠に基づいた環境影響評価は、出されていません。また、柔軟に計画を変更するとは言うものの、見直しの基準や手続きは不明瞭で、アユモドキの存続が保障されるかどうか、今の時点では確証が得られていません。実証実験結果さえ判明していないなか、水田や水路の消失などアユモドキ生息域の改変を伴う現予定地内での建設を前提とした「実施設計や建設工事」費の予算化を行うことは、アユモドキへの悪影響の回避や自然との共生が可能であるという根拠がなく到底支持できるものではありません。

生物の多様性は、微妙な均衡を保つことによって成り立っており、科学的に解明されていない事象が多く、一度損なわれた生物の多様性を再生することが困難であること、科学的知見の充実に努めつつ生物の多様性を保全する予防的な取組方法が重要であるとしております。また、1992年の環境と開発に関する国際連合会議(UNCED)リオデジャネイロ宣言の第15原則に示された予防原則(環境に重大かつ不可逆的な影響を及ぼす仮説上の恐れがある場合、科学的に因果関係が十分証明されない状況でも、規制措置を可能にする考え)に基づいて判断しなければなりません。
国連が行ったミレニアム生態系評価によると、世界の生きものの種の数は、人間による自然資源の消費と排出物による汚染の影響がない時代に比べて、100~1000倍のスピードで減り続けているといわれています。このままの状態が続き、生態系が「臨界点(ティッピングポイント)」を迎えると、地域もしくは地球規模のスケールで、生物多様性とその恵みに甚大な変化が生じ、すぐに回復させることが困難になります。その結果、私たちが今、恵みを受けている生物多様性が劇的に損なわれる可能性が高いとされています。

貴職におかれましては、環境保全専門家会議の意見や夏季に行われる実証実験の結果、そのデータに基づく科学的な環境影響評価の結果を待ち、予防的な保全対策の方針が確定するなど、予防原則に基づく手続きが完了した上で、貴委員会で審議するよう、十分慎重にご対応くださるよう、お願い申し上げます。

敬具

参考:WWFジャパン意見書等

本件に関する連絡先:事務局長付 草刈秀紀 (03-3769-1711、kusakari@wwf.or.jp)


記者発表資料 2015年5月25日

京都スタジアム建設は、予防原則に基づくアユモドキ保全の方針策定が先決

WWFジャパンは、本日、京都府知事および公共事業評価委員会委員長および各委員に対して、京都スタジアム(仮称)の建設に際し、デザインビルドと呼ばれる事業方式を導入するよりも、夏季に行なわれる実証実験の結果も考慮に入れて、予防原則に基づく保全の方針を策定することの方が先決であるとする意見書を提出した。

京都府は、5月12日、「亀岡市都市計画公園及び京都スタジアム(仮称)に係る環境保全専門家会議」を開催した。その中で、今後、水田環境に関する実証実験などの調査や環境保全専門家会議の検討と「実施設計・建設工事」の一体的な発注を並行して進め、調査検討の結果を「実施設計」の内容、「建設工事」の内容に反映させ、事業の途中の時点でも計画を柔軟に変更していく事業方式(デザインビルドと呼ばれる「 設計・施工一括発注方式」)を導入するとの考えを委員に示した。さらに、20日夜、府は、臨時の会議を開催し、多くの課題が未解決の状態で、新計画案を提示し、次の段階である公共事業評価委員会にかけることを決めてしまった。

京都スタジアムについては、国が天然記念物および種の保存法による国内希少野生動植物種として保護している希少淡水魚アユモドキの生息に影響する心配があるとして、WWFジャパンは、昨年4月23日付で京都府知事および亀岡市長宛に要望書を提出し、本年1月13日付で京都府知事および公共事業評価委員会委員長宛に意見書を提出し、保全策を求めた。

今回示された新たな事業方式(デザインビルド)では、柔軟に計画を変更していくとはされているものの、いまだアユモドキへの影響の程度について科学的検証の済んでいない事業計画を前進させた場合に、取り返しのつかない影響をおよぼす懸念は払拭できない。また、重大な影響が生じてから計画を変更しても手遅れになる事態もありうる。このような事態を想定して、リオ宣言の第15原則で予防原則がうたわれている。

少なくとも、夏季に行なわれる実証実験の結果を待ってから、事業実施の是非を判断すべきである。柔軟に計画を変更するとは言うものの、見直しの基準や手続きは不明瞭で、アユモドキの存続が保障されるのかどうか、今の時点では確証が得られていない。

20日夜にとりまとめられた新計画案は、アユモドキの絶滅回避に関心を寄せる関係者の納得のいくものとは言えず、その保全の施策は十分ではない。

ついては、今般、京都府知事および府の公共事業評価委員会委員長に宛てて、予防的な保全対策の方針が確定するなど、予防原則に基づく手続きが完了した上で、公共事業評価委員会にかけるという慎重な対応が望まれることを、意見書にまとめて提出した。

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