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石垣島・白保のリゾートホテル開発計画が訴訟問題に

この記事のポイント
南北約400m、東西約200mにわたる世界最大規模のアオサンゴ群集が残る、沖縄県石垣島・白保のサンゴ礁の海。しかし、この海を目の前にした地区で、現在、新たなリゾートホテルの建設が計画されています。この計画が実現すると、貴重なサンゴ礁生態系に悪影響を与えることが強く懸念されるため、WWFジャパンは2017年12月、沖縄県に対し開発を許可しないよう要請を行ないました。そして2018年9月20日、地域の住民によるグループが、ホテル建設の中止を求める訴状を、那覇地方裁判所石垣支部に提出しました。
目次

白保でのリゾートホテル開発計画

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120種以上の造礁サンゴと300種以上の魚類など生物が生息している、石垣島東海岸のサンゴ礁海域、この白保の海は、国内外で重要な生態系の一つとして位置づけられ、沖縄では貴重となった、サンゴ礁浅海域の多様な生態系がのこる場所です。

特に、白保集落から北部にかけての沿岸域には、北半球で最大最古ともいわれるアオサンゴの群落があり、またその海岸は、アカウミガメ、アオウミガメ、タイマイの三種のウミガメが産卵地する浜となっています。

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また、南北2.6kmに広がる、サンゴ礁を含めたこの白保沿岸の海域と、それに面した陸域の一部は、西表石垣国立公園の海域公園地区にも指定されているほか、沖縄県自然環境の保全に関する指針でも、最も保護の必要性が高い「自然環境の厳正な保護を図る区域」に指定されています。

このサンゴ礁に接する土地で、沖縄県の株式会社日建ハウジングの子会社である、株式会社石垣島白保ホテル&リゾーツが、石垣市に開発許可を申請したのは、2017年11月のことでした。

この計画は、人口約1600人の白保集落に、年間10万人宿泊規模のリゾートホテルを建設するというもの。特に、ホテルからの排水が地下水を通じてサンゴ礁の海に影響を及ぼすことが懸念されます。

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石垣市は、条例に基づく審査の結果「不同意」と判断し、WWFも開発許可の決定機関である沖縄県に対し、許可しないよう要請をしましたが、県は2018年3月28日付で、開発許可を交付してしまいました。

地域の見解と動き

この計画に対し、2017年11月24日に白保公民館で開催された地域住民の臨時総会では、本開発計画への「不同意」を決議。

さらに、2018年9月20日、白保海域で漁業を行なっている漁業組合の関係者や、サンゴ礁でのシュノーケル・ツアーを営む地元業者が原告となり、ホテル建設の中止を求める訴状を、那覇地方裁判所石垣支部に提出しました。

原告側が求めているのは、地域の漁業、観光業および住民生活に対する権利の侵害を理由とした、事業の差し止めの請求です。

この訴えの中で原告側は、これまで白保のサンゴ礁が、白保地域の生活文化と深く結びつき、多くの人たちの支えによって守り継がれてきた経緯と、リゾートホテル開発計画が予定地に接する海岸では、豊かな自然がのこり、県や国でも重視する保護区となっている現状、そしてその豊かな自然に支えられて漁業や観光業などの地元の生業が行われていることを説明。

その上で、地下浸透方式による下水処理によるサンゴ礁海域への汚水の流入、ホテルの光によるウミガメ産卵行動への悪影響、宿泊客の過剰利用による当該海域の環境破壊や光害による星空観察への影響などの懸念点について詳細に説明を行なっています。

2018年9月20日に石垣島の大濱信泉記念館で開催された、原告側による記者会見には、地元のメディア関係者が多数参加。八重山地域としての関心の高さがうかがわれる結果となりました。

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健全なサンゴ礁生態系の機能を保全するためには、サンゴ礁の浅い海域に加え、周辺の陸から海にかけての連続性、また地下水などを含めた水の流れの連続性が、一体として、健全に保たれる必要があります。

WWFジャパンも引き続き、事前の十分な調査と実効性・継続性のある解決策の提示、その結果を検証・合意することがないまま、また何よりも地域の見解を無視した形で、この計画が進められることの無いよう、働きかけを続けてゆきます。

追記:裁判の終結について(2020年1月30日) 

2020年1月28日、白保リゾートホテル建設計画(以下、「建設計画」と表記)に対して白保地域の有志の漁師、スノーケル事業者7名が原告となり継続されていた裁判が結審しました。

しかし、建設計画に対して原告団が求めている環境や社会への配慮の改善は現在のところ確認されておらず、白保地域の環境や地域社会に対して与える影響への強い懸念は変わっていません。

原告団ならびに原告を支援する有志の団体である「白保リゾートホテル訴訟を支援する会」も、引き続き建設計画に対し強い懸念があることを、あらためて強調しました。

特に、裁判で大きな争点となってきたのは、建設計画にあるホテルの排水の処理計画をめぐる対応です。

この問題は、実際にホテルから排出される排水が海に流れ込むことで、サンゴ礁生態系への直接的な悪影響と、それに伴う漁業や観光業といった原告団の生業に、影響が及ぶことが懸念されていました。

しかし、裁判を続ける中で下記のような事実が明らかになったことから原告団は請求の取下げを決定しました。

1)裁判の進行の中で、現在の建設計画では排水処理の方法について法令で求められる要件を満たすことができないことが明らかになったこと。また、被告((株)日建ハウジング)もその事実を認めたこと。

2)白保リゾートホテル訴訟を支援する会が沖縄県に確認をしたところ、今回の排水計画の変更には「開発許可の変更許可」が必要となり、沖縄県に対する新たな許可申請が必要になると考えられること。そのタイミングで、再度計画の見直しを求めることが可能であること。

3)現在、(株)日建ハウジングは、建設計画の変更について内容を確定しておらず、排水計画については実施不可能な計画のみが開示されている状態であることから、裁判を継続しても有効な審理を行うことが出来ないこと。

以上の経緯から、このまま裁判を継続しても、原告としては期待した結果が得られないと判断。原告団として訴えの取下げを申し立てました。

この訴えの取下げの申し立てに対し、(株)日建ハウジングが同意せず、かつ裁判の継続を望まなかったため、裁判所が結審を決定。最終的な判決の言い渡しは2020年3月3日に予定されており、請求の却下が言い渡される見込みであると、原告側は報告しています。

原告と白保リゾートホテル訴訟を支援する会は、取下げの申し立てにあたり、この裁判の終結が、問題の解決ではないことを強調。

また今後、(株)日建ハウジングによる建設計画の変更、変更後の計画による建設を行政に再度申請することが予想されることから、引き続き地域の生活や社会環境、自然環境などへの影響を精査し、新たな計画に対する提訴も含めたさまざまな働きかけを行なっていく姿勢を明らかにしました。

2020年3月の判決をもって白保リゾートホテル問題に関する裁判は終結を迎えます。
しかし、残念ながら、排水処理の方法を含め計画の多くが未決定な現状では、同計画による白保の自然環境や白保の地域社会への影響の懸念が払しょくされたとは決して言えません。

WWFも、引き続きの情報収集、発信にあたるとともに、開発企業や関連の行政機関に対し、科学的、社会的な事前の十分な調査と課題の整理、実効性・継続性のある解決策の提示、その結果を検証・合意することがないまま、また何よりも地域の見解を無視した形で、この計画が進められることの無いよう、働きかけを続けていきます。

参考

追記:白保リゾートホテル問題をめぐる裁判に判決(2020年3月4日)

2020年3月3日、白保リゾートホテル建設計画(以下、「建設計画」と表記)をめぐり、白保地域の有志の漁師、スノーケル事業者7名が原告となり継続されていた裁判に対して、那覇地方裁判所が「訴えの却下」を判決として言い渡しました。

判決によると、被告による建設計画のうち、裁判の中で議論が行われてきた排水処理の方法について、現在の被告の計画では法令によって求められる要件が満たされず、このままでは建設計画を実施出来ないことが、裁判の中で判明。その上で、計画を実施するために必要な計画の変更については現時点で確定しておらず、建築を進行させられる見通しが現状たっていないと認められ、裁判を継続しても原告に「訴えの利益」がないと判断されたために、今回の判決が下されたとのことです。

今後も、(株)日建ハウジングによる建設計画の見直し、計画の再進行が行われる可能性が残されています。WWFジャパンは建設計画の見直しについて引き続きの情報収集を継続するとともに、計画が白保地域の豊かな自然環境や地域の社会環境へ負の影響を及ぼさないよう、関係各所に働きかけを続けて参ります。

(2020年3月4日更新)

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