国連気候変動パナマ会議の報告


国連気候変動パナマ会議が2011年10月1日~7日に開催されました。11月末からのCOP17・COP/MOP7(南アフリカ・ダーバン)を前にした最後の公式な交渉機会として、個別論点では建設的な交渉が行なわれつつも、ダーバンに向けての政治的課題が改めて浮き彫りになりました。

1.会議の概要

2011年3回目の国連気候変動会議の特別作業部会が10月1~7日にパナマ共和国パナマシティで開催されました。2011年に入ってからの過去2回の国連会議は、会議の議題を決める当初から先進国と途上国の対立が発生して議事進行が著しく遅れるなど、対立的な雰囲気が続き、遅々として進みませんでした。

今回の会議は、11月最終週からのCOP17・COP/MOP7(南アフリカ・ダーバンで開催予定)を前にした最後の公式な交渉機会だったので、そのような悪い雰囲気を改善し、どの程度交渉を前に進めることができるか注目された会議でした。

今回の会議の結果を端的にまとめると、まず、個別論点分野では一定の進展があったといえます。分野ごとに交渉の論点をまとめた文書を基にした交渉が粛々と行なわれました。国々の間での対立がなくなったわけではなりませんが、少なくとも建設的でした。

しかし、同時に、今回の様な事務レベル会合では決着がつけられない、政治的な判断が必要とされる課題があることも浮き彫りになりました。

以下では、これらの「個別論点分野での進展」と「政治的な課題」、それぞれについて、まとめておきたいと思います。

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2.個別論点分野での進展

現在の交渉での論点の全体構成は以下の表 1のようになっています。
過去2回の国連会議と同様、それぞれの分野について分科会で開催される形で交渉が行なわれましたが(KPの方は「スピンオフ」会合、LCAの方は「インフォーマル」会合と呼ばれました)。

個別分野での議論はかなり専門的になっており、またNGOなどのオブザーバーに対しては非公開で行なわれた会合がほとんどだったので、事例として、緩和と適応についてのみピックアップして、どのような交渉があったのかを概説しておきます。

表 1:現状の国連交渉の論点の構造
作業部会 論点分野 議論になっている事項の例
AWG KP
(京都議定書の作業部会)
先進国の削減目標及びそれに関わる事項 削減目標数値、第2約束期間の長さ、基準年の扱い、余剰割当量の扱い、etc.
吸収源(LULUCF) 森林火災等の自然攪乱(natural disturbance)の扱い、森林経営による吸収量算定時の参照レベル(reference level)の設定方法、etc.
京都メカニズム(国際排出量取引、共同実施(JI)、クリーン開発メカニズム(CDM)) 原発をCDM/JI事業として認めるか、新しいメカニズムを設置するか、補完性の原則をどのように決めるのか、etc
削減対象とする温室効果ガス、温室効果ガス排出量の計算方法 どのような温室効果ガスを追加で削減対象とするのか、IPCCの新しい報告ガイドラインをどこまで適用するのか、etc.
対策をとることによる潜在的な帰結 気候変動(温暖化)対策を採ることによるポジティブ/ネガティブな波及効果の扱い
AWG LCA
(気候変動枠組条約の作業部会)
共有ビジョン 排出量削減に関する世界的長期目標(その是非も含め)、排出量がピークに達する(その後減少に向かうべき)タイミング、取組み全体に関する原則(衡平性など)、etc
先進国の緩和 削減目標・対策のMRV(測定・報告・検証)、削減目標・努力の比較可能性、共通の算定ルール、etc.
途上国の緩和 削減行動・対策のMRV、削減対策と資金をマッチングさせる登録簿のあり方、etc.
適応 国際的な適応対策へのガイダンスを提供するなどする「適応委員会」のあり方、気候変動影響の「損失と被害」の扱い、国別の適応行動計画、etc.
資金 短期資金の扱い、革新的な資金メカニズム、資金源、グリーン気候基金(GCF)のあり方、常設委員会(standing committee)のあり方、etc.
技術 技術実行委員会(Technology Executive Committee)、気候関連技術センター・ネットワーク(Climate Technology Centre and Network)のあり方、etc.
REDD+ セーフガード原則の扱い、森林減少等からの排出量を算定する際の参照レベルの設定方法、etc.
様々なアプローチ(通称「メカニズム」) 市場を活用した新しいメカニズム(セクトラル・クレディティング・メカニズム等)の設置の是非、非市場型のメカニズム(化石燃料補助金の排除等)の設置の是非、etc.
セクター別アプローチ 国際船舶・航空に対する対策、農業分野での対策、それらの中での「共通だが差異ある責任」具現化のあり方、etc.
キャパシティ・ビルディング 途上国支援の一環としての制度設立・人材育成等への支援のあり方、etc.
対応措置 気候変動(温暖化)対策をとることによる化石燃料売却収益源についての対応の是非、etc.
  • ※筆者作成。「議論になっている事項」はあくまで一部であり、網羅的でない。

2-1.先進国・途上国の緩和に関するMRV(測定・報告・検証)

先進国・途上国の緩和(排出量削減)分野については、特にMRVと呼ばれる事項について交渉が進みました。
MRVとは、排出量削減に関する活動の状況や成果を各国に測定(measure=M)・報告(report=R)させ、それを国内で、もしくは国際的にチェックする仕組み(verify=V)の確立・強化を図ることを目的とした議論です。

こうした作業は、それ自体としても大事ですが、その仕組みがあることによって、各国での削減対策そのものが後押しされる効果が期待されています(対策に力を入れていないと国際的に公表されて国としての信用に傷がつくなどの不利益が生じるリスクが高まるため)。

2010年のカンクン合意を受けて、先進国の緩和活動のMRV強化は「隔年報告書(biennial report)」と「国際的な評価とレビュー(International Assessment and Review; IAR)」という2つの仕組みを中心にして議論がされています。

これに対し、途上国の緩和活動のMRV強化は「隔年更新報告書(biennial update report)」と「国際的協議と分析(International Consultation and Analysis)」という2つの仕組みを中心にして議論がされています(表 2)。MRVという言葉に当てはめるならば、先進国では「隔年報告書」がM(測定)とR(報告)に相当し、「IAR」がV(検証)に相当します。そして、途上国については、「隔年更新報告書」がMとR、「ICA」がVに相当します。

表 2:先進国・途上国の緩和MRVに関する強化のポイント
先進国のMRV 先進国のMRV
国際的な評価とレビュー(International Assessment and Review; IAR)
途上国のMRV 隔年更新報告書(biennial update report)
国際的協議と分析(International Consultation and Analysis)
  • ※筆者作成

元々、先進国・途上国共に、国連気候変動枠組条約および京都議定書の下で既に、「国別報告書」と呼ばれる報告書を提出する仕組みが存在します。今の議論は、これをベースにしつつ、その頻度をあげ、報告する中身をより充実させ、そして、それを国際的にチェックする体制を強化する方向で議論がされています。

今回も含め、これまでの交渉は、先進国は途上国のMRV強化を重視し、途上国は先進国のMRV強化を重視する、という議論の構造になっています。ここでも、途上国のより詳しい削減対策を課したい先進国と、それを避けつつ、先進国こそきちんとした対策情報を出すべきだと考える途上国という、典型的な先進国・途上国間の対立が見られます。

たとえば、先進国のMRVについては、先進国はなるべく既存の国別報告書のプロセスの中に組み込んで、重複を避けるべきだとの主張をしています。これに対し、途上国は、既存の仕組みを強化するだけで無く、京都議定書が持っているような遵守の仕組みに繋がるようにIARを設計するべきであると主張しています。

また、途上国の緩和MRVについては、先進国がその結果を、たとえば2015年に予定されている全体の野心レベルの「レビュー」とつなげるべきだと主張しています。

他方、多くの途上国は、先進国のIARと途上国のICAは異なる仕組みであり、ICAの頻度についてはカンクン合意では記載がないから、隔年更新報告書が2年毎だからといってその頻度でやると決まっている訳ではないと主張しています。更に、隔年更新報告書の提出などは、先進国からの資金支援を前提とするべきだとの主張もしています。

こうした交錯する主張の中での対立を背景としながらも、今回の会議では、これらについてある程度の論点整理が進んだ文書がまとめられました。

2-2.適応委員会

気候変動の影響に対する「適応」対策の分野は、緩和に比べると国連交渉の中ではこれまで進展が比較的遅れていた経緯があります。このため、気候変動の影響に特に脆弱な島嶼国やアフリカ諸国は、カンクン合意で、よりしっかりとした対策を国際的に進めて行くために「カンクン適応枠組み」や「適応委員会」の設立が決定されたことを概ね前進として捉えています。

今回、「適応」分野の議論の中心となったのは、その「適応委員会」の機能、構成、そして他の機関との連携をどのように定めるのかという点でした。

カンクン合意の中には、適応委員会の「機能」については、既にいくつかの事項が記載されています。具体的には、各国に対する技術的な支援やガイダンスを提供したり、国際的に優良事例の共有を行なったり、国際・地域・国内などの様々なレベルでの色々な機関の間でのシナジーを促進することなどでした。つまり、アドバイスや調整など、割合とソフトな役割までが合意されていたといえます。

今回、そうしたカンクン合意で定義された機能に加えて議論になったのは、適応委員会が「資金」支援分野に対して持ちうる機能についてでした。具体的には、別途カンクン合意で「資金」支援分野において設立されたグリーン気候基金(GCF)に対して、資金の使途を指示できるような権限を持つかどうか、といった点でした。こうした主張をするのは主に途上国でした。現状の議論の流れでは、適応委員会が強い権限を持つとは考えにくいですが、勧告のようなものを出す権限ができるかどうかも含めて議論がされています。

「構成」については、委員の構成の中に、国の代表だけではなくNGOを入れるのかといった点や、先進国と途上国の代表を同じ割合にするべきかそれとも適応は主に途上国を対象としたものであることを踏まえて途上国代表の割合を多くするべきか、といった点が争点となっています。

普段は「悪者」になりがちなアメリカは、この適応委員会の構成においては、NGOなどの市民社会を加入させるべきとの立場をとっており、この点においてはNGOからの支持を得ています。ただし、先進国(ドナー国)と途上国(支援受け入れ国)の代表の比率については、平等にするべきだとの主張をしており、これが、「適応対策は主に途上国にとっての主要事項なのだから、途上国の比率を高くするべき」との途上国の立場との対立が生じています。

上記の「機能」の議論とも関わりますが、「他の機関との連携」については、適応委員会と他の、国連の外の機関との連携や調整も含めて、どの様なことができるのかの確認作業を今後行なって行く方向で議論が進んでいます。

今回の会議では、各国の適応委員会に関する考え方を選択肢の形で並列した文書がまとめられて終了しました。次回のダーバンの会議でも引き続き議論されていく予定です。

ダーバン会議は「アフリカの」COPであり、多くのアフリカ諸国にとって適応は非常に重要な議題です。今回の会議では適応委員会にスポットライトが当てられましたが、適応の分野には、この他にも「損失と被害」(気候変動によって甚大な影響を受ける国々への補償のあり方)や特に後発開発途上国(LDCs)の国別適応計画(National Adaptation Plans)の設立といった重要論点があり、これらについても、一定の成果が出るかどうかが注目されています。

3.残された政治的課題

以上で見てきたように、個別の論点分野では、順調とは言えないまでも、それなりに交渉は前進を見せています。

しかし同時に、閣僚レベルの政治的な判断が必要とされる困難な論点が、南アフリカ・ダーバンでのCOP17・COP/MOP7へ向けて改めて浮き彫りになってきました。これらの論点の中には、これまでのCOPがずっと先送りしてきた論点も含まれ、その解決は極めて難しい状況です。

1つは、「京都議定書の第2約束期間」の採択をめぐる対立です。途上国グループはどこも、この問題についての決着なしには「アフリカのCOP」であるダーバンを終わらせるつもりがない姿勢を強く打ち出しました。

これに対し、自国の目標は絶対に書き込まないとしている日本・カナダ・ロシア、議定書の外にいるアメリカ、交渉をする姿勢を見せているEU・ノルウェー、消極的ながらも第2約束期間を否定していないオーストラリア、ニュージーランドの間でどのように決着をつけることができるかが課題です。

2つ目は、ダーバンの結果がどうなるにしろ、その後も交渉が必要になるため、その交渉プロセスをどのように作っていくかという問題です(「マンデート」と呼ばれます)。

そして、その交渉プロセスがどれくらいの長さになるのか、その帰結としてどのようなものを作るのか(新しい法的文書を作ると明言できるのかどうか)といった点が、今回の会議でも話題になり、ダーバンでも1つの大きな争点となることが予想されます。

この点については、アメリカが、そのような交渉を改めて発足させるのであれば、その条件として、大きな排出量を持つ中国やインドなどの途上国が同程度の法的枠組みに入ることを前提としなければダメだとの立場をとっており、この点の交渉も難航が予想されています。

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3つ目は、途上国への資金支援の仕組みです。2013年から2020年へかけての資金支援の仕組み(「長期資金」と呼ばれる)、特にその資金源をどうするのかについては、途上国グループが非常に重視しており、この点について、少なくとも何らかの考えを持ってダーバンに乗り込むことが日本にとっても必要となります。

4.日本は国内での議論の深化を

パナマではこれらの課題については、半ば予想通りではありますが、大きな進展は見られませんでした。しかし、ダーバンにおいては、これらの政治的な課題について、間違いなく難しい交渉が求められることになります。

日本としても、国内での議論を深めてからダーバンの会議に臨まなければ、交渉の中で難しい判断を求められることになった際に判断ができず、結果として合意形成全体の足を引っ張ることになりかねません。日本にとっても、他の全ての締約国にとっても、ダーバンへ向けての準備の重要性を示した会議でした。

5.不透明な会議

会議の中身とは直接的には関係ありませんが、最近の傾向の中で1つ、環境NGO・産業NGOなどのオブザーバーにとっては気になる点があります。それは、会議の公開性です。

国連会議は、会議の進行としては、総会の後に全体的なコンタクト・グループが開催され、その後に各分野に分かれた会合が進められる、という形がよく取られます。

2009年のコペンハーゲンの会議あたりまでは、まだこれら各分野ごとの会合も公開だったのですが、最近は非公開になるケースがほとんどで、交渉の内実がNGOなどのオブザーバーからは分かりにくいという課題が生じています。

これは、環境NGOだけではなく、産業界から参加しているNGOにとっても同様であるため、オブザーバー全体に不満が募っています。ダーバンへ向けて、事務的事項ながらも会議の透明性の観点からは改善が望まれるポイントです。

WWFジャパン 気候変動・エネルギーグループ 山岸尚之

 

 

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