TNFD開示の到達点と次のステップ ~ネイチャーポジティブにつながる情報発信への進化~
2026/01/07
増えるTNFD開示、止まらぬ環境破壊
日本におけるTNFD開示への関心は非常に高く、企業によるTNFD開示の取り組みも年々広がりを見せています。
一方で、自然資本の毀損を抑制し、ネイチャーポジティブに向けてビジネスモデルを転換していくためには、サプライチェーンにおけるトレーサビリティの確保や、マイナスインパクトの回避・軽減に向けた具体的な目標設定と、その着実な実行が不可欠です。
WWFジャパンでは、TNFDが世界中の企業に向けて包括的なガイダンスを提示していることを踏まえつつ、自然保護団体の視点から、日本企業がTNFD対応の初期段階において特に注力すべき点を「4つのキーポイント」として整理し、ベンチマーク調査を実施しました。当セミナーでは、その調査結果から見えてきた日本企業の開示動向を概観するとともに、ネイチャーポジティブの実現に向けて、今後企業に一層の取り組み強化が期待される分野について解説しました。
報告書:「2024年TNFD開示の潮流と日本企業の対応状況」レポート
セミナー概要
| イベント名 | TNFD開示の到達点と次のステップ ~ネイチャーポジティブにつながる情報発信への進化~ |
|---|---|
| 日時 | 2025年12月8日(月) 14~15時 |
| 場所 | オンライン |
| 主催 | WWFジャパン |
| 登壇者 | WWFジャパン金融グループ 小池祐輔 |
| 参加者数 | 220名 |
サマリーと資料
「TNFD開示の現状とネイチャーポジティブに向けた方向性」
講演資料
キーポイント① TNFDで開示するマテリアリティ・アプローチの選択
TNFDは、事業活動における自然への依存・影響について、「財務マテリアリティ」のみを採用するのか、「インパクトマテリアリティ」も合わせて採用するのか明示することを、開示フレームワークの一般要件にて求めています。
複雑な自然関連課題に対応していくためには、「ダブルマテリアリティ・アプローチ」の採用が有効です。日本企業のTNFD開示においても、こうしたダブルマテリアリティの考え方がより一般的に取り入れられていくことが期待されます。
キーポイント② 自然関連課題(依存、影響、リスクと機会)の特定・評価、および優先地域の特定
直接操業に関する分析は比較的進んでおり、自社拠点周辺の生態系の十全性や水リスクを評価する事例が目立ちました。一方、バリューチェーン上流・下流の分析はトレーサビリティ確保がハードルとなり場所に基づく依存・影響分析は遅れています。
今後は、データツールを用いた一般的な分析にとどまることなく、トレーサビリティを確保した上で、自社のインパクト要因と場所特性、双方から依存・影響分析を進めることが期待されます。
キーポイント③ ミティゲーションヒエラルキー(マイナスインパクト回避の優先)
企業はネイチャーポジティブに向けてまずは自社が自然に及ぼすマイナスインパクトを特定し、その回避・軽減に努めることが先決です。
マイナスインパクトの回避・軽減に向けては、依存・影響の分析に基づき、回避・軽減の方針や目標設定が欠かせません。直接操業では節水、バリューチェーンでは森林破壊ゼロや責任ある農林水産物の調達等、TNFD提言が公開される前から社会的に注目が高かった分野において目標設定が進んでいました。
一方、これらの原材料調達は、トレーサビリティ確保が進んでいないことにより、取り組みの実効性が課題となっていました。原材料調達に取り組むことはネイチャーポジティブに向けた事業の方向性として適切ですが、それらの目標に沿った取り組みを進める上でも、TNFD開示のベースとなるインパクトの特定においても、農林水産物のトレーサビリティ確保が重要になってきます。
複数の原材料を扱う場合、トレーサビリティ確保を何からすすめるかの順番に迷う場合もありますが、「正解」は存在せず、企業の戦略が色濃く反映される部分です。調達量が多いものから、自然への依存・影響が大きいものから、EUDRに指定されているものから、など様々な取り組み順番が考えられます。大切なのは、その優先順位の背景となった戦略を開示することです。
背景を含め優先順位を「開示」することで、多様なステークホルダーとの対話が生まれ、戦略の質が上がっていくこともTNFD開示の大切な側面です。
WWFジャパンは2025年12月にセミナー「SBTi FLAGで求められる森林破壊ゼロの確認方法とは?」を開催しました。こちらの開催報告も合わせてご覧ください。
https://www.wwf.or.jp/activities/activity/6136.html
キーポイント④ IPLC(先住民族と地域社会)と、影響を受けるステークホルダー
調査対象の全65社が国際的な人権規範への賛同を表明していましたが、人権デューデリジェンスの範囲に先住民族や地域社会を含め、誰もがアクセス可能な苦情処理窓口を設けている企業は28%にとどまりました。
一方で、自然の適切な利用に知見を有するIPLCとのエンゲージメントまで踏み込めている企業は限定的でした。IPLCの自然との関わり方も多様であり、唯一の方法というのはありませんが、今後、原材料のトレーサビリティ確保が進むにつれ、周辺の先住民族・地域社会への理解が深まり、エンゲージメントが深化されていくことが期待されます。
今後に向けて
2024年に公開されたレポートを対象とした本ベンチマーク調査は、多くの企業にとって初めてのTNFD開示であったことを踏まえ、まずは開示内容の「有無」に焦点を当てて実施しました。例えば、キーポイント③では、マイナスインパクトの回避・軽減に向けたコミットメントが示されているかどうかを確認しています。
今後、TNFD開示が進展し、企業による依存・影響の分析がより深化していくにつれて、評価の観点は「企業の取り組みがネイチャーポジティブに向かっているのか」「取り組みの結果、自然はどのような状態に変化したか」に広がっていくことが想定されます。
自然の状態の変化については測定指標に関する国際的な議論が進行中ですが、企業の取り組みについては「望ましい」取り組みとして、以下のような点に考慮することが必要です。
- 自然へのマイナスインパクトを低減させるためのコミットメントの質 (例:× 合法性の確認だけ 〇森林破壊ゼロの確認)
- コミットメント達成に向けた時間軸 (例:森林破壊ゼロ100%を 「×2050年まで 〇2030年まで」)
- ターゲットに対する測定指標の適切性と結果の公表 (例:×森林破壊ゼロ目標に対し、合法木材調達量を指標にしている) (例:× 森林破壊ゼロ100%を目指しているが、現在の進捗が分からない)
WWFジャパンは、日本におけるTNFD開示が、ネイチャーポジティブの実現に向けて実効性を備え、多様なステークホルダーにとって有用な情報となるよう、今後もこれらの観点を重視しながら企業への提案を行っていきます。



