観光客が増加する奄美大島で環境に配慮した適正な利用ルールを


南西諸島につらなる鹿児島県の奄美大島では、マングースやノネコなど外来生物による在来種への影響や、森林を切り崩して行なわれる土砂の採掘、下水道の未整備による汚染問題など、この島ならではの課題を多く抱えています。特に今後、南西諸島の世界自然遺産への登録が近づく中、観光客の増加によって、森林生態系や夜行性の生物への影響が増えることが懸念されています。WWFジャパンでは2017年12月、奄美大島での観光利用の適正化に向けた要望をまとめ地元行政団体に提案しました。

奄美大島が抱える環境問題と絶滅に瀕する固有種

アマミノクロウサギやアマミヤマシギ、アマミイシカワガエルなど、「奄美」の名前を冠したこの島にしか生息しない固有種が豊富に棲む奄美大島。

この島を含む南西諸島の自然は今、日本で5番目の世界自然遺産登録をめざし、早ければ2018年にも登録される見込みです。

しかし、鹿児島県レッドデータブックによると奄美大島に生息する野生生物のうち、絶滅の恐れのある哺乳類、鳥類、爬虫類は20種を超えており、自然遺産としての価値を守ってゆくためにも、早急にこれら種やその生息地を保全する必要があるといえます。

奄美大島の自然を脅かす主な原因は、マングースやノネコなどの外来生物による影響や、森林の伐採と土砂の採掘、下水道の未整備による汚染問題などに加え、さらに今後、自然遺産への登録の実現によって懸念されることが、島を訪れる観光客の増加です。

奄美大島では2014年にLCCが就航開始しました。その結果、それ以降の観光等の入域客数は大幅な増加傾向が続いてきました。

2013年と比較すると、2016年の入込客数はおよそ43万人で、120%の増加。

さらに現在、海外からの大型客船の就航計画や、それに伴う港湾の整備案も検討されています。

徳之島でのロードキル注意喚起の看板

エコツアーガイド認定研修会合の様子

夜間に路面に出るクロウサギ

観光客の増加という問題にどう取り組むか

島外からの観光利用が増大するにつれ、宿泊や飲食店など地域経済にプラスとなる一方、レンタカーや森林ツアーガイドの車の増加によって、島内の野生生物、特にアマミノクロウサギや奄美トゲネズミなど夜行性の生き物の生息地に影響を与えることが懸念されます。

地元の自然保全団体によると、ロードキルと呼ばれる自動車による野生生物との交通事故件数は増加傾向にあるとのこと。

さらに、島内を縦横に走る整備された林道を自動車が自由に通行できる現状は、夜間活動が活発となる哺乳類のみならず爬虫類などの小型生物を脅かしているほか、野生生物に影響を与えずに観察や撮影ができるようにする共通のルールや指針がないことも、大きな課題になっています。

とりわけ世界自然遺産への登録が実現すれば、今後よりさまざまな地域や国から観光客が島にやって来ることになるでしょう。

こうした課題について、奄美群島で2017年から、一つの取り組みが始まりました。

各島々の市町村が集まり、地域の振興や各種整備に関する協議・実施に取り組む奄美群島広域事務組合が中心となり、奄美群島内の「エコツアーガイドの研修・認定制度」が開始されたのです。

こうした地域が主体になった試みは、継続的に自然環境の保全を行なってゆく上で非常に重要な取り組みです。

奄美大島を南西諸島プロジェクトの重点地域の一つとして、地域の団体と協力しながら保全活動を行なってきたWWFジャパンも、このエコツアー認定のための研修内容をより効果のあるものとするため、2017年12月に奄美広域事務組合に要望を提出しました。

そのポイントは、地元の奄美の自然環境や課題についての情報や研修を一層充実させること、そしてツアーガイド一人一人が保全を担うキーパーソンとなれるように育成してゆくことです。

自然と共存する奄美大島の観光モデルをめざして

エコツアーガイドの方々は、日々森に入り、生き物やその生息場所について、豊富な情報を有しています。

しかし、より踏み込んだ研究機関などによる科学的な調査結果や、環境問題に関するデータについては、把握する機会が十分とは言えない現状もうかがえます。

また野生生物を観察したり、撮影する際に注意が必要なエリアや林道の生態系ごとに、車のスピードや乗り入れる頻度や人数などを、ツアーを手掛ける事業者同士が協力して設定することも課題となっています。

WWFでは今回始まった研修制度をより改善していくことで、自然環境に関する科学的な知識をエコツアーの担い手であるガイドの方々に伝え、希少種の最新の分布状況や、それに被害を与える交通事故、不法投棄などの情報収集に、ガイドの方々に参加してもらうといった取り組みも可能になると考えています。

そして将来的には、エコツアーの参加費の一部が、保全活動の資金に充てられる仕組みができれば、島の自然を活用しながら守る、観光と保全が一つの輪になった先進的なモデルが実現できるでしょう。

南西諸島だけにとどまらず、保全活動に必要なヒト・モノ・資金が観光利用から還元・循環するしくみを実現することは、自然保護活動上の重要な課題です。

今回WWFは提出した要望書の中で、こうしたポイントを指摘すると共に、自治体と地元エコツアーガイドが連携した持続的な観光利用に向けた取り組みを、強く求めました。

求められるさまざまな取り組みの実現に向けて

すでに「エコツアーガイドの研修・認定制度」を利用して認定されたエコツアーのガイドは、奄美群島全体ですでに40名を超えるまでになりました。

ただの観光事業の運営に留まらない環境保全に貢献できるツアーの実現は、これからの南西諸島の自然を守る上で欠かせない要素の一つです。

しかし奄美の自然を脅かす問題は、観光のみならずノネコやマングースなどの外来生物、そして森林の破壊など、他にもいくつも存在します。

こうした諸問題の複合的な影響が、将来にわたる自然への負荷として蓄積され、環境を損なう要因となっているのです。

WWFジャパンでは今後、地元の保全団体と進めている外来生物によるアマミノクロウサギなど希少野生生物への被害問題への対策に取り組むと共に、島内のエコツアー事業者の中で、特に環境保全の意識を強く持つ方々と共に他の地域でのモデルとなるようなエコツアープログラムや運用ルールの構築をめざしていきます。

要望書

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