広がるASC認証 宮城県産カキの6割が認証を取得!

この記事のポイント
2018年9月25日、宮城県石巻市において「石巻産かきASC国際認証取得記念式典・祝賀会」が執り行なわれました。ASC認証とは、海の自然と地域社会に配慮した養殖に与えられる国際的な認証。東日本大震災で被災し、その復興の中でASC認証を日本で初めて取得した、宮城県漁協志津川支所戸倉出張所に続き、これで石巻地区の3支所がASC認証を取得したことになります。ここで生産されるカキは、宮城県産カキの約6割に相当。被災地の海から、世界にその環境配慮を認められた養殖が、大きく広がり始めています。

日本で広がるASC認証

ASC(水産養殖管理協議会)認証とは、養殖業が引き起こす汚染など海の環境への悪影響や、劣悪な労働環境など地域社会での問題に関する厳しい要件をクリアした養殖場だけに与えられる国際的な認証制度。
養殖版「海のエコラベル」としても知られています。



ASC認証のマーク


WWFはこのASC認証の普及を通じて、養殖現場の自然環境の保全と、養殖で使う餌の原料の持続可能な利用、さらには養殖業に関わる人々の暮らしを守る活動を進めてきました。
またASCラベルの認知を高め、そのラベルが付いた製品を選んでもらうことで、養殖した魚介類をお店に供給するサプライチェーンと、それを食べる消費者にも、海を守る取り組みにつながるより良い消費を広げていくことを目指しています。
ASC認証は、2012年にベトナムのティラピア養殖場が世界初となる認証を取得したのを皮きりに、順調に数を伸ばし、現在ではサーモンやエビなどを中心に700近い養殖場が認証を取得するに至っています。
日本でも、2016年に宮城県漁協志津川支所戸倉出張所のカキ養殖が、東日本大震災の苦難を乗り越えてASC認証を取得したことで話題になりました。
しかし、全体としてみればその総量は限られており、全国各地に届けるには十分ではありませんでした。
そうした中、2018年4月に、宮城県漁協石巻地区支所、石巻東部支所、石巻湾支所の3支所が、戸倉に続く形で新たにASCの認証を取得。

東日本大震災の大津波で、養殖設備の全てを流され、ゼロからのスタートを余儀なくされた宮城県のカキ養殖は、その生産量の約6割でASC認証を実現したのです。

認証取得までのあゆみ

宮城県ではカキ生産者の減少もあり、震災から7年あまりが経過した今でも、県内のカキ生産量が震災前の6割にとどまっています。
加えて近年のカキの市場価格が安値で推移しており、生産者としては消費の拡大を図り経営を安定化させる必要がありました。
そこで、宮城県漁協石巻地区支所、石巻東部支所、石巻湾支所の3支所は2年後の東京オリンピック・パラリンピック大会を控え、持続可能性を客観的に証明できる水産物の需要が高まっていることを考慮し、協議の結果、2017年10月にASC認証の取得を目指すことを決定。
その後、予備審査による現状把握と環境調査などを行ない、2018年1月に本審査を受審して、4月27日に新たなASCカキ養殖場が誕生するに至りました(図①、写真②)。

図① ASC認証を取得したカキ養殖場の範囲(赤:戸倉出張所、青:石巻地区支所・石巻東部支所・石巻湾支所)

写真② 2018年4月27日に発効されたASC認証状

特筆すべきはその生産量です。
宮城県は広島県に次ぐ第2位のカキ生産量を誇りますが、この3支所だけで県内の生産量の過半数を超えます。先の戸倉出張所の生産量と合わせると、実に約6割に及びます(図②)。

図②宮城県における支所・出張所別カキ出荷量

「海のエコラベル」認証の主流として

これほどの生産量を誇るカキ養殖が、揃ってASC認証の取得を実現したことは、国内でのASC認証の広がりを、大きく後押しするものでもあります。
これまでASC認証のような水産エコラベルは、欧米主導の仕組みであって日本には馴染まないという指摘もありました。しかし、宮城県のカキ養殖に限って言えば、まさにASC認証が主流化したと言えるでしょう。
ASC認証が地域のスタンダードとなったことで、これまで認証取得にあたって困難とされてきた課題にも、変革の光明が見えてきます。
例えば、カキを取り扱う加工場が増えれば、地元の商店街やイベントなどでも提供することが可能になります。また、審査や認証維持にかかるコストや手続きの簡略化や流通の仕組みなどの効率化も期待されます。

農林水産省が行なった調査では、消費者の水産エコラベルに対する認知度は16%と欧米と比較して依然として低いものの、同価格または10%程度の価格差であればエコラベル付き製品を購入したいとの回答が全体の3/4に達していることが分かりました。
これは、日本でも認証製品に対する潜在的な需要があることを示すものです。

誰もが参加できる「海を守る」身近な取り組みとして

このASC認証の審査では、現場の環境保全だけではなく、温室効果ガスがどれくらい排出されているかや、流出した網などの漁具の回収が、きちんと行なわれているかどうかがチェックされます。
つまり、認証の取得は、地球規模で海洋の環境を脅かしている地球温暖化や海洋の酸性化、流出した漁具による海洋生物への影響(写真③)、海洋へのプラスティック流出の問題にも漁業者が取り組むきっかけとなるものです。
ひとつひとつの動きや効果が小さかったとしても、認証を取得する漁業が増え、より主流化が進めば、こうした取り組みの効果は確かなものとなってゆくでしょう。

©Michel Gunther / WWF

写真③海洋に放置・投棄された漁具によって、海の生き物が被害にあうことを「ゴーストフィッシング(幽霊の釣り)」と呼んでいます

また、ASCラベルを目にする機会が増えることで、消費者の海洋保全に対する認知が進み、エコラベルのついた製品を積極的に選んで買うという動きが、今後日本でも加速化するかもしれません。

今回新たに認証を取得した、宮城県の生カキの出荷は2018年9月29日から始まりました。
宮城県産カキを食べる機会があったら、是非産地を確認してみてください。石巻産だったら「国際認証取得したらしいね」と店員の方に話かけてみてはいかがでしょうか(写真④)。
身近なところから、海の自然を守る取り組みに、ぜひ参加していただければと思います。

写真④式典会場で試供された石巻産ASCカキを使った鍋料理

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