「固定価格買取制度」が成功するために必要な12の条件


現在国会で審議されている「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法案」は、日本に「固定価格買取制度」を導入するための法案です。この制度は、各国ですでに導入され、実績をあげている制度。日本で今後自然エネルギーを普及・拡大していく「カギ」でもあります。しかし、これが真の効果を発揮するためには、きちんとした制度設計が必要です。WWFでは、法案の成立後を見据え、制度を有効なものにする「12の条件」を指摘してします。

意義ある「固定価格買取制度」にむけて

固定価格買取制度の基本的な仕組みは、自然エネルギーによって個人や事業者が発電した電気を、電力会社が決められた価格で買い取らなければならないことを義務づける、というものです。

欧州各国や中国などで導入されており、自然エネルギー普及について既に大きな実績をあげています。

日本においても遅ればせながらようやく導入の機運が高まってきたということで、今国会での確実な成立が必要です。

ただし、他の制度と同様、しっかりとした設計がなければその目的を果たすことができません。

WWFは、自然エネルギー促進の立場から、各国での固定価格買取制度の導入を支持してきました。ヨーロッパでの経験を踏まえ、WWFは固定価格買取制度において以下の12の条件を重視します。

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「固定価格買取制度」を成功に導く12の条件

条件1:自然エネルギー全体の目標があり、その達成手段として位置づけられている

 

固定価格買取制度は自然エネルギーを推進するための「手段」です。本来、自然エネルギーをどの程度普及させるべきかの目標があり、それを達成する手段として位置づけられるべきです。

【現法案では?】

現法案には、自然エネルギー全体の目標は書いていません。関連する法律にも、自然エネルギー全体の目標を書いたものはありません。
2010年に改定された「エネルギー基本計画」では、自然エネルギーを2030年までに20%に引き上げることが事実上の目標として掲げられています。

ただし、この「計画」は今後白紙から見直される予定になっています。 2011年5月に開催された仏ドーヴィル・サミットにおいて、菅総理は「発電電力量に占める中で、2020年代のできるだけ早い時期に、少なくとも20%を超えるレベルまで、自然エネルギーの割合を拡大していく」と発言しています。

これは、基本計画の目標を事実上、10年前倒しにしたものです。ただし、この目標はまだ正式な目標として法律に書かれたり、閣議決定されたりしていません。

また、同じくエネルギー基本計画と、(現在継続審議にある)地球温暖化対策基本法案には、自然エネルギーを(電力以外も含めた)一次エネルギーの中の10%にするという目標が言及されています。

気候変動対策の目標である温室効果ガス排出量25%削減目標を達成するためには、発電電力量の25%が自然エネルギーであることが望ましい姿です。このため、最低限、菅総理が発表された「2020年代のできるだけ早い時期に、少なくとも20%を超えるレベル」を公式化し、それに整合的な目標とする必要があります。

 

条件2:電力網の強化・拡大と同時並行で進める

 

自然エネルギーを活用しやすい電力網にしていくためには、電力網の強化と拡大が必要です。
現時点では日本の自然エネルギーの量は圧倒的に少ない(大規模水力を除けば全電力の1%程度)ので、多少増やした程度では全く問題にならないはずです。

しかし、中長期的に自然エネルギーを重視した電力システムを作るためには、電力網を強化・拡大していくことが不可欠です。今回の震災後の状況でも、日本の電力網が地域毎に事実上分断されていることの欠点が浮き彫りになり、自然エネルギー拡大の是非にかかわらずとも、電力網の改善は課題として浮上しました。

今後、より本格的に電力網を強化・拡大することが必要であると同時に、更に需要と供給のバランスをより適切かつリアルタイムにとることができるスマートグリッド化が必要です。

【現法案では?】

現法案では、第30条2において、送電線等を含む「電気工作物」の設置について、事業者が「必要な措置を講ずるよう努めなければならない」とあり、電力網の拡大・強化に関連する一般的な義務が言及されています。しかし、具体的には踏み込んでいません。法案の中に詳細を書き込む必要は必ずしもないかもしれませんが、今後、発送電分離の問題と共に、確実に議論が必要な分野です。

 

条件3:環境影響評価が整備されている

 

自然エネルギーであれば何でもよいというわけではありません。
風力発電設備の建設、地熱発電設備の開発、バイオマスの利用などの中には、環境や他の社会問題に負の影響を与えうるものもあります。

他方で、制度が必要以上に複雑すぎれば、自然エネルギーの普及にとっての障害になってしまいます。環境への負の影響を最小にしつつ、素早く自然エネルギーを展開できる仕組みの整備が必要です。

【現法案では?】

現法案では、具体的には触れられていません。
ただし、既に風力発電については環境省の下で一部整理がされています。第32条の「環境大臣との関係」に基づいて、今後、整備がされていくことが期待されます。

 

条件4:優先接続が保証されている

 

自然エネルギーが着実に普及していくためには、自然エネルギーからの電気が優先的に電力網に接続されることを保証することが必要です。

またその際に、系統安定のための設備投資の費用負担などを事業者に過度に強いるなど、事実上の接続拒否がされないように制度設計していく必要があります。

固定価格買取制度導入初期のフランスにおいては、優先接続がきちんと保証されていなかったことが普及の障害となりました。

【現法案では?】

現法案では、第5条2において、電気事業者が「接続を拒んではならない」とありますが、「次に掲げる場合を除き」という形で、例外が規定されています。しかも、そのうちの1つには「経済産業省令で定める正当な理由があるとき」という項目が入っており、経済産業省の立場如何によっては、いかようにも定義しうる内容となってしまっています。

 

条件5:費用は全ての電力消費者によって負担される

 

自然エネルギー買取の負担は、電気料金値上げ等の形で全ての電力消費者が負担する形が良いことがこれまでの経験上分かっています。

スペインは当初、国が買取費用負担を担う仕組みであったため、国の財政事情が悪くなると買取価格が下げられ、普及の速度が落ちました。

安定的な普及をはかるためには、電力消費者全体で自然エネルギーを推進する費用を負担する方が良いようです。

【現法案では?】

賦課金(サーチャージ)という形で、買取にかかった費用が電気料金に上乗せされる仕組みになっています。
しかし、この賦課金に「kWh当たり0.5円」という制限をかけようという議論が一部でされています。

賦課金の上限を設定するということは、全体としてこの制度の効果を制限することになります。

この結果、経産省の試算でも、現状と比較してシェアが4%拡大する(現状の大規模水力を含めた9%から13%に拡大する)だけにとどまってしまうと言われています。

これでは、菅総理が先の仏サミットで宣言した「20%」の達成はできません。
現法案では、そもそも自然エネルギー全体の目標も、買取価格も書かれていません。にもかかわらず、「制限」のみを設定してしまうのは、本末転倒です。

 

条件6:それぞれの自然エネルギー毎の買取価格が設定されている

 

太陽光、風力、バイオマス、中小水力、地熱などの個別の自然エネルギーの状況(技術の発展度合い、必要な費用など)は異なります。
それぞれの事情に応じた買取価格を設定することが望ましいと言えます。

一律の買取価格を設定した方が、費用が安いものから効率的に普及をできるとの意見もありますが、地域性が強い自然エネルギーの場合、一律にしてしまうと地域によっては全く恩恵を受けることができなくなる可能性があります。

【現法案では?】

現法案では、「太陽光」と「それ以外の自然エネルギー」のみを区別して買取価格を設定することが想定されており、太陽光以外の自然エネルギーに十分なインセンティブを与えられないのではないかという懸念があります。

 

条件7:20年以上の安定的な資金によって支えられる

 

自然エネルギーの促進に長期的な見通しを与えて、普及を助けるためには、固定価格買取制度が長期的に安定して存在し続けるという見通しを確立することが必要です。

【現法案では?】

資金については直接的な言及はありませんが、賦課金によって買取費用が賄われる仕組みを確立しているので、基本的にはこの条件を満たしています。

しかし、2020年までの段階(今後約10年間)で廃止を含む見直しが検討されることになっており、これが、長期的な見通しを描く時には妨げになる可能性があります。

 

条件8:既にコスト競争力がある自然エネルギー源や地域を除く

 

固定価格買取制度は、まだ競争力の足りない自然エネルギーをあえて急成長させるための制度です。

もし、既に競争力があり、そのような制度が必要ない自然エネルギー源や地域であれば、それは対象からは除かれるべきです。

現時点では、日本の自然エネルギー源はどれも他のエネルギー源と比して競争力があるといえませんが、今後の見直しの中では必要な検討になってきます。

【現法案では?】

現行の法案では、「実用化された再生可能エネルギー」として、太陽光、風力、水力、地熱、バイオマスなどが対象となっており、ほぼこの条件を満たします。

 

条件9:強力な研究開発(R&D)の施策と結びついている

 

固定価格買取制度は、自然エネルギーが他のエネルギー源と比較して競争力をつけるまで、安定的な投資インセンティブを与えることが目的ですが、同時に自然エネルギーの技術としての成長を加速させることも重要な目的の1つです。

このためには、固定価格買取制度と同時に、自然エネルギー分野への積極的な研究開発投資が行なわれなければなりません。

【現法案では?】

現法案では第30条において研究開発の推進がうたわれています。

しかし、日本のエネルギー関連の研究開発費は原子力に偏ってきた過去があり、このバランスの是正が大きな課題です。

 

条件10:全ての自然エネルギーに支援を行なう。それがどこで製造されたのかは問わない

 

自然エネルギーの発電に使われる機器については、日本製ではなく、海外のものが使われることもあります。

国内産業育成の観点から、国内で製造されたもののみに限定するという考え方も出てくるかもしれませんが、そのような差別はWTOのルールに抵触する可能性があるだけでもなく、競争の中で日本の自然エネルギー産業が強くなっていくことを阻害するものです。

【現法案では?】

現法案では、再生可能エネルギー設備について、特段の規定は設けていません。このままの状態を堅持することが重要です。

 

条件11:与党だけではなく、野党も含めた支持がある

 

固定価格買取制度は、少なくとも20年程度の将来を見越した制度となっていなければなりません。

このため、仮に選挙等によって政権変わったとしても、存続されるような制度であることが望ましいと言えます。

【現法案では?】

既に制度化されている太陽光についての買取制度は自民党政権時代に作られたことを考えると、現法案の基本的な考え方については、与野党共に異論は少ないとは言えます。

しかし、産業界には根強い反対があるため、この制度の安定性に懸念が残ります。

一部、時限立法にしてしまおうという向きもあったようですが、投資家が長期を見据えて投資をしていくためには、この制度が一定期間存続することを確保しなければなりません。

もし、1~2年の選挙の度に制度が変わったり、あるいはなくなったりということがあれば、それは制度の信頼性を大きく損ね、自然エネルギーの成長にとっても大きなマイナスとなります。

 

条件12:制度の運用について、定期的な見直しがある

 

エネルギーをめぐる状況は刻一刻と変化しているため、一定期間での見直しは必要です。

もし、制度が自然エネルギーの促進に十分な役割を果たせていないのであれば、その改善が必要だからです。

【現法案では?】

現法案では、3年ごとの見直しが規定されています(附則第6条)。
自然エネルギーをめぐる状況を適切に反映させる観点から、3年ごとの見直しを行なうのは適切といえるでしょう。

しかし、現法案には「この法律の施行後平成33年3月31日までの間にこの法律の廃止を含めた見直しを行なうもの」とあります。

つまり、制度設立から10年程度でこの法律の廃止を含めた見直しが規定されているのです。

無論、その時点で固定価格買取制度が必要なくなるくらい自然エネルギーが成長していれば問題ありませんが、現時点ではそれを予見することはできません。

かつて原子力に対して長々と支援を与え続けてきた経緯を考えると、こうした規定があること自体が、制度全体に対する政府の意思に対して不安を抱かせる要因となりえます。

  • ※本ペーパーについてのお問い合わせ先:
    WWFジャパン 気候変動・エネルギーグループ
    東京都港区芝3-1-14  日本生命赤羽橋ビル6F Tel: 03-3769-3509 Fax: 03-3769-1717
    Email: climatechange@wwf.or.jp
     

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