九州で黄海エコリージョンの日中・水産管理ワークショップを実施


黄海の沿岸に位置する、中国遼寧省丹東市の鴨緑江河口域沿岸から、漁業や環境保全にかかわる関係者を、九州 の有明海に招き、「第1回 日中・水産管理ワークショップ」を開催しました。これは、WWFが、パナソニック 株式会社の支援を受けて展開している、「黄海エコリージョン支援プロジェクト」の一環として実施したもので、2011年7月に、同じく黄海沿岸 の韓国の関係者を日本に招いて行なった、干潟交流ツアーに続く、国境を越えた海洋保全のための取り組みです。

持続的な漁業と干潟保全を目指して

2011年11月8日から12日にかけて行なわれたこのワークショップは、干潟の保全と水産資源の持続的な利用を行政、研究者、漁業者それぞれが関わり合いながら取り組む事例を学ぶことを目的とし、熊本県、福岡県の各所で開催されました。

ワークショップに参加するために中国から日本を訪れたのは、遼寧省海洋水産科学研究院の研究者、WWF中国のスタッフの計6名の方々です。

鴨緑江河口域沿岸は、2010年に「黄海エコリージョン支援プロジェクト」のモデル地区として選ばれた地域です。

この地域は、1997年には「鴨緑江浜海湿地国家級自然保護区」として、渡り鳥の保護区に指定されています。その一方、ハマグリやアサリなどを干潟から地域の漁業者が採取すると共に、ナマコなど養殖のために干潟が干拓されるなど、干潟の保全と持続的な漁業の確立が大きな課題となっています。
黄海エコリージョン支援プロジェクトでは、漁業者、渡り鳥、ハマグリなどの底生生物のそれぞれが、どのように関わっているのか、遼寧省政府の海洋漁業庁に協力する形で、遼寧省海洋水産科学研究院による科学的な調査を支援しています。

公的規制と自主的規制の
組み合わせによる資源管理



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熊本県庁にて記念撮影。
中国・遼寧省海洋水産科学研究院、
WWF中国・ジャパンスタッフら。

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熊本県庁を訪問。
質問が途切れることがありませんでした。

中国からの一行は、まず熊本県庁の水産局水産振興課を訪れました。

県庁では、漁業法や漁獲可能量 (TAC)制度により、漁業を営む資格や漁法制限などの規定、漁獲量の上限設定があるとの基本的な説明を受けました。

続いて、1970年代に全国の漁獲量の約40%を占めていたアサリ資源が年々減少し、1995年にはピーク時の3%ほどにまで落ち込んだのを受けて、熊本県が漁業者による自主的規制と連携して実施している資源回復計画(2005-2011)について話を伺いました。

中国の参加者からは、稚貝の増殖や放流、エイなど食害生物対策、管理費用の負担、中国産貝類の輸入状況など、技術的、具体的な質問が数多く出されました。(県庁で熊本県のマスコットキャラクターである「くまもん」の名刺をいただきましたが、中国の皆さんにも大人気でした)

日中の研究者の交流

県庁訪問後は、熊本大学へ移動し、「沿岸生態系の管理と二枚貝の持続可能な利用に関する日中国際講演会」に参加し、日中双方の研究者から研究成果の発表を行ないました。

中国側からは、宋倫さんによる中国モデル地区で進めている調査活動の最新情報と、冷傳慧さんによる中国の干潟利用制度の変遷と産業活動の現状について発表いただきました。

日本側からは、熊本大学の逸見泰久先生による日本のハマグリの現状と資源管理、森本剣太郎先生による有明海・八代海の干潟なぎさ線回復について発表をいただきました。

宋倫さんの発表では、1960年以降の埋立てや沿岸域の工業化、養殖で使用する薬剤、砂利の採取等の影響により、渡り鳥が好んで採餌する生物が減少し、かわりに体表面に粘液を分泌するため渡り鳥が食べない貝が増えているとの報告がありました。

毎年50万羽を超える渡り鳥が休息する鴨緑江で十分な採食が出来ないことは、個体群の存続に深刻な影響をもたらします。失われた環境を復元し、干潟の資源を持続的に利用していく取り組みを研究することは、渡り鳥だけでなく、地域の漁業者やその恩恵を受ける私たちにとっても大切なことです。

研究者と漁業者との連携-先進漁場の現場を見学

国際講演会の翌日には、熊本県水産研究センターを訪問しました。地道な継続調査やシミュレーション解析などの科学的知見を元に、母貝が産卵する時期やサイズ、幼生が海を漂う範囲を割り出し、より効果的な資源管理の仕組みを提唱し、マニュアルとしてまとめたお話を伺いました。提言、マニュアルの内容を漁業者に理解してもらうには、何度も繰り返し説明を行うことが重要であると助言をいただきました。

一連のワークショップの締めくくりとして、漁場造成、自主的規制などの資源管理を精力的に進めている漁業者にその現場を案内していただき、お話を伺いました。最初にお邪魔したのは、熊本県の川口漁業協同組合です。

川口漁協では、アサリ稚貝が生息しやすい漁場回復のため、現在も試行錯誤しながら進めている取り組みについて紹介いただきました。また、藤森隆美組合長は、何度も中国の採貝現場を視察されているそうで、近年の急速な環境改変を憂慮しており、資源管理をしっかりと進める必要性についてお言葉を頂戴しました。

翌日には、福岡県の糸島漁協加布里支所を訪問しました。この支所でハマグリを採っているのは18名の組合員で規模としては非常に小さいですが、資源管理は徹底しています。

公的な規制よりも一段と厳しい自主的取り組みとして、採貝時期、サイズ、漁獲量、漁獲場所、密漁対策を進めています。1997年から資源管理の取り組みをはじめ、段階的に自主規制を厳しくしていったそうです。

その結果、この10年ほどで、水揚金額、水揚量、平均単価ともに上昇しているそうです。徹底した資源管理と天然ハマグリのブランド化の取り組みが評価され今年、農林水産大臣賞を受賞したとのことです。

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日中国際講演会の様子。
熊本大学に通う中国人留学生も積極的に
質問していました。



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熊本県水産研究センターにて、ハマグリ
稚貝の種苗生産の現場を見学する一行。



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川口漁協では、WWFジャパンの顧問
であるさかなクンも一緒に話を伺いました。

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アサリの食害生物ツメタガイの卵塊を
見ています。日本では「砂茶碗」と
呼びますが、中国の皆さんも聞いて納得。

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福岡県糸島漁協加布里支所にて、
ハマグリ選別風景。サイズ、量が
自主規制値を超えた場合は海に戻します。

黄海エコリージョンでの取り組みへの還元を目指して

今回のワークショップを終えるにあたり、参加した中国の研究者の皆さんから感想をうかがってみたところ、「行政による公的管理、漁業者による自主的管理がきちんと遵守され、それぞれ研究者による科学的知見が反映されていることに、感心した」との声が多くありました。

中国と日本では、法律や社会の仕組みが異なり、日本の取り組みがそのまま通用しないものもあります。それを踏まえた上で、自分も資源管理マニュアル作成を進めたい、緊張感をもって研究を進めたいとの頼もしい声を若い研究者から聞くことが出来ました。

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一連のワークショップに多大な協力をいただいた熊本大学の逸見泰久先生からは、干潟の埋立てなどに比べて、水産資源の持続利用のルール作りは比較的合意形成がしやすく、取り組みの説得力をもつ、豊かな水産資源は、渡り鳥の保全にもつながる、これからの皆さんの取り組みに期待をしているとエールを送っていただきました。

今回のワークショップを契機に、研究者、漁業者、行政が連携し、科学的知見に基づいた生態系ベース管理型モデルの仕組みを確立させ、黄海エコリージョンでの国境を越えた生物多様性保全の取り組みが、世界に誇れる一つの事例になるように、活動を継続してゆきます。

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