【COP19/CMP9】ワルシャワでの国連気候変動会議 第1週目報告


ポーランドの首都ワルシャワで開催されている、第19回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP19)および第9回京都議定書締約国会議(CMP9)の1週目が終了しました。2020年までに各国に意味ある温暖化対策を進めさせるための作業、それに2015年に合意する予定の2020年以降の新しい温暖化対策の条約(2020年以降の新枠組み)を形作っていく作業。この2つを目指して、交渉が行なわれています。前半の第一週目の会議の進展を報告します。

2つのワークストリーム

会期中の1週目には、日本が「2020年目標」を大幅に引き下げる発表を行ない、世界の市民団体から強い抗議を受けただけではなく、欧州連合やイギリス政府、小島嶼国連合なども公式に遺憾の意を表明する声明を発表するなど、世界から非難を浴びました。

また、オーストラリアからも従来からの削減目標を最低限の5%に留めるというニュースが国内から聞こえてくるなど、交渉全体へ非常に悪い影響を与えています。

それでなくとも、産業革命前に比べて2度未満に抑えるにはまったく足りない2020年の各国の目標を、いかに引き上げていけるかを議論していく最中に、さらに目標を引き下げるこれらの発表は、1週目の交渉に暗い影を投げかけました。

現在の交渉の焦点は主に2つに分けられます。



ワークストリーム1

2015年に合意する予定の「2020年以降の新枠組み」について。ダーバン・プラットフォーム作業部会(以降ADPと呼ぶ)のワークストリーム1での議論。

ワークストリーム2

2020年に向けての目標と取り組みをいかに引き上げていけるかを議論するADPのワークストリーム2。

2週目の水曜日からは各国から大臣が参加し、ハイレベル会合が始まります。成果をあげて、2015年合意の中身と作業計画が姿を見せ、2020年の目標が少しでも引き上げられる希望が見えることが望まれます。


【詳細報告】ADPワークストリーム1
2015年に合意する2020年以降の新枠組みに向けて

新枠組みの排出削減目標の決定方法について

2020年以降の枠組みは、「すべての国を対象とする」ということが決められています。

京都議定書の時には、先進国と途上国の歴史的な責任を考慮して、先進国だけに法的拘束力のある排出削減を義務付けましたが、一部の途上国で急速に開発が進んで排出量が増加していることを受けて、次の新枠組みでは途上国側にも削減行動をとってもらうことを前提としています。

しかし途上国といっても、先進国並みの途上国から、開発が進んでいない途上国まで、非常に差があります。

どのように「すべての国を対象とする」衡平な分担が可能なのかを、この交渉の中で決めていかねばならないのです。

新枠組みのコアは、排出削減の取り組みです。どのように分担するかについては、各国から徐々に具体的な案が出てきています。

今大きな流れとなっているのが、目標を自主的に提示して、決定前に事前に国際比較・検証するという提案です。

2020年以降の目標(おそらく2030年目標となるので、これ以降暫定的に2030年目標と呼ぶ)を、2015年の早い時期に、各国が自主的に国連に提出し、目標を最終決定するまでに、各国が提出した目標を、何らかの指標などを用いて、国際比較する。お互いに検証しあい、質問などをする過程で、おのずと各国の目標の妥当性が国際的に見えるので、それを持って目標を再検討し、2015年のCOP21で最終決定する。ざっとまとめるとこんな感じになります。

これは2013年の3月にアメリカが提案し、その後に欧州連合や日本、ブラジルなど一部の途上国も同じような提案を出してきており、一つの流れになっています。

ただ自主的に目標を国連に提出する時期については、意見が分かれています。

欧州連合は2014年のCOP20まで、アメリカは2015年の早い時期、日本やブラジルは時期を明示しておらず、日本は2015年合意の数か月前と記しているのみです。

本来は産業革命前に比べて2度未満に抑えるために必要となる削減量はわかっているわけですから、それを各国に配分していくという形が最も望ましいのですが、今の政治情勢では非常に困難であるため、その代替案として上記のような「自主的な目標提示、しかし決める前に国際比較・検証して目標の再検討をできるようにする」という形が主流となってきているのです。

そこでこのワルシャワCOP19での成果として求められるのは、上記の自主的に目標を提出する時期をいつにするか、またどのような指標などを持ってその後に国際比較・検証していくか、などの具体的な作業計画を決められるかどうかです。

国際比較していく際に必要となる指標については、今回ブラジルが具体的な提案を出してきており、注目されています。

これは1850年から歴史的に排出されてきた量に対して、各国の寄与分を計算できる方法論を、IPCCに開発してもらおうというものです。

今回のIPCCの第5次評価報告書で採用されているシナリオは、過去のCO2累積排出量(=大気中のCO2濃度)に比例して気温が上昇するというシナリオです。

したがって過去の累積排出量に対して、各国の寄与分を見ていくというのは、過去の温暖化に対する責任を見るためには科学的に一定の根拠がある指標となりえます。

もちろん歴史的な排出量だけが、衡平性の指標ではありませんが、具体的な提案であるため、今回のCOP19ではかなりの注目を集めています。

このブラジル提案に対して、中国やインドなどがすぐに賛意を表明し、途上国グループはおおむね賛成ですが、先進国側は反対の立場です。少なくとも具体的な提案が出てきて議論が白熱してきていることは交渉の進展にとってはプラスであり、さらにほかの提案も出されて、議論が深まっていくことが望まれます。

2015年合意に入るべき論点の議論について

この2015年合意では、どの論点を取り入れていくかについては、先進国と途上国は大きく意見が分かれています。

大きく分けると、先進国側は、緩和(上記の削減目標についての議論)が2015年合意のコアであり、あとの論点はCOP決定などで補っていくことも可能だとしているのに対し、途上国は緩和だけではなく、適応や資金援助・技術移転なども同じくらいの重みをもって、2015年合意そのものに入れていくべきだと口をそろえて主張しています。

そこで1週目の交渉では、いくつかに分けて、議論が進められていきました。

まずはキャパシティ・ビルディング、削減行動と資金援助の透明性、適応、技術移転などです。

この背景には、途上国が排出削減行動をとるには、先進国から「実施の手段=つまり排出削減をするために必要となる資金や技術の援助」が行われなければならないことが決まっているのですが、それを先進国側がないがしろにしたままになってしまうのではないか、という疑心があるのです。

実施の手段の確保があいまいなまま、「すべての国を対象とする」という名のもとに途上国側に排出削減だけが求められることを警戒しているわけです。

特に資金については、2020年に年間1000100億ドル単位で資金供与されることが決まっていますが、いまだその原資もまったく議論が進んでいません。

資金援助の組織的なアレンジは進んでおり、グリーン気候基金などが立ち上がって、COP以外で着々と進められていますが、肝心の中身がない状態なので、途上国側が焦燥感をあらわにしているわけです。

また透明性の議論においては、排出削減努力の透明性をはかるための排出量算定のルールや公表の仕方、国際的な検証の方法などについて話合われていますが、同時に途上国側が強く求めているのが、先進国から途上国側への資金供与の透明性をはかる手段もあるべきというものです。つまりどんな資金をどのようにどれだけ拠出したかを、国際的に見える形にし、先進各国の努力を促す(拠出割合を決めて義務付けるという提案もある)ということです。

1週目の議論を受けて、2週目の最初に共同議長が決定文書のドラフトを提示する予定になりました。

目標をどのように提示するか、いつ提示するか、先進国と途上国の間でいかに責任分担をするのかの衡平性の指標について、いつどのように議論を進められるのか、またそれぞれの論点がどのような形で入ってくるのか、注目されます。

大切なことは、ワルシャワ会議のあとに2014年にどんな作業を、どの締切までに進めていくのか、が明確に示されることです。2013年は2015年合意について各国が提案を出し合う段階でしたが、2014年には具体的に合意のドラフト案の形にして、交渉に持ち込んでいく必要があります。

そのためには、2014年に行うべきプロセス自体に合意できるかどうかが、このワルシャワ会議にかかっているのです。

その他の重要な論点: 損失と損害(ロス&ダメージ)

残念ながら温暖化は進んでいます。

どんなに排出削減について議論しても、すでに温暖化による被害は深刻化していくことが予測されています。

適応の手段をとっていくことは必要ですが、それでも大きな損失や損害が出てくることが予想されます。

たとえば海面上昇で陸地が浸食されて、住むところを追われたり、大洪水によって家屋が流されたり、海洋酸性化で海洋の生物多様性が損なわれたり、取り返しのつかない損失や損害が発生するリスクが高まってきています。

これらの損失や損害に対して、「損失と損害に対する国際的な組織」を立ちあげて、対応していこうというのが、このロス&ダメージ(損失と損害)といわれる論点です。

2013年にドーハで開催されたCOP18で、COP19において損失と損害の対応組織を立ち上げることが決まっています。

このCOP19において、きちんとこの組織を立ち上げられるかどうかも一つの大きな焦点です。

この組織は、気候変動による損失と損害の知見を得ることや、既存の災害救済の組織などとの調整、それに活動と支援という3つのコア分野で作業を進めていくことになっています。

それぞれ途上国グループや小島嶼国、EUやノルウェーが提案を出していますが、適応や災害援助などの既存の組織との重複を避けつつ、なるべく既存の組織の延長に作っていこうと提案するEUやノルウェーに対し、途上国グループは現在起きている温暖化の原因を作った先進国の責任でこのような損失と損害が起きているのだから、支援ではなく賠償であると主張しています。

一方アメリカなどのアンブレラグループ(アメリカ、オーストラリア、日本など)は、新たな資金供与を求められる組織になることを警戒して議論に消極的です。

日本やオーストラリアなど先進国が2020年の排出削減目標をさらに引き下げられるような現状では、温暖化による損失と損害は増大する一方ですから、この損失と損害の組織はこのCOP19できちんと設立されることが求められます。


【詳細報告】ADPワークストリーム2
2020年に向けての目標と取り組みをいかに引き上げていくか

COP19・COP/MOP9について、WWFも含めたNGOが最も注目している議題の1つは、「2020年までの削減努力の底上げができるかどうか」です。この議論は、ダーバン・プラットフォーム特別作業部会(ADP)のワークストリーム2で議論されていますが、今回、いかに具体的な対策が出せるかどうか。第1週目が終わった時点では、決して見通しは明るくありません。

「ギガトン・ギャップ」に具体策は?

通称「ギガトン・ギャップ」と呼ばれる、地球全体で必要な削減量と各国目標との間は,2020年時点で80~120億トンにも及ぶと言われています。

しかし各国とも、一度決めた目標を引き上げるのは政治的に難しく、色々なアイディアは出てくるものの、具体的な対策にまで落とし込めるかは未知数な状況が続いています。

しかし、2020年という年までは時間がなく、IPCCの科学が示したところに従うなら、少なくとも2020年までに世界の排出量を増加傾向から減少傾向に転じなければ、地球の平均気温上昇を2度未満に抑えることが厳しくなります。

このジレンマの中、いかに「具体的な」決定を今回出せるかが問われています。この分野は通常、「2020年までの『野心』(ambition)の引き上げ」と呼ばれています。

鍵となるAOSIS提案

この「2020年までの削減努力の底上げ」については色々な提案が出ていますが、WWFが特に注目をしているのは、島嶼国からなる小島嶼国連合(AOSIS)が提案している「再生可能エネルギーと省エネルギーに関する専門家プロセスを立ち上げて、各国の経験・優良事例の共有・拡散をはかる」というものです。

このAOSIS提案の1つの意図は、ともすれば政治的になりがちな「目標引き上げ」の議論だけでなく、再エネや省エネに関する具体的取り組みを後押しする体制をつくることを通じて、実質的な取り組みを底上げをして、なんとか「ギャップ」を埋めたいという意志の表れと捉えることができます。

WWFとしても、こうした考え方を支持し、交渉開始以前からAOSISとも意見交換をしながら、独自の提案を作って、国連気候変動枠組条約事務局に提出しました。

今回の会議の冒頭、AOSISは改めてこの提案をシンプルにした内容を提案しました。その内容は、

  1. 各国からの意見提出を募り、
  2. 来年春の会合までに新しいテクニカル・ペーパーと呼ばれる集約・分析報告書を条約事務局に作成させ、
  3. 3月と6月の会合でその議論を、政府代表だけでなく、様々なステークホルダーを交えて深め、
  4. 6月に大臣級の会合で政治的後押しをする

という内容でした。

他国の中には、スイスやメキシコなど、AOSISの提案を好意的に見る発言をする国もいくつかあり、アメリカや日本などもこれまでの交渉では基本的に支持してきました。

しかし、実は一部の途上国からはこのAOSIS提案についても懸念が示されており、まだまだこれが最終的な成果に結びつくかは不透明な状況です。

途上国の強固な姿勢

途上国グループ全体としては、先進国がまずは先導して削減努力の引き上げをはかること、国連気候変動枠組条約の下での義務である資金・技術・キャパシティビルディングに関する支援を行うことが、途上国の削減実施を後押しするということをしきりに強調しています。

途上国全般に共通して見られるのは、このADPのワークストリーム2の議論の中で、本来、先進国が果たすべき義務を、途上国の側にシフトしようとしているのではないか、という懸念です。

この懸念を特に先鋭的に発言しているのが「共有志向途上国グループ(LMDC;Like-Minded Developing Countries on Climate Change)」と呼ばれる途上国グループです。メンバーは定まっていないのですが、中国、インド、ベネズエラ、サウジアラビアなどが参加しており、先進国の責任を最も強く追及しています。

難しいのは、これらの国々が、AOSISの提案にも懸念を示しており(おそらく、先進国への責任追及が曖昧になるからでしょう)、政治的な膠着状態を抜け出そうと提案したAOSIS提案が、果たして成果に結実できるかどうかが微妙になっています。

逆行した日本とオーストラリア

こうした状況の中、さらに状況を悪化させたのが日本とオーストラリアの行動です。

日本は、第1週目の金曜日(11月15日)に、国連のカンクン合意の下で提出した既存の目標を見直したものとして、「2020年までに2005年比で3.8%削減」という目標を改めて発表しました。これは90年比に直すと、「2020年までに1990年比で+3.1%増加」という事実上の増加目標であり、各国に衝撃を与えました。

イギリス政府やEU、AOSIS等から、やや異例とも言える懸念を示す声明が発表され、800の環境NGOのネットワークであるCAN(気候行動ネットワーク)も、特別化石賞を日本に与えました。会議場でも、ここ最近存在感が薄れていた日本が、しばらくないほどに話題に上るようになり、悪い意味で存在感が出てしまっていました。

この目標は、「現時点での」目標として発表されたところもあり、こうした国際批判を真摯に受けとめ、国内での早急な見直しがされるべきでしょう。しかし、政府は、この目標引き下げが「原発不在のせいである」ということをしきりに強調し、再エネ目標の不在や石炭増加に歯止めをかけられない現状については棚上げしており、原発議論に悪用される懸念もあります。

こうした日本の動きとは別に、オーストラリアも、これまで、条件によって-25%/-15%/-5%という3つの幅をもって示していた目標のうち、一番低い目標である-5%削減しか行わないという宣言が本国でされ、現状の国内対策についても後退させる動きが見えるなど、ワークストリーム2の議論に逆行する方針が政府から打ち出されました。

こうした先進国の側からの「野心の引き上げ」どころか「野心の引き下げ」になるような方針の発表は、ただでさえ困難に直面している削減努力の底上げ議論を一層困難にしています。

意外な成果?HFC削減

削減努力の底上げの中で、本命であるCO2削減ではないものの、温室効果の高いガスであるHFC(代替フロン)の削減に着目した提案があります。EUが、モントリオール議定書の下で、このHFCの削減の仕組みをしようと提案しているのです。

モントリオール議定書は、オゾン層破壊物質を生産・消費を削減するために作られた条約で、環境条約の成功例として知られています。

元々、HFCは代替フロン、つまり、オゾン層破壊物質の代替になるものとして作られたので、モントリオール議定書の対象ではないのですが、温室効果ガスではあるので、国連気候変動枠組条約の下で取り組みがされることになっています。

しかし、HFCは元々フロンの代替物質として作られているからこそ、モントリオール議定書の下での仕組みを活用した方が、削減がしやすいのではないかという考え方があります。

そこで、EUは、国連気候変動枠組条約の方から、モントリオール議定書に取り組みを行って欲しいという決定の提案を行なってきましたが、主にインド等が反対してきていました。

その理由は、HFCの代わりに使う物質の安全性や、技術などの面において、まだまだ途上国には負担が大きいという理由でした。

そこで、EUは、締約国会議(COP)の下での正式な「決定」ではなく、事前の策として、有志国の大臣での共同「宣言」を出そうと各国に呼びかけています。

HFCの削減は、決してそれだけで「ギャップ」問題の解決になるものではありませんが、効果は決して小さくないと考えられており、今回の会議の中で成果が出せるかが注目されています。

ADP共同議長の「決定」案

ADPの共同議長は、今週月曜日から、議長としての今回の会議の「決定」案を出して本格的な議論に入ることを予定しています。

ワークストリーム2については、

  1. 条約の原則
  2. 既存合意の実施
  3. 野心
  4. 削減行動を強化するイニシアティブ

という4つの区分が作られて、争点が整理されていく模様です。

具体的な成果を出し、ギャップが埋まるという方向性を少しでも打ち出し、世界が温暖化対策について前に進んでいることを示すことができるかが問われる1週間となります。


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