石垣島白保ホテル建設計画に関する意見書


意見書 2017年12月6日

沖縄県知事 翁長雄志 殿

公益財団法人 世界自然保護基金ジャパン(WWFジャパン)

平素より、沖縄県下における生物多様性の保全にご尽力を頂き敬意を表します。
今般、表題の件につき、1980年から石垣島を含む南西諸島において活動を行ってきた当団体の見解をお伝え申し上げたく、本意見書を送付させていただきました。

現在、石垣島白保で計画されているホテルの建設計画(以降、本事業)は、事業主体である㈱石垣島白保ホテル&リゾーツ(㈱日建ハウジングの子会社)が開発許可を申請し、石垣市の審査を経て、沖縄県に進達している段階にあると認識しております。その実現によって沖縄が誇る世界的に貴重なアオサンゴ群集をはじめとした自然環境への悪影響が懸念されることから、当会としては現計画を容認できません。

事前の十分な調査と実効性・継続性のある解決策の提示、その結果を検証・合意することがないまま申請を許可しないよう求めるものです。

WWFジャパンでは、1980年の世界自然保護戦略(WWF、IUCN、UNEPにより策定。環境省が翻訳)において、南西諸島が世界で優先して保全すべき島嶼生態系として同地域を選定して以降、保全上重要な地域として保全や普及啓発活動に取り組んできました。また、1996年には、WWFネットワーク全体で取り組むべき生物多様性の重要地として、世界の238地域(グローバル200)を指定しましたが、日本が含まれる3つの指定地域のうち、石垣島を含む南西諸島はその重要なエコリージョン(自然環境を広くとらえ、生物多様性、固有性、特異性などの観点で選出した生態系)の一つに選ばれています。

事業計画地は、WWFジャパンが多くの研究者らと取りまとめた「WWF南西諸島生物多様性評価プロジェクト」において、南西諸島の中でも海域の生物群重要地域として高い評価となっています。事業計画地である石垣島白保海岸に接するサンゴ礁海域は、西表石垣国立公園の海域公園地区に指定されており、造礁サンゴ類を中心とする多様な生き物が棲息する海域です。この海域では、世界最大級のアオサンゴ群集が存在します。

このアオサンゴは、2008年、国際自然保護連合(IUCN)とコンサベーション・インターナショナル(CI)の合同調査による「世界海洋生物種アセスメント」において、IUCNレッドデータブック(RDB)「絶滅危惧II類(VU)」に値すると評価されており、世界的に絶滅が危ぶまれているサンゴです。また、石垣島の東海岸は、環境省のレッドリスト掲載種(絶滅危惧種)であるアカウミガメ、アオウミガメ、タイマイの三種類のウミガメの産卵が確認されており、世界的に必要と求められているウミガメの保護にとっても非常に重要な海岸です。 

また、この海域に接する人口約1600人の石垣島白保集落では、古くからこのサンゴ礁の恵みを利用し、食材の採集やサンゴの石で石垣を積むなど、サンゴ礁とかかわりの深い生活を続けています。WWFジャパンのプロジェクトでは、自然保護だけでなくサンゴ礁の恵みを大切にしつつ進めてきている経緯もあり、その重要性を生態系サービスの面からも認識してきたところです。

このように、事業計画地は生物多様性の観点から非常に重要な場所であることに加え、地域住民はその恩恵とともに白保集落の生活と文化を継承してまいりました。

しかしながら、石垣島白保ホテル(仮称)プロジェクトでは、サンゴ礁をはじめとする自然環境への悪影響を科学的に把握することなく、この海域に接する土地に、地上4階建て年間10万人宿泊規模のリゾートホテルをする計画が進められています。WWFジャパンでは、以下3点から本事業が貴重なサンゴ礁生態系やサンゴ礁を利用する生き物に多大な影響を及ぼすことを危惧しております。

一点目は、排水による悪影響についてです。本事業計画では、ホテルで使用した排水を浄化槽で処理し、地下浸透させる計画となっております。計画で示されている排水の栄養塩類の値は、健全なサンゴ礁における値を大きく上回るものであり、目前のアオサンゴ群集への影響、またサンゴ礁生態系への影響が及ぶ恐れがあります。

二点目は、ホテルが常時放つ光による悪影響についてです。事業計画地はウミガメの産卵地となっていますが、海岸へホテルの光が届きウミガメの産卵行動を妨げる恐れがあります。地域住民を対象とした説明会の場において、地元からのウミガメの産卵への影響への質問に対して事業者は、十分な対策をしないまま、効果が不透明な解決策しか提示されていない状況であり、地元の合意を得るような根本的な解決策を提示するには至っていません。

三点目は、宿泊客によるサンゴ踏み荒らしや熱帯魚の違法採集による悪影響についてです。計画地目前のサンゴ礁では、地元の遊漁船とエコツアーの事業者は「白保魚湧く海保全協議会」を設立し、観光客が安全に利用し、サンゴ礁生態系に負荷がかからないルール「保全利用協定」を定めて運用しています。この取組みは、沖縄県の保全利用協定にも指定されています。一方事業者は、計画地の隣地から宿泊客を浜に出すことも想定しています。無秩序に多くの宿泊客が海に出るようなことになれば、サンゴ踏み荒らしや熱帯魚の違法採集など、サンゴ礁生態系に及ぼす影響は計り知れません。

上記の点から、本事業は、貴重なサンゴ礁生態系やサンゴ礁を利用する生き物に多大な影響を及ぼすことが予測され、容認できるものではありません。

さらに本事業は、地域としての合意が得られないままに計画が進んでいる点も問題と考えます。事業者である㈱石垣島白保ホテル&リゾーツが開催した白保公民館への説明会では、事業者は「地域の皆様の理解を得ながら進めていきたい」と明言しました。

しかしながら、事業者は白保公民館における住民の決議がないまま、開発許可申請を行ない、2017年11月に石垣市の条例に基づく審査の結果、「不同意」として現在沖縄県に進達されております。さらに、平成29年11月24日、白保公民館は臨時総会を開催し、本事業に対して「不同意」であることを住民の総意として決議しました。

上記の点から、本事業は、地域としての合意が得られないままに計画が進んでいる問題があると考えています。

以上のような背景を踏まえ、WWFジャパンは本事業において以下の意見を提出いたします。

  1. 沖縄県は、事業者が事業における計画地周辺を含めた自然環境への悪影響を科学的に把握・公開し、実効性のある保全策が示されることなしに開発許可申請を許可しないこと
  2. 沖縄県は、本事業に強い関心を持つ地域住民をはじめとした複数の関係者と事業者が多様な視点で検討・検証し、複数の関係者が本事業に合意することなしに開発許可申請を許可しないこと

上記の意見が達成されていない事業に対して県が開発を許可とすることは、自治体及び沖縄21世紀ビジョンに謳われている、豊かな自然を次世代に送りつなげるという基本理念を蔑にするものです。WWFジャパンは、住民及び全国で反対の意思を表明する方々と共に沖縄県が世界有数の生物多様性をもつ事業計画地に対する真摯な対応を取るよう強く求めます。

本件に関する連絡先:WWFサンゴ礁保護研究センター 鈴木倫太郎 0980-84-4135

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