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気候変動対策No.1の素材産業関連企業は?その1「企業の温暖化対策ランキング」第10弾

この記事のポイント
2019年5月17日、WWFジャパンは、「企業の温暖化対策ランキング」プロジェクトの第10弾の報告書を発表しました。これは、業界ごとに各企業の地球温暖化対策を点数化し、評価するもので、今回の発表で第10回目となります。調査対象となったのは「素材産業①」に属する日本企業55社(「化学」、「ガラス・土石製品」、「ゴム製品」、「繊維製品」、「パルプ・紙」の5業種)。各業種内で偏差値60以上かつ第1位となったのは、「化学」は住友化学、「ゴム製品」は横浜ゴム、「繊維製品」は東レ、「パルプ・紙」はレンゴーでした(ただし、「ガラス・土石製品」 は、すべての企業が60未満のため該当企業なし)。業界全体としては、全社が環境報告書類を発行していたのをはじめとして、「情報開示」の項目の得点が概して高くなりました。一方、「目標および実績」の項目は低調であることがわかりました。

「企業の温暖化対策ランキング」第10弾 表紙

パリ協定にそって動き出した国際社会

進行する地球温暖化の脅威と向き合う国際社会。
2015年12月にフランスでの国連会議(COP21)で採択された「パリ協定」の成立とともに、国際的な議論はさらに活発になり、温暖化対策への取り組みは加速してきています。
この「パリ協定」では、今世紀後半(遅くとも2075年)には世界の温室効果ガスの排出をゼロにすることがうたわれています。
企業による意欲的な取り組みは他にもあります。
その一つが、「SBT」(Science Based Targets)です。
これは、パリ協定と整合した科学的な削減目標の策定を呼びかける国際イニシアティブです。各国の企業が続々と取り組みを始めていますが、このところ日本企業の参加が目立っています。2019年5月10日時点で、77社となり、全参加企業数の14%を占めるまでになっています。
そうした日本企業の温暖化対策への取り組みを評価し、促進させるWWFジャパンによる「企業の温暖化対策ランキング」プロジェクトが、2019年5月17日、最新の報告書を発表しました。

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素材産業の上位企業は?

工場内の風力発電設備
© Global Warming Images / WWF

工場内の風力発電設備

今回発表した第10弾となる「『企業の温暖化対策ランキング』 ~実効性を重視した取り組み評価~ Vol.10『素材産業①』編」では、「化学」、「ガラス・土石製品」、「ゴム製品」、「繊維製品」、「パルプ・紙」の5業種に属する55社を調査。
この結果、ランキングの上位企業(各業種内で偏差値60以上)は次のようになりました。

化学
順位 総合得点
(100点満点)
企業 目標・実績
(50点満点)
情報開示
(50点満点)
1 82.0 住友化学 36.2 45.8
2 79.3 富士フイルムHD 32.0 47.2
3 73.9 積水化学工業 25.3 48.6
4 68.2 三井化学 22.4 45.8

それぞれ偏差値60以上の企業を掲載(「ガラス・土石製品」は全社が業種内偏差値60未満)

ゴム製品
順位 総合得点
(100点満点)
企業 目標・実績
(50点満点)
情報開示
(50点満点)
1 74.3 横浜ゴム 31.3 43.1
繊維製品
順位 総合得点
(100点満点)
企業 目標・実績
(50点満点)
情報開示
(50点満点)
1 64.1 東レ 24.5 39.6
パルプ・紙
順位 総合得点
(100点満点)
企業 目標・実績
(50点満点)
情報開示
(50点満点)
1 84.5 レンゴー 35.9 48.6

※四捨五入の関係で、足し合わせた際に小数点以下に誤差が生じる場合がある。
※偏差値60以上の企業

取り組み評価の基準と今回の評価

このプロジェクトでは、各社が発行した環境報告書やCSR報告書などを基に情報を収集し、温暖化対策の取り組みを主に実効性の観点から評価。
採点に関しては、次の2つの観点から、21の指標を設け、評価を行なっています。
【1】目標および実績:企業として温暖化対策の「目標」を設定し、その実績を評価・分析しているか
【2】情報開示:取り組みの状況や進捗などに関する情報開示を行なっているか

この2つの観点を踏まえた、特に重要な指標は次の7つです。

重要7指標

  • 長期的なビジョン
  • 削減量の単位
  • 省エネルギー目標
  • 再生可能エネルギー目標
  • 総量削減目標の難易度
  • ライフサイクル全体での排出量把握・開示
  • 第3者による評価

注)アニュアルレポートについては、本来はIR活動における財務情報の報告ツールであり、原則として評価の対象からは除きましたが、例外として、GRIサステナビリティ・レポーティング・ガイドラインやIIRC国際統合報告フレームワーク、環境省の環境報告ガイドライン等を参考に作成している旨の記載がある場合、あるいはCSR情報を補足する冊子等を別途発行している場合は、採点対象としています。コーポレートレポートについても、同様の扱いとしています。なお、評価対象の企業については、ウェブサイトにおける開示情報(2019年4月評価時点)も調査の対象に含めました。

上位企業の顔ぶれと好スコアの内容

評価の結果、業種内偏差値が60以上となったランキング上位企業は、住友化学、富士フイルムホールディングス(以下、富士フイルムHD)、積水化学工業、三井化学(以上、化学)、横浜ゴム(ゴム製品)、東レ(繊維製品)、レンゴー(パルプ・紙)となりました(ガラス・土石製品は全社が業種内偏差値60未満)。

上位企業のうち住友化学、横浜ゴム、レンゴーは、このパリ協定と整合した「長期的なビジョン」を持っており、うち前2社はSBTに取り組んでおり住友化学は承認を取得済みです。
他にも上位企業では富士フイルムHDと積水化学工業がすでにSBTの承認を受けています。
また、徹底した省エネ活動に加えて、今や温室効果ガス削減の有力な方法となってきている再生可能エネルギーの導入については、「再エネ導入目標」を立てている日本化薬、富士フイルムHD、横浜ゴム、レンゴーのうち、後の3社が上位に食い込む結果となりました。
このように、長期的ビジョン・目標を持ち、再エネの導入を計画的に進めるなど、実効性のある取り組みを開始している企業は、このランキングにおいて高いスコアを得ているのがわかります。

実際、このことは、上位企業と全55社の重要7指標の平均点を比較して描いたレーダーチャート(図1)からも読み取ることができます。
総合得点が84.5点と、5業種の枠を超えて全55社中第1位となったレンゴーについてみると、「情報開示」の評点(50点満点)が48.6点とほぼ満点を獲得。
「目標・実績」の評点は35.9点(50点満点)で、「省エネルギー目標」を欠く以外は、上に見た通り、「長期ビジョン」、「再エネ導入」で高い評価となったほか、そのほかの指標においてもまんべんなく得点を得ました。

なお、「ガラス・土石製品」は全社が業種内偏差値60未満であり、上位企業には1社も入っていないものの、業種内最上位のTOTOは「情報開示」の評点が41.7点と好スコアを獲得しています。「目標・実績」が16.4点にとどまったため、総合得点が伸び悩んだものの、長期ビジョン、再エネ導入目標などの浮き彫りになった課題に取り組めば、スコアの改善が見込まれます。

業界全体の特徴(情報開示)  ~「パルプ・紙」、「ゴム製品」、「化学」が高水準~

業界全体としては、総合得点の平均は、「化学」が53.7点、「ガラス・土石製品」が44.0点、「ゴム製品」が56.6点、「繊維製品」が39.7点、「パルプ・紙」が59.9点となりました。
過去に調査を実施した業種とくらべると、「パルプ・紙」、「ゴム製品」がそれら業種を大きく上回り、「化学」も高水準となりました。ただし、「繊維製品」は過去の調査業種の中でも低位でした。

*過去の調査業種の平均点は次の通り。

全体的に高水準な業種が多かった背景には、「情報開示」における得点の高さがあります。
まず、調査対象の全55社が環境報告書類を作成していたのは、過去の調査業種にはなかった、初めてのことです。

続いて、全5業種とも、「ライフサイクル(LC)全体での排出量の把握、開示」の評価点が高くなっています。
自社事業の上流・下流における排出量の見える化に取り組んでいるのは27社(49%)となり、過去の調査業種の中では、「医薬品」52%、「機械・精密機器」50%に次ぐ水準でした。

自社の事業範囲(Scope1、2)での温室効果ガス排出量の目標管理が一定レベルに達した後、次にScope3(購入した製品やサービスに伴う排出、輸送・配送、販売した製品の加工・使用・廃棄など)において、ステークホルダーと協力して排出削減の取り組みを進めていくことになります。

このため、本5業種においてライフサイクル全体での排出量の把握と開示が進んでいることは、今後の削減可能性に関して期待を抱かせるものです。

「情報開示」に関して本5業種を特徴づけるのは、開示情報について「第3者による評価(検証)」を受けている企業が29社(53%)と、過去最多だった「医薬品」編(43%)を大きく上回った点です。自社の開示データの信頼性を高めようとする姿勢が見られるのです。

ただ、それは、レスポンシブル・ケア検証センターが実施する検証(RC検証)となっているケースが多い点を指摘しておく必要があります。
過去の調査で、第3者検証で満点を記録した企業は、ISO14064-3などの要件を満たした第3者機関による検証(以下、便宜的にISO検証とする)を受けていました。

ISO検証では、そもそも環境報告書類に記載された情報で十分かということや、厳しくチェックする観点がいくつも設けられています。
それに対し、RC検証では、環境報告書類等に記載された情報のみに基づいて検証し、チェックする観点もやや限定的になっています。また、低炭素社会実行計画の進捗管理を優先しているためか、国内事業所のみを対象とした検証が主となっています。

したがって、企業として自社の事業活動全体に対する透明性・信頼性を確保するという目的を踏まえた対応が今後求められます。

業界全体の特徴(目標および実績) ~総量目標のレベルをもっと野心的に~

温室効果ガスの削減目標の設定にあたっては、目標の単位を「原単位」だけではなく、「総量」でも設定することが重要です。
気温上昇を2度未満に抑える目標では、2075年までには実質排出ゼロにすることが必要ですから、効率改善に加えて、総量削減が必須となるからです。

この点、総量削減目標を掲げる企業が本5業種においては30社(55%)と過去の業種平均(42%)よりも多いことがわかりました。

しかしながら、今回浮き彫りになったのは、総量目標を持つ企業が多いにも関わらず、業界全体としては、その総量目標のレベルが十分に野心的とはいえず、パリ協定にそったものにはなっていないことです。
特に、「ガラス・土石製品」、「ゴム製品」、「繊維製品」の目標レベルが極めて不十分なものとなっており、この3業種の「目標の難易度」は得点が著しく低くなっています。

2018年10月に、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)が「1.5度特別報告書」を発表して以降、温暖化を2度よりも1.5度に抑えることが、国際社会の議論では主流となりつつあります。ここでは、2050年までに排出ゼロを目指すことが強調されており、各国の長期目標はこれを踏まえて、見直しが進んでいます。

こうして変化する温暖化の議論を視野に収めながら、最新の科学的知見に基づき、パリ協定と整合した「長期的ビジョン・目標」を掲げることが、本5業種の課題となっています。

本5業種で、2050年という長期の総量削減目標を掲げることができていたのは、先にも述べたとおり、住友化学、横浜ゴム、レンゴーの3社にとどまりました。

今回の調査で目立ったのは、「グローバルで2050年に50%削減」という数字をあげている企業が散見されるなど、非常に古い国際議論の数値を参照している例が見られる点です。
10年余り前の科学的知見に基づいて作られたビジョン・目標はとっくに過去のものとなっています。

ただ、企業の温室効果ガスの削減ペースが鈍いのは、政府が2013年度からの京都議定書の第二約束期間において削減目標を掲げていないことなど、国レベルの温暖化対策の停滞が波及したことが考えられます。カンクン合意の下で掲げる自主目標(2020年に2005年比3.8%削減)にいたっては、年間当たりの削減ペース(目標レベル)が著しく低いものとなっています。
したがって、政府自身も野心的な目標を掲げることが極めて重要になっています。

再生可能エネルギーは、2012年から始まった固定価格買取制度(FIT)に伴う投資環境の改善や、電力の小売り全面自由化などにより、導入の取り組みがしやすくなっています。

本5業種では、再エネ目標を設定しているのは日本化薬、富士フイルムHD、横浜ゴム、レンゴーの4社限りでした。

再エネの調達コストが国内では比較的高い現状を考えれば、日本化薬、富士フイルムHD、横浜ゴムのように調達コスト面で有利な海外事業所から先に導入を進めるのもひとつの手と言えるでしょう。

本5業種の課題とESG投資

コミュニケーションツールを改善し、投資家に注目される情報開示へ

今回の調査において情報開示の姿勢が相対的に強く見られるのは、多くの企業が日本化学工業協会(以下、日化協)のもとで、『レスポンシブル・ケア』を標榜していることが要因と考えられます。

これらの企業は自社の化学製品の開発、製造、流通、使用、廃棄にいたるライフサイクル全体を通じて、環境や安全、健康が損なわれることのないよう、ステークホルダーに対して丁寧な対話・コミュニケーションを自主的に進めています。

化学製品という取り扱いに注意を要する製品を生業とする企業として、人や環境に悪影響が生じる事態を未然に防ぐために、積極的に情報提供等に努める体質が根付いているのです。

今回の調査では、この姿勢が、温暖化対策にも反映され、「情報開示」の多くの項目で、これまでの業種よりも得点をあげることとなりました。

一方、開示情報が豊富な反面、そのボリュームが大きいため十分に整理がされておらず、企業のサイトでほしい情報にたどり着くのに苦労するケースが見られました。

昨今、国内外で急速に拡大するESGの投資家の目にとまるためには、検索が容易になるよう改善することが望ましいと言えるでしょう。

© Andrew Kerr / WWF

ペンキ缶

効果的な温暖化対策はESG投資の評価に通じる

本5業種では、「長期ビジョン・目標」の設定や「再エネ目標の設定」などの実効性のある温暖化対策を講じることが課題であるとすでに指摘しています。

また、これらの要素を満たす企業はランキング上位に入っており、SBTへの取り組みに積極的であることを確認しています。

表7はSBTへの様々な取り組み状況を示していますが、上位の企業ほどSBTi(SBTイニシアティブ)から承認を受けている例が多いことが明瞭にわかります。

また、中位から上位に入った企業は日本のGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の環境評価でも一定以上の評価を得ていることも、表7から伺われます。

年金基金として世界最大の機関投資家であるGPIFは2017年にESG投資を開始し、2018年には国内におけるESG投資額が全体の18.3%を占めるまでに拡大しています。

つまり、SBTへの参加や取り組みを足掛かりに、実効性を持った温暖化対策を進めている企業は、その取り組みについて、本調査をはじめとする外部から高評価を得ていること、そしてそうした企業が、既に機関投資家からも優良な投資対象と見られていることが確認されたのです。

このように、温暖化対策は経済活動の阻害要因ではなく、今や成長のためのカギとなりつつあるといってよいでしょう。

報告書

記者発表資料

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