エズモンド・マーティン氏を悼んで


トラフィックの西野です。
先日、とても痛ましいニュースが飛び込んできました。

40年以上にわたり、象牙と犀角(サイの角)の違法取引撲滅に取り組み続けてきた、エズモンド・マーティン氏が亡くなられたというのです。

報道によると、ケニアの自宅で強盗に殺害されたとのことでした。

エズモンド氏は、今まさに私たちが取り組んでいる、象牙や犀角などをはじめとする野生生物取引の市場調査や、詳細な分析を通じて、保全につなげる手法を確立した人物の一人です。

危険を顧みず、闇取引の実情を暴くべく、バイヤーを装って調査を行なう手法などを取り入れたのもこのエズモンド氏でした。

WWFとIUCNの共同プログラムとして設立されたトラフィックは、古くからエズモンド氏と親交がありました。第17回ワシントン条約締約国会議(2016年、南アフリカ)にて、左から:Dan Stiles氏, Tom Milliken(TRAFFIC), Esmond Bradley Martin氏

また、過剰な取引や違法取引から野生生物を守る「ワシントン条約」の締約国会議にも常に参加する、国際的にも調査と保全活動のプロフェッショナルとしても、人々の記憶に残る方であったといいます。

1980年代には、日本で象牙の調査も行なったこともありました。

19世紀末から1980年代に至る、日本の象牙の輸入データまで収録したその報告書は、今も貴重な資料として国内外で引用されています。

1982年、来日したWWFインターンナショナル総裁(当時)のエジンバラ公と握手するエズモンド氏(写真右)

亡くなった当日も、取り組まれていた調査の結果をまとめている最中であったとのこと。

世界中で起きている、野生生物の違法な取引や過剰な利用の問題が解決を見ず、まだまだその知見と豊かな経験が必要とされていた中で、今回のような事件が起きたことは、本当に残念でなりません。

私たちも志を同じくする者として、長年に及んだその功績と、精神を、しっかりと受け継ぎ、違法な野生生物の取引撲滅に向けて、取り組みを続けていきたいと思います。

エズモンド氏が手掛けた日本の象牙の報告書(1985年)

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自然保護室(野生生物 グループ長)、TRAFFIC
西野 亮子

学士(芸術文化)
2009年よりTRAFFICにて広報分野を中心に従事し、イベント運営、出版物作成などワシントン条約に関する普及啓発に努める。2016年からは重点種(特に注力すべき種)プログラム推進に携わり、取引を中心とした現状調査を担当。2018年以降は、関係する行政機関や企業へ働きかけ、取り組み促進を促す活動に従事し、野生生物の違法取引(IWT)の撲滅、持続可能ではない野生生物取引削減を目指す。ワシントン条約第70回常設委員会参加。東京都象牙取引規制に関する有識者会議委員(2022年3月終了)

「野生生物を守る」ことを起点に、そこに暮らす人、その場所の環境、そして利用する側の意識、すべての段階で取り組みが必要です。生息地から市場まで、それらを繋ぐことが私の役割です。

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