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パーム油の小規模農家と守るボルネオの森

この記事のポイント
パーム油は、世界で一番多く利用されている植物油です。パーム油の生産は、原産国に経済的な発展をもたらしてきた一方で、大規模な森林破壊も引き起こしてきました。特にその生産量が世界一となるインドネシアでは、パーム油の原料であるアブラヤシの農園が今も広がり続けています。こうしたアブラヤシ農園の総面積のうちの約53%は、小規模農家により運営されています。そこでWWFジャパンは、こうした農家の人々が、森を切り拓かずとも、アブラヤシの生産ができるよう、2018年よりボルネオ島での支援を開始しました。これまでの進捗を報告します。

パーム油の生産地の現状

世界でも最大規模の熱帯林に覆われた赤道直下のボルネオ島。ここには、オランウータンや、アジアゾウなどの希少な野生動物をはじめ、多種多様な生きものがその命をつないでいます。

しかしその現場では、深刻な森林減少が問題となってきました。
特に近年、ボルネオ島で森林破壊の最大の原因となっているのは、ポテトチップスや菓子パンなど、身近な加工食品に使用されるパーム油の生産です。パーム油の原料であるアブラヤシを植えるプランテーション(農園)を作るために、豊かな森の木々が伐採され、多くの野生動物はそのすみかと命を失っています。

左:人工のアブラヤシプランテーション、右:自然の熱帯林。自然の熱帯林は数え切れないほどの種類の木々が層をなしている。1種類のアブラヤシが等間隔で植えられているプランテーションとは、まったく異なる環境である。
©WWFジャパン

左:人工のアブラヤシプランテーション、右:自然の熱帯林。自然の熱帯林は数え切れないほどの種類の木々が層をなしている。1種類のアブラヤシが等間隔で植えられているプランテーションとは、まったく異なる環境である。

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熱帯林の伐採により、トラなど絶滅のおそれのある野生動物が、すみかを追われている。森の周辺に作られたアブラヤシ農園に現れるケースも珍しくない。
naturepl.com / Edwin Giesbers / WWF

熱帯林の伐採により、トラなど絶滅のおそれのある野生動物が、すみかを追われている。森の周辺に作られたアブラヤシ農園に現れるケースも珍しくない。

こうしたアブラヤシの生産は、大きく分けて、大規模なプランテーションを運営する大手企業と、小規模農園を営む村の農家によって、行なわれています。

大手企業による生産には、開発などさまざまな問題が伴う一方で、中には大きな資金や技術を活かし、森の環境や働く人の人権に配慮した持続可能なパーム油の生産に取り組んでいる例があります。

しかし、小規模農家の多くは、開発にともなう問題に対応ができていません。
これは、小規模農家の人々が、アブラヤシの効率的な栽培・収穫方法、財政管理、また安全対策などを「知らない」ケースがほとんどであることが原因です。
例えば、アブラヤシの苗は、通常7~9メートルの間隔をあけて栽培する必要があります。しかし、それを知らない小規模農家は、収穫を増やすため、狭い間隔に多くの苗を植えます。すると、葉は十分な太陽光を浴びることができず、結果的に実りが悪くなります。
また多くの小規模農家は、背の高いアブラヤシの木の上に実った果房が、どれくらい熟しているか把握できず、収穫するタイミングの見分け方も知りません。このため、実に含まれる油の量がまだ低い時期などに収穫してしまい、結果的に買い取り価格を引き下げてしまいます。
さらに、財政管理の上でも、帳簿もつけていないため、自分の農園の収量や収入をきちんと把握できていないケースが珍しくありません。

こうした、農園における運営の基礎を「知らない」多くの小規模農家は、収穫量や収益に伸び悩み、それを打開するため、アブラヤシ農園の面積を新たに広げようと、自然の森を伐採する問題が生じているのです。

帳簿をつけていない農家も珍しくない。生産量がどれくらいあるのか、どのように変化しているのか記録することもトレーニングのなかで伝える。
©WWF Indonesia

帳簿をつけていない農家も珍しくない。生産量がどれくらいあるのか、どのように変化しているのか記録することもトレーニングのなかで伝える。

始まったインドネシアでの取り組み

小規模農家による農園の拡大が問題になっている地域の一つが、インドネシア領の西カリマンタン州です。

ここは、ボルネオ島のインドネシア領内で最も、小規模農家によるパーム油の生産が、急激に拡大してきた地域。
アブラヤシ農園の開発は、西の沿岸部から内陸部に向かって年々拡大し、今ではブキ・バカ・ブキ・ラヤ国立公園をはじめ、天然の森が残るメラウィ県などの地域にも押し寄せています。

アブラヤシ農園がこのまま無秩序に広がれば、国立公園内でも違法な開発が行なわれ、残されている手つかずの森も破壊されてしまう可能性があります。

見渡す限り続く西カリマンタンのアブラヤシのプランテーションが見える。天然の森とは異なり、多様性がなく、整然と区画されている
©WWFジャパン

見渡す限り続く西カリマンタンのアブラヤシのプランテーションが見える。天然の森とは異なり、多様性がなく、整然と区画されている

赤道直下に位置するボルネオ島。2010年からの2030年までの20年間で2200万ヘクタールの森が失われることが予測されている。これは日本の本州の面積にほぼ相当する。
©WWF Indonesia

赤道直下に位置するボルネオ島。2010年からの2030年までの20年間で2200万ヘクタールの森が失われることが予測されている。これは日本の本州の面積にほぼ相当する。

西カリマンタン州は、カリマンタン島内(ボルネオ島内のインドネシア領)で、一番パーム油生産が盛んな地域。
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西カリマンタン州は、カリマンタン島内(ボルネオ島内のインドネシア領)で、一番パーム油生産が盛んな地域。

その事態を食い止めるために、メラウィ県内では、アブラヤシの小規模農家への働きかけと、収穫の効率化が必要とされていました。

そこで2018年7月、WWFジャパンは、WWFインドネシアと共に、小規模農家が森を切り拓くことなく、アブラヤシが生産できるよう、技術面や知識面、また財政管理面などを支援するプロジェクトを開始しました。

ブキバカブキラヤ国立公園は、オランウータンなどの貴重な野生動物のすみかとなっている
©WWF Indonesia / Jimmy Syahirsyah

ブキバカブキラヤ国立公園は、オランウータンなどの貴重な野生動物のすみかとなっている

基礎情報の収集から見えてきた課題

小規模農家でも、技術や資金、また十分な知識があれば、森林保全に配慮した「持続可能なパーム油」を生産し、十分な収益を上げることが可能です。
そして、それが実現できれば、農園を広げる必要性もなくなり、森の木々を新たに伐ることもなくなります。

メラウィ県では、県政府も州政府も、農家の位置や規模、数など基礎的な情報を持っていなかったため、まず、アブラヤシ農家の現状を把握し、課題を明確化するため、基礎調査を実施しました。

そして、WWFでは直接現場に出向き、農家へのヒアリングを実施。また関係する政府組織からの情報なども統合して調査を進め、農家の現状と課題を明らかにしました。

その結果、1999年の時点で県内に1カ所が確認されたのみだったアブラヤシ小規模農家は、2008年に7カ所、そして2018年に864ヵ所と、過去10年間で驚異的に増えていることが分かりました。

メラウィ県政府と対談するWWFインドネシアスタッフとWWFジャパンスタッフ。
©WWFジャパン

メラウィ県政府と対談するWWFインドネシアスタッフとWWFジャパンスタッフ。

また調査結果からは、農家の経済的な課題も見えてきました。
たとえば、メラウィ県内にある農家の60%は、年収が1,000万ルピア(約78,000円)以下。これは、インドネシアの農家の平均年収、2,112万ルピア(約160,000円)を大幅に下回っています。

さらに生産効率の悪さも明らかになりました。
メラウィ県内で、インドネシアのアブラヤシ農園の平均生産量と同量の収量が確保できているのは、全農家軒数の約10%のみ。残りの農家の収量は、国の平均値に達していませんでした。

今後、新しく小規模農家を営む人々が、十分な知識もなく農園の経営を始めれば、さらなる農園の拡大と森林破壊が繰り返されることになるでしょう。

左:小規模農家が作るアブラヤシの果房、右:大企業がつくるアブラヤシの果房。企業のプランテーションで作られたアブラヤシの果房は、小規模農家が生産した果房より一回り大きい。(左:©WWF Indonesia 右:©RSPO)

左:©WWF Indonesia 右:©RSPO
左:小規模農家が作るアブラヤシの果房、右:大企業がつくるアブラヤシの果房。企業のプランテーションで作られたアブラヤシの果房は、小規模農家が生産した果房より一回り大きい。

左:国の研究機関の認定を受けた生産性が高いアブラヤシの苗。企業はこうした苗を利用する。右:小規模農家が認定を受けたと騙されて購入した苗からできた実。果房が実るまで3年かかったが、実が菌に感染したため、売り物になっていない。

左:©WWF Indonesia 右:©WWF Japan
左:国の研究機関の認定を受けた生産性が高いアブラヤシの苗。企業はこうした苗を利用する。右:小規模農家が認定を受けたと騙されて購入した苗からできた実。果房が実るまで3年かかったが、実が菌に感染したため、売り物になっていない。

支援先となる村が決定!

こうした小規模農園の拡大は、収穫されたアブラヤシの実を集め、油を搾る工場(搾油所)の近隣で特に多く見受けられることも分かっています。
県内に企業が所有している搾油所は全部で4か所。うち1か所は、メラウィ県の県庁所在地にあたるナンガピノ郡にあります。
そこで、WWFでは小規模農家の支援対象地として、このナンガピノ郡内にある2つの村を選定しました。
ここでは今後さらに小規模農家が増えていくと予測されるほか、支援プロジェクトに県の参画を得られることが期待できるためです。


プロジェクトでは今後、少なくとも50の小規模農園を営むアブラヤシ農家と共に、県内に残された多様性豊かな森が守られるよう、以下のような取り組みを実施します。


1)持続可能なパーム油生産の実践

持続可能性とは何かという理解から、よいアブラヤシの苗の選び方、肥料や除草剤の正しい使い方、最適な収穫時期まで、農園管理についての技術的な知識を提供するトレーニングを、村の小規模農業者向けに実施。合法かつ持続可能な方法で、農園内の収穫量を最大限、効率化して伸ばすことを目指します。

2)組合の設立と資金運用の確立

小規模農家を集めて組合を立ち上げ、共同で資金を使い、必要な機材や肥料などを一斉購入するなど、コストの低減を図りながら、組合の管理スキルについてもトレーニングを行ないます。

3)メラウィ県政府による取り組みの普及

この支援プロジェクトを一つのモデルとして、県内に点在する他の小規模農家に対しても取り組みが普及するよう、メラウィ県政府の農業指導員に対する能力強化トレーニングなどを実施します。地方政府が主体となって小規模農家への支援ができるよう、働きかけてゆきます。

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小規模農家とのディスカッション、今後の課題を共有した。

 

プロジェクトの担当より:アブラヤシ農園が広がるブームの中で

ムナウィル・ムハンマド
WWFインドネシアの現場担当者
WWFインドネシア 持続可能なパーム油プロジェクト担当:ムハンマド・ムナウィル
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基礎調査により、予測されていた状況が実際に起きていることが分かりました。西カリマンタン州内でアブラヤシ農園が広がってゆくブームは、今ここメラウィ県で実際に起きているのです。

州内の他の地域のように、小規模農園が無秩序に広がれば、県内に残されている内陸部の森やブキ・バカ・ブキ・ラヤ国立公園も失われてしまう可能性があります。

その前に、県政府の参画を得ながら、持続可能なアブラヤシ農園を運営するノウハウを広げてゆくことが欠かせません。

農家の人々、また政府の人々の信頼を得ながら、着実に進めていきたいと思っています。

伊藤小百合
WWFジャパン 自然保護室森林グループ
WWFジャパン 自然保護室森林グループ 伊藤小百合
©生活協同組合コープ九州事業連合

WWFジャパンからの支援先として、現場に足を運ぶ中「小規模農家」の方々がなぜ、森を伐るのか、その原因が少しずつ見えてきました。

そこには、うまくアブラヤシが実らず、困った表情を浮かべる農家の方々との出会いがありました。
森を伐ることなく、生産方法を見直すことで生活が安定すれば、その表情は笑顔に変わってゆくはずです。

農家の人たちの暮らしが守られることで、森と森にすむ生きものの命が守られるのであれば、私たちにとってこれ以上嬉しいことはありません。

消費国である日本からもできること

こうしたインドネシアなどでの取り組みは、日本の消費者でも支えることができます。

それは「RSPO認証」を取得したパーム油を使った製品を、お店で選ぶこと。
RSPOは持続可能なパーム油の生産と利用を当たり前にすることを目指した、国際的な認証制度です。
小規模農家を支援する本プロジェクトでも、対象農家がRSPO認証の原則に沿って生産できるようになることを目標としています。

そして近年は、日本でもこの認証を受けたRSPOマーク付きのパーム油を使った商品が増えつつあります。

朝から夜まで、頭からつま先まで、身近な食品や日用品、洗剤にもパーム油は使われている。
©WWFジャパン

朝から夜まで、頭からつま先まで、身近な食品や日用品、洗剤にもパーム油は使われている。

©日本生活協同組合連合会様からの提供
©日本生活協同組合連合会様からの提供

©日本生活協同組合連合会様からの提供

RSPOマークがついた商品は日本でも少しずつ増えてきている。(日本生協連は、「コープの洗剤環境寄付キャンペーン」を通じてWWFジャパンのボルネオ島森林保全プロジェクトへ寄付を行い、WWFがボルネオ島インドネシア領の西カリマンタン州で取り組む小規模農家の「持続可能なパーム油」生産などを応援している。)

 

何か製品を手にした際には、原料の表示を確認し、この認証マークをぜひ探してみてください。また見つからないときは、製造企業に「RSPOマークのついた商品を作ってください」とお問い合わせ窓口を通じてお願いしてみてください。
こうしたことも、一般の消費者にできるアクションのひとつです。消費国からの声が、需要を高め、そして原産国が森の環境を守る機運につながります。

パーム油の使用をやめて、他の植物から油を採ると、さらに広い土地が必要となる。パーム油の使用を止めるだけでは、問題の解決にならないどころか、さらなる森林破壊が引き起こされる懸念がある。
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パーム油の使用をやめて、他の植物から油を採ると、さらに広い土地が必要となる。パーム油の使用を止めるだけでは、問題の解決にならないどころか、さらなる森林破壊が引き起こされる懸念がある。

WWFはこれからも原産国でのパーム油の持続可能な生産を推進すると共に、日本でも企業と消費者に対して、環境に配慮したパーム油の調達や利用を求めてゆきます。

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