マグロをめぐる問題


マグロの資源が減っているのに、安価なトロが今もあふれている日本。一般の消費者が資源の状況を実感するのは、とても難しい状況ですが、安くて大量のマグロが並ぶ背景には、実はさまざまな問題があります。

どこのマグロが減っている?

日本をはじめ、世界中では毎年大量に消費されているマグロ類。しかし近年、中にはその資源量が懸念されるマグロも出てきました。原因はやはり「獲り過ぎ」です。

水産庁は、数種のマグロについて、資源状態を3つの段階(高位、中位、低位)にわけて評価しています。

ビンナガ 南太平洋のみ 高位
ビンナガ 北太平洋、南大西洋、インド洋 中位
キハダ 太平洋、大西洋、インド洋
メバチ 西太平洋、インド洋
メバチ 東太平洋、大西洋 低位
ビンナガ 北大西洋
クロマグロ 太平洋、大西洋
ミナミマグロ 南半球

資料:水産庁「平成24年度 国際漁業資源の現況」を基に作成

まず、全体的に資源状態が良くないのは、クロマグロ、ミナミマグロです。そして、大西洋や東部太平洋のメバチが、資源水準がもっとも低いランクになっています。

これらは比較的冷たい海域に棲む、脂ののったトロの多いマグロです。つまり、刺身として消費されるマグロは、その多くが、資源が減少し始めているということになります。

一方、温かい海域にすむ、脂の少なく缶詰などにされることが多いキハダや、ビンナガは、資源水準が真中か、良好のランクです。これは、刺身としての需要が、世界のマグロ資源を圧迫している、一つの現れと言えるかもしれません。

このまま、適切に資源を管理せず、マグロを消費し続けた場合、マグロがいずれ食べられなくなってしまう日が来るかもしれません。
そうならないようにするためには、マグロを漁獲し、消費している国々が、国際条約の約束を守って、しっかり資源や漁獲を管理すること。そして、国だけでなく流通関係者さらには消費者が、資源の変化や違法な漁業を監視して、適切に管理されたマグロのみを消費することが大切です。

マグロの資源管理および漁獲量の割当について

海の中の魚は適切に資源管理をすれば、持続的に利用することができます。適切な管理とは、獲ってよい魚の量、大きさや時期を決めたり、獲る目的のない生物まで獲らないようにしたり(混獲の回避)、漁獲の際に海の生物がすむ生息環境を破壊しないようにすることです。
マグロについては、世界の海域ごとに、マグロの資源管理を目的とした5つの国際条約機関があり、資源管理のためのルールを定めています。

違法漁業と過剰な漁獲

海を広く回遊するマグロは、一つの国だけでは資源管理ができません。そこで、国際条約機関によって資源管理のためのルールが定められています。
現在、世界には海域ごとにマグロの資源管理を目的とした5つの国際条約機関があり、海域ごとに各国が獲ってよいマグロの量や大きさ、漁期などを魚種ごとに定めています。
しかし、せっかく、マグロの資源管理のための国際的な枠組みがあっても、それが活かされなかったり、枠組みを逸脱した違法な漁業が横行すれば、資源は枯渇してしまいます。実際、このような例は、世界中の海で後を絶ちません。最近でも次のような違法漁業や過剰漁獲が行われてきたことが明らかになっています。


さまざまな問題

マグロの問題は、資源の乱獲だけではありません。その生産の過程では、次のような問題も起きています。

蓄養マグロの問題

スーパーマーケットなどで、「養殖」と表示されているマグロのほとんどは、実は完全な養殖ではなく、「蓄養(ちくよう)」という方法で供給されたものです。「蓄養」は、海で獲ったマグロを生け簀で育てて、餌をたくさん与えて大きく太らせ、脂(トロ)を乗せた上で売りに出す、という方法。資源の乱用や餌の扱いによって、深刻な海の環境問題になり始めています。

「養殖マグロ」のからくり

資源が減ったなら、養殖すればいいのでは? そんなふうに思われるかもしれません。
しかし、産卵から孵化、生育までを成功させたマグロの養殖は、日本では成功しているものの、世界的にはまだまだ普及していません。

それにもかかわらず、スーパーマーケットなどでは、「養殖」と表示されているマグロをみかけることがよくあります。実は、これらのマグロのほとんどは「蓄養(ちくよう)」という方法で供給されたものです。「蓄養」というのは、海で獲った天然のマグロを生きたまま生け簀で育てて、餌をたくさん与えて大きく太らせ、脂(トロ)を乗せた上で売りに出す、という方法です。

現在、世界で蓄養されているマグロは、本マグロ(太平洋/大西洋クロマグロ)とインドマグロ(ミナミマグロ)です。1990年代にオーストラリアでミナミマグロの蓄養が始まって以来、日本でも、この方法によって安価なトロが大量に出回るようになりました。今では日本、地中海、メキシコでも、クロマグロの蓄養が活発に行なわれていますが、その輸出先は、ほとんどが世界一の消費国である日本です。

地中海、スペインのマグロ蓄養場。巨大な生け簀が沿岸に作られる。ここには、海から大量に獲ってきた天然のマグロが入れられる。
写真(C)WWF-Canon/Jorge SIERRA

しかし、飼育するマグロを海から獲って来るこの蓄養は、マグロ漁と同様、天然資源を利用していることに変わりはありません。
オーストラリアでは20~30kgの未成魚が蓄養のために漁獲されています。地中海ではかつて、蓄養は産卵後のやせたクロマグロを太らせて売る、という形で始められましたが、安いマグロの供給競争が激しくなってきたため、飼育のために捕獲する魚の量が増加。小型の未成魚の漁獲までもが行なわれるようになっており、資源への影響が心配されます。

日本・メキシコにおける未成魚の過剰漁獲

本マグロとして日本人に親しまれている「太平洋・大西洋クロマグロ」。今、この太平洋クロマグロの資源量が減少しています。その主な原因の一つが「未成魚の過剰漁獲」。

漁獲される太平洋クロマグロの9割以上が、3歳(30kg)未満の未成魚(漁獲尾数ベース)。漁獲された未成魚は、刺身として出回るだけでなく、養殖用種苗としても用いられます。日本では、未成魚のうち蓄養に回されるのはまだ少ないものの、2歳魚の約7割を漁獲するメキシコでは、そのほとんどが蓄養に回され、日本に輸出されています。

日本では、天然資源を用いない「人工種苗」が注目されていますが、生産技術は未だ発展途上。安定的に種苗を供給するには技術的な課題が多く、すべての種苗を人工的にまかなえるようにするには、まだまだ時間がかかります。

貴重な資源を守るために、WWFでは、太平洋クロマグロ資源を管理しているWCPFCにオブザーバーとして参加し、未成魚を含めた太平洋クロマグロの資源管理が適切行われるよう、働きかけています。

大量の餌が引き起こす問題

また、この蓄養マグロに餌として与えられている冷凍された小魚も問題になっています。

そもそも、蓄養マグロの体重を1キロ増やすためには、餌となるイワシなどの小魚が10~20キロも必要になるといわれています。
さらに、その海域にもともと生息していない魚を、海外から安く買い取り、マグロに与えている蓄養の例も少なくありません。たとえば、地中海で行なわれている蓄養では、マグロの餌に冷凍したニシンを与えたりしています。
しかし、ニシンはもともと地中海には生息していません。このような行為が、地中海の魚に新しい病気などを広げてしまう原因になるのではないかと心配されています。

資源が減っているのに、安価なトロが今もあふれている日本。一般の消費者が資源の状況を実感するのは、とても難しい状況ですが、安くて大量のマグロが並ぶ背景には、このような問題があることを、忘れるべきではないでしょう。

海上に見える輪の一つ一つがマグロ蓄養の生け簀になっている。投入される餌の量も膨大だ。
(C) WWF-Canon/Jorge SIERRA

マグロ漁による混獲の問題

漁業で目的外の生物を捕獲してしまうことを混獲といいます。たとえば、マグロ漁の延縄漁ではウミガメや海鳥が、巻網漁業ではウミガメやイルカ、獲る必要の無いマグロの幼魚が混獲されており、大きな問題になっています。仮に、一隻の漁船が混獲してしまう生物の量は少なくても、全世界で操業する漁船の数を考えると、その影響ははかりしれません。

混獲 ~「無駄」に失われてゆく命

漁業の際に、獲る必要の無い生物を、誤って捕獲してしまうことを「混獲」といいます。

混獲の犠牲になりやすいカモメやアホウドリ、ミズナギドリなどの海鳥は、食物となる魚を求めて、海上で操業する漁船の近くに集まります。漁船が捨てる不要な漁獲物や、釣り針につけた餌を狙っているためです。釣り針に付けられた餌を海鳥が食べると、そのまま針を飲み込み、死んでしまうことも少なくありません。

これらの海鳥の中には、その数1000羽ほどと言われ、日本国内の無人島に2カ所しか繁殖地が確認されていないアホウドリをはじめ、世界には絶滅の危機に瀕している海鳥も数多くいます。

また、全種が絶滅の危機にあるウミガメも、混獲されることが多くあります。水鳥と同様、餌と一緒に釣り針をウミガメが食べてしまうためです。さらに、まき網に絡まってしまう例も数多く起きています。

ウミガメは肺で呼吸する動物なので、漁具などにひっかかって長時間海中に放置されると、溺れて死んでしまいます。また、生きたまま船上に引き上げられたウミガメも、弱っている場合が多いので、再び海に放すためには適切な処置が必要となります。

ある科学者によれば、世界で年間に5万頭のオサガメ、22万頭のアカウミガメが、混獲されていると推定されています。オサガメや太平洋に生息するアカウミガメは、海域によっては年間で90%以上も個体数が減少しているといわれています。

混獲は生態系に重大な影響を及ぼすだけでなく、漁業者にとっても大きな問題です。混獲によって、本来目的の魚を漁獲するために用いる餌が無駄になったり、漁具を破損したり、また混獲した生物の救出を行なう作業が発生すると、漁業効率が下がってしまうからです。不必要な生きものを漁獲してしまう混獲は、漁業者にとっても解決しなくてはならない課題なのです。

漁具にからまり、混獲の犠牲になったオサガメ。(C) WWF-Canon/Michel GUNTHER

洋上に広く生息するアホウドリ類も、混獲の犠牲になりやすい。(C) WWF-Canon/James FRANKHAM

混獲防止の取り組み

WWFは世界の混獲を防止する取り組みの一つとして、環境にかける負荷が少ない漁具「スマートギア(賢い漁具)」コンテストを、2005年から開始しています。このコンテストはウミガメ、海棲哺乳類、海鳥、稚魚などの混獲を減らし、かつ漁業においても実用的で、費用対効果のあるアイデアを競うものです。コンテストの最初の受賞者はthe South Pacific Commission のSteve Beverlyさんで、延縄の幹縄を重くし、ウミガメが通常生息する深さよりも、さらに深く餌を沈めて、マグロやカジキを漁獲する、というアイデアでした。

サークルフック

すでに開発されている技術の普及も進められています。
たとえば、北太西洋では、延縄漁で使われる釣り針を、従来のJ型の釣り針(Jフック)から、釣り針の先が円形に曲がっている「サークルフック」に換える取り組みが進められています。サークルフックは、ウミガメが飲み込みにくく、また引っかかっても取り外しやすい形をしているため、必要な漁獲量を維持したまま、混獲を大幅に減らすことができます。

また、WWFは太平洋でも、全米熱帯まぐろ類委員会(IATTC)、アメリカ国立海洋大気庁(NOAA) などと協力しながら、サークルフックの試験を行なっています。エクアドルは地元の漁業者によるサークルフックの利用試験を支援。
Jフックをサークルフックに交換した場合の、ウミガメと魚の漁獲について情報を収集しました。また、この利用試験では釣はずし機(デフッカー)を使った、ウミガメにひっかかった釣り針を安全に取り外す訓練も行ないました。

Jフック(左)と、サークルフック(右)

東部太平洋沿岸のメキシコ、グアテマラ、エルサルバドール、コスタリカ、パナマ、コロンビア、エクアドル、ペルーでも、漁業者や他のNGO、漁業当局、研究機関と協力して、サークルフックの試験が行なわれています。

日本では水産庁の補助事業によりサークフルックのマグロ延縄船への導入が進められています。2005年度に補助事業を受けてサークルフックを導入した船は45隻。今後も導入する船が増えることが期待されています。

関連リンク:

海鳥への配慮

国連食糧農業機関(FAO)では国際行動計画(IPOA)が決議され、各国は国内行動計画(NPOA)を定めることになりました。日本の行動計画は2001年にFAO水産委員会に提出されました。

トリポールの利用

その中の具体的な方法の一つが、「トリポール」という鳥除け装置を使った延縄漁です。これは、南大洋のミナミマグロの漁場でも、現在使用することがCCSBT (ミナミマグロ保存委員会)によって義務づけられている漁具で、漁船の後ろに棒(ポール)を立て、その先から鳥除けのヒモを流し、鳥が餌のついている漁具に近づけないようにするものです。
日本の遠洋水産研究所の調査では、トリポールを使うことで、鳥の混獲率を平均3 分の1 に減らすことができるとしています。しかし、この方法は海の中に投下した漁具の上にトリポールのヒモが必ず来るように、漁船の乗務員が絶えず操作しなければならないなど、課題はまだ多く残されています。

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