「ゴーストギア調査隊」伊東市での第1回調査
2023/12/07
- この記事のポイント
- さまざまな漁業に使われる漁網や浮き、ロープなどの漁具が、海に流出することで発生する「ゴーストギア」。持ち主の手を離れ、海を漂い続けるプラスチックごみとなった「ゴーストギア」は、魚やウミガメなどを絡まったり、サンゴや藻場などに覆い被さるなど、海洋生態系に深刻な被害を及ぼしています。WWFジャパンは2023年、ダイバー、漁業者、行政と連携し、海の中で「ゴーストギア」の実態を調べる「ゴーストギア調査隊」の取り組みを開始。今回は10月25日に実施した静岡県伊東市での初回調査の模様を報告いたします。
伊東市での初回調査について
海洋に流出した「ゴーストギア」と呼ばれるプラスチック製の漁具が今、自然に分解されないまま海を漂い続け、獲る必要のない魚や海鳥などを大量に絡ったり、堆積して海底を覆ってしまうなどの影響をもたらす世界的な問題になっています。
その影響は、海洋生態系のみならず、水産資源の減少なども引き起こすことで漁業にも及んでおり、早急な対策が求められています。
しかし、流出したゴーストギアが、どのような形で被害を及ぼしているのか、その実情についてはまだほとんど調べられていません。
そこでWWFは2023年7月、これを調査する「ゴーストギア調査隊」の取り組みを開始。地域の自治体、漁業関係者、ダイバーの方々と協力しながら、静岡県西伊豆町と伊東市の2つの地域で、調査活動に取り組み始めました。
伊東市では2023年10月25日に、富戸地区で第1回目の調査を実施。
今回の調査は、伊東市産業課、いとう漁業協同組合富戸支所、城ケ崎海岸富戸定置網株式会社と調査を行なうマリンステージ富戸、城ケ崎インディーズの協力のもと、ダイバー2名、船員1名、WWFスタッフ2名の計5名で取り組みました。
調査地点
今回の調査は、伊東市富戸地区で特徴的な溶岩が作る地形「根」(磯から傾斜して続く岩礁や水中に沈んでいる岩礁)が集まるエリアで行なわれました。
「根」の周辺では海流に変化が生まれ、小魚が集まりやすく、その小魚を狙った魚が集まることや、岩礁付近にはイセエビがいることから、良い漁場となっているとのこと。また、磯釣りのポイントにもなっています。
調査の様子と確認したゴーストギア
調査海域の海底は大半が岩場で、水の透明度は低く、視認距離は5m程度。
調査では、ダイバー2名が確認と記録をそれぞれ分担し実際に泳ぎながら、海底にひっかかっていたり、海中を浮遊しているゴーストギアを視認する形で行ないました。
約1時間におよび行なわれた今回の調査では、合計6点の海底ごみを確認。その全てが、釣り糸(ライン)でした。
これらのラインの大半は、藻類が付着しており、一定以上の時間が経過したものと思われる一方、ルアーがついたものや、生きたサザエに巻き付いていたもの、さらには10m以上あると推測されるものが多く認められました。
また、地元の主要な漁業で使われるエビ網については、破片も含め、海中では確認されませんでした。
認められたゴーストギアによる海の自然への影響
伊東市での初となった今回の調査は、周辺海域のごく一部を調査したにすぎず、伊東市近海の海底ごみの全貌を示したものではありません。
また、発見されたゴーストギアも、磯釣りなどで使用されている釣り糸で、ボリューム的にも大きくはありませんでした。
しかし、それが生きたサザエや海底の岩に絡みついているなど、突起の多い生物や地形には直接的に影響を及ぼし、生態系を攪乱している可能性が確認されました。
また、釣り糸は細くて見えにくく、切れにくい上に針などが付いているケースもあり、経験を積んだダイバーでも回収には危険が伴います。
何より、その素材は自然分解することのないプラスチック製ですから、こうした海洋生態系への影響や人への危険が、長期にわたり続くことが懸念されます。
今回、伊東市で行なわれたゴーストギア調査隊調査は、伊東市、いとう漁業協同組合富戸支所、城ケ崎海岸富戸定置網株式会社、ならびにダイバー、研究者の方々など、さまざまな関係者のお力添えをいただき、無事に行なうことができました。
伊東市では今後3回(全4回)の調査を予定。
さらに実態を確認しつつ、発見された海底ごみの回収などを行ない、より持続可能な水産業や海に関連した地場産業の活性化につなげていきたいと考えています。
また、WWFジャパンは先行して取り組んでいる西伊豆町での調査データを積み重ねて、これまでよくわかっていなかったゴーストギアの実態を把握しつつ、他の自治体での「ゴーストギア調査隊」の活動展開や、海洋プラスチック問題の根本的な解決に向けた政策提言などにも取り組んでいきます。