WWFジャパンの「暮らしと自然の復興プロジェクト」

この記事のポイント
WWFジャパンは2011年3月に発生した東日本大震災を受け、2011年7月~2016年6月にかけて「暮らしと自然の復興プロジェクト」を展開しました。これは「東日本沿岸域の生態系の回復と、海と共に生きる暮らしの復興」そして、「原発の段階的な廃止と大幅な省エネ&節電の呼びかけ、自然エネルギーを拡大すること」を目的とした取り組みであり、WWFが国内外で実績を積んできた活動の知見を通じて、被災地の復興支援をめざすものです。2016年6月をもってプロジェクトは終了しましたが、日本国内での持続可能な漁業の推進、および100%自然エネルギーの実現を目指した取り組みはその後も継続しています。

東日本沿岸域の生態系の回復と、海と共に生きる暮らしの復興

生物多様性と水産業への東日本大震災の影響

2011年3月11日に起きた東日本大震災の地震と大津波は、沿岸の人の暮らしと自然環境にも大きな打撃を与えました。

砂浜など地形の変化や地盤の沈下、砂や泥の移動による海底や海岸の地形、環境の変化、藻場や海岸の生態系の破壊、がれきからの有害化学物質の流出、そして福島第一原子力発電所の事故からの放射性物質の放出などです。

これらは、沿岸を生息環境としていた動植物に多大な影響を与えただけではなく、海の生物多様性を産業の基盤としている漁業の復興にも大きく影響します。自然環境の影響評価と回復に向けた活動支援は、漁業の復興にも寄与するものといえるでしょう。

復興に向けた動きと、それを支えるプロジェクト

WWFジャパンはプロジェクトの活動地域を選定するにあたって、生物多様性が高いこと、水産業が地域産業の基盤となっていること、の2点に着目しました。

右の地図に示すように、東日本の太平洋沿岸には、数多くの生物多様性の高い地域(生態系サービスの供給源)があることが分かります。

この中からいくつかの候補地を絞り、現地を訪問し、漁業者や自治体、市民団体から、被害状況や復興に向けた課題等について聞き取りを行いました。

また、2011年6月27日には、WWFジャパンに漁業経済、文化人類、地形、海藻類、底生生物、鳥類、化学物質の専門家を招聘し、検討会を開催しました。各分野から最新情報や課題について共有した上で、プロジェクトの方向性を整理しました。

検討委員からは、生物多様性への影響や地域社会のニーズ・実情に十分な配慮がないまま、復興計画が策定される可能性について危惧の声があがり、WWFとして自然再生と、それを踏まえた漁業復興モデルを提案・実行して欲しいとの要望があがりました。

モデル地区の選定とプロジェクトの展開

その後、さらに情報収集と検討を重ね、活動地域を宮城県南三陸町(戸倉地区)と福島県相馬市(松川浦)の2カ所に決めました。

これらの地域は同じ被災地でありながら、被災状況も、自然環境も水産業の実態も異なる地域で、それぞれの現状に合わせたサポートが必要です。

宮城県南三陸町戸倉地区

松川浦

生物多様性保全上重要な地区

モデル地域1:宮城県南三陸町(戸倉地区)

  • 志津川湾が重要湿地500(アマモやアラメなどの海草・海藻類の生育域)
  • 南三陸金華山国定公園
  • モニタリングサイト1000(藻場)の調査地
  • ギンザケ、ワカメ、カキなどの養殖業が中心
  • 東日本大震災「つながり・ぬくもりプロジェクト」の支援地域
  • 戸倉地区管内では、過密養殖を改善し、環境にやさしく、かつ効率的な養殖業での再建を目指している

モデル地域2:福島県相馬市(松川浦)

  • 松川浦が重要湿地500(ホソウミニナ、アサリなどの生息地)
  • 福島県立自然公園
  • モニタリングサイト1000(シギ・チドリ類、底生生物)の調査地
  • ノリやアサリ(松川浦)、ホッキやカレイ類(相馬海域)などの産地
  • 市民団体による将来構想会議が進められている。
  • 福島第一原発事故の影響により、漁業は自主休業中。

「自然環境と生物多様性の再生」と「持続可能な水産業の支援」を目的とした、暮らしと自然の復興プロジェクトでは、次のように活動を展開することとしました。

  1. 現状把握と情報共有
    自然環境のすみやかな回復・再生と、水産業の復興のために、自然環境および社会経済について調査を行い、科学的情報を収集し、震災による変化とその影響を正しく把握することからはじめます。また得られた知見は関係者に還元し、復興に向けた問題点を共有します。
  2. 協働プロジェクトの立案と実行
    1.の知見を各地域や水産業の復興計画と照らし合わせ、各地域の実情とニーズに沿った、自然環境の回復と水産業の復興に必要な課題を整理します。優先して取り組むべき課題については、実行のための体制作りを応援します。
  3. 持続可能な水産業の支援
    豊かな自然環境と水産業に支えられた地域のさらなる復興のためには、環境配慮、持続可能性、安全安心といった時代のニーズに合わせた取り組みが必要です。漁業者による持続可能な水産業への取り組みを応援するとともに、流通や販売に関わる企業、消費者、行政へも協力を働きかけます。

なお、被災地における持続可能な漁業の推進については、2016年6月の本プロジェクト終了後も、宮城県南三陸町志津川湾でのASC認証の取得支援等を通じた取り組みとして、継続されています。

原発の段階的な廃止と大幅な省エネ&節電の呼びかけ、自然エネルギーの拡大

つながり・ぬくもりプロジェクトによる支援

東日本大震災は、数多くの尊い人命を奪っただけでなく、地域の人々の生活に欠かせない、電気や水といった基盤(ライフライン)も根こそぎ流し去ってしまいました。

震災後、ライフラインの復旧が急ピッチで進められましたが、被災が広範囲に及ぶこともあり、その度合いによって、いまだ電気も水道も十分な回復をみていない地域も残されました。

各自治体では、瓦礫の処理に取り組むとともに、復興計画の検討も進めてきましたが、被災直後の現状の中では民間の支援と、その役割にも、大きな期待が寄せられました。

「つながり・ぬくもりプロジェクト」は、東日本大震災の被災地を支援する取り組みの一つとして、環境エネルギー政策研究所が事務局となり、自然エネルギーの普及と持続可能な社会をめざす環境団体が協働するプロジェクトです。WWFも、幹事団体としてこのプロジェクトに参加しました。

取り組みの主な内容は、太陽光発電で被災地に電気を灯し、バイオマスと太陽熱温水で暖かいお湯を提供する、自然エネルギーを利用した支援活動。また将来的な、地域分散型の「自然エネルギー」を普及する取り組みの一つとしても注目されています。

設置された太陽光パネル

岩手県気仙郡住田町の仮設住宅で実現した太陽熱温水器の支援

「自然エネルギー100%」の未来を!

WWFジャパンでは、こうした取り組みと共に、日本で将来「自然エネルギー100%」の社会を実現するための活動を展開。政府に対し、脱原発と、太陽光や風力などによる発電の拡大を強く求めながら、独自にその実現のためのシナリオを作成しました。

何より、福島原子力発電所の事故は、原発問題の大きさを改めて内外に知らしめるものとなりました。原発に頼らず、自然エネルギーの力で、全世界が生きてゆける未来に向けて、今こそ歩みを進めるときです。

関連情報

震災被災地支援のWWF緊急募金(受付終了いたしました)

この記事をシェアする

人と自然が調和して
生きられる未来を目指して

WWFは100カ国以上で活動している
環境保全団体です。

PAGE TOP