『鹿よ おれの兄弟よ』
2014/08/07
おれは 鹿の肉をくう
それは おれの血 おれの肉となる
だから おれは 鹿だ
何とも印象深いこの言葉。
ある絵本の最初のページにあった言葉です。タイトルは『鹿よ おれの兄弟よ』。
先日たまたま友人の家で目にした絵本で、なんでもその家の4歳になる娘さんが図書館で借りてきたとのこと(しぶい!)。
物語は、極東ロシアの森に生まれた先住民の猟師が、ひとり川を遡りながら、これから撃ちに行くシカに対して独白するように語りかける、というもので、シカへの想いや、一族の思い出、人と獣の深い絆、森の命の循環が、詩的な言葉でつづられています。
驚いたのは、ページを繰ると次々に現れる、精緻な筆遣いで描かれた見事な森の絵。
針葉樹と広葉樹の織り交ざった木々。広い水面をうねらせながらゆっくりと流れる川。
シカが、クマが、ヒョウが、代わる代わるその姿を見せる舞台は、まさにロシア沿海地方の豊かな森そのものでした。
これは絵本画家が、ただ想像で描いた代物ではない!と思い、巻末の紹介を見ると、果たしてハバロフスク在住の画家の方であることが判明。
しかも、文章を手掛けたのが、『ふらいぱんじいさん』の絵本作家、神沢利子さんと分かり、二度驚かされました。
物語の終わり、見事な角をもつシカを仕留めた猟師は、肉と皮を自分たち家族に与えてくれたそのシカに向かい、こう言います。
ありがとう おれの友 おれの 兄弟よ
食う、食われるの関係にあっても、相手に対して深い敬意を抱けるならば、人はその生きものと兄弟になれる。共に、生きてゆくことができる。
人が常に、野生の生きものたちに対し、こうした畏敬の念を持つ存在であれたらと、そう思わずにいられなかった、一冊の本との出会いでした。(広報室・三間)
【関連情報】
『鹿よ おれの兄弟よ』(大型本)
神沢利子(著)、G.D.パヴリーシン(絵)
出版: 福音館書店 (2004/1/31)
ISBN-13: 978-4834006322