どうなる?大西洋クロマグロの未来 ICCAT会議始まる


2010年11月17日から27日まで、フランス・パリにて、大西洋のクロマグロ資源の管理機関であるICCATの第17回特別会合が開催されます。3月に、ワシントン条約の締約国会議で、大西洋のクロマグロの輸出入を規制する提案が否決されましたが、この決定を受けて開かれる今回のICCAT会合で、日本をはじめとする関係各国が、どのような資源の管理措置に合意するのか、注目されます。

マグロの問題とその背景

今世界中で毎年大量に消費されているマグロ類ですが、近年、各地の海域でその資源量の減少が懸念されています。原因はいずれも「獲り過ぎ」と「資源管理が出来ていないこと」です。

日本も多く輸入している、地中海を中心とした東大西洋のクロマグロ(本まぐろ)の資源量は、とりわけ低下が著しく、このままでは枯渇してしまう危険性が指摘されています。

こうした地中海におけるマグロ問題を話し合い、資源管理のあり方を決める国際機関がICCAT(大西洋マグロ類保存委員会)です。

ICCATには、東大西洋や地中海でクロマグロ漁業を行なっている、日本やEUなどの国々が参加しており、毎年漁獲してよい総漁獲量(漁獲割当量)などを取り決めています。

しかし、ここ数年、ICCATがマグロの資源管理に失敗する例が続いてきました。各国の総漁獲量が毎年、持続可能なレベル、つまり獲り尽さずに、クロマグロ資源を利用し続けることができるレベルを超えて、設定されてしまっていたのです。

ICCATの機能不全

ICCATでは毎年、専属の科学委員会が資源量を分析し、「これくらいまでならば、漁獲しても資源が回復します」という、漁獲量を各国に対して提案していますが、ICCATの加盟国は、この提案を上回る総漁獲量を求め、決議してきました。

事実、2007年のICCATの会議では、科学委員会が提案したレベルを上回る総漁獲量を設定していた上に、結果として、さらにその倍近いクロマグロが、違法に漁獲されたという報告がなされました。

また、2008年の会合でも、科学的分析に基づく持続可能なクロマグロ漁業を実現するために不可欠であった、「総漁獲量を15,000トン以下にする」という措置に、各国は合意できず、それを上回る総漁獲量を設定してしまいました。

資源量が減っているにもかかわらず、毎年「獲り過ぎ」を容認し続け、資源そのものが危機的な状況に追い込まれているのです。

こうした問題を引き起こしてきた欧州連合(EU)や北アフリカの国々による過剰な漁獲を、ICCATは久しく解決することができませんでした。

マグロ資源を、持続可能な形で利用するために行なわれた、科学委員会やWWFの警告や提言も、ICCATに受け入れられることはなく、管理機関そのものの機能が、疑問視されることになったのです。

ワシントン条約とICCAT

そうした中、2010年3月に、カタールのドーハで開催された第15回ワシントン条約締約国会議で、大西洋クロマグロを附属書1に掲載し、輸出入に規制をかけることで、資源回復を目指そう、という提案が出されました。

これは、ICCATの機能不全を補うための提案でしたが、日本政府は、日本が牽引役となって2010年11月のICCAT会合で必要な管理施策を講じる、と主張。この結果、提案はひとまず否決されました。

ドーハでの会議終了後、赤松農政大臣は「漁業管理機関の資源管理を十分に効果のあるものとしていくことが不可欠である。ICCATをはじめ各種の地域漁業管理機関において、科学的資源評価を踏まえた的確な資源管理措置を決定し、各国がこれを確実に遵守する体制の確立に向けて、従来にもまして日本は積極的なリーダーシップを発揮していく」との談話を発表。

さらに、ICCATをはじめとする、各地域の漁業管理機関のルールを遵守しない水産物については、日本はいっさい輸入しない方針も表明しました。

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大西洋のクロマグロ。「本マグロ」として日本では流通しているマグロの一種

世界には海域ごとにマグロの資源管理を行なう5つの国際管理機関があります。地中海を含む大西洋を管轄するのはICCATです。
くわしく見る

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スペインのマグロ蓄養場。マグロの「獲り過ぎ」の背景には、「蓄養」の問題があります。これは、巻き網などで大量に捕らえたマグロを、生けすに放して餌を与えて太らせ、出荷する養殖の方法です。

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蓄養場の生け簀を泳ぐマグロ。蓄養は、若いマグロも根こそぎ獲ってしまうため、漁業資源の減少を引き起こしています。

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2008年、WWFは独自の調査の結果に基づき、2012年には地中海で産卵できるクロマグロの個体数がゼロになる可能性がある、という予測を発表。漁獲割当量の大幅な削減だけでは、資源の回復を図ることは既に難しいため、産卵する個体の漁獲や、産卵域の禁漁を求めました

注目される消費国・日本の動き

大西洋クロマグロの最大の輸入国である日本の政府が、ここまではっきりと方針を示した上で参加する今回のICCATに、世界の注目が集まることは間違いありません。

すでにICCATでは、2008年から資源管理のための施策として漁獲統計証明制度を導入。日本でも、大西洋のクロマグロの輸入に際して、ICCATのルールや漁獲量が守られているか、証明書を確認し、トレーサビリティを確保する取り組みを行なってきました。

そして実際に、2009年漁期に生産され、日本への輸入が申請された、蓄養による大西洋クロマグロの多くのケースで、漁獲統計証明書の不備が発見されたのです。結果、日本は全ての記載情報が確認できるまで、輸入を一時差し止める措置に踏み切りました。

ここで不備が明らかになった事例の中には、1つの蓄養の生け簀に入れたマグロの尾数よりも、そこから生産された尾数の方が多いという、説明のつかない悪質なケースも指摘されており、こうした監視の強化が、違法なマグロを締め出す効果を生み始めています。

しかし、こうした情報を出す側である、地中海沿岸のマグロ生産国で、ICCATの施策や手続きが、正しく行なわれていない事実も指摘されています。

ICCATの科学委員会が、2010年にまとめた報告書によると、巻き網漁や蓄養について、漁獲証明書に記載すべきマグロの「漁獲量」や「漁獲尾数」が、極めて把握しにくくなっている点や、決められた管理規則が守られていない実態などが報告されました。

こうした生産国の原状に対し、日本政府はすでに説明を求めていますが、状況が変わらなければ、日本政府としては、輸入を制限する形での対応をとることになるでしょう。

ワシントン条約の会議で、大西洋クロマグロの輸出入を規制する提案が否決された時、「これで日本はマグロが食べられる」という報道が流れました。しかし、問題は実際には何も解決していません。実質的にクロマグロの輸入を日本が自ら差し止めねばならない事態にもなりかねない状況が、今も続いているのです。

WWFがICCAT、そして日本政府に求めること

今回のパリでのICCATの会合は、こうした山積する問題の実態を、改めて明らかにするための場として、また、今後の大西洋クロマグロ資源の回復措置を、国際社会が合意できるかどうかを決定づける場として、注目される会議です。

マグロ資源の持続可能な利用を求めてきたWWFとしても、今回の会合が成功するよう、ICCATに対し、以下の4つの点を求めています。

  1. 2009年の会合で13,500トンとされた漁獲割当量を、今回は6,000トン以下(資源の回復が見込まれる最低限必要な数字)とすること
  2. 科学委員会が認めたクロマグロの6つの産卵域を操業禁止区域とすること
  3. 欧州連合に対し、2007年の割当量以上に漁獲した過剰生産分1,510トンを2011年および2012年の年間割当量から差し引くこと
  4. 漁獲統計証明書の実効性について問題が指摘されている地中海における巻き網漁業を一時禁漁にすること

また、日本政府に対しては、ドーハで政府が約束した、漁業ルールの適切な遵守状況が確認できない生産者や輸出国に対する厳しい措置と、実効性のある管理体制の確立を実現するように、ICCATをリードすることを強く求めています。

 

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