© Marizilda Cruppe / WWF-UK

算数で解く森林破壊と感染症リスクの科学

この記事のポイント
新型コロナウイルス感染症などの動物由来感染症の拡大には、森林破壊が深くかかわっていると言われています。そこには図形の面積と周長の関係という算数で解けるメカニズムが働いています。またこのメカニズムから、森林、そして人間の健康を守るヒントが見えてきます。自然を守ることが人と野生生物を守ることにつながる、この「ワンヘルス」の考え方は、WWFが取り組む活動の基本的な姿勢にも通じるものです。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック以降、森林破壊など土地利用の改変が感染症リスクを増加させていることが繰り返し訴えられています。

森林が破壊されることで、人や家畜が、さまざまな病原体を持っている野生生物と接触する機会が増えるからです。

特に、森林の「分断」や「縮小」が起きると、そうした危険が大きくなります。

それはなぜでしょうか?

簡単な算数を使ってその仕組みを解いてみましょう。

大丈夫、
小学校で習う四角形の面積計算ほどのお話です。

エッジ効果:面積と周長の関係

森林破壊が起こると、次の2つの状況が発生し、これによって、野生生物と人の接触機会が増えてしまいます。

  1. 森林の断片化
  2. 面積の減少

①「森林の断片化」とエッジ効果

エッジ効果とは、破壊などによって森林などの生息地の形が変わり、面積(森の広さ)と、周長(森の縁の長さ)の関係が変わることで、野生生物と人の接触機会が増えてしまうことを言います。

上の図のように、2つの森林があったとしましょう。
どちらの森林も、面積は同じ400km2です。 

では周りの長さ(周長)はどうでしょう。
左の森は80kmなのに対して、右の森は合計160kmと、2倍になっています。

このように、森林がバラバラになるほど(断片化)、同じ面積でも周長は長くなります。

周長が長いということは、それだけ森と人間社会の境界線が長く、森に生息する野生生物が外に出てしまう可能性が高くなることを意味します。

エッジ効果には、この野生生物と人の接触機会を増やす他にも、生息地の境界部分の方が、湿気が逃げてしまいやすく、水分が外部に逃げてしまう、などの効果があります。

例えば小さく孤立した熱帯林などでこのエッジ効果が生じると、森の乾燥化が進み、植生が変化してしまいます。

こうした現象は、森林破壊が伐採だけでなく、分断による断片化でも深刻化する理由を示しています。

© Marizilda Cruppe / WWF-UK

違法伐採で分断されたブラジルの森林

②「森林の縮小」とエッジ効果

今度は、森の面積での違いをみてみましょう。

下の図のように、森が同じ形でも、大きさが異なる場合はどのようなことが起きるでしょうか。

面積は左の森が400km2で、右の森(100km2)の4倍あります。 

一方、周長はそれぞれ80km、40kmと、左の森は右の森の2倍にしかなっていません。 

このように、同じ形ならば小さければ小さいほど、面積に対する周長の割合(面積周長比)は大きくなります。

周長が短いのは、もちろん右の森。
ですが、こちらは森の中心から境界までの距離が短いので、野生生物が外に出やすくなってしまいます。

例えば下の図の例では、左の森では中心から境界までは10km移動しなければならないのに対し、右の森では5kmで中心から境界に到達してしまいます。

こうした「エッジ効果」が示す、面積と周長に注目すると、森林の「断片化」と、「面積の減少」という、2つの森林破壊が、野生生物と人の接触機会を増やしてしまう理由がわかるのです。

動物由来感染症で確認されているエッジ効果の影響

エッジ効果による影響は、感染症と森林破壊の事例の中でも、実際に確認されています。 

たとえば、ダニによって媒介されるライム病(*1)やマラリア(*2)、エボラ出血熱(*3)といった多くの感染症で、これまでにエッジ効果の強いかかわりが報告されてきました。 

他にも、黄熱病やレーシュマニア症、眠り病の発生も、森林を切り開き森林境界周辺に暮らす人が増えたことと関連があるといわれています(*4)。 

つまり、豊かな森林を切り拓き、そこに人が入り込んでいくことは、生物多様性を損なうと同時に、感染症リスクの増加を引き起こすのです(*5)

しかし、このことは逆に考えれば、森林を適切に守れば、感染症リスクが低減できる、ということでもあります。 

そもそも二酸化炭素の吸収や、さまざまな恵みをもたらしてくれる森林なしには、人は生きていくことはできません。 

次の感染症を考えるとき、蔓延防止策や、ワクチンなどの治療法の確立も重要ですが、そもそも感染症を発生させないことこそ、究極の防御策ではないでしょうか。 

森林を保全することの重要性は、これまでになく高まっているのです。 
© WWFジャパン

燃やされ切り開かれたインドネシアの森。奥には手付かずの森が残っている。

森林を守ることは私たちの健康を守ること

ではどのように森林を守っていけばよいでしょうか?
このとき重要になるのが、今回ご紹介したエッジ効果です。

エッジ効果は、森林が小さく、断片化しているほど大きくなるというものでした。

したがって、その逆、すなわち「できるだけ大きく、断片化していない」状態で森林を保全すること、が理想的ということです。

もちろん、現実には農地があったり、住宅地があったりと、いつでもどこでも理想通りの森林を保全できるではありません。

しかし、こうした科学的知見に基づいて、あるべき姿を念頭に置きながら、できるだけその姿に近づけるよう活動していくことが、保全活動では非常に重要なのです。

新型コロナウイルス感染症が今も世界中で猛威をふるう中で、人は森や自然と、どのように付き合っていくのか。

その選択の結果が、直接、人の社会や生活、経済に影響を及ぼす時代に入っています。

快適さや便利さばかりに目を奪われ、判断を誤れば、森がさらに失われ、多くの生きものは絶滅に追い込まれ、新たな感染症が再び発生することになりかねません。

人と自然が「持続可能」な形で共存していくこと、そして森林や野生動物の健康が、人の健康を一つのものとする「ワンヘルス(One Health)」という考え方を形にしていくこと。

それこそが、これからの安全で豊かな暮らしを約束するものです。

身の回りからも、持続可能な暮らしや、ワンヘルスに通じる考え方や取り組みを、ぜひ考えてみてください。

参考文献

  1. Allan, B.F., Keesing, F. and Ostfeld, R.S. (2003), Effect of Forest Fragmentation on Lyme Disease Risk. Conservation Biology, 17: 267-272. doi:10.1046/j.1523-1739.2003.01260.x 
  2. Brock PM, Fornace KM, Grigg MJ, Anstey NM, William T, Cox J, Drakeley CJ, Ferguson HM, Kao RR. 2019 Predictive analysis across spatial scales links zoonotic malaria to deforestation. Proc. R. Soc. B 286: 20182351.
  3. Rulli, M.C., Santini, M., Hayman, D.T. & D’Odorico, P. (2017). The nexus between forest fragmentation in Africa and Ebola virus disease outbreaks. Sci. Rep., 7, 41613 
  4. BA Wilcox, and B Ellis. 2006. Forests and emerging infectious diseases of humans. Unasylva, 57 (2006), pp. 11–18 
  5. Wilkinson DA, Marshall JC, French NP, Hayman DTS. 2018 Habitat fragmentation, biodiversity loss and the risk of novel infectious disease emergence. J. R. Soc. Interface 15: 20180403. http://dx.doi.org/10.1098/rsif.2018.0403 

地球から、森がなくなってしまう前に。

森のない世界では、野生動物も人も、暮らしていくことはできません。私たちと一緒に、できることを、今日からはじめてみませんか?

今日、森林破壊を止めるためにできること

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