海の恵みを引き継ごう!韓国ムアン干潟での「干潟文化祭り」


WWFジャパンは、パナソニック株式会社の支援を受け、大陸棚にある海を代表する海洋生態系保全を目指した取り組みとして、「黄海エコリージョン支援プロジェクト」を実施しています。このプロジェクトのモデル地区の一つである韓国・全羅南道のムアン干潟では、地域の住民を主体とした保全活動が展開されています。活動拠点であるムアン生態干潟センターのリニューアルオープン一周年を記念して、2012年5月19~20日、「ムアン干潟文化祭り」が開催されました。

ビジターセンターにいのちを吹き込む

韓国をソウルから南にほぼ縦断した、全羅南道ムアン郡ヨンサン村に、ムアン生態干潟センターはあります。センターの前、広視界全目に広がる泥の干潟は、一見、何もいないかのように見えますが、ソウルの魚市場でも高値で売られているというテナガダコをはじめ、様々な生き物を育む、生物多様性の豊かな場所です。

現在もこうして眼下に広がる干潟の雄大さを体感できるのは、かつての埋め立て計画が住民の反対によって白紙撤回されたからです。

その後2001年に、韓国で初めて国指定の海洋保護区となり、2008年には湿地保全の国際条約であるラムサール条約に登録、2009年にビジターセンターが完成しましたが、実質的な保全活動は行なわれていませんでした。

そんな中、韓国の環境NGO「生態地平研究所」は、2008年から「黄海エコリージョン支援プロジェクト」の助成を受けて、地域住民の参加を得て干潟の保全に取り組むための活動を開始しました。

地元の人が愛着と関心を持ってくれなければ、どんなにすばらしい自然も、簡単に開発の波に飲まれてしまうからです。

2010年からは支援プロジェクトのモデル事業として選ばれ、干潟の保全と持続可能な利用、そして地元の水産物を活かした地域振興をめざす、住民主体の活動が、ビジターセンターを拠点として、本格的に始動しました。

ムアン干潟と共に生きる暮らしを描いた伝統的な民族劇「マタングク」の創作と公演、村のお母さんたちによる特産のタマネギやテナガタコを使った料理の講習会、ソウルなど都市部の人々を対象にした住民によるエコツアーなどが、これまで行なわれてきました。

そして、干潟や流入河川などでの生き物のモニタリングも、専門家の協力を得ながら、住民主体で行なう準備が着々と進んでいます。

「ムアン干潟文化祭り」は地域のつながり

このように実質的な活動が少しずつ進められるなか、2011年5月には、ムアン郡がビジターセンターの開所式を行ない、地方政府として正式に、このプロジェクトの活動拠点に位置づけました。

そして、その1年後の2012年5月、ムアンで干潟を大切にしながら地域づくりに取り組んでいる、地元の住民、地方自治体、研究者などがつどい、干潟の豊かさや大切な場所であることを改めて認識する場として、この「ムアン干潟文化祭り」が開催されたのです。

主催は、地元の自治体であるムアン郡と、韓国の環境NGO「生態地平研究所」、後援は、黄海エコリージョン支援プロジェクト(パナソニック株式会社、韓国海洋研究所、WWFジャパン)です。

この保全活動の主体である地元ヨンサン村の農民組合のみなさんが活動の一端を披露するだけなく、近隣の村の農家が創作したわら細工の展示や、地元の女性グループが手料理を販売するコーナーなどもあり、地域の方々が一緒になって祭りを作り上げていました。

暮らしを支える干潟の恵みを再認識

快晴のなか、ビジターセンターの野外ステージでの歌と演奏で祭りは開幕しました。

引き続き、ムアン干潟と共に生きる暮らしを描いた創作の民族劇「マタングク」が披露され、会場はユーモアあふれた演出に湧きました。

ムアン郡、生態地平研究所、WWFジャパン、韓国海洋研究所など関係機関の代表による干潟保全に向けての宣言、イブキという樹木の丸太を干潟に埋める儀式、そして最後には、ムアン干潟のテナガダコや近隣の村々でとれた野菜の入ったビビンバが大きな釜で作られ参加者にふるまわれました。

木を干潟に埋める儀式は、干潟の恵みに感謝し、その恩恵がいつまでも続くことを願うものです。

埋めた丸太は1000年後に香りを放つようになり、人々の不安を取り除いてくれると信じられているそうです。

丸太を運ぶ数人の子供や青年たちを先頭に、祭りの参加者の願いが書かれた木片や紙を結び付けた縄を手に、人々が列になって干潟まで移動。関係者が干潟に入って穴を掘り、丸太と願い事を書いた札を埋めました。その後、地元の婦人たちがアサリの稚貝を干潟にまいてその成長を願い、干潟の豊かな恵みに感謝しました。

今回の干潟文化祭りに参加したのは、主に地元や近隣の村のおよそ1000人。主催した生態地平研究所のチャン・ジヨンさんは「ムアン干潟が大切な場所であり、そういう干潟を守ることの意義を地元で活動する人々が改めて認識することができました。

今日のお祭りには周辺の地域からもたくさんの人が参加してくれました。これまであまり知らなかった人にも広めることもできたのではないでしょうか」と祭りの成功に安堵していました。

夜には初めての干潟体験ツアー

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ビジターセンターの2階から撮影。眼下に干潟が広がる。

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黄海エコリージョン支援プロジェクトのサインボード。テナガダコがかわいい

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写真上:地域の産品の展示や郷土料理を提供するブースが並ぶ。下:子どもたちが木片や紙に願い事を書く

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写真上から、ムアン干潟と共に生きる暮らしを描いた伝統的な民族劇「マタングク」に会場が湧く。 プロジェクトの関係機関の代表が干潟保全への宣言を発表。木を携えた子供と青年たちを先頭に干潟へと列は進む。

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写真上から、干潟に丸太と願い事が書かれた札が運ばれる。丸太を干潟の泥の中に埋め、アサリの稚貝を撒いて、豊かな干潟の恵みを願う。地元の野菜やテナガダコの入ったビビンバ。

干潟文化祭りのプログラムの一つして、夜の干潟を体験するエコツアーも行なわれました。

都市部の人を対象にした地元住民によるエコツアーは、保全活動を継続的に進めていく上で重要な活動です。地元の自然や水産物を地域振興に活かすことができ、それが保全活動の原動力にもなるからです。

ムアン干潟をモデル地区とするこのプロジェクトでは、すでに6回実施されていますが、夜の干潟を体験するエコツアーは、今回が初めてとのことでした。

今回のエコツアーには、ソウルなどから30人ほどが参加しました。案内はヨンサン村のタコ捕り名人の漁師、イ・ウォンビョンさんと、タマネギの生産農家で農民組合の組合長、パク・ジョンジュンさん。

ビジターセンターから自動車で1時間ほどのところに広がる干潟に移動し、5~6人のグループにごとに、夜の干潟を裸足で歩きながら、夜行性のカニや小さなエビの仲間を観察しました。

宿泊施設は地元のコテージ。夕飯は地元の特産であるテナガダコやタマネギを使った料理を農家のお母さんたちが提供。

ムアン干潟でのエコツアーが、生態地平研究所と地元の方々によって、着実に実施されています。

一連のエコツアーでは、色々なプログラムを試みています。次の日、5月20日には、炭島(タンド)という人口わずか50人の半農半漁の小さな島で実施されました。生態地平研究所によると、韓国の最近の健康ブームを取り入れ、ウォーキング、つまり歩いて島巡りのできる炭島を実施場所に選んだそうです。

お客さんを案内したのは生態地平研究所が実施した、ガイド研修を受けたムアン郡の地元の方。島の海辺や内陸部の山道を徒歩でめぐりながら、自然と暮らしについて参加者に解説していました。

ムアン郡政府の観光局の担当者も同行しており、地方自治体も巻き込んでムアン干潟の保全活動が進められていることがうかがえました。

海の保全でつながる日本と韓国

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写真上:夜の干潟体験エコツアー。松明を灯して夜の干潟を歩く。下:夜の干潟ではカニやエビの仲間が活動中

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エコツアー参加者の宿泊は地元の古民家風のコテージ

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渡し船でタンドン島へ。乗船料を地元の経済に回すのもツアーの狙いの一つ

今回のムアン干潟文化祭りには、日本からWWFだけでなく、佐賀県鹿島市と沖縄県石垣島白保で、それぞれ干潟やサンゴ礁の海を大切にしながら地域づくりに取り組む方々も、視察と交流の目的で参加しました。

みなさんムアン干潟を訪れるのは初めて。すっと先まで広がる干潟の広大さに驚くとともに、地域の人々が積極的に地域づくりに取り組んでいる様子に、とても感心していました。

実は鹿島市には、2011年に韓国の関係者11名が、黄海エコリージョン支援プロジェクトの一環で実施した「日韓交流ワークショップ」の際に訪れています。今回参加した「水の会」の下村浩信さんと小野裕介さんは、その時に訪問団を受け入れてくださったメンバーです。

ムアン干潟で関係者に再会した下村さんは、「韓国は自然との調和を大事にする国だと思います。その実例として、ムアン干潟で地域住民の方々がいっしょに保全活動を進めていることに感銘を受けました。干潟保全を通して、これからも韓国と交流して行きたい」と感想を述べてくださいました。

また、石垣島白保から参加した、「白保魚湧く海保全協議会」の桴海(ふかい)浩克さん、「白保村ゆらてぃく憲章推進委員会」の花城芳蔵さんは、ムアン干潟保全の関係者と今回初めて交流しました。

桴海さんは「みなさん情熱的なところが沖縄と似ている。白保でもサンゴ礁の海を大切にしながら地域興しを目指していますが、ムアン干潟での取り組みは大変参考になりました。行政と上手タイアップしています。干潟を中心に活動している韓国と、海という共通のテーマでつながることができれば。白保でもユニークなエコツアーを開発できればと思います」と語りました。

ムアン干潟での住民主体の保全と地域振興の両立にチャレンジする人々の姿と熱意が、日本で同様の課題に挑む人々に直接、届いたようです。

ムアン干潟での取り組みは
新しい時代を築くチャレンジ

韓国・全羅南道のムアン干潟は、大陸棚を持つ海を代表する海洋生態系の保全を目指す「黄海エコリージョン支援プロジェクト」のモデル地区の一つです。

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写真上から、タンドン島の船着き場の干潟には、四角い池が点在。タコ漁の餌にするカニを網に入れて貯蔵する。タンドン島について説明するのは、保全活動の一環として研修を修了した地元住民。タンドン島の高台から海を望む

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タンドン島の干潟、集落、畑、丘と、歩いて散策する

広大な黄海からみれば、ムアン干潟はごく一部に過ぎません。しかし、干潟を持続可能な形で利用する具体的なモデル事例を作って保全の方向を示し、それを別の地域にも広げていけば、大きな保全効果につながります。

今回のムアン干潟文化祭りは、その活動の一つの通過点ですが、住民を主体にした干潟保全と地域振興の両立という理想を現実に近づけ、新しい時代を築こうとするチャレンジが、着実に前進していることを印象付けました。

今後は、住民が主体となって行なうモニタリング調査も始まる予定です。またやがては、同じ全羅南道にあって保護区指定を受けている他の2つの干潟(シナン干潟、スンチョン湾干潟)との連携を図っていくことも予定しています。

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海の保全でつながる日本と韓国

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パナソニック株式会社の支援を受けて実施している「黄海エコリージョン支援プロジェクト」では2008年からこの地元住民を主体にしたムアン干潟保全の取り組みを推進しています。今回の干潟文化祭も後援しています。

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