©Global Warming Images / WWF

未来のパンデミックを防ぐ ワンヘルスのすすめ

この記事のポイント
未だに収束の目処をみない新型コロナウィルス感染症。今回のパンデミックは、普段の生活にも大きな影を落としています。今回の経験を活かし、そこからの復興の中で、さまざま環境問題の解決も実現できるような、より良い社会を作っていくにはどうしたらよいか。「ワンヘルス」の考えを基に、新しいライフスタイルの在り方を考えます。

動物由来感染症の発生率は増加傾向

新型コロナウィルス感染症の蔓延が2019年12月末に確認されてから、その収束はいまだに見えていません。

2020年9月18日のジョンズ・ホプキンス大学の発表によると、世界の感染者は3000万人を超え、まったく予断を許さない状況です。

日々の生活維持や学業、さらに経済的にも困難な状況が続いています。

新型コロナウィルス感染症の原因は、ウィルスを保有する野生生物と人との「接触」により起こったとされています。

そして、そのリスクは今も続いています。

世界各地で続く環境破壊が、人と野生動物の「接触」機会を、今も増やし続け、新たな動物由来感染症のパンデミックを引き起こしてしまう可能性があるためです。

実際、動物由来感染症の発生率は増加傾向にあります。

© WWF-International (2020), COVID 19: Urgent Call on protect people and Nature

過去100年に人への感染が確認されたウィルス(ジカウィルス、鳥インフルエンザ、二パウィルス、SARS、MARS、COVID 19等)累積数

WWFはこうした現状をまとめた報告書『COVID 19:人と自然を守るための緊急の呼びかけ』を、2020年6月に発表。

非持続可能な野生生物の違法取引や消費、過度な農耕活動による野生生物生息地の搾取並びに細分化といった、動物由来感染症のパンデミックを引き起こす要因を指摘しました。

このような世界的な負の影響を多く引き起こしたパンデミックの経験を最大限に生かし、同じような過ちを繰り返さないためには、何をするべきでしょうか。

人間、環境、そして動物の共存のために

ここでキーワードになるのが「ワンヘルス(One Health)」という言葉です。

ワンヘルスは、2004年に提唱されたマンハッタン原則をその起源としており、地球と人と動物におけるそれぞれの「健康」を一つのものとする考え方です。

そして今、新型コロナウィルス感染症の蔓延により、この「ワンヘルス」という視点の重要性が再認識されてきています。

人間、環境、そして野生生物の共存のためには、それぞれがバランスよく健全であるべき、というその考え方は、これまで国際機関である国際獣疫事務局(OIE)、 国際連合食糧農業機関(FAO)、世界保健機関(WHO)が連携し、取り組んできました。

© Jeffries, B (2020) The loss of nature and the rise of pandemics. WWF Italy Rome

ワンヘルスのイメージ

国際条約や国際機関も注目するワンヘルス

また、ワンヘルスについては、保健や防疫、食料にかかわる機関以外の、さまざまな国際条約や国際機関も注目してきました。

その一つが、国連生物多様性条約(CBD)です。

CBDは、2010年に策定した、世界の生物多様性を守るための「愛知目標」の中でも、このワンヘルスに通じる考え方を示していました。

20ある愛知目標の一つ、目標14「健康、暮らし、福祉に寄与する生態系サービス」では、生物多様性と人間、双方の健康の重要性を訴求。

さらに、CBDの補助機関会合で、条約の実施状況について科学技術的な見地から締約国会議(COP)および他の補助機関に対して助言を行なう科学技術助言補助機関会合(SBSTTA)では、「生物多様性への配慮をワンヘルスアプローチに統合するためのガイダンス」に関する勧告を、出しています。

また、国連環境プログラム(UN Environment Programme)、国際家畜研究所(International Livestock Research Institute)も2020年7月6日の世界ズーノーシスの日(World Zoonoses Day)に合わせて、『次のパンデミックを防ぐために(Preventing the next pandemic)』を発表。

新型コロナウィルスや過去に発生した動物由来感染症の蔓延に対する、原因を検証し、さらに今後の防止策について検討、ワンヘルスの実施を提案しました。

この報告書の作成にはOIE、FAO、WHOと共に、専門分野の境界を越え、WWFも共著者として参加。

次のような要因が加わったことで、パンデミックが起こることを、示しました。

  • 1900年には16億人だった世界人口が、2020年までに76億人に膨れ上がっていること
  • この人口増加と共に、畜産の拡大を伴う動物由来タンパク質の需要が増え、そのための開発が進んだこと
  • 同じく、森林などの土地改変を引き起こす非持続的な農地の拡大が続いていること
  • 野生生物の乱獲や過剰な取引などが引き起こされていること
  • グローバル化による、人やモノの移動が増加していること
  • その中で、食料のサプライチェーンが変化してきたこと
  • 気候変動(地球温暖化)

つまり、パンデミックの発生は、これらの人間の活動、要求によって生じてきた環境破壊に対する、手痛い代償であるともいえます。

これを変えていけるような消費、自然や野生生物との付き合い方を心がけた、新しいライフスタイルの再検討が、求められているのです。

© Allen et. al.,(2017) Global hotspots and correlates of emerging zoonotic diseases, Nature Communications, 8, 1124.

動物由来感染症の発生推定リスク
熱帯雨林地域の分布、人間の人口密度、哺乳類の種の豊富さ、農地利用、その他関連予測因子に基づいて、野生生物起源の新興感染症を分析し、リスクの高さを推定。

ワンヘルスのすすめ

WWFは現在、将来的なパンデミックの脅威を緩和するために不可欠な、自然環境、生物多様性の保全を進めるために、ライフスタイルの変革のカギとなる「ワンヘルス」の早期に実現に向けた取り組みを進めようとしています。

共著した報告書『次のパンデミックを防ぐために』でも、ワンヘルスの実施に向けた10つの政策を提案。

例えば、学際機関と国際機関による社会的、経済的、生態学的側面へリスク分析の実施や、さらに、動物由来感染症に関連する事象を監視、モニタリングし、バイオセキュリティ施策する効果的な手段の開発などを訴えました。

また、これまで長年、海や森の環境を保全する活動として推進してきた、木材や紙、水産物(シーフード)など、自然界に産するさまざまな資源を、持続可能な形で利用していくことも、大事な取り組みの一つです。

特に、これらの取り組みについては、個人でも参加し、支援することができます。

日常品がどこから生まれ、どこで加工され、どのように運ばれてきているのか。

例えば今日食べた食材、今、着ている衣服、さっき使ったペーパータオルがどのような過程で作られているのか。

その過程で、自然環境や野生生物を損なう問題が生じていないか。

これらを考え、さまざまな製品を扱っている企業や店舗に、生産や流通の現場がどうなっているかを聞いてみることも、実は環境を守り、パンデミックを防ぐ、一つの手立てになるのです。

パンデミックを引き起こす原因は、こうした身近な生活ともつながっています。

一人一人がそれをしっかりと認識し、少し、地球に思いやりをかけることで、地球の未来を守っていきましょう。

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