脅かされる爬虫類の今 上野動物園とセミナーを開催


生息地の開発や、ペットにするための捕獲、密輸により、絶滅の危機に瀕しているカメやトカゲなどの爬虫類。これらの動物は、密輸される途中で保護されても、多くは生息地に帰ることができません。なぜでしょうか? こうした日本のペットショップで販売される爬虫類の取引の現状と問題について、WWFジャパンとトラフィックは、2017年9月、東京の上野動物園と共同でセミナー「ペット取引される爬虫類」を開催。ペット取引される爬虫類に関する参加者の疑問に答えました。

ペットとして取引される爬虫類

2017年9月9日、恩賜上野動物園の管理棟会議室で「上野動物園×WWF・トラフィックセミナー ペット取引される爬虫類」が開催されました。

WWFとトラフィック、そして上野動物園が共催したこのセミナーでは、園で飼育されている爬虫類の紹介をはじめ、野生種の絶滅の危機、そしてペットにすることを目的とした違法な取引の現状や保護の取り組みを紹介。

集まった小学生から70代の方まで49名の参加者が、熱心に話に耳を傾けていました。

セミナーで最初に登壇したのは上野動物園の坂田修一飼育係長です。

坂田飼育係長が管轄している、上野動物園の爬虫類や両生類の中には、実はそもそも飼育を予定していなかった個体が含まれています。

たとえば、爬虫類両生類館で飼育されているホウシャガメやマレーガビアル、シナワニトカゲなど。

これらは、生息国で密猟され、国外に密輸される途中、空港や港などで発見されて保護されたり、日本への持ち込みが違法だと知らずに海外で購入した旅行者が「任意放棄」した動物たちです。

ホウシャガメ。原産国はマダガスカル

通常であれば、生息地に送り返すのが普通ですが、実はなかなかそうも行きません。

密猟され、時には複数の国をめぐって違法に取引された爬虫類が、どこで、どのように生息していたのかを、正確に把握することは非常に困難だからです。

こうした情報のないまま、適当に野外に放しても、生き延びられるかどうかの保証はなく、さらに万一、誤ってもとの生息地以外の場所に放してしまうと、別の個体群と交雑し、遺伝子汚染を引き起こしてしまう危険もあります。

また、一度捕獲され、飼育・運搬されている間に、感染症などの病気になっているケースもあり、こうした個体を野外に放すと、生息地の個体群に新たな病気を広げてしまう恐れもあるのです。

マレーガビアル(ガビアルモドキ)東南アジアに生息する

人間の側が抱える問題もあります。

保護した動物を生息国に戻すには、受け入れる生息国の意向を確認する必要がある上、さまざまな手続きも必要になります。

さらに、適切な飼育環境が確保して、移送するための費用をどこが出すのか、という問題もあります。

その結果、密輸の途中で保護されたほとんどの野生生物は、押収された国の保護センターや動物園に収容され、余生を過ごすことになるのです。

坂田飼育係長は動物園で収容しているこうした爬虫類の個体のお話や、動物園が取り組む生息域外保全や普及教育の事例も紹介しました。

スッポンモドキ(Carettochelys insculpta)インドネシア、パプアニューギニア及びオーストラリア北部に生息する。危急種(VU)でワシントン条約附属書Ⅱにも掲載されている。

日本産爬虫類の危機

こうした爬虫類の違法な取引は、海外と日本の間だけで行なわれているわけではありません。

国内で捕獲された希少な爬虫類が、ペットにすること目的に取引されている例も数多く知られています。

動物の系統分類学者で南西諸島の爬虫類に詳しい兵庫県立大学の太田英利教授からは、実際に日本で起きているそうした問題についてお話がありました。

太田教授は、まず環境省のレッドリスト(絶滅の恐れのある野生生物のリスト)に掲載されている日本産爬虫類の変遷と、調査から明らかになったその危機について指摘。

1991年版のレッドリストには、日本産爬虫類の3.4%が絶滅危機種として掲載されていましたが、2014年には37.5%へ大きく増加したことを説明しました。その要因としては、以下の3つがあげられます。

  1. 絶滅危機の判定基準が明確になり、それまで過小評価されていた爬虫類の深刻な状況が、より適切に把握できるようになったこと
  2. 分類についての研究が進み、分布範囲や個体数の限られた種や亜種が、より適切に把握できるようになったこと
  3. 爬虫類を取り巻く生息状況の深刻な悪化

特に、生息状況の悪化の原因として太田教授が指摘したのは、開発による生息地の減少・劣化、ペット目的の大量捕獲、そして外来種や外来個体群(同じ種だが、別の地域や島に生息していた別の個体群)の侵入です。

与論島の古いゴミ捨て場から発見された爬虫類の骨を調べてみると、現在は与論島に生息していないオキナワヤモリや、周辺の島に生息するのとは異なるトカゲモドキ(クロイワトカゲモドキの固有亜種ヨロントカゲモドキ)がいたことがわかったといいます。

これらの種は、人間による生息環境の変化や、人間が島外から持ち込んだ外来種の影響で絶滅してしまったと考えられています。

日本で販売されている爬虫類は600種!そのうち18%が絶滅の危機に

爬虫類を危機に追いやる、現代のもう一つの大きな要因、ペットとしての販売などを目的とした、密猟や違法な取引も深刻な状況です。

日本はその取引が盛んな国の一つ。海外の野生の爬虫類にも、影響を及ぼしていることが懸念されます。

WWFとIUCN(国際自然保護連合)の共同プログラムで、世界の野生生物取引を監視する国際組織「トラフィック」の東南アジアオフィスのスタッフ、セレーン・チャンがお話したのは、この「日本の爬虫類ペット市場」についてでした。

2007年、トラフィックが日本国内のペットショップ40店舗を対象に行なった市場調査で、販売を確認した爬虫類は、400種(亜種を含む)、約500頭。

押収されたインドホシガメ(Geochelone elegans) 南アジアに生息するリクガメでペットとして人気が高い。危急種(VU)でワシントン条約附属書Ⅱ掲載種でもある。(C)TRAFFIC

それが、2017年の調査では、15店舗と展示即売会1カ所の合計だけで、600種5400頭を超える世界の爬虫類が販売されていることが確認され、ペットとしての爬虫類の需要が、さらに高まり、市場が拡大している可能性が明らかになりました。

しかも、この600種うち18%はIUCNのレッドリストの絶滅危機種であり、40%は「ワシントン条約」で国際取引が規制されていることも判明。

さらに、原産国からの輸出が禁止されている種や、世界的に行なわれ問題になっているロンダリング(野生で捕獲した個体を「飼育繁殖させた個体」と偽って行なう取引)の実例が指摘されている種の販売も確認されました。

チャンは、この日本の状況について、東南アジアで実施した他の市場調査の結果と比べても、取引されている種の多さと絶滅危機種の割合が、非常に高いことを指摘。

飼育を希望する場合は、その爬虫類がどこから来たのか、合法的に輸入されたことが証明できるのかを、必ず確認するよう参加者に呼びかけました。

その動物は合法?寄せられた質問から

セミナーでは最後に、参加者から多くの質問が寄せられ、講演者が丁寧に回答しました。質疑の一部を紹介します。

Q. 雑種は新しい種になるの?

A. ならない。野生動物の交雑は大きな問題。たとえばオオサンショウウオは、京都の賀茂川水系など場所によっては、交雑個体しかいない状況になりつつある。人為的影響で野外に生じた交雑個体は、排除することが求められる。野生生物の保全とは相容れないという認識を広めることが必要。

Q. 海外から入国するときに荷物はX線でスキャンされている。どうやって密輸するの?

A. X線透視では骨格しか見えないので、慣れた税関職員でなければ見つけにくい。

Q. ペットショップで売られているものが合法的なものかどうやって判断するの?

A.外国産の爬虫類ならペットショップに輸入許可証を見せるよう求めてみるのが一手。渋るようなショップからは購入すべきではない。シナワニトカゲなどの国際希少野生動植物種なら、登録票が掲示されていなければ法律違反。また、登録票があっても使いまわしの事例もあるため、登録された個体であることを写真でも確認する方がよい。

Q.小笠原のグリーンアノールのように外来種として捕獲された爬虫類の個体はその後どうなる?保護されているのか?

A. 一概には決まっていない。そうした動物を飼育してあげたいと思う人がどのくらいいるかにもよる。爬虫類を保護して飼育したいという人は多くない。ある水族館がミシシッピアカミミガメと交換で入園料を無料にするという活動を行ない注目されたが、引き取ったカメの飼育経費の負担が大きいという課題がある。

Q. 輸入の時に野生個体を繁殖個体を偽る事例があるということだが、見分けられないの?

A. 外観での区別は難しい。ただ、飼育下で繁殖させた爬虫類の個体だと、サイズが揃っていて、健康状態が良いなど、いくつかの特徴がある。人にどれくらい慣れているかも、野生の個体とは程度が異なる。この他にも、身体のどこかに印を付けたり(マーキング)、生まれた卵の殻を同梱したり、身体にマイクロチップを埋め込むことで、どこでどう生まれ育った個体かを確認する方法がある。また、コーンスネークのように、品種改良され色のバリエーション等がたくさんのヘビなどもいるが、こうしたバリエーションは野生ではありえないので、飼育個体だと分かる。

Q. 動物園での保護個体の活用法として教育があげられていたが、爬虫類ならではの教育効果は?

A. 動物群ごとの特徴がある。爬虫類の場合、変温であるという特徴がある。それを身近に見て、感じてもらいながら、色々なことが共通しているということを伝えることが多い。

この一連の質疑の中では、参加者の皆さんの関心の高さはもちろん、それぞれの生きものに対する思い入れなどもうかがわれました。

WWFとトラフィックは、ペット取引が爬虫類をはじめとする野生生物に脅威を及ぼすことが無いように、日本の政策や法律の施行を改善するよう、政府や関係者に働きかけを続てゆきます。

イベント概要

イベント名 上野動物園×WWF・トラフィックセミナー ペット取引される爬虫類
開催日時 2017年9月9日(土)13:30~16:30
会場 恩賜上野動物公園 管理事務所
参加者数 49名
主催 WWFジャパン、トラフィック、上野動物園

 

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