森林セミナー報告「インドネシアの生物多様性~危機と解決策~」


2010年10月14日、名古屋で開かれたCBD・COP10(生物多様性条約第10回締約国会議)にさきがけ、東京都千代田区の中央大学駿河台記念館で、森林セミナーを開催しました。今回のテーマは、インドネシアの熱帯林がはぐくむ豊かな生物多様性の危機とその解決策。CBD・COP10を目前に、急速に失われつつある生物多様性の価値とその原因、そして消費国である日本がどのように責任を果たすべきかを紹介しました。

インドネシアより現場の声を

今回のスピーカーとして日本にやってきたのは、WWFインドネシアで、生産面から持続可能な自然資源の利用を推進するアディタヤ・バユナンダ(Aditya Bayunanda)と、政策、企業、そして地域コミュニティ部門ディレクターとして社会全体に働きかけを行うナジール・フォアド(Nazir Foead)です。

この二人から、生物多様性の宝庫といわれるインドネシアの熱帯林が直面する急激な森林減少とそれにともなう生物多様性の損失、泥炭林の開発による二酸化炭素の排出などの問題点、そしてそれに対するインドネシア政府の取り組みの動向、日本企業へはどんな貢献が期待されているかを報告しました。

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報告1「インドネシアの生物多様性の危機」

WWFインドネシア GFTNコーディネーター
アディタヤ・バユナンダ(Aditya Bayunanda)

そもそもインドネシアの生物多様性はなぜ重要なのか。保全価値があると言われるのには理由があります。 インドネシアに限らず、人間は自然の一部であり、人間の暮らしは、生物多様性と結びついています。

例えば、海や山で収獲する食料、生活に必要な発電に使用する燃料、医薬品など、生きていくための必需品のほとんどが生物の多様性により生み出され、私たちはまさにこの多様性に生かされていると言えます。

そのため、生物多様性の維持は、貧困の削減、生活水準の向上、気候変動の緩和など、他の社会的な問題とも密接に関係しています。

しかし、このインドネシアの貴重な生物多様性は、自然が自力で回復できるスピードを上回る、非持続可能な開発により失われています。紙やパルプ生産のための破壊的な森林伐採、アブラヤシなどのプランテーション開発のための土地転換などが主な原因です。

この非持続可能な開発の流れを断ち切るためには、生産国の努力だけでなく、製品のサプライチェーンに関わる事業者、そして消費者の協力が欠かせません。

また、自然林とそこに生息する野生の動植物を守るためには、短期的な利益のみを追求した開発計画の中止、不法占拠、違法伐採の防止が必要です。そして農業や林業には、自然林や泥炭林を転換して行うのではなく、荒地を最優先して行なうことが重要です。

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WWFインドネシア GFTNコーディネーター
アディタヤ・バユナンダ(Aditya Bayunanda)

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報告2「経済のグリーン化~インドネシアの新しいパラダイム」

WWFインドネシア 政策・企業・コミュニティ部門ディレクター
ナジール・フォアド(Nazir Foead)

インドネシア政府でも、貴重な生物多様性の価値を認める動きが進んでいます。 人間の経済活動と自然が共存できる将来社会の構築のため、自然と生き物を価値ある資源としてとらえた政策づくりが始まっています。

今まさに発展途上にあるインドネシアの人々の欲求に応えながらも、将来世代が自然の恵みを享受する権利を脅かすことのない、環境に配慮された社会システムへと転換するために国家中長期開発計画が発表されています。

この国家中長期開発計画には、自然資源の適切な管理や制度と組織の強化、再生可能エネルギーの利用促進、環境に配慮した土地利用計画、自然回復能力の向上など非常に多くの項目が盛り込まれています。

インドネシアは、森林減少や劣化、泥炭地の開発による排出量を含めれば世界第3位の温室効果ガス排出国です。 そのため、東南アジア最大といわれる国内の泥炭林を適切に管理することで、大きく削減に貢献することが出来ます。

世界的に大きな注目を集めるなか、2020年までに自国の努力のみで1990年比で26%、国際的な支援を得られる場合は41%の削減を公表しています。

インドネシアは国家的に、経済の発展と自然の保全を両立させる社会構築へと変化しています。

このようなパラダイムシフトを進めるためにも、インドネシア国内だけでなく日本を含む海外の消費国に対しても、環境に配慮した責任ある林産物の調達、REDDプラスや現地保全活動への貢献など、具体的な行動が必要とされています。

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WWFインドネシア 政策・企業・コミュニティ部門
ディレクター  ナジール・フォアド(Nazir Foead)

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新たな目標に向けて

生物多様性に富む熱帯林の保全と自然資源の持続可能な利用は、関係する全てのステークホルダーが真剣に取り組むべき課題です。

将来にわたっても、人間が自然資源を利用し続けることができるかどうかは、今を生きる私たちの選択にかかっているといえます。

名古屋でのCBD・COP10では、生物多様性保全のための国際目標「愛知ターゲット」が採択され、陸の少なくとも17%、海の10%を保護区とする目標が掲げられました。 この目標を達成するため、インドネシアを含め世界各国で国内法整備への動きが始まるでしょう。

WWFでは、今後もインドネシアの生物多様性の保全をめざし、行政、企業、地域コミュニティ、消費者などさまざまなステークホルダーに対し働きかけを行なってゆきます。

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