WCPFC 北小委員会が閉幕 太平洋クロマグロの回復目標と漁獲戦略が争点に


2017年8月28日~9月1日、韓国の釜山で、WCPFC(中西部太平洋まぐろ類委員会)の第13回北小委員会会合と第2回IATTC-北小委員会太平洋クロマグロ合同作業部会が開催されました。この会議では、資源量が初期資源量に対して「2.6%」まで激減しているとされる太平洋クロマグロ(本まぐろ)について、新しい資源管理目標の策定と、その目標を達成するための漁獲方策が議論されました。WWFはこの会議で、長期的な資源回復に向けた進展が見られたことを評価。一方、違法な漁業についての報告が相次ぐ中で、規制を厳しく守っていく必要性等をあらためて指摘しました。

危機にある太平洋クロマグロ

太平洋の海の生態系の頂点に立つ、太平洋クロマグロ。
日本が世界で最も多く消費している、漁業資源としても重要なこの魚は、現在、初期資源(漁業が開始される以前の推定資源量)の2.6%まで減少し、深刻な「枯渇状態」にあります。

この太平洋クロマグロの漁獲に関係する各国政府が、その資源管理と漁業規制について話し合う、WCPFC(中西部太平洋まぐろ類委員会)の第13回北小委員会会合が、2017年8月28日~9月1日、韓国の釜山で開催されました。

今回の会議では、遅くとも2030年までに、推定初期資源量の2.6%まで落ち込んだクロマグロの資源量を、20%まで回復されることを目指した、「回復目標」を立てることが期待されていました。

その実現のために必要なことは、太平洋クロマグロの次期(2030年まで)管理目標を北小委員会とIATTCの双方で合意すること。そして、その目標を達成するための漁獲方策を、明らかにすることです。

乱獲による資源枯渇が懸念される太平洋クロマグロ

何が決まったか? 太平洋クロマグロの漁獲戦略(ハーベスト・ストラテジー)

9月1日に閉幕したこの会議では、下記の3点について、合意と進展が見られました。

暫定的な太平洋クロマグロの漁獲戦略の合意

漁獲戦略(ハーベスト・ストラテジー)とは、漁獲水準や漁獲可能水準を設定するにあたっての基本的なガイドラインであり、長期的な資源管理を実現するために重要な枠組みです。今回、漁獲戦略には管理戦略評価(MSE:漁獲戦略が意図したとおり管理目標に合致し、機能するのかどうか、シミュレーションモデルを用いて、評価するプロセス、管理基準値の策定含む)の策定も含まれており、今後太平洋クロマグロの資源管理は大きく改善することが期待されます。

回復目標

2034年まで(または暫定回復目標達成後10年以内)に推定初期資源量の20%を、少なくとも60%の確率で達成すること。

世界のマグロ資源管理にかかわる国際機関。
太平洋については、東部と中西部で管轄する機関が異なる。くわしく見る

漁獲制御ルール

・上記の目標達成確率が、60%を下回る場合、管理措置を厳格化(小型魚漁獲のさらなる削減、小型魚漁獲枠の大型魚への移行など)を実施すること

・上記の目標を、75%以上の確率で達成できるという予測の場合は、漁獲上限を増加可能とすること。ただし、70%以上の確率で暫定までの回復を維持できるように、また次期回復目標を少なくとも60%以上の確率で達成できるようにする。必要であればISC(北太平洋まぐろ類国際科学委員会)が可能な漁獲上限増加に関する情報を出す。

    • 暫定目標:親魚資源量を2024年までに、少なくとも60%の確率で歴史的中間値まで回復させること。
    • 次期目標:2034年までに推定初期資源量の20%を、60%以上の確率で回復させること。

WWFとしての評価

今回の会議の進展について、WWFは、まず長期的な資源回復計画の最初の要素である、回復目標について、各国が合意できたことを評価しました。

またWCPFCが各国に求めていた、回復目標達成までの期限への合意がなされたことも、資源回復にむけた一定の前進といえます

これらの要素はいずれも、太平洋クロマグロの資源、そして漁業の持続可能性を確保する上で必要不可欠なものです。

しかし一方で、「漁獲制御ルール(Harvest Control Rules)」の中で合意された、暫定回復目標達成前に漁獲上限を増加させる可能性については、懸念をしています。

漁獲上限の増加は、入手可能な最良の科学的根拠に基づいて検討されるべきであり、決定はこれらをふまえて、可能な限り「予防原則」に則ったものでなければなりません。

さらに、太平洋クロマグロの漁獲生産国が、昨年来地域漁業管理委員会が定める漁獲規制を守らない漁獲を行なっていることが報告されていることを受け、将来の確かな資源回復に大きな課題が残されていることを指摘しました。

今後、資源の管理措置を導入するにあたっては、遵守を徹底させる厳格な監視体制が不可欠となります。そのために、今回合意された漁獲証明制度(CDS: Catch Documentation Scheme)の設立は確実に行われる必要があります。

WWFは引き続き、推定初期資源の20%への回復達成を各国に働きかけながら、太平洋クロマグロの最大の漁獲・消費国である日本に対しては、その責任を自覚し、国際的な資源回復に向けた動きをリードするよう、求めていきます。


【声明】WWF、太平洋クロマグロの長期資源回復目標への合意を歓迎

2017年8月28日~9月1日、韓国・釜山で「中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)第13回北小委員会」が開催され、太平洋クロマグロの次期管理目標の策定と目標を達成するための漁獲方策が議論されました。

開幕前にWWFが期待していたのは、太平洋クロマグロの資源状況を、2030年までに推定初期資源量の20%への回復を60%以上の確率で達成するような目標を立てることでした。太平洋海域では、乱獲に起因するクロマグロ資源の深刻な枯渇が確認され、資源量を評価する北太平洋まぐろ類国際科学委員会(ISC)の最新の報告では、すでに初期資源(漁業が開始される以前の推定資源量)と比べ、2.6%まで資源が減少している「枯渇状態」にあり、かつ「過剰な漁獲が続いている」と指摘されていたからです。

そして、今回北小委員会は、暫定的な漁獲戦略および、2034年までに推定初期資源量の20%を、少なくとも60%の確率で達成する、という次期回復目標に合意しました。長くその決定が待たれていた長期的な資源回復目標が立てられたことは、WWFとしても歓迎できることです。また、次期回復目標と目標を達成するための漁獲方策も定まったことは、資源回復に向けて一定の進展をみたとして評価できます。これらは太平洋クロマグロの資源および漁業の持続可能性を確保するのに必要不可欠な要素だからです。

一方、北小委員会と全米熱帯まぐろ類委員会(IATTC)の合同会議に向けて、日本が提案していた、親魚資源量の暫定回復目標達成確率が65%を超える場合、漁獲上限を増加させるという漁獲制御ルールにも注目が集まりました。これについては、関係国間の議論の結果、75%以上の確率で回復目標の達成が見込まれる場合には、漁獲上限を増やすことができるという表現で加盟国は合意しました。また、漁獲を増加しても、暫定目標達成が70%以上の確立で維持されていること、さらに次期回復目標達成確立が60%を下回らないことも条件となりました。

「予防的アプローチから75%へと確率が引き上げられたとはいえ、暫定回復目標達成前に漁獲上限を増加させる可能性については、懸念が残るといわざるを得ません。こうした措置の導入は、検証可能な最良の科学的根拠に基づき、また、できうる限りもっとも予防原則に則った判断のもとに行なわなければならないことをWWFは重ねて北小委員会に求めていきます。」とWWFジャパン自然保護室海洋水産グループ長の山内愛子は述べます。

さらに、WWFは閉会に際して、太平洋クロマグロの漁獲生産国が、昨年来、地域漁業管理委員会が定める漁獲規制を守らない漁獲を行なっていることが報告されていることを受け、将来の確かな資源回復に大きな課題が残されていることを指摘しました。そして、「戦略通りの回復を確かなものにするためには、資源管理措置に対する順守を徹底し、加盟国が強いコミットメントを示すことが必要です」 と述べました。

今回、次期管理目標が決まったことから、このあと、加盟国は漁獲管理方策の確実な実行という残された課題に進むことになります。より強固な監視・管理体制の構築によって、日本をはじめとする漁業国は合意事項の遵守徹底を図り、太平洋クロマグロの資源回復をより確実なものとする責務を負っています。また、WWFは引き続き、太平洋クロマグロを取り扱う全ての流通関係者に対し、こうした資源回復措置への積極的なサポートを呼びかけていきます。

お問い合せ先:WWFジャパン(公益財団法人 世界自然保護基金ジャパン) 海洋水産グループ

〒105-0014 東京都港区芝3-1-14 6F
Tel: 03-3769-1718/Fax: 03-3769-1717 / Email: fish@wwf.or.jp

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