「生物多様性と農業の共生に向けて」高校生ワークショップを開催

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5,668種。なんの数字だと思いますか?実は、日本の田んぼに息づく生きものの種数です。しかし、田んぼの面積は年々減少。残された田んぼでも圃場整備などにより、生物の生息に適した、昔ながらの土の水路などが失われつつあります。特に、日本の固有種を含む淡水魚類については、深刻な絶滅の危機が迫っています。この問題を解決するため、2019年1月、WWFジャパンは田んぼの生物多様性を守る取り組みの一環として、九州で高校生を対象としたイベントを開催しました。開催後、高校生からは「高校生だからこそできることをしていきたい」という頼もしい声が上がりました。

日本の生物多様性と田んぼ

日本を代表する自然の風景と言えば、どんな風景を想像しますか?

素晴らしい風景はたくさんありますが、その中の一つに、田んぼが広がる里地・里山の風景があります。

実はこの田んぼ、日本の野生生物の豊かさと大きな関わりがあります。

驚くべきことに、なんと5,668種もの昆虫や鳥、魚や両生類、爬虫類などが国内の水田や、周辺の水路で確認されているのです。
その中には、農業が行なわれている田んぼにしか生息出来ない生きものや、絶滅の危機にある生物種も少なくありません。

日本を代表する水田地帯の九州に広がる里山・里地の風景。水田は「ラムサール条約」でも、保全すべき重要なウェットランド(湿地環境)の一つに定めています。

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しかし、日本における田んぼの面積は、1960年代以降、25%も減少。
さらに、残っている田んぼでも、その60%で「整備」が進んでおり、生きものの生息が難しくなっています。

水田や水路に生きる野生生物は、自然度の高い、昔ながらの土で作られた水路やため池に多く見られますが、整備ではこうした水路などをコンクリートなどで固定するため、生存する場所や、食物が無くなり、姿を消してしまうのです。
しかし、こうした「整備」は、農業を安全かつ効率的に進める上で、必要とされる工事でもあります。

農業を守るために行なわれる整備などが、水田や水路の自然を壊し、野生生物を絶滅に追い込んでしまう。
今、こうしたことが日本の各地で起きています。

日本の水田は、世界的に見ても独自性の高い、貴重な湿地環境。
これを未来に向けて保全することには、日本だけにとどまらない、重要な意味があります。
そこでWWFジャパンは、国内で特に豊かな田んぼが残る九州北部を中心に、優先的に保全を行うべき田んぼはどこなのか、九州大学と共同で調査を実施。

福岡県、熊本県、そして佐賀県の田んぼには、他では絶滅してしまった種を含む、希少な淡水魚が多く生息していることを、明らかにしました。

WWFジャパンは、「安全で効率的な農業」と「生物多様性の保全」を、「対立」ではなく「両輪」として行けるように、行政や農業者、企業の方と協力して取組みを開始し始めています。

2019年1月には、この取り組みへの理解を広げるために、高校生向けのイベントを開催しました。

田んぼを舞台に考える、生きものと農業

今回のイベントは、九州の豊かな田んぼの生物を、農業と共に、どのように守っていけるのか、考えていくきっかけ作りとして行われました。
当日は、まず最初に、生きものを守りながらコメづくりを進める現場に伺い、行政の担当者から活動内容をお話しいただきました。その後、高校生自身が生きものを守りながらお米をつくることを考えてみるワークショップを実施しました。福岡県、佐賀県、東京都の5つの高校から、生物部やサイエンス部の学生さんを中心とした、32名が参加しました。

前日には雪も降っていましたが、当日は快晴に恵まれました。

佐賀県の干潟と水田の自然

初めに訪れたのは、数多くのシギ・チドリ類が、渡りのために飛来する佐賀県の東よか干潟。

東よか干潟では、ボランティアの方に丁寧に解説していただきながら、干潟と鳥を観察。望遠鏡で干潟を見てみると、有明海の特産品であるノリの養殖場を背景に、たくさんの鳥たちが食物をついばんでいる姿が見えてきました。

ここは、「特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約」(ラムサール条約)の登録地にもなっている世界的な保護区です。

ここを訪れた理由は、佐賀県が現在取り組んでいる、「シギの恩返し米プロジェクト」に深いかかわりがあるためです。

この東与賀干潟の後背地には、古くから干潟を干拓して造成してきた、佐賀県でも屈指の水田地帯が広がっています。

干潟とこうした水田は、水路や河川を通じてつながった一つの自然。そこを行き来する魚も多く、干潟に飛来する渡り鳥の中にも、水田の環境も利用して生きるものが少なくありません。
そこで佐賀県では、自然と農業を共存させる取り組みとして「シギの恩返し米プロジェクト」を推進しているのです。

「シギの恩返し米プロジェクト」の説明を聞き、実際にコメ作りを手掛ける地域の農業者の方々との相互理解と協力が、取り組みのカギとなることを学びます。

「シギの恩返し米プロジェクト」が行なわれている田んぼを見学。生きものを守る取り組みを興味深く観察しました。

この日は、このプロジェクトの推進協議会事務局の佐賀市農林水産部農業振興課の原口謙一郎さんより、参加者の学生の皆さんに、取り組みについてご説明いただいたほか、2018年から、WWFジャパンと九州大学が、佐賀県と連携して行なっている、田んぼの生息魚類の調査についても、お話しいただきました。

この調査では、佐賀県の田んぼには、ニッポンバラタナゴやカワバタモロコなど、世界的に絶滅が危惧されている淡水魚類が、多数生息していることが、あらためて確認されました。

この結果には、田んぼと水路の持ち主である、地元の農業者の方も非常に驚いていたそうです。

ご説明いただいた後には、プロジェクトを実際に行っている田んぼも見学。
そして、お昼ご飯にはこの田んぼで収穫されたお米をいただきました!

真っ白でふっくらツヤツヤしたお米。遠方からの参加者からは、思わず「美味しい!」との声が。一方、地元佐賀の高校生からは、「いつもと同じで美味しい」との声が聞かれました。

生きものを考えた農業の難しさを考える

午後は、前半の振り返りから。生きものと農業について学んだことを学生たちがどのように考えたか、発表から始めました。

その中からは、
「シギの恩返し米プロジェクトで行なわれていた、生きものを守るたくさんの取り組みは、どのくらい機能していますか?」
「通常の農業に加えて何かを行なうことで、農業への影響は無いのですか?」
といった、取り組みの核心を突くコメントも。こうした形で表現された疑問が、生きものや農業へのさらなる関心につながっていました。

これに続き、どうすれば生きものに配慮し、共存できる農業を推進できるのか、
その難しさを学ぶワークショップを、WWFジャパンで国内の水田・水路の生物多様性と農業の共生を目指すプロジェクトを担当する並木が行ないました。
このワークショップでは、参加者の学生の皆さんが、①農業者、②行政の担当者、③消費者、④お米を流通させる企業の人、 ⑤自然保護団体のスタッフの役に、それぞれなりきり、この5人を一組にしたグループで議論をしました。

生きものを守るためには、なぜ九州の田んぼが重要なのか、WWFジャパンは生きものを守っていくためにどのような活動を行っているのかをお話ししました。

どうしたら各関係者は協力できるのか。そして、生きものに優しい農業を推進していく上での、良いアイデアはないか。
こうした議論を通じて、各グループからは、農業を通した地域イベントの開催や、行政からの補助金、流通企業による環境教育といった施策の案が出されたほか、高校生ならではの発想で「農業アイドル」や「SNS」、「学生のネットワークの創設」なども飛び出しました。

最後には、学生に戻って、今の自分たちには何が出来るかを考えてもらいましたが、その中では、「今回のワークショップで考えた施策を、推し進めていきたい」という意見が多く出ました。

また、イベント全体を通した感想として、
「身近に豊かな生態系があることを改めて知った」
「自然を守る農業には、さまざまな難しい問題があることがわかった」
「高校生だからこそできることを、率先して行っていきたい」
といった言葉も聞かれました。

水田のような、人の手が入ることで成り立っている自然環境を保全するためには、こうした学生の皆さんを含めた、地域の人たちの意識と取り組みが欠かせません。

ワークショップの様子。難しい課題ながらも、それぞれの役になりきりつつ、各役割の利害関係を整理し、施策を考え発表しました。

自然と農業が共生するには?大きな模造紙でも足りないほどのたくさんのアイデアが出されました。

今回のイベントは、これから未来に向け、佐賀の水田の自然を守っていく上での、大事な一歩となる期待を感じさせる機会となりました。

WWFジャパンは引き続き、地域の行政や農業者、企業、そして学校関係者の方々と協力しながら、水田に生きる日本固有の希少な生きものの保全を進めていきます。

みなさん、お疲れさまでした!

イベント情報

 
日時 2019/1/27(日)
場所 佐賀県
参加者数 32名
主催 WWFジャパン

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