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気候変動対策No.1の機械・精密機器関連企業は?「企業の温暖化対策ランキング」第9弾

この記事のポイント
2019年1月18日、WWFジャパンは、「企業の温暖化対策ランキング」プロジェクトの第9弾の報告書を発表しました。これは、業界ごとに各企業の地球温暖化対策を点数化し、評価するもので、今回の発表で第9回目となります。調査対象となったのは「機械」および「精密機器」に属する日本企業39社。機械の業種で第1位となったのは、ナブテスコ(80.5点)。以下、日立建機(74.9点)、ダイキン工業(74.7点)、クボタ(71.9点)、ダイフク(70.6点)と続きました。一方、精密機器で第1位となったのは、ニコン(73.4点)。全体的に、両業種ともに過去の8業種とくらべると情報開示のレベルは高い水準となりましたが、有効な長期目標の不在をはじめとする様々な課題が浮かび上がりました。

「企業の温暖化対策ランキング」第9弾 表紙

運用段階に入るパリ協定

進行する地球温暖化の脅威と向き合う国際社会。地球温暖化の抑制に世界が取り組むパリ協定は2015年に採択されました。
パリ協定のもと、国際社会は平均気温の上昇を2度未満、できれば1.5度に抑える事を約束しています。そのために、今世紀後半には温室効果ガスの排出をゼロにすることが求められているため、どのようなルールが採択されるのか、成立以来、注目を集めていました。
結果として、2018年の12月にポーランド・カトヴィツェで開催された国連会議(COP24)でルールブック(実施指針)は無事に採択され、国際社会は、温暖化の抑制に向けて、具体的に動き始めることになりました。

パリ協定の実施にあたっては、各国政府だけでなく、NGOや自治体、企業などのいわゆる「非国家アクター」がそれぞれの役割を担って、温室効果ガスの排出抑制に本腰を入れる必要があります。

近年国際社会から特に注目を集めている、企業による意欲的な取り組みの一つに、「SBT」(Science Based Targets)があります。

パリ協定と整合した科学的な削減目標の策定を呼びかける国際イニシアティブSBT。 各国の企業が続々と取り組みを進めていますが、日本企業の参加も目立ちます。2019年1月10日時点で、参加企業は67社となり、日本企業は全体の13%を占めるまでになっています。

そうした日本企業の温暖化対策への取り組みを評価し、促進させるWWFジャパンによる「企業の温暖化対策ランキング」プロジェクトが、2019年1月18日、最新の報告書を発表しました。

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機械および精密機器業界の上位企業は?

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今回発表した第9弾となる「『企業の温暖化対策ランキング』 ~実効性を重視した取り組み評価~ Vol.9『機械・精密機器編』」では、39社を調査。
39社のうち、環境報告書類を発行していない9社をのぞく30社の温暖化防止の取り組みを評価しました。
この結果、「機械」、「精密機器」業種の上位ランキングは次のようになりました。

機械
順位 総合得点
(100点満点)
企業 目標・実績
(50点満点)
情報開示
(50点満点)
1 80.5 ナブテスコ 34.6 45.8
2 74.9 日立建機 34.6 40.3
3 74.7 ダイキン工業 34.4 40.3
4 71.9 クボタ 26.0 45.8
5 70.6  ダイフク 28.9 41.7
精密機器
順位 総合得点
(100点満点)
企業 目標・実績
(50点満点)
情報開示
(50点満点)
1 73.4 ニコン 23.4 50.0

※四捨五入の関係で、足し合わせた際に小数点以下に誤差が生じる場合がある。
※偏差値60以上の企業

取り組み評価の基準と今回の評価

このプロジェクトでは、各社が発行した環境報告書やCSR報告書などを基に情報を収集し、温暖化対策の取り組みを主に実効性の観点から評価しています。
採点に関しては、次の2つの観点から、21の指標を設け、評価を行なっています。
【1】目標および実績:企業としていかに温暖化対策の「目標」を設定し、その実績を評価・分析しているか
【2】情報開示:取り組みの状況や進捗などに関する情報開示を行なっているか

この2つの観点を踏まえた、特に重要な指標は次の7つです。

重要7指標

  • 長期的なビジョン
  • 削減量の単位
  • 省エネルギー目標
  • 再生可能エネルギー目標
  • 総量削減目標の難易度
  • ライフサイクル全体での排出量把握・開示
  • 第3者による評価

評価の結果、「機械」業種で、第1位となったナブテスコは、「情報開示」の評点(50点満点)において45.8点と高い点数を獲得。また、「2050年に温室効果ガス排出量を総量で80%削減」という野心的な長期目標を掲げており、「目標・実績」(50点満点)でも、34.6点と比較的高い点数を得ました。
同社は先述のSBTに取り組んでおり、既にSBTi(Science Based Targets initiative)側からの承認も得ているなど、その長期的ビジョンはパリ協定と整合したものとなっています。

また、温室効果ガスの排出削減に関して、総量および原単位の両方で削減目標を掲げており、「目標・実績」における点数を伸ばすこととなりました。
「情報開示」は、Scope 1,2(自社の事業範囲)にくわえ、Scope 3(自社の事業範囲の上流および下流)の15のカテゴリーについても排出量の把握・開示を行なっていること、さらに、第3者検証を受けることで、温室効果ガスの排出量データの信頼性を高めていることなどが、点数を大きく押し上げました。
ただし、「再生可能エネルギー導入目標」が設定されておらず、本業種の多くの企業と同じく、この点が課題となっています。

2位の日立建機は、親会社の日立製作所が掲げる「日立環境イノベーション2050」を自社の目標に落とし込んだ中期計画を策定しており、長期目標において満点を獲得しています。関連企業との足並みをそろえた取り組みが、パリ協定と整合した目標設定につながった好事例となっています。

また、自社の排出削減について定量的な目標を設定した上で、Scope 3および社会からの削減貢献についても目標管理をしている企業は、本業種において2社ありましたが、その中に同社がはいっています(もう1社は小松製作所)。

3位のダイキン工業は日立建機と「目標・実績」、「情報開示」ともよく似た数値の傾向を示していますが、項目別の評価には違いが見られ、ダイキン工業は今回の評価対象となった30社中、再生可能エネルギーの導入目標を掲げている唯一の企業となっています。

4位、5位のクボタ、ダイフクは、「情報開示」がそれぞれ45.8点、41.7点と高いスコアとなっています。一方、「目標・実績」が26.0点、28.9点と伸び悩み、第2グループ以下の企業と同様に、目標設定などに大きな改善の余地があります。

「精密機器」業種では、業界内の偏差値が60以上となったのはニコン1社にとどまりましたが、同社は「情報開示」において、これまでのWWFジャパンによる温暖化ランキングの全9回を通じて、満点(50点)を獲得する2社目となりました。

同社は「目標・実績」の重要項目である、長期ビジョンや再エネ目標には取り組みが十分とはいえず、こちらのカテゴリーでは点数が伸び悩む結果となっています。

注)アニュアルレポートについては、本来はIR活動における財務情報の報告ツールであり、原則として評価の対象からは除きましたが、例外として、GRIサステナビリティ・レポーティング・ガイドラインやIIRC国際統合報告フレームワーク、環境省の環境報告ガイドライン等を参考に作成している旨の記載がある場合、あるいはCSR情報を補足する冊子等を別途発行している場合は、採点対象としています。コーポレートレポートについても、同様の扱いとしています。なお、評価対象の企業については、ウェブサイトにおける開示情報(2018年12月時点)も調査の対象に含めました。

機械および精密機器業界の全体的傾向は?

業界全体としては、総合得点の平均点は、機械が45.5点、精密機器48.0点と、過去に実施した8業種と比較して、比較的高めの水準となりました。

発行年や調査時期が異なるため、一概には比較ができませんが、これまでの平均点は、電気機器48.7点、輸送用機器46.7点、食料品44.8点、小売業・卸売業34.1点、金融・保険業34.9点、建設業・不動産業47.2点、医薬品54.4点、運輸業45.8点でした。

全体的に「情報開示」の取り組みレベルが高く、Scope 1,2にくわえてScope 3の15のカテゴリーを意識した開示を行っている企業が、過去の調査業種とくらべて非常に多くありました。

ただし、その情報開示とは対照的に、「目標・実績」に関しては点数が伸び悩み、特に長期的ビジョンや再生可能エネルギー目標の指標においては、取り組みレベルが低いことが分かりました。

見てきたとおり、SBTに参加し、すでに承認を得ているナブテスコは今回、ほかの項目でも高いスコアを記録しています。

本業種においてSBTに取り組んでいる企業は、SBT承認に向けた環境省による支援事業への参加も含めれば、ほかにグローリー、小松製作所、シチズン時計、ジェイテクト、ダイキン工業、ダイフク、ニコン、日立建機があげられます。この中で、既に承認を得ているのは小松製作所(総合得点で『機械』第6位)です。
これらの企業は、長期目標以外でもある程度得点を高めている傾向が見られます。

パリ協定の目指す脱炭素社会のためには、SBTへの参加などによって、実効性の高い長期ビジョンを策定することが重要になります。

また、先述の通り、再生可能エネルギーの導入目標を掲げているのは機械、精密機器の両業種を通じてダイキン工業のみとなっており、この点で本業種は大きく遅れをとっている状態です。

企業は徹底した省エネ活動にくわえて、再生可能エネルギーを中心としたエネルギーの調達へと早急にシフトしていくことが求められますが、現在、再エネの活用を、温暖化対策の新たな柱に据えることができる環境が整ってきています。

2012 年にスタートした固定価格買取制度(FIT)を契機に、企業にとっても再エネに対する設備投資をしやすい環境が整い、また電力システム改革が進むことによって再エネ調達の選択肢も増えつつあります。

なお、今回、「目標・実績」の評価点が伸びなかった企業についてみると、長期ビジョンと再生可能エネルギー目標の2つの項目がいずれも0点となっています。

ランキングで下位に位置する企業については、今後、実効性のある温暖化対策を進めるために、情報開示を手始めに、自社のCO2排出量削減、Scope3での排出削減を視野に入れながら、長期ビジョンと再エネの2項目においても改善を図っていくことが期待されます。

自社を含むサプライチェーン全体での削減を

今回の業種では、多くの企業がScope 1,2(自社の事業範囲)にくわえ、Scope 3(自社の事業範囲の上流および下流)の15のカテゴリーについて「見える化」を進めており、ライフサイクル全体の把握・開示に関する指標で満点を獲得したのが、30社中、15社(50%)に上りました。これは、過去の8業種の中でも上から2番目に相当する高水準です。

それに比べて、自社の排出削減の取り組みに関してはやや消極的な印象を受けます。

例えば、全体の半数以上が総量目標を持っていない、総量目標を持っていたとしてもその目標の難易度(年間当たりの削減率)が低い、また再生可能エネルギーの導入目標を持っている企業がほとんどないなど、Scope 3の見える化に対する積極性とは対照的な姿を見せています。

パリ協定の下で世界が脱炭素社会の実現を目指す中、全ての排出主体が将来的には自らの総排出量をゼロにしていくことが求められます。

したがって、まずは自社の排出をいつまでにどのくらい減らしていくのか、その目標を明確に示すことが、脱炭素を目指す国際社会の流れの中で、果たすべき役割・責任となります。

本業種は、『電気機器』や『輸送用機器』といった他業種の企業にとってのサプライヤー(Scope 3のカテゴリー1)にあたり、サプライチェーンの全体像を明瞭に把握しやすいという特徴があります。

まずは自らの取り組みを追求した上で、さらにその先の対策として、Scope 3にも範囲を積極的に広げていくという順番が期待されます。

自社を含むサプライチェーン全体の削減へとつなげる取り組みを比較的可視化しやすい業種であることを考えれば、将来、その特性が生かされる場面があると予測できます。

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ステークホルダー企業への波及効果

機械で7位となったジェイテクトは、トヨタ自動車のサプライヤー企業ですが、トヨタ自動車が2015年に、ライフサイクル(LC)全体でCO2の排出ゼロを目指すなどとした「トヨタ環境チャレンジ2050」を宣言した翌年、ジェイテクトも意欲的な「環境チャレンジ2050」を発表しました。

2位の日立建機も、親会社の日立製作所が掲げる「日立環境イノベーション2050」を自社の目標に落とし込んだ中期計画を策定しています。

このように上流・下流の多くのステークホルダーとつながりを持つ本業種では、一企業の野心的な取り組みがステークホルダー企業にも波及するという好循環の事例が確認できました。

こうした事例は、実効性の高い環境対策に取り組めば、自社を含め、そのサプライチェーン全体での脱炭素化につながる可能性があることを示唆しています。

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総量削減目標の不足と業界団体の取り組み

脱炭素社会の実現には、原単位の改善と同時に、総量での削減努力が求められますが、総量・原単位の両方に目標を持っているのは、ダイフク、ナブテスコ、IHI、NTNの4社にとどまり、半数以上の企業はそもそも総量目標を持っていませんでした。

本業種がこうした目標の設定において点数が伸びなかった要因のひとつに、業界団体の取り組みレベルが不十分であることがあげられます。

日本機械工業連合会(JMF)や電子情報技術産業協会(JEITA)、日本電機工業会(JEMA)といった業界団体は、GHGの削減に対して具体的な数値目標を持っていないか、持っていたとしても原単位で前年比1%削減といった低いレベルに留まっています。

このことが、会員企業を含む業界全体にネガティブな影響を与えてしまっている可能性があります。

逆に言えば、業界団体が率先して実効性のある削減目標を設定すれば、会員企業側もそれに合わせて自社の取り組みを強化しやすくなります。
この点では、本業種には今後、大きな改善余地が見込まれると言えるでしょう。

国際社会の歩調に合わせた気候変動対策

今回調査対象となった本業種では、機械・精密機器の両業種を通じ、総合得点において平均点を上回った企業の半数以上を、SBTに取り組む企業が占めていました。

さらに、上位企業の内4社は、JCI『気候変動イニシアティブ』の参加企業でもありました。

このJCIは、日本の企業や自治体等、300以上の非国家アクターが参加する組織で、パリ協定と脱炭素社会の実現を、国家政府とは異なる、それぞれの立場から貢献していくことを打ち出し、その積極的な取り組みを目指すものです。

こうした取り組みは、国内外で注目を集めており、とりわけESG投資の分野においても今後重要視されてくる可能性があります。

実際、世界最大の機関投資家であるGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が2018年9月に公表したテーマ型(E:環境)の指数「S&P/JPX カーボン・エフィシェント指数」を見ると、企業の「炭素効率性」と「情報開示」を評価しており、この分野についてより優れた取り組みを行なっている企業に対する投資のウェートを高めています。

実は、このEの指数において一定以上の評価を得ている企業は、本ランキング調査においても高い得点を獲得している傾向が認められました。

以上のように、国際的な目線に見合ったSBTやJCIといったイニシアティブに参加する企業の温暖化対策は、取り組みの実効性を重視する第三者の目線からも高い評価に値することを示しています。

そして、実効性の高い温暖化対策に取り組む企業が、すでに投資家からも優良なESG投資の対象と見られていることが分かりました。

企業の温暖化対策を促す

パリ協定が成立し、さらにルールブックも採択されたことから、世界の平均気温の上昇を2度未満、あるいは1.5度に抑えるための取り組みは、政府、自治体、企業の各々でさらに本格化していくと考えられます。

国際的なイニシアティブであるSBTにコミットするなどして、科学的な知見に基づく、長期的な視点に立った対策を講じることが、これまで以上に求められる時代が到来しています。
WWFはこれからも、業界ごとに異なる温暖化対策の実情を明らかにしながら、こうした産業界による温暖化防止の取り組みが推進されるよう、今後も積極的に提言を続けていきます。

報告書

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