被災地の方々と石垣島白保で「ふるさとの海交流会」を実施


東日本大震災で被災した、宮城県南三陸町戸倉地区の中学生と高校生と漁業関係者等が、石垣島白保で現地の子どもたちや大人とともに、海を通じた「ふるさとの海交流会」を実施しました。この交流会は、WWFジャパンの「暮らしと自然の復興プロジェクト」の一環として行なわれたものです。子どもたちの学びや地域間の交流が、被災地の復興とこれからの持続可能な漁業を支える礎となることが期待されます。

海の保全と地域づくりをテーマにした発表会

2012年10月6日から8日まで、東日本大震災で被災した宮城県南三陸町戸倉の中学生・高校生9名と、漁業関係者を含む大人6名の計15名が、「ふるさとの海交流会」のため、沖縄県の石垣島白保地区を訪問しました。

この交流会は、WWFジャパンが震災復興支援プロジェクトとして実施している「暮らしと自然の復興プロジェクト」の一環で、南三陸町戸倉の方々と、石垣島白保の方々が、地元の海や、その環境の保全、地域のコミュニティ作りをテーマに交流してもらうことを目的として行なわれたものです。

今回の南三陸町戸倉の皆さんの受入は、「サンゴ礁を守りたい」と願う多くの方々の寄付・募金によって石垣島の白保地区に設立されたWWFサンゴ礁保護研究センター(通称「しらほサンゴ村」)と、白保地域のみなさんが協力して実施しました。

戸倉からやってきた皆さんと、白保の中学生の参加者たちは、この「しらほサンゴ村」に集合。最初に互いの地域の特徴や、地元での海の保全、その他、地域での取り組みなどについて発表するところから、3日間にわたる「交流会」は始まりました。

まずは地元、白保の中学生が、海の保全活動や、地域に根差したボランティア活動について、写真を見せながら紹介。サンゴの減少の一因である畑から海に流れる赤土を防止するために、月桃と言う植物を植え、グリーンベルトを作り、海を守っていこうという取り組みなど、具体的な事例を挙げて説明してくれました。

また地元の伝統芸能である獅子舞や、石垣島全体についての概要なども発表。戸倉からの参加者たちに、今回訪れた石垣島、そして白保のことがよく分かる発表でした。

その後、戸倉中学生・高校生による発表が続きます。
戸倉では東日本大震災の折、津波によって75%の家が流失し、地域そのものが失われたこと。盛んだった漁業が甚大な被害を受けたこと。美しい風景や、記憶さえもなくなってしまうのが、とても悲しいけれど、自分たちなりにできることとして、ポイ捨て防止の看板を設置するなどの活動を始めたことを話してくれました。

そして、震災前から行なっていた海での体験学習を復活させ、中学1年生は、津波で壊滅的被害を受けた海で、筏から奇跡的に見つけたワカメを養殖したこと、2年生は漁業の復興のあらゆる場面に立ち会い、新しい挑戦や工夫を知ることができたことを話してくれました。

この南三陸町戸倉では今、漁業の復興に際して、環境に大きな負荷をかける従来のカキの過密養殖などをやめ、量をおさえつつも、水産物の品質を高める工夫に力を入れています。

復興のみならず、こうした持続可能な漁業と、それを支える地域作りを目指す戸倉での活動は、今後の日本の未来を考える上でも非常に重要な学びとなるものです。

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石垣の海でシュノーケリング観察会

こうして、互いの海と、地元での取り組みを知ることから始まった「交流会」は、次に実際に海を体験するプログラムに入りました。

初日も「しらほサンゴ村」での発表が終わった後、海岸へ行って、刺し網漁を体験。獲った魚は自分たちでさばき、宿泊先の民宿のおばぁに煮つけにしてもらい、おいしくいただきましたました。

二日目の午後には、シュノーケリング観察会を実施。世界最大級のアオサンゴ群落を擁した白保の海を、実際に観察してもらいました。

ほとんどの参加者には、地元の南三陸の志津川湾で、事前にシュノーケリング観察会を体験しています。今回は、その海とは全く違った顔を持つ、サンゴの海でのシュノーケリング。

色鮮やかな南の海の魚たちを目の当たりにし、大人も子どもも、地元・南三陸の海との相違に、純粋な驚きと発見を体験したようです。

中には、こんな感想を語ってくれる子もいました。「サンゴ礁があったり、生きたサンゴがあったりしてすごくきれいで。魚とかも観たことのないものがいっぱいで、ナマコもこんな大きいのがいてびっくりしました」。

実は、この交流会に参加してくれた戸倉の子どもたちの中には、震災の経験から、はじめ怖くて海に入るのが嫌だった、という人たちもいました。それでも、今回シュノーケリングをしてみて「やはり海に入ってよかった」と語ってくれました。

芸能交流

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自然の体験と並ぶ、交流会の大きな柱は、文化交流のプログラムです。

その一番の見どころは、二日目の朝10時から始まった、南三陸町無形文化財にも指定されている「行山流水戸辺鹿子躍(ぎょうざんりゅう みとべ ししおどり)」と、白保の獅子舞による伝統芸能交流会でした。

文化面での交流は、よりお互いの地域についての理解や知識を深め、また同時に交流を深めるきっかけにもなります。

白保の「ゆらてぃく広場」といわれる屋外広場を舞台に、それぞれの伝統芸能が披露され、白保集落からも多くの方々が見に来てくださいました。

戸倉の踊り手である鹿子踊保存会会長によれば、今回、南三陸から石垣に運んだ鹿子踊の道具(頭に被る鹿頭や太鼓)の多くは、津波により流されたものを回収して使用しているとのこと。

会長と踊りに参加した中学生男子は「震災後改めて鹿子踊という伝統芸能のよさを感じた。踊る側も見る側も元気になる。鎮魂のために鳴らす足踏みにも気持ちと力が入る」と話してくれ、その踊りには、集まった白保の方々から大きな拍手が送られました。

一方、白保伝統の獅子舞を見た戸倉の方々からは「東北にも獅子舞があるが、沖縄の獅子舞は毛が生えていたり動きも大きく迫力があるなと感じた」と、なかなか目にする機会のない伝統芸能に、刺激を受けたと話してくれました。

この他にも、夜に粘土でシーサー作りをしたり、星空観察(宮城県に比べると北極星の位置がだいぶ低い)をするなど、3日間という短い滞在の中で、白保の人たちのあたたかさに包まれながら、その文化や自然に深く触れ合う交流会となりました。

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復興と、持続可能な漁業を目指して

「地元に戻ったらどうしたいか」交流会の終了後、中学生の一人に聞いてみました。
すると、南三陸町全体で海が被災してしまったが、今回の交流会を通して「いいところを探すやり方」を見つけられた気がした。地元に戻ったらまず、南三陸町の海のいいところもっと探したいです。そう力強く語ってくれました。

今回、東日本大震災で被災した戸倉の子どもたちには、事前に自分たちの暮らす南三陸の海について勉強してもらった上で、まったく違った顔を持つ白保の海に触れてもらいましたが、実際に海やそこに生きる人たちの文化を体験し、白保の子どもたちとも互いの海について話し合うことで、海に対する興味をより深めてもらえたことと思います。

北から南、多様な姿を見せる日本の海。
震災からの復興を進めながら、これからの未来に向けた持続可能な漁業の推進を支えてゆくのは、自分たちの住む南三陸の海への誇り、そして理解に他なりません。そうした意識を共有しながら、新しい世代が地域のコミュニティをつくってゆくことも、大事な一歩になります。

WWFでは、参加いただいた皆さんに、それぞれが手にした体験を大切にしてもらいながら、あらためて今回の交流会を振り返り、海についての学習ができる時間を作りたいと考えています。

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子どもたちの壁新聞(2012年12月11日追記)

2012年12月8日、宮城県南三陸町戸倉で、「南三陸町戸倉シュノーケリング観察会」や「ふるさとの海交流会」の参加者を含めた、戸倉の子どもたちによるミニ壁紙新聞の制作が行なわれました。

このミニ壁紙新聞作りは、地元の先生や子どもたち、そして漁業関係者含む父兄が集まって実施している「戸倉地域スクール」の中で行なわれたものです。

地元の漁業や戸倉の海に関するテーマの中に、シュノーケリングで感じたことや、交流会を通して学んだことが、ミニ壁紙新聞の紙面を飾りました。

壁紙新聞を作るという取り組みを通じて、どうすれば今まで学習してきたことが、より分かりやすく伝えられるのか、子どもたちは真剣に考えて取り組んでいました。

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(画像をクリックすると拡大します)

関連情報

スタッフブログ:南三陸・戸倉の町から石垣島の海へ!

WWFサンゴ礁保護研究センター「しらほサンゴ村」のサイト

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