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ICCAT2019閉幕 絶滅危惧種のアオザメ 管理体制に疑問

この記事のポイント
スペインのパルマ・デ・マヨルカにて、2019年11月18日から8日間にわたり開催されていた大西洋マグロ類保存国際委員会(ICCAT)の年次会合が閉幕しました。大西洋クロマグロとメバチについては一定の進捗があったものの、危機的状況のアオザメについては、科学委員会の勧告を無視した決定がなされ、絶滅危惧種が関与する漁業管理の今後に不安を残す結果となりました。
目次

大西洋クロマグロのIUU漁業対策に改善の動き

スペインのパルマ・デ・マヨルカで2019年11月18日から25日まで、大西洋マグロ類保存国際委員会(ICCAT)の第26回通常会合(年次会合)が開催されました。

52の加盟国・地域が参加したこの会議では、マグロ類を中心とした漁業資源の保全と利用について話し合いが行なわれ、今後1年間の漁獲ルールについて合意が交わされました。

この中で、2018年に大規模な違法漁業が発覚した大西洋クロマグロ(本まぐろ)、および深刻な資源枯渇の危機が指摘されているメバチについては、資源量の保全に配慮した合意が交わされ、一定の進捗が見られました。

大西洋クロマグロ資源は、2009年頃は危機的状況まで低下しましたが、その後の資源回復計画が功を奏し、資源量は回復傾向に。
2015年以降、ICCATでもこの状況を受け、漁獲量を増加させてきました。

しかし2018年10月、EUの漁獲枠の20%に相当する、大西洋クロマグロ(金額にして15億円)が違法に漁獲・取引されていた可能性が発覚。

より厳格な監視措置の必要性が浮き彫りになったにもかかわらず、前回2018年のICCAT年次会合では有効な対策が、合意されませんでした。

これを受け、WWFは、2019年のICCAT年次会合に際して、加盟各国に対し要望書を提出。
会議にもオブザーバーとして参加し、大西洋クロマグロのIUU(違法、無報告、無規制)漁業を排除するため、ICCATとして新たな対策実施に取り組むよう、働きかけを行ないました。

その結果、WWFの要望通り、ICCAT内にトレーサビリティに関するワーキンググループが設立されることが決定。IUU漁業を締め出すための一歩となりました。

マグロについては、世界の海域ごとに、マグロの資源管理を目的とした5つの国際管理機関があり、資源管理のためのルールを定めています。

マグロについては、世界の海域ごとに、マグロの資源管理を目的とした5つの国際管理機関があり、資源管理のためのルールを定めています。

乱獲・枯渇状態のメバチ資源も回復へ

日本人が刺し身マグロとして最も消費しているメバチについても、前進と言える合意が交わされました。

大西洋では2015年よりメバチの資源量の乱獲・枯渇状態が続いています。

それにも関わらず、2018年の漁獲推定量は7万7,646トン。これは、ICCATの科学委員会が加盟各国に対して勧告した、総漁獲可能量(TAC)の6万5,000トンを、20%も超過した数字です。

WWFはメバチ資源を2027年までに枯渇状態から脱するよう、回復させることを目標とし、今回の会合に向け下記の4点を要望してきました。

  1. メバチのTACを4万5,000トンに設定すること
  2. 未成魚の漁獲量を減らすこと
  3. 禁漁域・禁漁期を設定すること
  4. 魚群集魚装置(FADs)の使用数を制限すること

そして会合の結果、TACは6万2,500トンに削減されることが決定。さらに、FADsの使用数は2年間で40%削減することが合意されました。

また、はえ縄漁船について、漁業を監視するオブザーバーの乗船割合を10%に増加させることにも合意。十分ではないもののメバチ資源回復に向けた、着実な一歩となりました。

©WWF Japan

アオザメの危機は回避されず 管理体制に疑問

しかし一方で、北大西洋アオザメについては、保全を求める科学委員会の勧告を無視した決定がなされました。

アオザメは、フカヒレを目的とした漁獲や混獲により、特に大西洋で減少が著しい絶滅危惧種(EN)です。また、2019年8月にはワシントン条約(CITES)の附属書Ⅱにも掲載され、商業目的の国際取引に規制がかけられました。

©Brian J. Skerry / National Geographic Stock / WWF

そして、10月のICCAT科学委員会(SCRS)でも、「北大西洋の資源は乱獲・枯渇状態であり、もし仮に漁獲量をゼロにしても2035年までは資源量は低下し続ける」、危機的状況にあることが指摘されたサメの一種です。

北大西洋のアオザメの漁獲について、原則船上保持を禁止されていましたが、以下の例外措置が認められていました。

  1. オブザーバーが乗船し各種データ収集を行う条件で死亡個体のみ採捕可能となる措置
  2. 一定サイズ以上の個体ならば生死に限らず採捕可能とする措置

しかし、その例外措置で漁獲された北大西洋のアオザメは3,122トン(2017年)にも及び、資源の乱獲・枯渇状態を引き起こしています。

これを受け、科学委員会は、今回のICCATの会合に際し、例外なくアオザメの船上保持を禁止、すなわち漁獲量をゼロにすべきことを勧告。WWFもそれを支持していました。

しかし、年次会合では、EUやアメリカの反対によりこの勧告は棄却。一部条件が課されたものの、引き続きアオザメの漁獲(混獲)が認められる形となりました。

問われるICCATの管理能力

このアオザメについての合意に対しWWF地中海オフィスの大西洋クロマグロマネジャー、アレサンドロ・ブッジは、次のようにコメントをしました。

「危機的状況のアオザメ資源について、EUやアメリカといった漁業大国が、科学委員会からの勧告を無視したという事実は恥ずべき行為です。

マグロ類について、漁獲量削減などの管理措置に合意し、資源の回復にむけた最初の一歩を踏み出せたことは評価できますが、ICCAT加盟国は、貴重な種の絶滅を防ぐため、より意欲的になるべきです。必要なのは議論ではなく行動です」

また、WWFジャパンサイエンス&テクノロジー担当の植松は次のように述べました。

「大西洋クロマグロとメバチといった“お刺身”として消費されるマグロの管理措置が強化されたことは、刺身マグロ消費量世界一の日本にとって喜ばしいことです。

しかし、マグロ資源が守られても、混獲などでアオザメなどの絶滅危惧種が減少してしまうようでは、持続可能な漁業とは到底言えません。

日本には、漁獲国・消費国として、混獲種保全に向けてICCATでのリーダーシップに期待します」

ICCATは、国際的に重要な地域漁業管理機関(RFMO)の一つとして、絶滅危惧種を適切に管理する義務があります。

今回のようなアオザメ管理での失敗を繰り返さないよう、適切な管理能力の行使と、国際合意の成立に貢献するリーダーシップを、より強く求めていく必要があります。

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