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GX関連法に残る問題点と必要な改善策

この記事のポイント
政府が今後10年間の温暖化対策の中心に位置づけるグリーン・トランスフォーメーション(GX)。それを実施する法律である「GX推進法」と「GX脱炭素電源法」の国会審議が大詰めです。しかし、施策の要であるカーボンプライシング(炭素への価格付け)の導入は遅く、排出削減効果も乏しい設計で、国民的な議論なく拙速な原子力活用への方針転換も予定されています。これらの問題点を改善して、2030年の削減目標達成に向けて軌道修正を図れるか、政府は問われています。
目次

1. グリーン・トランスフォーメーション(GX)のための2つの法律

政府の今後10年間の温暖化対策を基礎づける2つの法律――グリーン・トランスフォーメーション(GX)推進法(*1)とGX脱炭素電源法(*2)。これらの国会での審議が大詰めを迎えています。

GXとは、「産業革命以来の化石エネルギー中心の産業構造・社会構造をクリーンエネルギー中心へ転換する」(*3)ことです。

政府は、このGX実現を通じて次の3点を目指しています(*4)。
(ア) 2050年カーボンニュートラル、2030年までに温室効果ガス排出量を2013年比で46%削減し、更に50%の高みを目指すという、日本の削減目標を達成すること
(イ) エネルギーを安定的かつ安価に供給すること
(ウ) 日本の産業競争力を強化し、経済成長につなげること

2023年2月10日に、岸田政権はGXのための政策パッケージである「GX実現に向けた基本方針」を閣議決定。そして、その実行に必要な制度を定めるため、2023年の通常国会に提出したのが、冒頭で述べたGX推進法とGX脱炭素電源法です。

GX推進法は、カーボンプライシングという制度や、脱炭素社会に必要な技術開発のための投資支援などを定めます。

GX脱炭素電源法は、関連する5つの法律をまとめて改正し、原子力の積極活用や再エネ事業の規制強化などを定めます。

2023年5月12日にはGX推進法が成立。GX脱炭素電源法も参議院での審議が始まりました。しかし、上で触れた3つのGXの目的のうち、日本の温室効果ガス排出量の削減目標を達成する上で、これら2つの法律は問題を依然として抱えています。

2. GX推進法:カーボンプライシングに関する問題点と改善策

GX推進法では、施策の要としてカーボンプライシングと呼ばれる制度の導入を想定しています。カーボンプライシングとは、二酸化炭素などの温室効果ガスの排出に対して金銭の負担を求める仕組みで、次の2種類があります。

(ア) 排出量取引制度
・ 対象となる企業全体からの温室効果ガス総排出量に上限(キャップ)を設定
・ 上限(キャップ)の範囲内で発行される排出枠を各企業が市場で売買
・ 保有する排出枠を超えて排出した場合には重い罰金

(イ) 炭素税
・ 温室効果ガス排出量1トン当たりの税率を設定
・ 化石燃料の輸入や消費などに課税

これらは適切な制度設計によって、高い排出削減の効果が得られ、そのコストも社会全体で最小にできます。このように有効な政策であるカーボンプライシングですが、GX推進法での設計には次のような課題があり、効果を十分に発揮できません。

【問題点その1】 導入が遅い:前倒しをするべき

GX推進法の下では、制度の導入は早くても2028年度からに留まります。これでは2030年46%削減という目標に間に合いません。可能な限り、導入の時期を前倒しする必要があります。

【問題点その2】 企業の自主性に依存:法的な強制力が必要

GX推進法での排出量取引制度は、2033年度までは企業の自主性に任せています。制度に参加するかどうか、どのような目標を掲げるかを企業が自由に決めることができ、目標達成できなくても罰則はありません。そのため排出削減の効果は乏しく、公平性の観点でも大いに疑問です。実効性を高めるためにも企業の参加や排出枠の遵守などについて、法的に強制力のある制度にすることが求められます。

【問題点その3】 炭素価格が低い:国際的な水準との整合を

GX推進法による「炭素価格」(排出量1トン当たりで負担を求める金額)が、とても低く抑えられています。
国際社会では、先進国において2030年に1トン当たり130ドル(約17,160円)が必要とされています(*5)。しかし、GX推進法による炭素価格には上限が設けられているため、遠く及ばないことが予想されます。
2023年2月に排出枠価格が一時100ユーロを突破したEUは、十分なカーボンプライシングが実施されていない国・地域からの輸入に関税を課す炭素国境調整措置(CBAM)の導入を予定。このままでは、日本の産業競争力が損なわれます。2030年に国際的な水準と整合した炭素価格にできるように制度設計を改めるべきです。

排出量取引制度では温室効果ガスを大量に排出する企業の参加を確保する必要があります。
© Rob Webster / WWF

排出量取引制度では温室効果ガスを大量に排出する企業の参加を確保する必要があります。

3. GX脱炭素電源法:原子力の活用に関する問題点と改善策

問題点:国民的な議論の無い、拙速な方針転換

GX脱炭素電源法では、現行の運転期間の上限である60年を超えた原発の運転容認などを定めます。しかし、国民的な議論も無く拙速に、原子力の積極活用へ大きく転換する点で問題です。

2022年8月の首相指示からわずか4か月で、「GX実現に向けた基本方針」や「今後の原子力政策の方向性と行動指針」(2023年4月28日公表)などが取りまとめられました。これは従来の政府方針から原子力の積極活用へと舵を切る内容です。

なお、国民から意見を募集するパブリックコメントが実施されましたが、その期間はたった1か月でした。また、原子力活用に対する多くの懸念は、GX脱炭素電源法にも各方針等にも反映されていません。

このように拙速に決まった方針等を具体化するために、GX脱炭素電源法の成立が目指されているのです。

改善策:まずは再エネ・省エネの最大限導入を

国連の「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)によると、パリ協定の掲げる1.5度目標の達成には、2030年までに世界全体の温室効果ガス排出量を2019年比で43%削減する必要があります(*6)。

そしてその実現は、再エネや省エネ技術など、1トン当たりの削減コストが100ドル以下の方法で可能であり、その大半は20ドル以下としています(*7)。

2011年3月11日の東京電力福島第一原発事故への反省を忘れたかのように、原子力の積極利用にひた走る必要は全くありません。国民的な熟議を徹底して、そのあり方が判断されるべきでしょう。

2030年に向けた排出削減では、最新の科学的知見のとおり、まず再エネ・省エネの既存技術を最大限に活用するべきです。

太陽光パネルを建物の屋根に設置することも有効な再エネ導入策です。
© WWF-US / Paul Fetters

太陽光パネルを建物の屋根に設置することも有効な再エネ導入策です。

以上で言及した以外にも、GX推進法・GX脱炭素電源法は問題点をはらんでいます。ご関心のある方は、WWFジャパンの以下のペーパーをぜひご覧ください。

「GX関連法案の改善ポイント 脱炭素社会の実現と産業競争力の強化の真の両立に向けて」

1.5度目標の達成の成否がかかる2030年まで、もう7年しか残されていません。政府はこれらの問題点を直ちに改善し、温暖化対策を強化できるかが問われています。

(注釈・出典)
*1:脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律
*2:脱炭素社会の実現に向けた電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律
*3:「GX実現に向けた基本方針 ~今後 10 年を見据えたロードマップ~」, p. 1,  
*4:同前, p. 2
*5:IEA. (2021). “Net Zero by 2050 - A Roadmap for the Global Energy Sector”, p. 53,  
*6:IPCC. (2023). “Synthesis Report of the IPCC Sixth Assessment Report (AR6) Summary for Policymakers”, p. 22,  
*7:IPCC. (2022). “Summary for Policymakers. In: Climate Change 2022: Mitigation of Climate Change. Contribution of Working Group III to the Sixth Assessment Report of the Intergovernmental Panel on Climate Change”, p. 36,

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