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東シナ海タンカー事故 緊急調査報告

この記事のポイント
2018年1月6日に起きた東シナ海のタンカー事故による油の流出をうけ、WWFジャパンは奄美群島および徳之島の地元団体と緊急調査を実施。2018年9月に、油の漂着についての調査報告をまとめ発表しました。この3カ月にわたる調査の結果では、海岸や生きものへの影響が収束に向かっていることがうかがえた一方、今後、同様の事故が発生した場合の対応については、課題があることも明らかになりました。国や県、市町村には、事故後の迅速な対策の開始と、被害情報の発信、さらに環境への影響について長期的な調査を行なっていくことなどが求められます。

タンカー事故と南西諸島への油類の漂着

2018年1月、イランの海運会社が所有するパナマ船籍の石油タンカー「サンチ」が、東シナ海で香港籍の貨物船と衝突。漂流の末、沈没しました。
当時、煙を上げながら流される事故タンカーの映像が各メディアでも報道され、大きな話題となりました。
WWFではこのタンカー事故により、積み込んでいた油類が洋上に流出し、豊かな自然が残る奄美群島周辺の沿岸に漂着する懸念があることから、現地での緊急調査の実施を決定。同時に2018年4月には、政府に対し、この問題への対策を求める要望書を提出しました。
調査の対象地域として選定したのは奄美群島の徳之島です。
奄美大島と共に世界で唯一、固有種のアマミノクロウサギが生息する島。2017年3月に設立された奄美群島国立公園の重要な地域の一つでもあり、現在は世界自然遺産登録に向け、野生生物の生息地の保護が自治体やNGOなど民間により進められている地域です。
今回、WWFジャパンでは、そうした取り組みの一翼を担い活動を行なっている団体の一つNPO法人徳之島虹の会に、現地の調査を委託。このたびその結果をまとめ、公開しました。

調査結果概要:各調査日と場所及び見つかった漂着物など

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徳之島での調査とその結果

確認されたオイルボール

NPO法人徳之島虹の会の調査では、徳之島沿岸の6つの地点(阿権浜、犬之門蓋海岸、与名間ビーチ、金見北部海岸、畔プリンスビーチ、喜念浜)を対象に、洋上からどれくらい油が流れ着いたかを調べました。
調査期間は、2018年4月から6月までの3カ月間。1カ月に3回づつ、2名一組で海岸を歩きながら巡視する実地踏査を行ない、オイルボール(石油のかたまり)や、油が付着した漂着ゴミ、さらに生物の遺骸等の種類やサイズを、GPSのロケーション情報と共に記録していきました。

部分的にオイルが黒く付着した漂着ゴミ(撮影:NPO法人徳之島虹の会)

調査で確認された、漂着したオイル塊(撮影:NPO法人徳之島虹の会)

調査開始時の4月には、オイルボールが最大で9個確認された日もありましたが、5月に入ると多い時で3個にとどまる結果に落ち着き、それ以降は、調査終了時までに、目立ったオイルボールや油分が付着した漂着ゴミは確認されませんでした。
このため漂流した目立った油の塊は、事故当初の1月から5月ごろまでの間に、この周辺での漂流は終えた可能性が高いと考えられました。
また、漂着したこれらの油は、タンカーの積み荷ではなく、燃料用の重油が流出したものであると考えられます。今回の事故で沈んだタンカーの積み荷は、揮発性の高いコンデンセートであったため、流出後ほとんどが気化してしまった可能性が高いためです。

見つかった生物の死亡個体

また今回の調査では、サシバ、ウミウ、イソヒヨドリ等の鳥類や、ハコフグ、ハリセンボン、カワハギなどの魚類、ウミガメ類の死亡個体も確認されました。
しかし、これら見つかった死亡個体はいずれも、全身が油で汚れたような形跡は認められず、直接的に流出した油による死因であるとすぐに判断がつくものは、ありませんでした。この結果から、調査を行なった時点では、漂流・漂着した油分が徳之島島周辺の生物に対し、死亡原因となるような甚大な被害をもたらすものにはなっていない可能性がうかがえました。

海岸で確認されたシロチドリには目立ったオイル付着はなし(撮影:NPO法人徳之島虹の会)

また事故当初、毎年見られた産卵のためのウミガメの上陸が確認できず、漂着油分の影響の可能性も含めて、心配されましたが、調査終盤の6月にはウミガメの上陸や産卵跡も確認することができました。

今後の影響の可能性と見直すべき対策

今回の事故では、流出した油分の大半が揮発性の高いコンデンセートであったことや、漂着が始まった当初から、島の住民や自治体など地域単位による自主的な除去作業が大規模に行なわれた結果、海岸やそこに息づく生きものへの被害は、大きく軽減されたとものと考えられます。

一方で、南西諸島の海岸で発達したサンゴ礁が防波堤となり、海岸まで漂着することなく、沖合いの海底に沈降し残留していると考えられるオイルボールがある可能性や、揮発したコンデンセートをはじめ、目視で確認しづらい微小な油の成分が、沿岸域の小さな生物や生態系に長期的な影響を及ぼす可能性も考えられます。
このため、油の漂着が認められた地域周辺では、引き続き環境への影響や被害を科学的に調査していく必要があります。

さらに、これらの課題とともに、将来に同様の事故が発生した場合、国や県が、自治体や住民への迅速かつ正確な情報を共有することや、事故後に一刻も早い対策作業の人員確保及びや予算措置をとる体制の整備、さらには長期的な環境影響を事業として継続するしくみの構築が求められます。

今度の事故では幸いなことに、沿岸環境や野生生物への目立った被害は認められませんでしたが、こうした事故は、いつどこで生じてもおかしくはありません。
生物の密度が高い海域で生じれば、野生生物の生存や漁業資源に深刻な影響が及ぶことが懸念されます。
今回の事故では、調査や対策作業には現場の住民やNPO、自治体による継続的な活動が被害の状況把握と低減に貢献する結果となりました。
このことからも、緊急事態が発生した時に国や県及び専門機関らが地域関係者と人続に情報や活動を連携する体制とその準備が重要なのです。

調査にあたり、天候不良や酷暑の中、徳之島沿岸の漂着に関する調査を実施されたNPO法人徳之島虹の会の方々の苦労の結果、貴重なデータを得ることができました。

従事された地元関係者の皆さまには、心から感謝と敬意を表するとともに、WWFジャパンも行政に対してこの調査結果を示し、対策の改善・整備を働きかけていきます。

報告書

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