「四国横断自動車道 吉野川渡河部」 建設にかかわる河川協議および生態系保全について(お願い)


共同要望書 2015年11月30日

国土交通大臣 石井啓一様
国土交通省 四国地方整備局長 石橋良啓様
国土交通省 四国地方整備局 徳島河川国道事務所長 竹島睦様

とくしま自然観察の会
特定非営利活動法人 ラムサール・ネットワーク日本
公益財団法人 日本自然保護協会
公益財団法人 世界自然保護基金ジャパン(WWFジャパン)

吉野川は、四国三郎とも呼ばれる大河川です。その河口は日本一の川幅を誇り、河口から第十堰の14.5kmまで、日本最大級の汽水域を有し、河口に広がる干潟は、渡り鳥の重要な中継地として「東アジア・オーストラリア地域シギ・チドリ類重要生息地ネットワーク」の参加地になっています。吉野川河口の生態系は、河口域から紀伊水道の漁場を支え、多くの生態系サービスを生み出す源です。
阿波しらさぎ大橋建設モニタリングに係る貴省の指導、監視のあり方は、全国のモデルとなっており、なかでも、河川における汽水域の価値を貴省自身が評価したことは、素晴しいことであり、事業主の徳島県もモニタリング調査を正当な仕組みとして位置づけ、最大限努力したことに感謝しています(資料1)。

しかし、その河口に、国内最長級の渡河橋と言われる「四国横断自動車道吉野川渡河部建設事業」(以後、渡河橋事業)が、西日本高速道路株式会社(以後、NEXCO西日本)により進められ、11月中にも準備工事が始まるとされています。

NEXCO西日本による渡河橋事業には、吉野川河口域を河口干潟、沿岸海域を一体としてとらえ、その連続性の重要性こそが大切であるという意識が欠落しています。また、先行事例となる阿波しらさぎ大橋のデータがあるにも関わらず、環境保全の面からの調査や具体的な施策内容は甚だ不十分と言わざるを得ない状況で、かつ橋が架かる周辺の地域のみを影響予測範囲として限定することに終始し、モニタリング調査の範囲を大幅に縮小しています。渡河橋事業の工事が、吉野川河口域の景観はもちろん、生物多様性、生態系維持の観点から、河川と海の連続性を分断し、破壊する工事計画であることに真摯に向き合い、NEXCO西日本にはこれを未然に防止すべく尽力してほしいと考えます。

吉野川河口域は河川管理区域であり、また海域部分も国有財産であり、管理者は国土交通省と聞いています。国民の財産である吉野川河口域についての認識をあらたにして、民間企業の事業が周辺環境全体に与える甚大な影響を正しく理解し、監督官庁として将来にわたって責任ある指導をお願いいたします。
とくに本件は、道路事業と、河川保全と海域保全という複数の課題があるため、水管理・国土保全局と道路局との密な連携と協力による包括的な指導をお願いいたします。道路行政は、道路工事を行う民間業者を監理する役割もあります。道路行政担当部局による、河口干潟への環境配慮や合意形成についてのNEXCO西日本への指導を期待します。

今回私どもが真に訴えたいことは、「人と自然のつながり」に配慮した公共工事の実施が最早常識となり、そのための環境影響予測とその工事への反映がルーティン化している今日、NEXCO西日本が進める渡河橋事業に係る環境対策が、あまりにも杜撰であり、徳島市民をはじめとする地域住民の吉野川に対する思いに十分応えていないということです。

以下に、河川管理者である貴省への要望、ならびに貴省から事業主であるNEXCO西日本に対して指導をお願いしたい事項を申し上げます。

1.モニタリング調査の手法と結果を検討する仕組みを社会的に妥当なものとすること

① 工事期間中及び供用後の相当期間のモニタリング調査を河川協議で明記すること
② 環境保全を審議する検討会について、検討内容と議事録の公表を見直すこと

2.モニタリング調査を、科学的・社会的に妥当な仕組みと方法に基づいて実施すること

③ モニタリング調査におけるデータを、予備調査も含めて毎年定期的に公表すること
④ 近接する「阿波しらさぎ大橋建設事業」と渡河橋建設による複合的な環境影響評価を行うこと
⑤ 複合的な環境影響評価を行うにあたって、「阿波しらさぎ大橋建設事業」の河川協議によって実現したモニタリング調査の結果を活用すること
⑥ 河口干潟のモニタリング調査を継続して実施すること
⑦ シギ・チドリ類の調査方法は、新たな実施項目と併せて、長期的な比較検討ができるよう統一すること
⑧ 調査結果に応じた対応をあらかじめ検討すること。さらに、複合的影響評価の結果をもとに、干潟、河口域、沿岸域の保全、回復、ミティゲーションを検討、実施すること

3.貴重な公共財としての河口域の自然および河川と海域の連続性を、工事によって喪失することのないよう配慮すること

⑨ 生物多様性条約締約国としての役割を果たすこと
⑩ ラムサール条約登録湿地として現在満たしている国際基準を損なわないこと

上記の要望について、NEXCO西日本と協議した結果を、2015年12月15日までに、文書にてご回答くださるようお願いします。

以上

本件についての連絡先

  • とくしま自然観察の会 〒770-0944徳島県徳島市南昭和町3-19-1(担当)世話人 井口利枝子 rieko1104@hotmail.co.jp
  • 特定非営利活動法人 ラムサール・ネットワーク日本 〒110-0016 東京都台東区台東1-12-11青木ビル3階 (担当)共同代表 柏木実 minoru.kash@gmail.com
  • 公益財団法人 日本自然保護協会 (担当)自然保護部 志村智子shimura@nacsj.or.jp
  • 公益財団法人 世界自然保護基金ジャパン (担当)自然保護室 前川聡 maekawa@wwf.or.jp

【理由書】吉野川渡河部事業に係る河川協議およびモニタリングに関する具体的要請と理由

吉野川河口の自然環境の特性は、海域と河川の両方の環境が見事に調和して、本河口にしか見られない特異な生物多様性が維持されていることであり、これは地域固有の資産であり貴重な財産です。また、生態学的な価値のみならず、徳島の人々にとっては「心のふるさと」とも言える景観そのものであり、橋梁建設により失われることは文化的かつ社会的な損失です。その保全は、何ものにも優先して検討・考慮されるべきと考えます。

私たち環境保全にかかわる団体は、NEXCO西日本に対し、渡河橋事業による環境悪化を懸念し、影響評価や保全に関する要望を再三行ってきましたが、十分に納得のいく説明を頂いておらず、懸念も払拭できていません。そこで河川管理者として、NEXCO西日本に対し、河川協議等で以下の点をご指導くださいますよう求めます。またNEXCO西日本だけで対応が困難な場合、適切なサポートまたは対応をお願いいたします。

① 工事期間中及び供用後の相当期間のモニタリング調査を河川協議で明記すること

(理由)

  • 1.7km上流に建設された徳島県による「阿波しらさぎ大橋建設事業」では、環境アセスメント対象外の事業にもかかわらず、河川協議において、モニタリング調査の義務づけと調査結果の専門家による評価という条件がつけられました。今回の渡河橋事業でも、同様の対応が必要と考えます。

② 環境保全を審議する検討会について、検討内容と議事録の公表を見直すこと

(理由)

  • NEXCO西日本は、事業着工に先立ち専門家の指導の下、環境モニタリングを行っていますが、事業の影響評価は一切行っておりません。
  • 検討会の実態はNEXCO西日本の説明会です。委員の意見を聞くといいながら、会議はNEXCO西日本の結論ありきであり、『今後も委員からのご指導、ご助言をいただきながら進めていきたい』という回答を繰り返すのみです。
  • 予防原則に関しては委員会では議論されておらず、影響があった場合の措置に関しては「事前に極力低減する努力はする」と述べるのみで、委員からも具体的なコメントは一切ありません。
  • 議事録は、概要結果だけの公表であり、委員の意見や検討内容が一切わかりません。「阿波しらさぎ大橋建設事業」の委員会と同様に、議論の内容や経過がわかるようにすべての発言記録の公表をお願いします。

③ モニタリング調査におけるデータを、予備調査も含めて毎年定期的に公表すること

(理由)

  • 鳥類の調査では、重要な春の渡りについて予備調査データが公表されていません。一方、底生動物のハビタット区分化(平成27年10月27日検討会資料)検討では、予備調査結果を使用して公表しており、データ公表が統一されておらず恣意的です。
    今後の河口域、沿岸域の保全、回復を図るため、関心のある市民、研究者に生データが広く公表されることを希望します。

④ 近接する「阿波しらさぎ大橋建設事業」と渡河橋建設による複合的な環境影響評価を行うこと

(理由)

  • 本事業は、「阿波しらさぎ大橋建設事業」の1.7km下流に平行して建設する計画です。工事時期は異なりますが、存在や供用による渡り鳥や干潟の生物に対する影響が複合することが予想されます。単一の構造物だけでは軽微であった影響が、複数になることで累積的に現れることが危惧されます。
  • 今回の事業は、「阿波しらさぎ大橋」建設に伴いシギ・チドリ類が生息域を移動させた場所である吉野川河口域を塞ぐ形に計画されています。
    徳島県の「阿波しらさぎ大橋環境アドバイザー会議」議事録によると「独立行政法人港湾空港技術研究所沿岸環境研究チームリーダーであります桑江先生に意見を聞いてきました」として、県職員が「橋梁の存在がバリア効果となって、将来的に見て飛来する渡り鳥が減少する可能性も考えられるんやけども、世界的に減少傾向を示している種であるために、たとえこれが減ったとしても、事業の影響として言い切ることはできないんじゃないかという御意見をいただいております」(*1)とありましたが、その2年後に、鎌田磨人(徳島大学大学院教授)委員長から「エリア1と4の行動選択、場所選択に関しては(中略)、まだ検証し切れてないところもあるので引き続き見守っていかないといけないということが今日の会議の中でも出てますし(中略)、NEXCOさんのほうのデータも見守りながら検討し続ける素材はあります」(*2)との意見がありました。阿波しらさぎ大橋建設によるシギ・チドリ類の移動阻害の可能性は、科学的に否定されていないままになっています。

*1「阿波しらさぎ大橋環境アドバイザー会議」平成24年度第1回議事録(平成24年10月25日)
http://www.pref.tokushima.jp/docs/2012103100172/files/h24dai1kaigijiroku.pdf

*2「阿波しらさぎ大橋環境アドバイザー会議」平成26年度第1回議事録(平成26年12月3日)
http://www.pref.tokushima.jp/docs/2012103100172/files/h26dai1kaigijiroku.pdf

⑤ 複合的な環境影響評価を行うにあたって、「阿波しらさぎ大橋建設事業」の河川協議によって実現したモニタリング調査の結果を活用すること

(理由)

  • 「阿波しらさぎ大橋モニタリング調査平成24年度報告書」では、シギ・チドリ類の出現個体数や利用率の経年変化(平成17年~平成24年)が明らかになりました。河口から橋の川上の干潟をエリア1~4に分けて調査した結果、橋の建設により、生息地が最河口であるエリア1に移動したことが示されています(資料2)。
  • NEXCO西日本は、「阿波しらさぎ大橋建設事業」での議論の経緯を踏まえず、複合的影響を評価することが困難な、上流と下流の2エリアに分けた調査を行うとしていますが、複合的影響を見るために、「阿波しらさぎ大橋建設事業」モニタリング調査と統一的な調査手法を選択し、データを公表することを希望します。

⑥ 河口干潟のモニタリング調査を継続して実施すること

  • 現在のモニタリング計画は、河口干潟の潮間帯における底生生物のモニタリング調査は実施しないとしていますが、阿波しらさぎ大橋の調査を活かすべきです。

⑦ シギ・チドリ類の調査方法は、新たな実施項目と併せて、長期的な比較検討ができるよう統一すること

⑧ 調査結果に応じた対応をあらかじめ検討すること。さらに、複合的影響評価の結果をもとに、干潟、河口域、沿岸域の保全、回復、ミティゲーションを検討、実施すること

(理由)

  • 結果に関わらず同じ対応を取るのであれば、調査を実施する意味がありません。

⑨ 生物多様性条約締約国としての役割を果たすこと

(理由)

  • 2010年に日本が議長国となって愛知で開催した生物多様性条約締約国会議では、生物多様性の損失を止めるために愛知目標を設定しました。「生物多様性の損失の根本原因に対処する」「生物多様性への直接的な圧力を減少させ、持続可能な利用を促進する」などの戦略目標をチェック・リストとして活用し、NEXCO西日本の事業がそれに合致したものとなるよう、河川管理者として河川協議を行うべきです。
  • 同事業による影響を予測、評価、記録し、公表することは、世界で今後行われる同様の開発影響の回避、軽減にも大きく寄与します。

⑩ ラムサール条約登録湿地として現在満たしている国際基準を損なわないこと

(理由)

  • 吉野川河口は、国内においては環境省の「日本の重要湿地500」および「ラムサール条約湿地潜在候補地」であり、国際的には「東アジア・オーストラリア地域フライウェイ・パートナーシップ(渡り性水鳥保全連携協力事業)」のシギ・チドリ類重要生息地ネットワークの参加地となっています。吉野川河口の保全の責務は、徳島および日本国内にとどまりません。
  • 2015年11月19日に国際自然保護連合(IUCN)が発表したレッドリスト改訂版で、ホウロクシギが絶滅危惧II類(Vulnerable(VU))から、絶滅危惧IB類(Endangered(EN))に変わり、より危機的な状況にあることが示されました。ホウロクシギにとって、吉野川河口干潟は春の渡りの経由地のひとつです(資料2)。一時的な利用であるため、環境改変の影響を軽視しがちですが、水鳥のフライウェイとしては通過地点の保全は重要であり、渡河橋によるホウロクシギへの影響を回避することはもちろん、より積極的な保全が必要な状況であることを事業者が認識することが必要と考えます。
  • 国際的重要湿地に係る、開発による影響について記録を文書として残し、公表することは、ラムサール条約および生物多様性条約に批准し、世界の生物多様性保全に大きく寄与しようとする日本の責務です。

以上、河川管理者として、河川協議等における厳正かつ賢明な対応を求めます。


【資料1】阿波しらさぎ大橋のモニタリングの成果

阿波しらさぎ大橋建設事業における貴省と徳島県との河川協議においては、アセス対象外の事業としては類をみないモニタリング調査が義務づけられ、さらに「この許可に係る工事の事後調査(工事中及び供用後)については、毎年、調査計画を事務所長と協議するとともに、調査結果を学識経験者の評価を添えて報告すること」という条件がつけられました。徳島県は工事中および供用後2年の約11年にわたりモニタリング調査を行い、その成果を公表しています。

また、専門家による評価やパブリックコメント実施の仕組みが整備されました。これらの仕組みは、河口域におけるモニタリングのモデルになっていると聞き及んでいます。
以下は、本事業のモニタリングの成果と考えます。

1.河川における汽水域の価値を国土交通省が評価し、きちんと位置づけたこと

2.事業主の徳島県と協働して、社会的に適切なモニタリング体制が実行されたこと

3.膨大な費用と時間を投資したモニタリング調査結果は、吉野川河口の生物多様性の観点からその価値を科学的に証明したこと

  • 標本は徳島県立博物館に保管され、確実に国民、県民の財産となったこと
  • ラムサ-ル条約の国際基準について、科学的データとして証明できたこと
  • これらのデータは、将来吉野川の保全や維持管理を検討するうえで基礎となると位置づけされていること

4.工事やモニタリングの全行程について、透明性を確保でき、公表に努めたこと

  • 会議の公開だけでなく、議論を議事録として作成し、議論の中身や経過をすべて公表したこと
  • モニタリング調査結果について、すべてのデータを毎年報告書として公表し、パブリックコメントを毎年実施し、市民意見へ真摯な対応をしたこと

【資料2】阿波しらさぎ大橋建設に伴うシギ・チドリ類の生息場所選択への影響評価に関する考察

とくしま自然観察の会(世話人 井口利枝子)

【要旨】

四国横断自動車道吉野川渡河部建設予定地点約1.7km上流部で建設された阿波しらさぎ大橋建設にかかる環境モニタリング調査報告の結果を用い、橋建設に伴うシギ・チドリ類への影響調査を再評価した。架橋建設期間を前期と後期に分け、干潟に飛来するシギ・チドリ類の個体数を比較したところ、橋の上流域の干潟の飛来数のみが有意に減少していた。また橋建設箇所の移動個体数を比較したところ、前期と後期とで橋(および建設予定ルート)を通過する個体数が有意に減少していた。このことから、架橋工事の期間中に、橋の上流域で採餌環境が悪化したか、移動を阻害する要因が生じたと考えられる。同調査報告では底生生物相に顕著な変化は無かったことから、橋の建設によりシギ・チドリ類の移動が阻害されたことが要因であると示唆された。橋のような人工構造物はシギ・チドリ類の行動圏に影響を与えることから、近接して橋を建設することは、吉野川河口の渡来数を減少させる可能性があり、四国横断自動車道単独の影響評価に留まらず、周囲の人工構造物との関連性、複合的な影響評価を行うべきである。

【はじめに】

現在、西日本高速道路株式会社(NEXCO西日本)により、四国横断自動車道徳島東IC~徳島JCTの建設が進められており、吉野川渡河部建設による吉野川河口の生物多様性への影響が懸念されている。これに対し、NPO法人ラムサールネットワーク日本、(公財)世界自然保護基金ジャパン、(公財)日本自然保護協会、(公財)日本野鳥の会4団体は、2014年2月に意見書を提出し、「四国横断自動車道吉野川渡河部建設の影響評価ならびに保全対策を、既存のしらさぎ大橋やマリンピア沖洲埋立地などの周辺の大規模人工構造物と関連づけて行うこと。」と提言しているが、2014年10月現在では、NEXCO西日本から複数の人工構造物による複合的影響評価を実施する方針は示されていない。

吉野川渡河部の建設予定箇所から上流約1.7kmの阿波しらさぎ大橋の建設にあたっては、徳島県により阿波しらさぎ大橋環境モニタリング調査(以下、モニタリング調査という)が平成15年から24年にかけて実施され、鳥類特にシギ・チドリ類についても詳細な調査が実施されている。モニタリング調査では、阿波しらさぎ大橋の周辺に干出する干潟を4分割(図1)し、それぞれで観察された個体数の計測を行っている。また架橋建設部を通過する個体の飛行高度を4段階(0~10m、10~15m、15~20m、20m以上)で計測している。平成24年度のモニタリング調査報告書では、シギ・チドリ類のエリア別出現状況を考察している(同報告書 3-4-36)。それによると、エリア②の利用率が他と比較し高いとし、その条件を考察しているが、その経年変化には触れられていない。つづくシギ科・チドリ科の飛翔高度経年変化では「阿波しらさぎ大橋の架橋工事により飛翔高度に変化が現れた可能性が考えられる」(同報告書 3-4-38)としているが、通過個体数についての考察はなされていない。

四国横断自動車道吉野川渡河部建設による自然環境への影響評価を行う際、しらさぎ大橋建設による影響評価は非常に重要な知見であり、今後の複合的な影響を評価する上での参考ともなる。そこで、モニタリング調査報告書では検討されていない、シギ・チドリ類の①エリア別の出現頻度、および②通過個体数の経年変化について、同報告書に記載されたデータをもとに再考察を行う。

図1 モニタリング調査におけるシギ・チドリ類の調査範囲および架橋工事の実施年度

【方法】

1)エリア別出現状況の経年変化の影響再評価

平成24年のモニタリング調査報告書 表4-3-1-6のデータ(表1)を用い、架橋工事がはじまった平成17~20年を前期、平成21~24年を後期として、個体数の2期の変化をエリア別にMann-WhitneyのU検定(Stat View ver.5/SAS Institute Inc.を使用)で分析を行う。個体数は「調査回数×干潮時前後2時間(計5回カウント)の合計値」で、調査回数は年度によって異なる(平成20年度は春1回+秋2回=計3回、他の年度は春2回+秋2回=計4回)ため、調査回数で除算し、調査1回あたりの平均値を検定対象の元データとした。

表1 シギ・チドリ類のエリア別出現個体数、1調査回ごとの平均個体数及び利用率

(「阿波しらさぎ大橋モニタリング調査 平成24年度報告書」表4-3-1-6を参照利用率(%)=エリア別個体数÷合計個体数)

2)飛翔高度の経年変化の影響再評価

平成24年度のモニタリング調査報告書 表4-3-2-1のデータ(表2)を用い、架橋工事期間を前期と後期に分け、各飛行高度それぞれの値を調査回数(平成18年は5回、平成20年は3回、他は4回)で除算し、調査1回あたりの平均個体数を算出し、Mann-WhitneyのU検定を行った。

表2 架橋工事の前後における飛行高度別移動個体数

(「阿波しらさぎ大橋モニタリング調査 平成24年度報告書」表4-3-2-1を参照)

【結果】

1)エリア別出現状況の経年変化の影響再評価

エリア1~4および全域における前期および後期の中央値を図2に示す。Mann-WhitneyのU検定による結果は、エリア1、エリア2、エリア3、全体はいずれも有意差無し、エリア4はp<0.05(n=8)で有意となった。

図2 架橋工事前後におけるシギ・チドリ類の記録数

2)飛翔高度の経年変化の影響再評価

各高度および合計の前期および後期の中央値を図3に示す。Mann-WhitenyのU検定による結果は、0~10mおよび合計でp<0.05(n=8)で通過数に有意差が、その他の高度では有意差無しとなった。

図3 架橋工事前後における飛行高度別通過個体数

【考察】

架橋工事前期と後期とでは、阿波しらさぎ大橋上流のエリア④を利用するシギ・チドリ類の個体数は有意な減少が確認された。シギ・チドリ類の渡来数は全国的に減少傾向にあるため、広域的な個体数の減少を反映しているとも考えられるが、その場合、他の①~③のエリア、あるいは4エリア全体の渡来数でも同様の傾向がみられるはずであるが、そのような結果は得られなかった。これは吉野川河口における局所的な環境変化が影響したためと考えられる。

同様に、阿波しらさぎ大橋(およびその建設予定ルート)上を通過するシギ・チドリ類は、0~10mの高度を利用する個体の有意な減少が確認された。エリア4における観察個体数が減少していることから、橋の下流域から上流域へ移動する個体が減少したものと推測される。

上流域への移動個体が減少したのは、上流域の餌生物環境が悪化したか、人為的かく乱が増大し採餌場所としての利用可能度が低下したか、あるいは下流域から上流域への移動を阻害する要因が生じたためと考えられる。しかしながら、平成23年度のモニタリング調査報告書では、底生生物には「平成15年度以降、及び下部工が完了した平成19年度以降、問題となるような変化が確認されていない(後略)」(4-1-3)としており、餌生物環境すなわち生物多様性が低下したためとは考えにくい。他、レジャー利用などの人為的かく乱も考えられるが、橋の上流部で前期と後期とで利用が増加したことを示すデータはない。移動を阻害した要因としてもっとも可能性が高いのが、阿波しらさぎ大橋の建設である。吉野川河口干潟は右岸側で発達しているため、シギ・チドリ類は主に川の右岸側を主に通過する(井口 観察による、和田 私信)。そのため、架橋工事が河川中央から右岸側(図1 エリア:イ~ロ)で実施された後期に移動個体が減少したと推測される。

また表1よりエリア別利用率の変化を図4に示す。この割合は、出現した個体が、エリア1からエリア4にどのように分布したかを示し、シギ・チドリ類の生息場所選択への指標となる。前期及び後期を通じて、エリア2を生息場所として選ぶ個体が最も多い。

一方エリア1では、特に平成21年度の調査以降、同エリアを生息場所として選択したと思われる個体の割合の顕著な増加が認められる。これに反して、エリア3では平成19年以降、エリア4では、平成21年以降これらのエリアを選択する個体数は減少あるいは、それ以前に比べて、ほぼ半分以下の低い割合のまま横ばい状態で推移している。これらの結果は、毎年調査地域に出現する個体数は変動するものの、出現した個体の生息場所選択傾向がしらさぎ大橋の建設に伴って大きく変化し、全体としてしらさぎ大橋より河口側の地域を選択する個体の割合が増大していることを強く示唆するものである。

図4 エリア別利用率(%)の経年変化

今回は、モニタリング調査報告書にまとめられた数値データのみを使用したため、その情報量と精度には限界があるが、阿波しらさぎ大橋の建設が、シギ・チドリ類の行動圏に影響を与えた可能性が示唆された。シギ・チドリ類は長距離の移動(渡り)を行うことから、日本のような中継地において効率的に採餌できるかどうかはその後の生残率に影響を及ぼす可能性がある。今後、阿波しらさぎ大橋の下流約1.7kmの地点に新たな橋を建設することは、さらにシギ・チドリ類の移動を阻害するとともに、生息場所選択に影響を与え、エリア1~2のエサ場としての利用可能度を減少させると考えられる。結果として、吉野川河口に渡来するシギ・チドリ類の個体数が減少するだろう。近接した二本の橋の建設は、しらさぎ大橋のみの場合とは、大きく異なる様相を見せることになることも想像に難くない。四国横断自動車道吉野川渡河部建設にかかる環境影響を評価検討する際は、橋のような人工構造物がシギ・チドリ類の移動を阻害し、行動圏を減少させるということ、そして建設する橋単独での影響評価だけではなく、同様の構造物が近接することによる相乗効果により、状況をさらに悪化させる可能性があることを視野にいれることが重要である。このような点からも阿波しらさぎ大橋のモニタリング調査を継続的に実施しつつ過去のデータを再評価するとともに、再評価したデータをベースライン・データとして、吉野川河口域における複数の人工大規模構造物による複合影響評価を実施するべきである。

【謝辞】

本レポートをまとめるにあたり、(公財)世界自然保護基金ジャパン(WWFジャパン)の前川聡氏には、ご助言をいただいた。また、NPO法人南港ウェットランドグループの和田太一氏には吉野川河口におけるシギ・チドリ類の行動について情報をいただいた。ここに感謝の意を表す。

【参考文献】

  • 徳島県(2013) 徳島東環状線阿波しらさぎ大橋環境モニタリング調査平成23年度年報 http://www.pref.tokushima.jp/docs/2012111600138/
  • 徳島県(2014) 徳島東環状線阿波しらさぎ大橋環境モニタリング調査平成24年度年報 http://www.pref.tokushima.jp/docs/2013112900111/

【連絡先】

〒770-0944 徳島市南昭和町3-19-1 とくしま自然観察の会 井口利枝子
Eメール kansatsunokai@gmail.com

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