【動画あり】再び森へ!保護されたシベリアトラが野生に復帰


野生動物の保護活動には、さまざまな困難が伴います。町や村に姿を現した動物が、人や家畜を襲うことで生じる遭遇事故なども、そうした深刻な問題の一つです。2014年11月、極東ロシアのハバロフスク地方で、1頭のトラが人里に現れ、捕獲されました。「ウポニー(頑固者)」と名付けられたこのトラは、その後、半年にわたる野生復帰のための訓練を受け、2015年5月、再びロシアの森に放たれました。困難の末、野生に復帰したこのトラは、その後も行動を確認するため、追跡調査が継続されています。

犬を襲ったトラ

広大な森が広がる極東ロシア。
その生態系の頂点に立つトラの亜種シベリアトラは、2015年2月の調査の結果、480~540頭と推定され、この10年間で個体数が回復傾向にあることがわかりました。

これは、WWFやロシア天然資源省をはじめとする多くの関係機関が、長年にわたり取り組んできた、密猟の防止や森林保全といった保護活動の確かな結果です。

しかし、こうした成果が確認される一方で、トラが生息する現場では、さまざまな困難や問題も生じています。

その一つが、人里に野生のトラが現れ、人や家畜を襲うことで生じる遭遇事故です。

2014年11月、ロシアのハバロフスク地方ヴャーゼムスキー地区で、1頭のトラが人里近くに姿を現し、数頭の飼い犬を襲う事件が起きました。

食物を求めて現れたものと考えられるこのトラは、現場に急行した保護機関の関係者や専門家によって麻酔銃を使って捕獲され、ハバロフスク地方にあるウチョス野生生物リハビリ・センターに運び込まれました。

このリハビリ・センターは、保護したトラを野生に復帰させるための訓練を行なうために作られた、専門の施設です。

冬は極寒となるロシアの森に生きるシベリアトラ

豊かな森と川が織りなす極東ロシアの自然

野生復帰のためのリハビリ

人里にトラが現れる場合、その個体は、何かのトラブルを抱えていたり、異常な行動をとることが珍しくありません。

体力が衰えたり、病気にかかったりして、野生のシカなどを自力で獲れなくなったトラが、狙いやすい家畜を襲う例があるためです。

輸送用ケージからなかなか出ようとしない頑固さから「ウポニー(ロシア語で「頑固者」の意)」という愛称がつけられた、この3歳のオスのトラも、かなり衰弱しており、健康状態は良くありませんでした。

しかし、その回復のため人が介入し過ぎると、トラが人に慣れ、野生に戻すのが困難になってしまいます。

そこで、WWFは今回、トラの治療と一時的な保護のための資金を提供。

人が近づくことなく体調を観察できるよう、監視カメラ付きの特別な囲いを用意し、センターのスタッフもとの接触も最小限に抑えた形で、野生復帰プログラムが実施されました。

そして、半年にわたる訓練の中で、ウポニーが自ら狩りを行ない、草食動物を捕食できるようリハビリが行なわれたのです。

捕獲したトラに打つ麻酔を準備するWWFスタッフ

眠らせたトラを計測、診察する

野生への復帰、そして追跡調査

2015年5月、野生のトラとしての生存能力を取り戻したと確認されたウポニーが、自然に帰される日が来ました。

場所は、ハバロフスク地方のアニュイスキー国立公園に隣接する「トラのふるさと(Home of Tiger)」と呼ばれる山の中。

他のトラの個体の生存も確認されている、生息域としても十分なつながりと広さを持つ地域です。

運ばれてきたケージの入口が開けられると、ウポニーはしばらく周囲の様子をうかがった後、勢いよく駆け出して行きました。

世界に最大で540頭といわれる野生のシベリアトラが、また1頭、森で生きる道をひらいた瞬間でした。

しかし、ウポニーのリハビリは今も続いています。

まず、最初の1カ月間、専門家は発信器の情報を基にウポニーの位置を絶えず特定し、現場に継続的に足を運んで、何をどのように食べているかを調査。自然に適応できたかどうかを観察します。

さらに、人と接触した経験を持つトラは、再び人里に現れ、人や家畜を襲う危険性があるため、それを警戒する意味でも、追跡調査を続けねばなりません。

その調査は、ウポニーの首輪に付けられた発信器の電池が切れ、首輪が自動的に外れた後も、生息場所の各地に仕掛けられた自動カメラなどを用いて、その後も一生涯にわたり、行なわれることになります。

森へ帰ったシベリアトラ。檻から放たれた瞬間

ハバロフスク政府の努力と今後への期待

以前、ロシアでは、ウポニーのような人里に現れたトラは、危険と見なされ、その場で射殺されていました。

しかし現在は、多くの保護関係者の努力により、トラを生きたまま捕えて訓練し、野生に返した後の行動調査も継続できるまでに、その活動が徹底され始めています。

そして、今回の「ウポニー」のリハビリ活動の成功には、もう一つ重要な進展が見られました。

それは、ハバロフスク地方の天然資源省が、この取り組みを主導したことです。

「トラを運ぶ特製のケージは、サポーターの支援金で作られました」感謝の言葉を述べるWWFロシアのパベル・フォメンコ

そのため、長年にわたり、こうした活動を主体的に行なってきたWWFをはじめとする民間団体(NGO)は、必要かつ専門的なアドバイスや支援を提供するだけで、素晴らしい成果を導くことができました。

WWFロシアのアムール支部で生物多様性保全プログラムのコーディネーターを務めるパベル・フォメンコは、次のように感慨を述べています。

「私たちが主導しなくても、政府や地域の組織・人々が主体となり、取り組みを実施できるようになったのは、非常に意義深いことです。

シベリアトラをはじめとする希少種の保全という義務を負う政府機関が、その責任を果たすことを、WWFは長年にわたり求めてきました。

「ウポニー」のケースでは、それが実現したのです。全ての関係機関がはらった努力は、称賛に値するものです」

ハバロフスク地方では今後、同様の事態が起きた時にも、従来より適切な保護の判断と取り組みが、期待できるといえるでしょう。

トラのすむ森と日本の木材需要

それでも、人里にトラが現れ続ける限り、問題が根本的に解決することはありません。

トラの救護や野生復帰は、どれほど成功するとも、あくまで対処療法に過ぎないのです。

極東ロシアでは、今も森林の減少や劣化が続いており、それが今回のように、トラが人里に現れる原因の1つとなっています。

そして、その背景にある森の違法伐採や、破壊的な商業伐採は、日本にもかかわりがあります。

こうした伐採によって生産された木材は、中国で家具やフローリング材に加工された後、日本へと輸出されている可能性があるからです。

切り出される木材。森が豊かな極東地域は、良質な木材の産地でもある

こうした木材の需要を減らさなければ、トラをはじめとする野生動物と、その生息地を守ることは出来ません。

そのための最も簡単で効果的な方法は、日本の消費者が「持続可能な方法で生産された木材」であることを証明する「FSC認証」が付いた木材製品を選ぶことです。

WWFはこれからも、極東ロシアでシベリアトラと森林の保全に取り組むとともに、日本では企業や消費者に対して、持続可能な方法で生産された木材の利用を働きかけていきます。

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