世界の海から「混獲」をなくす!日本の漁業の挑戦


WWFが主催している、海の生きものに配慮した漁具の工夫を競う「国際スマートギアコンテスト」。2011年11月、このコンテストで、日本かつお・まぐろ漁業協同組合が発案した「二重加重枝縄」が大賞を受賞しました。特に海鳥の「混獲(誤って漁具にからまる事故)」を減らす新たな漁具として注目されています。漁業者にとっても、海鳥にとっても「安全」を確保したこの漁具「二重加重枝縄」。同組合の方に、開発までの道のりをうかがいました。

インタビュー:「二重加重枝縄を、早く世界に普及させたい」

漁業において、目的以外の生物が網や釣り針などにかかってしまう「混獲」の問題は、世界のあちこちで、また、さまざまな漁法で起きています。

たとえば、遠洋で操業する「マグロ延縄(はえなわ)漁」では、長年、アホウドリやミズナギドリなどの海鳥の混獲が起きてきました。

しかし2011年11月、WWFが主催する「国際スマートギアコンテスト」で、この混獲を大幅に減らせる改良漁具「二重加重枝縄」が大賞を受賞。問題解決の糸口が見えてきました。

漁業者にとっても、海鳥にとっても「安全」を確保したこの漁具について、日本かつお・まぐろ漁業協同組合にお話をうかがいました。

■延縄漁業の図

延縄漁業

延縄漁と海鳥の混獲

-まず、「延縄(はえなわ)」という漁法について教えてください。

「延縄漁とは、遠洋で行なわれる漁法の一つで、一本の長い縄(幹縄)に、釣り針の付いた縄(枝縄)を何本も垂らし、マグロやカツオを釣りあげます。幹縄の長さは約150キロメートル。そこに約3,000本の枝縄が下がります。」

-その枝縄に海鳥がかかるわけですね?

「はい、枝縄に餌として付けられる魚を狙って、ミズナギドリが海に飛び込み、釣り針にかかることがあります。

アホウドリは、魚をくわえて浮上してくるミズナギドリをアタックして魚を横取りする。そういう行動の中で、枝縄についた釣り針にひっかかると浮上できずに、溺死するものが出てきます。

でも、ミズナギドリが潜る深さは、せいぜい10メートルくらい。なので、枝縄につけられた餌が10メートルより深く沈んだあとは、海鳥がかかる心配はありません。

もともと、マグロを狙う延縄漁では、200~300メートルの深さまで釣り針と餌を沈めますから、枝縄に錘(おもり)をつけて、餌魚をすばやく、深くまで沈めれば、混獲を避けるのに有効だろうというのは、前から言われていたんです。」

「二十加重枝縄」を使用した操業

-それが「加重」枝縄ということですね。その方法を実際に試すことになったのには、何かきっかけがあるのですか?

「5年前、南アフリカ共和国の200海里の中で操業することになったんです。ここは特に海鳥が多い場所なのですが、南ア政府から、海鳥の混獲数を「年間25羽以内にすること」が操業条件として提示されました。

トリライン(※)や夜間投縄(夜の間に延縄を海に入れる)を一部、導入してみたのですが、最初の年には100~200羽くらいの混獲が発生してしまった。

そうしたところ、ちょうどワシントン大学のエド・メルヴィン教授がコンタクトしてきて、2008、2009、2010年の3年間、加重枝縄の導入に向けて協力することになったんです。」

  • ※トリライン:漁船の船尾に取り付けた長い棒の先から吹き流しやテープを付けたロープを曳航し、鳥が餌に近づけないようにする仕掛け。トリポールともいう。これも日本で発明された。世界的に「tori line」「tori pole」の名前で知られている。

誕生した「二重加重枝縄」の工夫

-今回、受賞されたのは「二重加重枝縄」とのことですが、「二重」というのは、どういう意味なのでしょう?

「加重枝縄は、60グラムの鉛の錘(おもり)を一つ、枝縄の先のほうに付けた構造になっています。

ところが、これを実際に海で使用すると、時化やうねりがあるときに延縄を引き上げると、この錘が銃弾のような形で船員に向かって飛んでくることがわかりました。

それも、ちょうど頭や顔のあたりに飛んでくるので、実際に失明や、頭蓋骨骨折のような重大な事故が起きてしまいました。

メルヴィン教授からは、錘の周りにゴムを巻くという案も出てきたのですが、そんなことでは、とうてい事故は軽減できません。そんな折、第5福積丸の山崎漁労長が、錘を二つに分けて付ける「二重加重枝縄」を発案したのです。」

-錘を二つに分けると、事故は起きないのですか?

「60グラムの錘を二つに分けてつけると、錘がまっすぐ飛ばなくなるので、顔にあたる心配がなくなりました。

また、錘が一つだけだと、沈んでいくときに、針と餌が枝縄に絡んでしまい、マグロがうまくかからなくなって、漁業そのものに影響が出ていました。錘を二つに分けて、その間をワイヤーでつなぐようにすると、枝縄に絡むことも少なくなります。」

被害がわずか6羽に!「二重加重枝縄」の効果

混獲防止への効果は?

「現在、9艘が操業していますが、4月から5月にかけて始まった2012年の漁期については、混獲数はまだ6羽にとどまっています。

一艘につき、一日に3000本くらい針を入れますから、9艘で3万本近くになります。それで1カ月ほどで6羽なので、効果は実証されていると思います。まだ一羽も混獲していない船もあるわけですから。漁業効率を下げることなく、混獲の被害も大幅に減らすことができるのが、二重加重枝縄だといえます。」

その6羽は、どのような状況で針にかかったのでしょう?

「枝縄を引き上げたときに、餌の魚が付いたまま上がってくる場合があるんです。それをめがけて飛び込んで針にかかるものがいます。

これについては残念ながら対策のしようがないのですが、でも、この場合は、生きた状態で船に引き上げられる場合がほとんどなので、その場で針をはずして放しています。

そういう意味では、ほぼ100%、混獲によって死なせることは防げているといってよいと思います。

昔から、特に日本の漁師は、無益な殺生を嫌う傾向があるので、鳥にしろカメにしろ、生きていればはずして逃がすのが基本ですね。」

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ワタリアホウドリ。翼を広げると3メートルになる大型の海鳥。しばしば混獲の犠牲になる。

世界が認めた「二重加重枝縄」その広がりへの期待

二重加重枝縄を普及していこうという動きはありますか?

「今、南アフリカだけでなく、ブラジルの200海里でも採用することをめざして、細かいスペックをつめているところです。

また、2011年の夏には、ACAP(アホウドリ類とウミツバメ類の保全に関する協定)の海鳥回避装置に関する作業部会というのがエクアドルでありましたが、そこに招かれて二重加重枝縄について紹介をしました。

国際スマートギアコンテストでいただいた賞金は、普及活動に使いなさいという「ヒモ」が付いていますからね(笑)。

台湾、韓国、中国の大手のマグロ船を所有している会社に、二重加重枝縄を解説するCDも配布していますし、水産庁にお願いして、ACAPと、バードライフインターナショナルと共同で、普及のためのワークショップを開催しようとしています。

我々だけでやっているのじゃなく、中国、台湾、韓国、EUの船にも取り入れてもらわないと、意味がないですから。」

国際的な漁業協定の中でも、拘束力のある採択がなされたと聞きました。

「2011年のICCAT(大西洋まぐろ類保存国際委員会)で、2013年7月から、南緯30度以南では、(1)加重枝縄、(2)トリライン、(3)夜間投縄のうちから2つを採用する、ということが決まりました。

IOTC(インド洋まぐろ委員会)でも、南緯25度以南について2014年からそうなります。いずれも拘束力のある採択です。

採択から実施まで、一年ほど期間があるのは、一年以上、日本に戻ってこない船に対して、やり方の普及、材料の調達・補給などをやるとなると、やはりそれなりに時間がかかるからです。悠長だという非難もありますが、これは必要な時間です。」

3つのうち2つ、とされている意味は?

「海鳥が飛び込んできやすい場面の一つが、延縄(はえなわ)を海に入れる時です。そこで、我々は、船尾から100mくらいは、トリラインでカバーして、その先は、二重加重枝縄によって、すみやかに餌を沈める、という対策をとっています。

ただ、ICCATやIOTCの採択では、加重枝縄、となっていて、必ずしも二重加重枝縄であることとはされていません。

でも漁師の側からすれば、(錘が一つだけの)加重枝縄では危険もあるし、漁獲効率も下がるので、二重加重枝縄を採用できるように、ICATTの採択の中でも、細かいスペックについては漁業者のほうの裁量で、幅をもたせることができるようにしてもらっています。」

人と海鳥にやさしい漁業をめざして

夜間投縄というのは、効果があるのでしょうか。

「海に飛び込んで魚をとる海鳥は、視覚に頼っているものが多いので、夜間に延縄を海に入れることは、混獲防止に効果があります。

ただ、まっ暗な中で縄をうつので、どうしても手元の明かりは必要になります。でも、船が揺れるので、最低限の手元の明かりでも、周囲へ散ってしまい、却って鳥が集まる結果になることもあるんです。

しかも、漁業者の睡眠時間が減るという問題もあります。日の出までに投縄を済ませなければならないとなると、今は午前4時くらいから縄を入れ始めているのを、午前1時とか2時に始めなければならない。そうなると、睡眠時間が削られることになって、安全や健康管理に問題が出てきてしまいます。

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オーストラリアのミナミマグロ。資源の枯渇が懸念される魚種の一つ

夜間投縄は、漁業者として受け入れられないですね。漁業者の安全面や健康、漁の効率、混獲回避への効果、すべてを考え合わせて一番よいのが二重加重枝縄なんです。」

-漁業にたずさわる方々にとって、混獲を防ぐというのは、どのような意味を持っているとお考えになりますか?

「延縄漁に関しては、餌をとられる被害を防ぐ、という意味もあります。しかし、それより、混獲を防ぐというのは、今や避けて通れない問題だと感じています。

この問題を避ける、ということは、マグロ延縄漁から撤退するという意味だと思っていますから。

そうした中で、現場の漁労長のアイデアで、ようやく我々としても納得のできる対策ができました。

だから、早く他の国や団体にも普及させたい。これ以上、混獲の問題で漁業活動が制限されるようなことがなくなって、安心して操業が続けられるようになることを願っています。

環境団体も、これまで混獲問題を批判してきた分、ようやく、ほぼ完成した我々の取り組みを、ぜひ広く知らせてほしいと思います。」

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漁業における「混獲」を減らすための漁具のアイデアを競う、国際スマートギアコンテスト2011が開催され、今回初めて、日本人が大賞を受賞しました。受賞したのは、日本かつお・まぐろ漁業協同組合所属の第5福積丸の山崎漁労長で、アホウドリやミズナギドリなどの海鳥の混獲を防ぐ工夫を凝らした、「二重加重枝縄」のアイデアがその賞を獲得しました。混獲は海の環境を脅かす深刻な問題の一つで、毎年数十万ともいわれる海鳥やウミガメなどの海洋生物が犠牲になっているとされています。

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