佐賀県による田んぼの生物多様性保全の取組み

この記事のポイント
ニッポンバラタナゴやセボシタビラ、ヤマノカミなど、絶滅が懸念される日本産の淡水魚が今も生き残る九州北部。その生息環境である水田およびそれをとりまく水路といった「二次的自然」を、いかに保全するかが今、日本の自然保護における大きな課題になっています。そうした中、2018年12月に佐賀県庁が、WWFジャパンと九州大学による最新の調査結果を、県の希少野生生物のデータベースに採用・反映しました。このデータベースは、県が行なう公共工事において配慮すべき希少な野生生物の生息状況をまとめたもので、これが充実することにより、開発が実施される前の事前点検や検討、配慮がより良い形で実施されることになります。

福岡、佐賀、熊本3県の水田地帯 149カ所での魚類調査

佐賀県、福岡県、熊本県にかけて広がる、豊かな水田地帯。
ここをめぐる水路や田んぼの自然は、この地域にしか生息していない固有種などを含む、日本を代表する貴重な淡水魚の生息域です。
その広さは国内でも最大級の規模を誇りますが、現在は各地でその自然が失われており、生息する魚類の多くが、環境省のレッドリストで最も絶滅危機の高い「CR(絶滅危惧1A類)」などに選定されています。

Rhodeus ocellatus kurumeus  ニッポンバラタナゴ コイ目コイ科

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ところが、こうした在来の淡水魚の生息状況や、ブルーギルやタイリクバラタナゴといった外来生物が、どれくらい生息範囲を広げているのか、といった情報は、現在十分に把握されておらず、効果的な保全のための対策が打てない状況でした。
そこで、WWFジャパンは、九州大学の鬼倉徳雄先生のご協力のもと、2017年8月から3県の水田地帯の約149カ所で、淡水魚の調査を実施。その最新の結果を基に、特に重要な生息地を明らかにした地図を作成する、共同研究を行なっています。

佐賀県内の美しい水田地帯

この調査では、希少種や外来種を含んだ淡水魚のみならず、水生昆虫、水生植物の生息地情報も把握。
調査を行なった各地域において、どのような生物相が現存しているかを明らかにしてきました。

九州大学鬼倉徳雄先生と大学院生による現地調査。投網で魚の捕獲と同定を試みます。

水路での調査。場所によっては水深が2m近くあるので、ウェットスーツがかかせません。時には潜水調査も。

佐賀県庁による先進的な生物多様性保全の取組み

こうした地図情報は、貴重な生物が生息する水田環境が改変、開発される計画や可能性が出てきた際に、どのようにその生息や生育に配慮すればよいのか、事前に対策を立て、影響を回避する手立てを考える上で、有効なツールとなります。

そこでWWFジャパンでは、調査対象となっていた3県の中でも、先進的な取り組みを志向している佐賀県庁に、調査によって得られた情報を提供。特に、県内で計画される公共事業に際し、十分な生物多様性の保全が行なわれるよう、役立ててもらうことにしました。

実際、佐賀県庁では、公共工事による生物多様性保全の取組みを進めるため、公共工事等自然環境保全対策事業を実施しています。これは、県が公共事業を進める際、事業を行なう予定地に、絶滅危惧種が生息しているか、いないかを事前に確認するシステムで、開発案件ごとに配慮が必要かどうか確認できるよう、絶滅危惧種の生息地情報をまとめたデータベースが整備されています。

図1 要注意地区メッシュコードのイメージ。データベースは、県内を1km×1kmメッシュに区切り、一つ一つに番号(=コード)をつけて管理しています。絶滅危惧種が確認されたコードは、要注意地区メッシュコードとして、絶滅危惧種の種名を確認できるようになっています。

しかし、哺乳類や鳥類、両生類、爬虫類、魚類はもとより、昆虫などの無脊椎動物や、植物までをも含めた、野生生物の全分類群について、県内に生き残っている絶滅危機種の生息情報を更新し続けることは大変な作業とコストを要します。
野生生物の最新の生息情報を調査し、手に入れることも、容易なことではありません。このため、佐賀県庁では出来る限りの努力を傾けて情報を追加し、データベースを整備・運用してきました。

それでも、そうした情報には、過去の公共工事等における調査データ等を蓄積したものも多く、調査対象としてデータが得られたエリアも限られていました。地域によっては、情報が古いまま、更新できなかったこともあったといいます。
こうしたデータベースに情報のない場所で新たに公共工事が行なわれ、結果として、希少野生生物のすむ水田環境が改変されたり、開発が進められたりしてしまう事例もありました。
正確で新しい野生生物についての情報の不足が、こうした問題につながる一つの要因になっていたのです。

強化された佐賀県庁の絶滅危惧種データベース

そうした中、佐賀県庁では今回、WWFジャパンと九州大学が提供した調査結果の採用を決定。データベースの更新情報として、その内容が活用されることになりました。

県の公共工事等自然環境保全対策事業の基礎となるデータベースの管理と活用に、佐賀県庁が積極的に取組み、人の管理によって成り立つ「水田」という扱いの難しい二次的自然の保全を目指す姿勢は、同県下に広がる貴重な水田・水路の生物多様性を保全する上でも、きわめて高い効果が期待できるものです。

特に、有効性があると考えられるのは、次の2点です。

1 最新かつ詳細な野生生物情報による事前点検・検討・配慮が可能に

公共工事等自然環境保全対策事業では、事前点検時にデータベースを確認するほか、必要と認められた場合は専門家を含む検討委員会を立ち上げ、必要な配慮策を検討していきます。データベースが更新されたことで、最新の分布情報にもとづき、検討・配慮が実施されることになります。
特に佐賀県の水田地帯に国内最大級の生息地が残っているカワバタモロコ(環境省レッドリスト:EN=絶滅危惧1B類)の保全は喫緊の課題であり、最新の科学的知見にもとづいた保全が進められることは、日本の生物多様性保全の観点からも、きわめて重要なことです。

© Jun Nakajima

カワバタモロコ コイ目コイ科
6月は婚姻色で黄金色となるとても美しい淡水魚。英名はゴールデン・ビーナス・チャブ。チャブは英語でコイ科の淡水魚。WWFジャパンと九州大学が調査を進める佐賀県、福岡県、熊本県の水田地帯が国内最大級の生息地。河川などにはほぼ生息しておらず、九州では人が作った田んぼの水路のみにほぼ生息環境が限定される。こうした水路の改修や開発により、絶滅が危惧されている。

2 新たに22の要注意メッシュコード(計22km2)が追加された

今回データを更新したことで、前年度と比較して、22km2分の、要注意地区メッシュコード(=絶滅危惧種が確認されたエリア)が増えました。これによって、今まで検討されなかった可能性のある生息地についても、事前のより詳細な点検・検討・配慮が、科学的知見にもとづいて実施されることとなります。

表1 年度別注意地区メッシュコード数

国内でも有数の豊かさと貴重な生物相を誇る、佐賀県内で水田・水路の環境保全を推進することは、日本の水田の生物多様性保全を進めていく上でも、重要な役割を果たすものです。
WWFジャパンは九州大学との調査で得られた生物についてのデータが今回、こうした佐賀県としての試みに有効な形で取り込まれ、活用されたことを歓迎すると共に、同県による取り組みがより積極的に行なわれようとしていることに大きな敬意を表しています。
そしていずれ、この取り組みが近隣の各県はもとより、日本全国で実現されるようになるよう、活動を継続していきます。

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