大西洋クロマグロの国際取引禁止提案が否決


2010年3月25日、カタールで開催されている、ワシントン条約の締約国会議の委員会で、「大西洋のクロマグロの国際的な取引を一時的に禁止すべき」とする提案が否決されました。枯渇の危機が指摘される、地中海を含めた大西洋のクロマグロ資源管理のゆくえが、あらためて問われようとしています。

否決された取引禁止提案

2010年3月13日から25日まで、中東のカタールで、ワシントン条約(絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約:CITES)の第15回締約国会議(COP15)が開催されました。

この会議の中の第一委員会の会合で、3月18日午後、モナコ公国により出されていた、「地中海および大西洋のクロマグロ(本まぐろ)の国際的な取引を一時的に禁止すべき」とする提案が、否決されました。

この提案は、久しく資源の枯渇が懸念されてきた、大西洋(地中海含む)産のクロマグロを、ワシントン条約の附属書1に掲載し、国際間の貿易について、「一時的な禁輸措置」を取ることを求めたものです。

第一委員会の会議では、提案書の発表と数カ国がこれに対する短い意見表明を行なった直後、提案に反対するリビアが即時票決を求め、その結果、議決に必要な賛成票が得られず、提案は否決。
3月25日の正式の本会議には再度提案されなかったため、これが確定しました。

「本まぐろ」の名で知られるクロマグロ

スペインのクロマグロ蓄養場。捕獲したクロマグロをここで太らせて、日本などに出荷している。

なぜマグロがワシントン条約に?

この提案の否決は、大西洋クロマグロの8割を消費している日本の政府代表と、日本にマグロを売っている、地中海沿岸諸国が求めていた結果でした。
その理由は、マグロのような漁業資源がワシントン条約で規制されると、輸出入の量が制限され、消費や経済活動に悪影響を及ぼす可能性がある、と懸念しているためです。

しかし、このような主張が強く発信される一方で、そもそもなぜ、ワシントン条約にクロマグロが登場することになったのか、その理由については、十分に認知されていません。

もともと、大西洋・地中海のクロマグロは、国際機関のICCAT(大西洋まぐろ類保存国際委員会)により、資源と漁業の管理が行なわれ、各国が漁獲してよい資源量などを取り決めてきました。
しかし、資源量などを調査しているICCATの科学委員会が発した、「このままの漁獲を各国が続ければ、大西洋クロマグロの資源が枯渇する」という警告にもかかわらず、マグロで利益を得ているICCATの加盟諸国は、科学委員会が示す「持続可能な資源利用のレベル」を超えた漁獲枠を要求。クロマグロを獲り続けてきました。
さらに、合意した漁獲枠についても、一部の国がこれを守らずに過剰な漁獲を行なうなど、違法な漁業も跡を絶ちません。

このため、本来、地中海・大西洋クロマグロの漁業管理と、持続可能な資源利用を推進する主体であるはずのICCATは、事実上その効力を失ってしまいました。

そこで、マグロの資源保護を求める一部の国は、ICCATに加えた国際的な討議の場として、野生生物の国際取引を規制する「ワシントン条約」への提議を決定。今回の会議での提議と、その支持を表明したのです。
事実、モナコの提案は、あくまでも「ICCATが健全化することを促すため」、地中海・大西洋クロマグロを附属書1に載せ、「一時的な禁輸措置を取ろう」というものでした。

地中海・大西洋クロマグロの資源管理と消費のゆくえ

現在、とにかく「提案が否決された」という点のみが、広く報道されていますが、それでは実際に、規制が不十分と見なされる今の状態で地中海・大西洋クロマグロの漁獲を続けた場合、本当に資源の枯渇を招くことにはならないのか、消費のあり方を考え直す必要はないのか、と言う点については、十分な言及がなされていません。

そもそも、ワシントン条約に、地中海・大西洋クロマグロの取引規制の話が、なぜ持ち込まれたのか。その理由と経緯を考えれば、「取引禁止は否決された」という結論が、この問題の終わりにならないことは明らかです。

WWF地中海プログラムオフィスでは、この数ヶ月間、科学的な根拠の説明と、地中海・大西洋のクロマグロ漁業国に、資源保護政策の呼びかけを行なってきました。

会議に立ち会った漁業担当のセルジ・トゥデラ博士は、今回の会議の決定について、失望の意を示しています。「これまで大西洋クロマグロは、何度も実効性のある保全措置の採択に失敗してきました。そのため、ICCATが健全な資源保全を行えるよう、また確実に資源回復計画を合意できるよう、効果的な取り組みを行なう必要があると考えています」。

また、WWFジャパンも、日本の行政、輸入商社、流通関係者、そして消費者一人一人が、今回の会議で地中海・大西洋クロマグロがワシントン条約の議題となったことの理由を重く受け止めて、持続可能な形でこのマグロを食べ続けてゆくためには、何が必要なのかを考え、世界に率先して責任ある行動を取る必要があると強く訴えています。

日本は、地中海・大西洋クロマグロの8割を消費している、世界最大の消費国。
この国が、持続可能な方法で生産されたクロマグロ製品以外は、日本市場で流通させない! という強い姿勢を示し、それを国内で実現すれば、世界のマグロ漁業に大きな変革をもたらし、資源保護を大きく促進させることができるに違いありません。

 

記者発表資料 2010年3月19日

大西洋クロマグロの国際取引禁止提案、委員会で否決

【ドーハ、カタール発】3月13日よりカタールで開催されている ワシントン条約(絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約)の第15回会合。注目を集めていた「大西洋クロマグロの国際的な貿易を禁止す べき」としたモナコ政府の提案の票決が18日の第一委員会で行われ、即時票決が推し進められた結果否決された。WWFは十分な論議がなされずに今回の票決 が行われたことを残念に思うと発表した。

ワシントン条約締約国会議で18日午後、モナコ政府による「大西洋クロマグロを附属書Ⅰに掲載し即 時国際的な貿易を禁止するべき」とした提案書とEUの「禁輸実施時期を来年5月まで先延ばす猶予期間を設定する」とした修正案が読み上げられた。数カ国が これに対する短い意見表明を行った直後、リビア政府より提案に対する即時票決が求められた。その結果、モナコ政府案については、参加118ヶ国のうち 68ヶ国が取引禁止に反対、20ヶ国が賛成、30ヶ国は棄権。EU案については参加129カ国中72ヶ国が取引禁止に反対、43ヶ国が賛成、14ヶ国が棄 権という結果となった。

ドーハにて会合を傍聴していたWWF地中海プログラムオフィス漁業担当のセルジ・トゥデラ博士は、「この数ヶ月、大 西洋クロマグロ漁業国を中心に、クロマグロ資源の禁輸措置に対する科学的根拠の説明や、政治的な支援の呼びかけを行ってきた。この委員会で、大西洋クロマ グロの国際取引を禁止する意義を十分に議論する時間が与えられなかったことを遺憾に思う」と語った。

また、「これまで大西洋クロマグロの資 源、漁業を管理する主体であるICCATは、何度も実効性のある保全措置の採択に失敗してきた。そのため、ICCATが健全な資源保全を行えるよう、また 確実に資源回復計画が合意できるよう、効果的な取り組みを行っていくことが必要だと考える」と述べた。

大西洋クロマグロに対する禁輸などの 貿易措置導入については、提案が第一委員会で否決されたことで、24、25日の全体会合で否決が承認されるかどうかが注目される。国際取引禁止の是非に惑 わされることなく、日本政府は大西洋クロマグロ資源の最大消費国として、持続可能な方法で生産された製品以外は日本市場で流通させないという強い姿勢を示 すことが今後も最も求められる。

WWFジャパンは、日本の行政、輸入商社、流通関係者、さらには消費者一人一人に対して、大西洋クロマグロ が絶滅危惧種としてワシントン条約の議題の一つとなったことを真摯に受け止め、将来も持続的に大西洋クロマグロを食べ続けるために、世界に率先して責任あ る行動を取るよう、これまで以上に強く訴えていく。

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