2013年【COP19/CMP9】国連気候変動ワルシャワ会議


2013年11月11日~22日の日程でCOP19・COP/MOP9(国連気候変動枠組条約第19回締約国会議および京都議定書第9回締約国会議)が、ポーランド・ワルシャワで開催されます。今回は、第一に、2015年に合意予定の新しい国際枠組みへ向けて順調に交渉を進めることができるか、第二に、その新しい枠組みが始動する2020年までの国際的な気候変動対策を、必要な水準まで底上げできるかどうか、が大きなポイントです。

これまでの流れ

これまで、国際的な気候変動対策の中心は京都議定書でした。その京都議定書の中で目標が定められている第1約束期間(2008~2012年)の「次」をどうするかについて、2005年以降、国連気候変動会議は交渉を重ねてきました(表)

2005年 京都議定書の発効
COP11・COP/MOP1
(カナダ/モントリオール)
京都議定書の第2約束期間の交渉開始。京都議定書特別作業部会(AWG KP)の開始。
2007年 COP13・COP/MOP3(インドネシア/バリ)
「バリ行動計画」の採択によって、条約特別作業部会(AWG LCA)の開始
2009年 COP15・COP/MOP5(デンマーク/コペンハーゲン)
「コペンハーゲン合意」の採択にはコンセンサスが得られず、「留意」となる
2010年 COP16・COP/MOP6(メキシコ/カンクン)
「カンクン合意」において、自主的に各国の削減目標・削減行動を登録することが可能に
2011年 COP17・COP/MOP7(南アフリカ/ダーバン)
「ダーバン合意」によって、「ダーバン・プラットフォーム特別作業部会」(ADP)設立。2015年までに2020年以降の新国際枠組みを合意する交渉が開始。
2012年 COP18・COP/MOP8(カタール/ドーハ)
「ドーハ気候ゲートウェイ」によって、京都議定書の第2約束期間合意と2015年までのおおまかなスケジュール合意

当初、2009年のデンマーク・コペンハーゲンでのCOP15・COP/MOP5において、新しい国際枠組みの合意が目指されましたが、難しい交渉の果てにも合意はならず、失望感が交渉を包みました。

しかし、翌年2010年のメキシコ・カンクンでのCOP16・COP/MOP6において、ひとまず各国が自主的に掲げている削減目標や削減行動計画を国連の文書の中にかき込むことに成功し、それらの目標・計画を国際的に互いにレビューしあうことで合意がされました。2020年までの国際的な取り組みについては、なんとか「つなぎ」を作ることに成功したと言えます。

さらに、続く2011年の南アフリカ・ダーバンでのCOP17・COP/MOP7では、新しい国際枠組み設立に向けての交渉をもう一度開始し、2015年での合意が目指されることになりました。この時に、その交渉を行なう主な舞台として、ダーバン・プラットフォーム特別作業部会(ADP)が設立されました。

2012年のカタールドーハでのCOP18・COP/MOP8では、特に途上国側が強く求めていた京都議定書の第2約束期間(2013~2020年)について、EU等の一部の先進国が参加する形で合意し、これまで続いていた京都議定書の下の特別作業部会などを一度区切りをつけることで、ADPに将来の交渉をほぼ一本化することに合意がされました。

2013年に入ってからは、このADPを主な舞台として議論が続けられています。

ダーバン・プラットフォーム作業部会(ADP)での2つの分野

現在、ADPでは、「ワークストリーム」と呼ばれる2つの部会で議論が進められています(図)。

ワークストリーム1:2015年合意

「ワークストリーム1」では、「新しい国際枠組みを2015年に合意する」ことを目指した交渉が行われています。この新しい国際枠組みは、2015年に合意がされた後、2020年から始動する予定となっています。これまでの会議では、各国がどのような論点がありえるかのフリーディスカッションに近い形で意見を出し合うことが続けられてきました。

今回の会議では、1)2015年合意に入るべき主要な要素は何か、2)今後の交渉スケジュール(特に次の目標をいつ出すか)、の2つが主な議論となると予想されます。

前者については、削減目標や削減行動計画等の「緩和」と、それ以外の分野(気候変動の影響に対する「適応」、途上国に対する「資金」「技術移転」など)とのバランスが争点になりそうです。

2014年末に合意を得る予定なので、今回の会議ではおそらく具体的な議論にはなりませんが、新しい国際枠組みの構成を決める大事な議論の前哨戦となります。

後者については、新しい枠組みで、各国が掲げる削減目標の案を、いつまでに提示するのかが争点になりそうです。

先進国の間では、各国の目標案が直前に出そろったため、具体的な議論がほとんどできなかったコペンハーゲン会議の経験なども踏まえ、各国の目標案が出そろってから最終合意がされるまでの間に、一定の協議期間を設けようという議論が主流になっています。

この時間を確保するために、各国が一体いつまでに目標案を提示するべきなのかが大事な争点です。これは、途上国がどのタイミングで出すのかも含み、難しい議論となりそうです。

ワークストリーム2:2020年までの取り組みの底上げ

「ワークストリーム2」では、「2020年までの各国の気候変動対策の底上げ」が主な論点です。

国連環境計画が発表した報告書によれば、地球の平均気温上昇を「2℃未満」に抑制するために必要とされる削減量と、現在各国が誓約している削減目標の総和との差は、2020年時点で80~120億トンもあると試算されています。

この差は極めて大きく、これをなんとか埋めなければならないという議論が続けられています。

しかし、各国ともすでに誓約している2020年の目標を動かすことは政治的に難しく、なかなか議論は前に進んでいません。

AOSIS(小島嶼国連合)が、再生可能エネルギーと省エネルギーに関する各国の取り組みに焦点を当てて、底上げを図っていこうという提案をしていますが、これがどれくらい具体化されるかが1つのポイントです。

また、AOSIS提案以外にも、強力な温室効果ガスであるHFC(代替フロン)の削減を加速すること、化石燃料に対して与えられている補助金を引き下げること、国際航空・船舶分野での削減を加速すること、温室効果に寄与する大気汚染物質の削減を進めることなど、各国の削減目標や削減行動計画を直接的に変えるのではなく、やや間接的に取り組みを進める補完的措置(complementary measures)と呼ばれる取り組みを進めるべきだとの議論もされています。

しかし、いずれもまだ具体的に各国が協調して何をするのかが明確になっておらず、どれくらい具体的な行動に結びつけていけるかが課題です。

その他の論点

ADPでの交渉論点の他にも、今回の会議で争点になりそうな課題がいくつかあります。

1つは、気候変動の影響に対して、適応しきれなかった時に発生する「損失と被害(loss and damage)」に対応するための、国際的なメカニズムの設立です。

この争点は、2012年のドーハ会議では最も紛糾した議題の1つであり、2013年、具体的な決定がされる予定となっています。

すでに気候変動からの甚大な影響に接している島嶼国はこのメカニズムの設立を重視している一方、気候変動影響に対する「補償」を広範囲で求められることを警戒する先進国との間で議論が紛糾しています。

もう1つは、途上国への資金・技術支援です。

すでに、2020年時点において年間1000億ドルの資金の流れが必要であることに合意がされていますが、2013年以降すぐに必要である直近の途上国への資金支援については、まだあまり具体化されていません。

日本を含め、いくつかの先進国が新しい途上国支援について検討しているという話もあり、今回、この部分について進展が得られるかもポイントです。

IPCC発表を受けて、前に進めるか?

IPCCが2013年9月に発表した第5次評価報告書の第1作業部会報告書では、改めて、人類のCO2排出による気候変動の進行を確認しました。

最もCO2排出量が大きくなるシナリオでは、現状と比べて平気気温は約3.7度上昇(工業化前と比較すると約4.3度上昇)すると予測されています。

気温上昇を、これまでの合意に基づき、「2度未満」に抑えるようなシナリオを達成するためには、温室効果ガスの排出量は、全世界で2020年までにピークをむかえ、以降は減少傾向に転じなければなりません。

したがって、上記ADPでの交渉ではワークストリーム1の交渉に注目が集まりがちですが、ワークストリーム2について具体的な成果をあげることが極めて重要です。

日本は?

日本では、各国が「ワークストリーム2」において取り組みを底上げしようと議論をしている最中にあって、2020年に向けての目標を引き下げる方向で議論がされています。

震災と原発事故によって、目標の見直さざるをえなかったのは仕方がないという部分もありますが、しかし、それは問題の一面でしかありません。

2020年に向けての目標は実は2005年頃から準備が必要であることが判っていた議論であり、国内での消極的な議論によってずるずると目標決定や対策が先延ばしにされ、対策の遅れを招いていました。

その後、震災・原発事故が起きて以降も同様にしていたずらに時間が浪費され、ますます2020年までの期間が短くなり、結果として取り組みを困難にしてきたという事実も忘れてはなりません。

現状では、削減目標の引き下げは極力抑えつつ、2030年へ向けての取り組みをより強化する約束をすることなどを通じて、日本はまだまだ積極的に貢献する意志があることを示す必要があります。

京都議定書の第2約束期間を拒否し、代わりにやると誓った2020年目標を大幅に引き下げ、さらに2015年合意へ向けた交渉でも積極姿勢を示せないとなれば、日本の国連気候変動会議での存在感はますます低下の一途を辿ることになります。

これは、国際的な気候変動対策全体にとって大きな損失であると同時に、日本という国にとっても、次期枠組みのルール形成において不利な立場に立たされる可能性を意味しており、極めて深刻な状況です。

ワルシャワ会議では、そのような不利な状況を避け、国際的な気候変動対策に貢献するためにも、日本の積極的な姿勢が試されます。

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