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スマトラ島の森を守る、パーム油の小規模農家支援

この記事のポイント
世界一消費されている植物油であるパーム油。総生産のうち約40%を担うのは「小規模農家」と呼ばれる約300万人の生産者です。過去数十年にわたり、パーム油の生産は、大規模な森林破壊などの問題を引き起こしてきました。これを食い止めるためには、小規模農家の人々と共に取り組んでゆくことが欠かせません。2014年からWWFジャパンがWWFインドネシアと協力して実施してきた小規模農家の支援の進捗を報告します。

森林減少とパーム油の生産

パーム油は、日本では2番目に多く使用されている植物油です。
即席めんや、菓子パン、ポテトチップスなどの加工食品に80%以上使用される一方で、洗剤や化粧品にも使用され、生活に欠かせない油となっています。
総生産の約85%を担うインドネシアやマレーシアでは、これまでアブラヤシの農園(プランテーション)開発により熱帯林が大規模に消失し、国際的な問題として叫ばれてきました。

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© naturepl.com / Anup Shah / WWF

原生林をすみかとするオランウータン。森の消失と共に、野生動物の命も失われてきた。

この問題に対し「パーム油を使わなければ良い」という意見がありますが、これは必ずしも問題の解決にはなりません。
理由は、パーム油が現状、地球上でもっとも効率よく生産できる植物油だからです。
他の作物から植物油を採ろうとすると、さらに広い土地が必要になるため、さらなる森林破壊に繋がる恐れがあるのです。

そこで、持続可能なパーム油の生産と利用が当たり前になることを目指して、WWFは「RSPO(持続可能なパーム油のための円卓会議)」の発起を提唱。2004年に企業や関係団体とともに、その設立を実現しました。

現在、世界で流通するパーム油の約19%がRSPO認証油、つまり野生動物の生息地などの貴重な森を切り拓かず、持続可能に生産されたパーム油に切り替わっています。

RSPOの認証油マーク

そして今後、さらにパーム油の生産を持続可能にしてゆく上で、重要な役割を担うのが「小規模農家」と呼ばれる人々です。

小規模農家の人々の特徴は、農園の作付面積が約2ヘクタール前後であること、専業農家であること、また主に家族経営であることなどが挙げられます。

小規模農家が生産地域で抱える問題

パーム油の原料は、農作物であるアブラヤシの実。
その生産を担っているのは、主にインドネシア、マレーシアを中心に広がる、数千~数万ヘクタールに及ぶ、大企業による大規模なアブラヤシのプランテーションです。

しかし一方で、世界で流通するパーム油の約40%は、約300万人の小規模な農家により生産されています。

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小規模農家が生産した、小さなアブラヤシの果房。

©RSPO

大企業が生産する果房は、小規模農家の生産した果房より、一回り大きい。

小規模農家と大企業、大きな違いは、その「生産性」にあります。
これは小規模農家に、その生産性を大きく左右する肥料や除草剤を購入する資金、また栽培に関する十分な知識がないことなどが原因です。
個人経営で取引できる総量も少ないため、直接搾油工場に販売することができず、仲介業者に安い価格で売らざるを得ない状況もあり、収益の低さに悩まされている農家も少なくありません。
そして、収益を上げるために、農園面積を広げ収量を増やそうと、新たに森林を伐採してしまうケースも発生していました。

これまで、大企業が保有する搾油工場や農園を中心にRSPO認証取得の取り組みが広がってきていますが、小規模農家の人々が認証取得に取り組むには、根本的に知識が不足している状況にあるため、サポートが必要とされていたのです。
そこでWWFジャパンは、WWFインドネシアと共に、小規模農家が森を破壊することなく、持続可能なパーム油の生産に取り組めるよう、2014年からスマトラ島、リアウ州での活動を推進してきました。

スマトラ島 リアウ州での取り組み

スマトラ島は、インドネシアの西端に位置する熱帯の島です。

首都ジャカルタからスマトラ島の中央、リアウ州の街の空港に移動するとき、飛行機の窓からの景色は、地平線の奥まで続く一面のアブラヤシ農園へと切り変わります。

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アブラヤシ農園の多くは、かつてスマトラトラやスマトラゾウといった象徴的な野生動物のすみかとなる、生態系豊かな熱帯林が広がっていた地域だった。

野生のアジアゾウやトラの生息する低地熱帯林が広がっていたリアウ州は、農地転換の容易さなどから、インドネシア国内でも、アブラヤシ農園の開発が爆発的に進んできた地域でした。
また同州では、国立公園内などで違法に栽培されているアブラヤシ農家から生産された果房が、搾油工場に運び込まれ、そこから日本をはじめ、世界中に輸出されていることも、WWFインドネシアも含めたNGOの連合組織「アイズ・オン・ザ・フォレスト(EoF)」の調査により分かっています。

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リアウ州は現在、パーム油生産量世界一の地域となり、国立公園の中でさえも、不法占拠者によりアブラヤシ農園が運営されている状況にある。(同州内にあるテッソ・ニロ国立公園)

スンガイブル村の農家の人々

リアウ州の首都から車で移動すること約4時間、人口6,000人のスンガイブル村には複数の小規模なアブラヤシ農園が点在しています。

2014年からこれまで、WWFは村内で、合計152.60ヘクタールの農園を経営する82名の生産者による組合を設立し、農園の地図の作成や、持続可能な農法の普及トレーニングなどを実施してきました。

トレーニングの中で利用されてきたツールがRSPOの原則と基準です。この原則と基準には環境的、社会的、また経済的にもベストとなる農園の運営方法が盛り込まれています。

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これまでは慣習的に、除草剤を農園のすみずみまで撒くことが「良い農園の管理方法」とされてきた。RSPOでは除草剤の利用は最低限に抑えることが推奨される。(向かって左が認証対象農園、下草が残っている。右は赤茶色く下草が枯れている。)

©RSPO

若い果房は油の含有量が少ない一方で、古い果房は地面に落ちると実がバラバラになるため、収穫のタイミングは非常に重要である。しかし、これまでは「なんとなく今」という農家の感覚に頼る目安で採集されていた。RSPOの推奨では「アブラヤシの果房から実が地面に3~5粒零れ落ちたら収穫する」という明確な目安がある。

組合の設立により、除草剤や肥料をまとめて購入したり、各農園から収穫した果房をまとめて搾油工場へ販売したりすることも可能になりました。

©WWFジャパン

トレーニングの中では、森林の持つ価値も研修し、保全するべき自然の位置も実地で確認する。

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アブラヤシの果房は採集されてから24時間以内に搾油しないと油の質が劣化する。各農家の収量は少ないが、組合でまとめて採集、販売することで、仲買業者を通さずに、搾油工場と取引できるようになった。

これまでの取り組みから、組合の農家の収益は平均で74%上昇。油を搾るアブラヤシの果房の質も量もよくなっているため、買い取り価格も86%上がっています。
そして2018年、10月にはRSPOの本審査を実施、2019年にはRSPO認証を取得することが見込まれています。

現地の人たちの声

©WWFインドネシア

スマトラゾウ(Elephas maximus sumatranus)は、絶滅の危機に瀕している。原因の一つが、パーム油を生産するためのアブラヤシ農園の拡大による熱帯林破壊。

マンデリアソシエーション生産組合の代表ジュナイディさん
©WWFジャパン

ジャワ島から移民としてやってきたジュナイディさんは、マンデリ生産組合の代表者。(マンデリはインドネシア語で「独立」という意味。)

「22年前、僕が初めてこの村に来た時は、村の近くでも、ゾウの声が聞こえていました。それが、やがて聞こえなくなってしまった。でも、RSPOの話を聞いたとき、ゾウのことを思い出して、ぜひやってみようと思ったんです。村の他の農家の人々からも理解を得ていくのは大変でした。RSPOのことを知らない人がほとんどでしたから。でも、今は組合の仲間がいます。みんなで一緒にRSPO認証取得を目指して頑張っています。」

WWFインドネシアの現場担当者レタ
©WWFジャパン

「これまでの道のりは、決して平坦なものではありませんでした。アブラヤシ農家の人々は、あくまで農家であり、森林保全の専門家でも、経済学者でもありません。持続可能性という考え方は、彼らにとって新しいものなのです。生産方法を変えていくことが、自分たちの未来の世代にも関わることを知ったとき、森や自然の大切さにも気付いてもらえるのだと思います。」

こうした現場の取り組みを支えるのは、消費の力であり、責任でもあります。
年間約70万トンものパーム油を輸入し、消費している日本にとっても、これは深いかかわりのある問題です。

WWFでは、生産地域と一体となる取り組みをインドネシアでも推進しながら、日本でもパーム油を調達し、製品を生産している企業に、RSPO認証の油を使うよう働きかけています。
国境を越えた立場から、WWFはこれからもRSPO認証をツールとした持続可能なパーム油の生産と利用の拡大を、推進してゆきます。

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