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大幅なCO2削減となる「鉄リサイクル」の推進[東京製鐵×九州電力 後編]


温暖化対策というと、一般的には電気や自動車などからの排出対策を思い浮かべるかと思います。それらも大きな排出源ではあるのですが、実は産業の中でも大きな排出源が、鉄鋼業なのです。

「鉄は国家なり」といわれた時代がありますが、今も鉄鋼産業は現代文明の中心的な担い手であることには変わりはありません。都市のビルやタワー、自動車や飛行機はもちろんのこと、近代資本主義を産み出した大量生産の工場など、鉄が建築材料となって私たちの現代社会が成り立っています。

一方で、鉄は石炭を使って鉄鉱石を還元して作られるため、実は最も二酸化炭素排出量が多い産業なのです。日本のCO2排出量の約12億トンのうち、鉄鋼業のプロセス由来のCO2排出量はそのうちの約14%(2016年度)も占めます。そのため、脱炭素社会を実現するには、この鉄鋼部門からの排出量をいかに減らせるかも大きなカギとなります。

もちろん、還元する過程で石炭を使わずに水素などを使って二酸化炭素を出さない製造方法も考えられていますが、まだ実用化されるのは数年以上先です。でも今すぐ二酸化炭素の排出を減少させる方法もあるのです。それは、「鉄リサイクル」を進めること!

先進国日本はすでに高層ビルなどが立ち並ぶ、いわゆる「都市鉱山」の宝庫です。この「都市鉱山」からは、毎年取り壊された建築物などから鉄スクラップが大量に発生しています。こういった鉄スクラップを電気の炉で溶かしてリサイクルすると、鉄1トン製造するときのCO2排出量を4分の3も削減することができるのです。

鉄スクラップを溶かす電気の炉
©東京製鐵

鉄スクラップを溶かす電気の炉

実はすでにアメリカでは、リサイクル鋼材の生産比率は70%近くに達しており、欧州では40%程度です。しかし日本の現状は、リサイクル鋼材の生産比率が25%程度と低くなっています。この比率をまずは欧米並みに上げることで、日本の鉄鋼業のCO2排出量を大幅に削減することが可能となるのです。

いずれCO2の排出をゼロにするパリ協定時代は、まさに“循環型社会”が根底です。そのカギの一つである鉄リサイクル率の向上を日本も速やかに図っていきたいものです!鉄リサイクルに取り組んでいる東京製鐵を取材してきましたので、ぜひご覧ください。

東京製鐵九州工場を視察させていただきました!
©WWFジャパン

東京製鐵九州工場を視察させていただきました!

鉄は熱いうちに打て!これが再エネ電力の大量導入に役立つ![東京製鐵×九州電力 前編]

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鉄を作る過程が、再生可能エネルギーの大量導入に役立っています。「ん?鉄と再生可能エネルギーってどんな関係?」と思われるかもしれませんが、パリ協定時代の新しい仕事は、今までにない発想から産まれるものなんです!太陽光や風力などの再生可能エネルギーは、大気を温める二酸化炭素や大気汚染物質を出さない環境にやさしいエネルギーなので、地球温暖化を抑えるパリ協定時代の主役のエネルギーです。石炭やガスなどの化石燃料から再生可能エネルギーへとシフトさせていくことが最も重要な温暖化対策です!しかし問題は、天気に左右されて、発電量が変動すること。特に再生可能エネルギーが大量に導入されるときに課題となるのが、電気の需要を上回る量を太陽光などが発電する時です。電気は需要と供給を一致させないと停電してしまうので、天気の良い時に太陽光が需要を上回って発電すると、せっかくの太陽光発電を抑制しなければなりません。実際に太陽光発電が多く導入されている九州や四国では、それが現実の課題となってきています。

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専門ディレクター(環境・エネルギー)
小西 雅子

博士(公共政策学・法政大)。米ハーバード大修士課程修了。気象予報士。昭和女子大学特命教授、京都大学院特任教授兼務。
中部日本放送アナウンサーなどを経て、2005 年に国際 NGO の WWF ジャパンへ。専門は国連における気候変動国際交渉及び国内外の環境・エネルギー政策。2002 年国際気象フェスティバル「気象キャスターグランプリ」受賞。環境省中央環境審議会委員なども務めている。著書『地球温暖化を解決したい―エネルギーをどう選ぶ?』(岩波書店 2021)など多数。

世界197か国が温暖化対策を実施する!と決意して2015年に国連で合意された「パリ協定」の成立には感動しました!今や温暖化対策の担い手は各国政府だけではなく、企業や自治体・投資家・それに市民です。「変わる世の中」を応援することが好きな小西です♪

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