自然エネルギーの拡大につながる「固定価格買取制度」法案を


2011年7月14日から、国会で「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法案」の審議が始まっています。この法案の中心は、固定価格買取制度の導入です。これは、太陽光や風力などのさまざまな自然エネルギーが、今後日本で普及拡大するかどうか、そのカギとなる制度です。しかし、その内容に制限を設け、実質的に自然エネルギーの拡大を妨げようとする動きもあり、意義ある形での法案成立が危ぶまれています。

固定価格買取制度のメリット

固定価格買取制度は、個人や事業者が太陽光・風力・バイオマス・地熱・小水力などの自然エネルギーを使って発電した電力を、電力会社が一定の額で買い取ることを義務付けるもので、今後の日本で、自然エネルギーの拡大と、地球温暖化の防止に、大きく寄与することが期待される制度です。

この制度によって、何が変わるのか。それは、「自然エネルギーで発電することが確実な利益になる」ということです。

現在、太陽光や風力をはじめ、自然エネルギーを導入するための費用は年々下がってきています。

それでも、自然エネルギーの多くはまだ、安い火力発電所(石炭・石油・天然ガスなどを燃やして発電する)と比べると、特に設備を作る時に(風車を立てる、太陽光パネルを取り付ける、など)費用が多くかかるため、導入する個人や事業者にとってハードルが高いという事情があります。

固定価格買取制度の下では、その名の通り、自然エネルギーで発電された電力を、電力会社が決まった(「固定」した)価格で買い取ることが義務づけられます。

この買取価格が、十分に高ければ、自然エネルギーで発電をすればきちんと利益が出ることになり、これまで「自然エネルギーは高いから、大事だと思うけどちょっと無理」と思っていた個人や事業者にとっても、自然エネルギーを導入することに明確なメリットが生じます。

製造業にたとえれば、製品を作れば必ず買ってもらえることが保証されていて、しかも、売る時の値段があらかじめ決まっているのですから、生産コストをオーバーしない限り、作れば作るだけ利益が上がりることになります。

つまり、この固定価格買取制度は、自然エネルギーの導入に関心を持ち、実際にそのための取り組みをする人たちに、メリットをもたらす制度なのです。

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動画「わいるどアカデミー」
固定価格買い取り制度について

不十分な法案、でも…

ただし、現在、国会で議論されている法案の中での固定価格買取制度は、残念ながらこのような理想型にはなっていません。

たとえば、自然エネルギー全体の目標や、買取価格そのものはこの法案の中にはかかれていません。特に、買取価格は後で経産大臣が審議会の意見も聞きつつ、決めることになっています。

これまでの政府内の議論から、買取価格は、「太陽光」と「それ以外の自然エネルギー」という2種類の価格しか設定されない予定です。これでは、「それ以外の自然エネルギー」に対しては、十分なメリットになりえないのではないかということが心配されています。

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他にもいくつか欠点があり、自然エネルギー促進の観点からは決して満点といえる内容ではありません。それでも、今回の国会で、この法案が通ることは極めて重要で、今後の改善によって制度を充実させていくことが期待されています。

「上乗せ分」を固定?ゆらぐ制度の意味

しかし、この制度の本来の目的である、自然エネルギーの導入をなし崩しにしてしまうような議論が始まっています。

現在の法案の中での固定価格買取制度は、自然エネルギーの買取に必要なお金を、全体の電気料金に上乗せして(値上げによって)集める仕組みになっています(「サーチャージ」もしくは「賦課金」と呼ばれます)。自然エネルギーの推進にかかる費用を、みんなで広く浅く負担する、ということになります。

しかし、電気料金の値上げについては電気をたくさん使う産業などから、懸念の声が挙がっています。「震災後、ただでさえ大変なところに値上げが来たら、もう工場を海外に移転するしかない」という声を挙げています。

こうした懸念を受けて、政府は既に、この制度の運用の中で、電力の買い取りに充てられる電気料金の上乗せ分を、予め「0.5円/kWh(1キロワット/時間あたり0.5円)」に設定すると、海江田経済産業大臣が国会答弁の中で答えています。

さらに、自民党の一部の議員は、この「0.5円」という数字を、制度運用の中で使うのではなく、法案の中に直接書き込み、より決定的なものにすることを主張しています。

しかし、実際、その通りに設定されてしまうと、大きな問題が起きます。

買い取りのための資金が予め限られてしまうため、自然エネルギーの拡大が阻害されることになるからです。

仮に「0.5円」を設定した場合、経産省の試算によると、日本の自然エネルギーの拡大幅は、2020年までの国内発電電力量の4%にとどまります。現在の日本の電力に占める自然エネルギーは9%程度しかないので、全体でも13%程度にしかなりません。

これでは、菅首相が先のG8で目標として掲げた、2020年代のできるだけ早い時期までに、自然エネルギーを20%に上げるという目標の達成には、到底届きません。

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発展性のある制度の実現を

繰り返しになりますが、今回の法案では、自然エネルギー全体の目標も書いていなければ、制度の肝である買取価格も法案の中には書かれていません。

自然エネルギーの目標は今後政府の中で議論されていくでしょうが、買取価格は、経済産業省での議論を経て経産大臣が決めることになっています。その際に、十分な価格に設定されるかどうかも、今後の重要なチェックポイントです。

このように、制度本来の目的部分が法案に書かれていないにもかかわらず、上乗せ分の金額に上限を設定し、制度を「どれくらい制限するか」だけを先に決めてしまうのは、あきらかに順序としておかしく、「自然エネルギーを普及させる」という、そもそもの制度の趣旨にも反する結果になります。

価格や上乗せ分の設定は慎重に検討しながら、確実に制度を運用していくことが望ましいといえます。

また、上乗せ分の増大を懸念する声もありますが、現状でも、電気料金には、石油や天然ガスなどの化石燃料の価格を反映して値段が上下する、「燃料費調整制度」が設定されており、今後は、これらの化石燃料の価格上昇による電気料金の上昇の方が、上げ幅としては大きくなる可能性も指摘されています。

さらに言えば、これまで、原子力発電所の推進にかかる費用を電気料金に組み込む際、そのような相談は国民に対してあったでしょうか? それでは、なぜ、自然エネルギーの推進がこれまで以上に必要とされ、そのための制度が設立されようという時に、「制限」がまず議論されるのでしょうか?

電気料金が上がると大変になる産業への配慮は必要かもしれません。しかし、それは、たとえば省エネルギー対策を行なって、そもそもの電気使用量を減らす(=負担が減る)ことに対する支援を行なうなど、別の形でもありえるはずです。

温暖化の原因となる上、輸入に頼らざるを得ない化石燃料への依存度を下げ、またリスクの高い原子力からの脱却を図るためにも、固定価格買取制度を、自然エネルギーの普及拡大につながる形で成立させる必要があると、WWFは考えています。

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参考資料

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