地球環境の危機と希望~『生きている地球レポート2026』を発表

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2026年10月8日、WWFは『生きている地球レポート(Living Planet Report: LPR)2026』を発表しました。この報告書は、世界の生物多様性の損失が、依然として深刻な状況にあること、それと同時に、回復の希望が確かに存在することを示しています。これまでの環境保全活動の成功を活かし、生物多様性の損失を止め、回復を実現するには、今なにが必要なのか。10月19日から始まる国連の生物多様性条約会議(CBD-COP17)を前に、発表した報告書の概要と、未来に向けたメッセージをお伝えします。
目次

生きている地球レポート2026

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深刻化する生物多様性の危機

地球上のすべての生命は、互いにつながりながら一つの大きなシステムを形づくっています。人の暮らしも、その恩恵の上に成り立っています。

食料の生産はミツバチなどの送粉者や土壌生物に支えられ、安全な水は健全な森林や、湿地、湖沼などの流域の自然によって育まれています。

これら森林、海洋、湿地、草原の環境は、気候を安定させ、そこに生きる植物や野生動物は、紙や木材、水産物といったさまざまな資源や、多くの医薬品の原料を、人の社会にもたらしてきました。

2023年の1年間に、世界のGDPの約半分にあたる58兆米ドル相当が、何らかの形で自然に依存していたとされています。

しかし、その生命を支える基盤である地球の生物多様性は、急速に失われています。

生物多様性を構成する世界の野生生物は、今や5万種近くが絶滅の危機にあります。

2026年10月8日、WWFはZSL(ロンドン動物学協会)と共に『生きている地球レポート(Living Planet Report: LPR)2026』を発表。

その中で、生物多様性の豊かさを示す「生きている地球指数(Living Planet Index:LPI)」が73%減少したことを明らかにしました。

この指数は、1970年から2022年までの間に、調査対象となった5,790種の野生生物の個体群(*)の規模の変化の平均を示したものです。

*個体群:ある地域にすむ同種の生物の個体の集まりをいう。個体間に交配などの相互関係があること、同種の他の個体群と隔離された集団であることを含む意味で使われることが多い

【関連リンク】生物多様性の変化はどう測る? ~「生きている地球指数(Living Planet Index)」の解説(リンク)

減少の主な原因は、生息地の喪失や劣化、乱獲などの過剰な利用、気候変動、汚染、侵略的外来種、疾病などです。

特に淡水域では最も大きな減少が確認されており、過剰な水資源の利用や、河川改変、ダム建設による生息地の分断などが深刻な影響を及ぼしています。

こうした状況は、「生物多様性完全性指数」や「レッドリスト指数」など他の地球環境の現状を示す指標の傾向とも一致しており、自然の劣化が世界規模で進行していることを明らかにしています。

地域区分ごとに⾒た、1970年から2022年まで陸域および淡⽔域を合わせたLPIの推移と、陸域、淡水域、海域ごとのLPI。

地域区分ごとに⾒た、1970年から2022年まで陸域および淡⽔域を合わせたLPIの推移と、陸域、淡水域、海域ごとのLPI。

保全活動が示す「希望」の力

しかし、この報告書が示すのは、危機的な現状だけではありません。

これまでの長年の取り組みによって、確かに実現した保全と回復の事例と可能性も示されています。

実際、LPIは全体としては下降傾向を示していますが、参考にしている個体群の7%は安定、43%は増加の幅こそ小さいものの拡大しており、実施する対策によっては回復が可能であることを示しています。

その象徴的な例がトラです。野生のトラは、2010年には約3,200頭まで減少していましたが、生息国政府や地域コミュニティ、WWFなどの民間の自然保護団体による継続的な保護活動によって、2025年には約5,700頭へと回復しました。

© Andy Rouse/ naturepl.com

大西洋および太平洋のクロマグロも、多国間の協調による資源管理が確立され、長年の乱獲から回復。深刻な危機を脱しています。

また、アオウミガメは約80か国による50年にわたる協調的な保全活動の成果として、2025年にIUCN(国際自然保護連合)のレッドリストで「EN(絶滅危惧種)」から「LC(低危険種)」へと危機レベルの評価が引き下げられました。

これらは、自然の回復を実現する「ネイチャーポジティブ」の確かな実例です。

この回復を支えてきたのは、次の4つの共通した要素です。

  • 明確な目標(Goals)
  • 実現に向けた道筋(Pathways)
  • 行動する力(Agency)
  • 逆境のなかでも歩みを止めないレジリエンス(Resilience)

報告書では、この組み合わせを「希望(Hope)」と表現しています。

ここでいう希望は単なる楽観や願望の感情ではありません。
人々が複雑で不確実な課題に長期にわたって取り組み続けることを支えるプロセスを指すものです。

それが社会全体で共有されるとき、「集合的な希望(Collective Hope)」として大きな変化を生み出す力になるのです。

生物多様性損失を生み出すシステムを変える

しかし、いくつかの野生生物を回復させるだけで、生物多様性全体の損失を食い止めることはできません。

重要なのは、より大きな規模と視野で取り組むべき、「エネルギー」、「食料」、「金融」という3つのシステムの改善です。

石油や石炭などの化石燃料のエネルギー利用に伴う温室効果ガスの排出量は、全体の約4分の3を占めており、これが地球上のあらゆる生態系で、生物多様性の損失を加速させている気候変動の要因となっています。

食料の生産を支える農業は、生息地の喪失と劣化、そして生物多様性の減少を引き起こす最大の要因・圧力となっています。

金融もまた、生物多様性の損失を左右する重要な要因です。2023年には自然を損なう活動に約7.3兆米ドルの資金が流れ込んだ一方で、自然の保全や回復に向けられた資金は約2,200億米ドルにとどまりました。

IPBES地球規模評価:Chapter 2.2 Section 2.2.6.2より

IPBES地球規模評価:Chapter 2.2 Section 2.2.6.2より

それでも変化の兆しは現れています。エネルギー分野では、太陽光発電が多くの国で最も安価な新規電源となり、2024年には電気自動車が世界の新車販売の24%を占めました。
一方、食料システムと金融システムはまだ変革の初期段階にあります。

ネイチャーポジティブな生産への転換、持続可能な消費の促進、環境に有害な制度等のインセンティブの見直し、自然関連リスクを考慮した投融資などを通じて、これらの分野でも変化を加速させることが求められています。

2030年に向けた変革を加速させるために

未来を考えた時に必要とされる、こうした望ましい変化をもたらす転換点を、「生きている地球レポート2026」では、「ポジティブ・ティッピングポイント」と呼んでいます。

そして、その変化を加速させる動きは、国際的な環境保全の取り組みとも一致しています。

2022年に生物多様性条約の締約国会議で採択された「昆明・モントリオール生物多様性枠組(KM-GBF)」では、2030年までに生物多様性の損失を食い止め、回復へ転じることを世界共通の目標として掲げました。

また、気候変動対策の国際目標である「パリ協定」も、自然と気候の両面から持続可能な未来への移行を求めています。

そして、2030年は、この2つの国際目標の達成に向けた重要な節目の年となります。

森林破壊ゼロ、生態系の回復、再生可能エネルギーの普及拡大、持続可能な食料システムの実現、これらを進めていくためには、各国政府だけでなく、企業、金融機関、市民社会組織、先住民族、地域コミュニティ、自治体など、社会のあらゆる主体の参画「全社会的アプローチ(whole-of-societyアプローチ)」が欠かせません。

2026年10月19日から30日まで、アルメニアのエレバンで、生物多様性条約の第17回締約国会議(CBD-COP17)が開催されます。

WWFはこれに参加し、今求められている2030年に向けた変革を加速させるため、さまざまな主体の力を結集し、国際社会への働きかけを強化する取り組みを行なっていきます。

© Rakotondrazafy A. M. Ny Aina / WWF-Madagascar

(解説)ポジティブ・ティッピングポイントとは

ポジティブ・ティッピングポイント(Positive tipping points:望ましい変化を加速させる転換点)とは、システムがある閾値を超えることで、変化が自らを後押ししながら急速に広がっていく状態を指します。

例えば、太陽光発電のコスト低下によって導入が進み、市場が拡大することでさらに価格が下がり、普及が一段と加速するという現象がその一例です。
こうした変化には一般的に、次の3つの段階があります。

  1. 基盤形成(Enabling)
  2. 加速(Accelerating)
  3. 安定化(Stabilizing)

WWFの『生きている地球レポート 2026』では、エネルギー分野がすでに加速段階に入りつつある一方で、食料システムと金融システムはまだ基盤形成段階にあると分析しています。

2030年までにネイチャーポジティブを実現するためには、食料と金融の分野でもポジティブ・ティッピングポイントを引き起こし、変革を加速させることが重要です。

ティッピング・ダイナミクスの各段階。ポジティブなティッピング・ダイナミクスは、S字カーブに沿って「基盤形成」「加速」「安定化」の3段階を経て進⾏します。エネルギー分野は現在、加速段階にある⼀⽅、⾷料と⾦融は基盤形成段階にあります。

ティッピング・ダイナミクスの各段階。ポジティブなティッピング・ダイナミクスは、S字カーブに沿って「基盤形成」「加速」「安定化」の3段階を経て進⾏します。エネルギー分野は現在、加速段階にある⼀⽅、⾷料と⾦融は基盤形成段階にあります。

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