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南米チリ「命の海」を守る!プロジェクト中間報告

シロナガスクジラやマゼランペンギンをはじめ多様な生きものが息づく貴重な海洋環境が広がる南米チリ。しかし近年、サケ(サーモン)養殖の急激な拡大により自然環境への影響が危惧されています。チリ産サケの一大輸入・消費地である日本の食卓とも密接につながるこの問題。WWFは、生きものの生態調査や海洋保護区の拡大、自然環境や地域社会に配慮した持続可能なサケ養殖への転換を通じて、生命あふれるチリ南部の「命の海」の保全を目指しています。2014年より日本からも支援を継続している現地の取り組みの様子をご報告します。

「命の海」、そこに迫る脅威

南米大陸のパタゴニア地域に含まれ、きわめて豊かな生物多様性を育むチリ南部の海。
「命の海」ともいわれるこの海域には、世界最大の動物であるシロナガスクジラや、チリの固有種チリイルカ(ハラジロイルカ)、オタリアやミナミウミカワウソといった海棲哺乳類をはじめ、チリ南部の象徴的な種であるマゼランペンギンやフンボルトペンギンなどの海鳥、さらには冷水性サンゴといった特異な種が生息しています。

こうした生きものを支えているのは、フィヨルドに代表される景観と、その地形や気候が生み出す良好な水質や、プランクトンが豊富に発生する海の条件です。

チリ南部の海

そのため、この海域は長い間、地域の人たちにとっても「恵みの海」となってきました。

しかし、1970年代以降になると、チリの海では急激にサケの養殖拡大。

近年チリはノルウェーに次いで世界第2位の養殖サケ生産国となりました。

その結果、周辺の自然環境や社会、野生生物への影響が生じるにようになりました。

例えば、養殖場でのエサの食べ残しや養殖サケの排泄物による海洋の水質汚染。また、サケの病気の治療に使われる大量の抗生物質による人間や周辺生態系への影響などです。

WWFでは、こうした問題の影響を調べるため、海の生態系の中でも重要な位置づけにあるであるシロナガスクジラなどの鯨類、またマゼランペンギンやフンボルトペンギンといった海鳥について生態調査を実施。

採餌場や繁殖地などの守るべき重要な場所をより具体的に把握し、同時に、そうした生きものの生息に重要な場所にサケ養殖場が集中していることを明らかにしました。

現在WWFは、この「命の海」を守るため、下記の取り組みを継続的に行なっています。

1. 継続した鯨類や海鳥の生態調査
2. 海洋保護区の拡大
3. 自然環境や地域社会に配慮した持続可能なサケ養殖への転換

シロナガスクジラ

チリイルカ

マゼランペンギン

海を守るための地域、企業、政府による協力

2008年より始まったこの一連の取り組みの結果、チリ南部のチロエ島とチリ本土とを隔てる湾の一つコルコバド湾で、2014年2月、新たに3か所の海洋保護区の設立が宣言されました。

ここは、WWFが行なった鯨類や海鳥の生態調査によって特定された、保全価値の高い場所と評価された海域の中でも、特に重要性が高いエリアです。

しかし保護区設置の過程で、新たな課題も浮上してきました。

設立された海洋保護区での適切な管理計画の策定と適切な実施体制です。

海洋保護区の種類には、保護区内での漁業や養殖業といった人間の活動を規制するものがある一方、これら地域の経済活動と自然環境の保全の両立を図る保護区もあります。

こうした「利用しながら守る」保護区が必要とされる理由は、その地域の暮らしや状況を無視して禁止や規制を行なっても、結局人々の理解や協力が得られず、違法な開発や密漁が絶えない結果になるおそれがあるためです。

コルコバド湾に設立が宣言された保護区も、この野生生物などの保護と人間による環境や資源の利用の両立を目指す保護区として、環境に配慮した「持続可能な漁業」などを実現することが求められました。

とりわけ、サケ養殖が集中するチリ南部の沿岸は、もともとその場所に住む地域の住民や先住民と、サケ養殖を行なうためにやってきた企業との間で、土地の利用や所有に関するトラブルが問題となってきた場所。

そのような場所で保護区を適切に管理していくためには、企業と漁業者、周辺の人々、さらに保護区の管理する政府などの多様な関係者が協働し、それぞれが合意できる共同管理計画を策定することが不可欠です。

こうした背景から、WWFは2015年9月、コルコバド湾の海洋保護区の一つ「ピティパレーナ・アニーウェ(Pitipalena-Añihué)海洋保護区」で、地域住民と企業、政府の協働のもと、この管理計画の策定支援に取り組みはじめました。

計画が目指すのは、地域の人たちの暮らしを向上させながら、同時に自然環境や野生生物に配慮した、「持続可能なサケ養殖」への転換を実現することです。

この取り組みの中では、地域住民に対する環境教育を通じて、地域住民の管理計画策定への積極的な参加を促すとともに、計画が策定された後も、この人々が主体となって管理を実施していけるよう、リーダーシップや自然資源の管理に関するトレーニングも行なっています。

ミナミウミカワウソ

チリイルカの調査

「ピティパレーナ・アニーウェ(Pitipalena-Añihué)海洋保護区」周辺地図

「持続可能な養殖サケ」の証、ASC認証の広がり

この他にも、ピティパレーナ・アニーウェ海洋保護区のエリアを含むチリ沿岸の各地で、WWFはサケ養殖を行なう企業に対し、「ASC(Aquaculture Stewardship Council:水産養殖管理協議会)」認証の取得を働きかけと、取得に向けた養殖改善のサポートを行なっています。

これは、自然環境や地域社会に配慮した養殖業の国際的な認証制度で、ASC認証が広がれば、養殖による自然環境への影響を低減させることが可能になります。

この取り組みの結果、2014年にチリで初めてサケのASC認証を取得した養殖場が誕生。

以降、2016年12月までに、チリでのサケ養殖生産量の約13%にあたる、43の養殖場がASC認証を取得するに至りました。このASC認証取得の拡大と新たな認証の取得に向けた養殖改善の取り組みは、今後も継続していく予定です。

また、チリのサケの大部分は、日本をはじめとした海外への輸出向けに生産されていることから、チリ産のサケを扱う日本企業に対しても、ASC認証製品の調達や、チリでのASC認証取得に向けた改善の実施やサポートに積極的に取り組むよう働きかけを続けています。

日本の消費者のASC認証に対する認知度は、まだまだ低く、日本からのASC認証製品の需要が中々伸びていないのが現状です。

そのため、日本国内においても、チリの命の海の保全がより促進されるよう、消費者を対象にASC認証を紹介し、その普及・拡大に取り組んで行きます。

保護区の管理計画策定に向けたワークショップ

保護区管理について考える子どもたち

持続可能な養殖業の証であるASC認証のマーク

「命の海」を未来へ!生きものと人との共生を目指して

日本とチリのWWF事務局が協力しながら行なってきた過去3年間の取り組みにより、チリ南部の「命の海」では、さまざまな成果が出始めています。

しかし、貴重な自然を脅かす課題はまだ解決できたわけではありません。

WWFは今後も、豊かな生物多様性を守る上での基礎となる重要な活動として、これまでも行なってきた、海生哺乳類や海鳥の生態調査やモニタリングを継続し、その調査結果を基に海洋保護区の拡大を目指してゆく予定です。

さらにピティパレーナ・アニーウェ海洋保護区でも、サケ養殖業者や政府などの利害関係者と協働のもと、地域住民が主体となった保護区の管理計画の策定と実施を支援してゆきます。

ASC認証の取得や養殖の改善については、特に日本が消費地として深くかかわる課題でもあることから、国内での普及活動に力を入れつつ、現地チリの海で自然環境や地域社会に配慮した養殖の転換を後押しできるように、企業や消費者に対して働きかけや発信を行なっていきます。

WWFジャパンを通じてご支援をくださった多くの方の力で、保全の取り組みが今、進みつつある、南米チリの「命の海」。

この自然を守りながら、地域住民や先住民の人々が持続可能な暮らしを実現し、生きものと人とが共生した未来をめざす取り組みは、これからも続きます。
これまでご支援くださった皆さまに、この場をお借りして心よりお礼を申し上げますとともに、引き続き取り組みにご関心をお持ちいただければ幸いです。

サケ養殖場

養殖場のサケ

保護区周辺の集落「ラウル・マリン・バルマセーダ(Raúl Marín Balmaceda)」の人びとと管理計画策定に関わる関係者

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