マグロ・漁業関連 情報まとめ(2006年~2010年)
2010/12/31
- 地中海クロマグロ、資源保全の行方は?(2009年11月16日)
- 大西洋のクロマグロ推定資源量が15%に減少(2009年10月29日)
- 蓄養の本まぐろ、販売製品の約2%に誤表示(2009年10月27日)
- 中西部太平洋マグロ類委員会の第5回北小委員会閉幕 太平洋クロマグロの保存管理措置への第一歩を踏み出す(2009年9月15日)
- 日本のマグロの目撃者たち(2009年9月7日)
- 3年後には産卵がゼロに? 地中海のクロマグロ(2009年4月14日)
- ヨーロッパウナギの輸入規制はじまる(2009年3月23日)
- ICCAT第16回特別会合が閉幕 クロマグロ資源が危機に(2008年11月24日)
- 【報告書】最後のクロマグロを巡る競争 地中海クロマグロ巻網船団の漁獲能力と漁獲能力削減の必要性に関する考察(要約)(2008年3月1日)
- マグロ類初の漁業認証が実現(2007年9月7日)
- マグロの違法漁業、過剰漁獲の事例(2006年10月30日)
- ミナミマグロの漁獲枠が半減?CCSBT会議はじまる(2006年10月6日)
地中海クロマグロ、資源保全の行方は?(2009年11月16日)
2009年11月15日、ブラジルのレシフェで開催されたていたICCAT(大西洋まぐろ類保存国際委員会)の本会合が閉幕。地中海を含めた東部大西洋のクロマグロ資源の管理措置が、参加各国によって合意されましたが、資源を回復するためには不十分な内容となりました。この結果により、クロマグロ資源保全の行方は、2010年3月に開かれる「ワシントン条約」会議において議論される、国際的な貿易措置に委ねられることになります。
獲り続けられるクロマグロ
今、地中海を含めた大西洋のクロマグロ資源が崩壊し、日本の食卓から消える可能性が、かつてないほど高まっています。大西洋で、クロマグロ(本まぐろ)の過剰な漁獲と、資源の枯渇が懸念されているのです。
この、大西洋クロマグロの資源管理を担う ICCATの本会合で今回、厳しい予想が発表されました。それは、「加盟各国が漁獲してよいクロマグロの漁獲量を、年間「8,000トン」に設定したとしても、2023年までに東部大西洋クロマグロの資源が回復する可能性は50%しかない」というものでした。
ところが、議長国ブラジルをはじめ、日本、EU、モロッコ、チュニジアの提案によって合意された、各国の総漁獲可能量は、1万3,500トン。クロマグロ資源の過剰な利用を、事実上継続するという内容でした。
国際取引の規制に向けて
資源の持続可能な利用には、程遠い結論を選んだ、今回のICCAT会合により、このクロマグロ問題は、議論の舞台を別の国際会議の場に移すことになりました。
2010年3月にカタールのドーハで開かれる、第15回「ワシントン条約(CITES)」締約国会議です。
絶滅のおそれのある野生生物の国際取引を規制することで、その危機を軽減することを目的とした「ワシントン条約」の会議では、締約国の合意により、大西洋クロマグロ貿易の禁止が決議することができます。
これが合意されれば、マグロは漁獲されても輸出できなくなるため、漁業は行なわれなくなり、結果的に資源の保護が実現することになるのです。
WWFはこれまで、大西洋クロマグロの資源を持続可能な形で利用するためには、漁業の一時停止と、違法漁業に対する厳格な対応が必要だと訴えてきました。
世界で消費される大西洋クロマグロの80%を消費する日本市場が注目を集める中、WWFジャパンも、資源の消費と保全について、責任ある賢明な選択を政府や国内の流通関係者、国内消費者に訴えています。
記者発表資料 2009年11月16日
大西洋クロマグロ、貿易措置が不可欠に ICCAT、クロマグロ資源の保全に失敗
【ブラジル、レシフェ発】WWF(世界自然保護基金)は、15日に閉幕したICCAT(大西洋まぐろ類保存国際委員会)で合意された管理措置が、東部大西 洋クロマグロ資源の回復を実現するためには、不十分であると強く警鐘をならす。クロマグロ資源保全の行方は、3月に議論される国際的な貿易措置の合意に託 された。
ブラジル、レシフェで行われていたICCAT年次会合が15日閉幕。2010年の東部大西洋クロマグロ総漁獲可能量を19,500 トンから13,500トンに削減することを求めた議長国ブラジル、日本、EU、モロッコ、チュニジアの提案で合意した。しかし、この総漁獲可能量は東部大 西洋クロマグロの資源回復を確実なものとするには、依然として高い数字であった。
今回、ICCATの会合は、毎年8、000トンの漁獲量を 設定したとしても2023年までに東部大西洋クロマグロの資源が回復する可能性は50%しかないとするシュミレーション結果を発表した。また、今後10年 間のシュミレーションを行った結果から、東部大西洋クロマグロが、国際的な貿易を規制せざるを得ない資源水準から回復するためには、漁業を停止するのが最 も効果的であると指摘した。こうした科学的検証の結果をふまえ、「今回の合意結果は全く科学的とは言えず、受け入れられる内容ではない」と、WWF地中海 プログラムオフィス漁業担当のセルジ・トゥデラは述べた。「今回の総漁獲量削減は、確実な資源回復を視野に入れた場合、いかなる科学的勧告にも従っておら ず、むしろ政治的背景を反映させた措置であり、漁獲量削減数値はたった1年間決められただけである。WWFはこれまで以上に、国際的な貿易措置が大西洋ク ロマグロ資源にとって唯一の希望であると考える。」
WWFは本会合にあたって、大西洋クロマグロ漁業の即時禁漁と違法漁業に対する対応措置 の厳格化を求めてきた。本会合は、ICCATはほぼ全ての生産国が規制を遵守せず違法行為を行った例があると報告。中には、適切な漁獲証明を得ないまま生 け簀に魚を買い入れたEUの蓄養業者もあった。クロマグロの巻き網漁業については、漁期が2ヶ月から1ヶ月に短縮されたものの、マグロにとって最も重要な 時期である産卵期は漁業が可能となる。スペイン沖の産卵海域についても、禁漁区として設定されるには至らなかった。さらにICCATによる効果的な資源保 全の取り組みを妨げている主な要因である、過剰な漁船隻数の削減課題については手つかずのままである。
「大西洋クロマグロの資源回復を確実 なものとするためには一時的に禁漁を行い、これをサポートするために国際的な貿易を中断することが最も望ましいというのは、もはや世界的な共通認識と言え る。ICCATがクロマグロ資源と自らの評判を守るためには、クロマグロ漁業を禁漁とすることこそが必要だった。」とセルジ・トゥデラは続けた。
ICCAT会合の結果を受け、3月にドーハで開かれるワシントン条約会議で、加盟国が大西洋クロマグロの国際的な貿易禁止に合意することが、クロマグロ資源の回復に向けこれまで以上に重要な意味を持つようになってきた。
水 産庁は9月に大西洋クロマグロを輸入する業者に対し、ICCATが定める規則を遵守していることが明白ではない漁獲証明書については、受領しないことを明 言。特に本年度から導入されている漁船のオブザーバー制度が守られていないものについては、厳しく対応していくとしており、安易な輸入を控えるよう指示し ている。
WWFジャパンは、生産国による違法漁業がICCATにおいて認められていること、またトレーサビリティの根幹である漁獲証明書に 問題が指摘されている点から、国内の大西洋クロマグロ流通を一時的に停止することを強く求める。現状通り消費し続ければ近い将来、大西洋のクロマグロ資源 が崩壊し、我々の食卓から消える可能性が、かつてないほど高まっている。世界で消費される大西洋クロマグロの80%を消費する日本市場が注目を集める中、 責任ある賢明な選択を日本政府、国内流通関係者、国内消費者に訴える。
大西洋のクロマグロ推定資源量が15%に減少(2009年10月29日)
スペインのマドリードで開催された、ICCAT(大西洋まぐろ類保存国際委員会)の科学者会議において、地中海を含む大西洋産クロマグロの、全面的な取引(輸出入)禁止が提唱されました。大西洋クロマグロは、「本まぐろ」と呼ばれるマグロの一種で、近年乱獲により、資源の枯渇が懸念されています。
資源量はかつての15%足らずに
2009年10月21日から23日まで、スペインで開かれたICCATの科学者会議では、地中海クロマグロの危機的な資源状況が、「ワシントン条約」で取引規制の対象となるかどうかについて、討議が行なわれました。
この科学者会議によると、現在の産卵可能な地中海クロマグロの資源水準は、資源が未利用状態だった時の推定資源量と比べ、15%以下にまで減少している可能性が高いと推定されています。そして、この結果を受け、同委員会では、商業取引の禁止を定めた「ワシントン条約」の「附属書1」に掲載される状況にあることが報告されました。
また、科学者会議では、2019年までに大西洋クロマグロを「ワシントン条約」の附属書1から、確実に外すためには、今後、商業漁業の休漁を一時的に実施せざるを得ないことを確認しました。
禁漁とワシントン条約の下での資源管理
この大西洋クロマグロの資源保護については、2009年10月14日、モナコ政府が、主に地中海における、無秩序なマグロ漁業と実効性の全くない漁業管理の現状の中、資源量を回復させるために、「ワシントン条約」附属書1への掲載を提案しています。
WWFは、今回のICCAT科学者会議の報告について、資源が今後回復に転じる傾向が確認され、また、持続可能な資源利用の体制が確立されるまでは、国際取引の一時中止も止むを得ない考え、ワシントン条約会議での地中海クロマグロの附属書1掲載を支持するよう求めてゆくほか、2009年11月6日から16日まで、ブラジルで開催されるICCAT年次会合においても、2010年の漁獲割り当て量(各国が漁獲してよい資源量)を、実質ゼロにすることを要望することにしています。
ここで、ICCATが禁漁を宣言すれば、クロマグロの資源量は回復する大きなチャンスを得ることになるでしょう。
その80%以上が日本に向けて輸出されている、大西洋クロマグロ。今のまま消費を続ければ、近い将来資源は崩壊し、食卓からこの魚が消えてしまうかもしれません。今回、科学者会議で出された結論は、クロマグロの最大消費国である日本も、深刻に受け止める必要があります。
WWFジャパンは水産資源の消費大国として、日本政府、流通関係者、消費者に対し、責任ある選択を求めています。
記者発表資料 2009年10月29日
ICCAT科学者がワシントン条約附属書1掲載を支持
【マドリッド発】ICCAT(大西洋まぐろ類保存国際委員会)の科学者会議は、大西洋クロマグロの取引の全面禁止を提唱した。クロマグロ資源の急激な減少に警鐘をならしてきたWWF(世界自然保護基金)はこの決定を歓迎する。
10 月21日から23日までスペインのマドリッドで大西洋まぐろ類保存国際委員会(以下、ICCAT)の科学者会議が開催され、現在の地中海クロマグロの資源 状況が、ワシントン条約付属書1に掲載する基準を満たすか検討された。その結果現在の産卵可能な親魚資源水準が、大西洋クロマグロが未利用状態であった時 の推定産卵親魚資源量に対し、15%以下まで減少している可能性が高いと推定。ワシントン条約附属書1掲載に相当する状況だと報告した。
さらに科学者会議では、2019年にワシントン条約付属書1掲載に該当する種から確実に大西洋クロマグロが外れるためには、商業漁業の一時休漁を実施する以外にない事を確認した。
WWF 地中海プログラムオフィス漁業担当のセルジ・トゥデラ博士は、「資源の崩壊を避けるためには漁業活動を一旦停止し、国際取引も中止することが必要だ。そう すれば資源が今後回復していく見込みがまだある。我々は大西洋クロマグロ資源量が明らかに回復する兆しが見え、かつ、持続可能できちんとした管理体制が機 能するまで、この容赦ない資源の搾取をやめるべきだ。」と述べる。
10月14日、モナコ政府は、無秩序な漁業と実効性が全くない漁業管理のもとで、回復が望めない状況になっている大西洋クロマグロについて、その資源量を回復させるため、一時的な国際取引を禁止するワシントン条約附属書1掲載の提案を提出した。
「11月のICCAT会合での決議にかかわらず、大西洋クロマグロがワシントン条約附属書1に掲載されることは間違いないだろうと科学者らは推測している。もしもICCATが禁漁を宣言すればクロマグロの資源量が回復する大きなチャンスだ」とトゥデラは付け加えた。
WWF は、11月6日から16日にブラジルで開催されるICCAT年次会合において、来年の割り当て量を実質ゼロにすることを要望する予定だ。科学者委員会の評 価を受けてICCATがどう反応するか関心がもたれる。過去ICCATでは、科学者の意見はほぼ聞き入れられなかった経緯がある。今回のICCATの科学 者委員会の評価結果は、加盟国48カ国が参加する年次会合に提出される。
また、ワシントン条約会議は2010年3月にカタールで開催されるが、WWFは加盟国175カ国に対して地中海クロマグロの附属書1掲載を支持するよう求めている。
最 盛期の年末を控え、大西洋クロマグロの80%以上が日本に向けて輸出される。今回科学者会議で出された結論をクロマグロ最大消費国である日本としては、深 刻に受け止める必要があるだろう。現状通り食べ続ければ近い将来資源が崩壊し、我々の食卓から消えるということを今回の結果は示している。WWFジャパン は水産消費大国として責任ある賢明な選択を日本政府、流通関係者、消費者に求める。
蓄養の本まぐろ、販売製品の約2%に誤表示(2009年10月27日)
資源の枯渇が大きな問題となっているクロマグロ(本まぐろ)。1990年代後半以降、特に地中海沿岸では、クロマグロの蓄養業が急速に拡大し、さらに違法操業や過剰な漁獲によって、問題が深刻化しています。その最大の消費国である日本においても、クロマグロの流通の実態は、なかなか把握されてきませんでした。そこで、WWFは、日本で販売されているクロマグロ製品のDNA検査を実施。店頭で表示されている内容との間に違いが無いかを調査しました。
蓄養クロマグロ製品のDNAを分析
WWFジャパン、WWF地中海プログラムオフィスが実施した今回の調査では、一部神奈川県を含む、東京都内の大手量販店やデパート、スーパーマーケットで、「蓄養」あるいは「養殖クロマグロ(本まぐろ)」と表示された、「国産」の刺身などの生鮮製品を収集。
そのサンプルを、スペイン、ヒロナ(Girona)大学のJ.ヴィニャス(Jordi Vinas)博士に送り、DNA分析を委託しました。
その結果、「国内産蓄養クロマグロ」と表示されている製品の約2%(1件)に、資源の枯渇が深刻な、大西洋(地中海)産クロマグロが混入していることが判明。DNA分析を用いた調査の有効性と共に、日本に市場における、クロマグロの流通の透明性に、問題があることが明らかになりました。
この流通の問題については、日本のJAS法(農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律)違反でもあることから、早急な対応が求められます。
地中海および東大西洋のまぐろ資源を管理する国際機関ICCATのもとでは、加盟国に対し、漁獲量はもとより、生産から輸入までの記録、確認を義務づけていますが、いまだに大西洋クロマグロの違法・無届漁業は跡を絶ちません。
WWFとトラフィックは、世界有数のクロマグロ消費国である日本が率先して、これらの違法なマグロ製品を市場に流通させないよう、一貫した検証可能なトレーサビリティ制度を確立するよう、国内の関係者に求めています。
また、クロマグロの輸出入を一時中断する必要性を考え、野生生物の国際取引を規制する「ワシントン条約」附属書への、大西洋クロマグロ掲載を支援し、資源保全のための活動を継続してゆきます。
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記者発表資料 2009年10月27日
国内で販売されている蓄養クロマグロ、約2%に誤表示
蓄養クロマグロ製品のDNA分析の結果
WWF ジャパン(財団法人世界自然保護基金ジャパン)とWWF地中海プログラムオフィス(拠点;スペイン・マドリッド)は、報告書「ミトコンドリアDNA分析に よる蓄養クロマグロ製品の店頭表示検証―大西洋クロマグロと太平洋クロマグロの種識別による―」を10月27日に発表した。この報告書は、資源枯渇が深刻 な大西洋クロマグロの最大の消費国日本の小売店で販売されている蓄養クロマグロ製品の種の判別を、DNA分析により行った結果をまとめたもので、日本での 販売の現状について見直す必要性を訴えるものである。
市場調査は、2008年6月から8月にかけて、一部神奈川県を含む東京都内の大手量販 店やデパート、スーパーマーケットなど59店舗を対象に実施した。生鮮食品「クロマグロ」のうち、食品表示のラベルが「クロマグロ」、原産地名が都道府県 名や日本国内の水揚げした漁港名などから「国産」と判断される製品、そして「蓄養」あるいは「養殖」の表示のものを60点購入。これらサンプルのDNA分 析は、スペイン・ヒロナ(Girona)大学のヴィニャス(Jordi Vinas)博士に委託した。
このような背景から、WWFジャパン、WWF地中海プログラムオフィスは、
- 資源枯渇が深刻な大西洋クロマグロが、世界最大の消費国である日本市場で、透明性のある流通が実現かを検証
- 刺身向け生鮮製品では外見による種の区別が困難な「大西洋クロマグロ」と「太平洋クロマグロ」の2種について、DNA分析を用いた種の識別が有効であるか
の2つを目的に今回蓄養クロマグロ製品の調査を行なった。
分 析の結果、DNA分析が可能であった48サンプルのうち、「国産蓄養クロマグロ」と表示されている製品の約2%(1件)が大西洋クロマグロと判別された。 つまり、表示と内容物が異なっており、厳格な生産管理が求められているクロマグロの取り扱いが、国内ではいまだ不透明であることが明らかとなった。同時に これはJAS法(農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律)違反となる。また、今回のDNA分析の検証により、刺身向け生鮮マグロ製品におい て、大西洋クロマグロと太平洋クロマグロの種の識別に成功したことから、日本市場で販売されるクロマグロがIUU(違法、無報告、無規制な漁業)由来の可 能性のある大西洋クロマグロを特定する上で、不透明な流通過程を明らかにできる可能性がでてきた。
大西洋まぐろ類保存国際 委員会(ICCAT)の管理体制のもと、漁獲統計証明制度によって生産から輸入まで記録、確認が義務付けられているにも関わらず、大西洋クロマグロの違 法、無報告、無規制な漁業は根絶に至っていない。さらに、今回の検証で「国産蓄養クロマグロ」と表示されている製品に大西洋クロマグロが混入していること が明らかとなったことから、国内の流通小売業は、大西洋クロマグロのトレーサビリティを、より厳格なものに見直す必要がある。
WWF ジャパンとWWF地中海プログラムオフィスは、世界で最もクロマグロ消費の多い日本の輸入、流通、小売の各関係者が率先して、IUU地中海クロマグロを速 やかに国内市場から排除できるよう、市場に流通している大西洋産クロマグロ全てを対象に、生産から消費まで一貫した、検証可能なトレーサビリティ制度を早 急に確立し、日本の消費者が、知らぬうちにIUU漁業による消費の一端を担わないよう、流通関係者の厳格な対応を求める。
また、WWFでは、現状の漁業管理の不備と資源に危機的な状況から見て、国際的な大西洋クロマグロ貿易を一時的に中断する必要性も考慮し、ワシントン条約会議において大西洋クロマグロの附属書載を支援することも含め、大西洋クロマグロの資源保全活動を継続する。
中西部太平洋マグロ類委員会の第5回北小委員会閉幕 太平洋クロマグロの保存管理措置への第一歩を踏み出す(2009年9月15日)
記者発表資料 2009年9月15日
【東京発】2009年9月7日から11日まで、長崎県長崎市で中西部太平洋マグロ類委員会(以下、WCPFC)の第5回北小委員会会合が開催された。日本人の食生活にも欠かせない太平洋クロマグロだが、これまで国際的な漁業管理機関で、科学的根拠に基づく保存管理処置がとられてこなかった。今回の会合で、12月に行われる第6回WCPFC年次会合に向けて、管理措置について新たな協議がなされることが合意された。
北小委員会は、WCPFCの参加国で、北部太平洋諸国が参加する討議の場。日本、韓国、アメリカ、カナダ、台湾、バヌアツ共和国、クック諸島(フィリピン、中国は欠席)が参加。12月に行われる第6回WCPFC年次会合に向けて、関係諸地域の意見を討議・まとめる場となる。本会合で論議の焦点となったのは太平洋クロマグロの管理措置。これまで国際的な漁業管理機関で、科学的根拠に基づく保存管理措置がとられてこなかった。
太平洋クロマグロについては、北太平洋におけるまぐろ類及びまぐろ類似種に関する国際科学委員会(以下、ISC)が、現行する漁獲、特に幼魚の大量漁獲をこれ以上増加するべきではないと勧告してきた。それにも関わらず、過去3年間のWCPFC会合において持続可能な太平洋クロマグロ漁業にむけての管理措置の合意に至らず、国際的な枠組みがない中で無秩序な漁業が継続されてきた。近年は主要漁獲国である日本に加え、メキシコ、台湾、韓国でも漁獲量が増加し、これまで以上に北小委員会での太平洋クロマグロ管理措置に対する国際的な合意が求められていた。
こうした状況の中、今回の北小委員会ではようやく、次の2点について合意がなされた。
- 2010年の太平洋クロマグロの漁獲する努力量(隻数や操業日数など)を2002-2004年の水準より増加させないこと
- 0-3才の幼魚の漁獲を減少させるよう考慮すること
これにより、12月のWCPFC年次会合で、この合意について協議されることになり、合意事項が採択されれば、太平洋クロマグロの保存管理措置が本格的に始動することになる。
WWFジャパンは、これら北小委員会の協議結果は太平洋クロマグロの保存管理措置における第一歩であることについては評価する。しかし、今回の合意事項はあくまでも2010年の1年間のみの措置であり、また主要漁獲国として台頭しつつある韓国のEEZ(排他的経済水域)内が管理措置の適用から除外されていることを含め、来年以降に多くの課題を残している点など懸念事項も多数あることから、今後の動向を見守っていく。
今なら資源量と漁獲のバランスが取れているという状況が、いつ崩れるとも限らない中で、一刻も早く持続可能な資源利用を目指した太平洋クロマグロの保存管理措置が合意される必要性がある。世界的にまぐろ類の資源減少が問題となっている中、WCPFCによる太平洋クロマグロ資源管理が、先進的な取り組みを導入できるよう、WWFジャパンとしては、関係者のさらなる努力を期待したい。
日本のマグロの目撃者たち(2009年9月7日)
日本近海でもクロマグロ資源が、大幅に減少しているとみられています。「この数年、マグロがとれない」。「水揚げするサイズが小さくなっている」。現場の漁師たちからは、そんな声も上がるようになりました。WWFジャパンでは、このマグロ漁の現場を取材し、「日本のマグロの目撃者たち」の声をお届けします。
日本近海のクロマグロはどうなっている?
近年、大西洋を中心にクロマグロ(本マグロ)が世界で激減しているといわれています。特に深刻な状況にあるのは、大西洋東部、すなわち地中海のクロマグロです。
この「大西洋本マグロ」資源を管理する、大西洋まぐろ類国際保存委員会(通称ICCAT)では、加盟国それぞれに毎年漁獲してよいクロマグロの量を決めています。
しかし、これらの加盟国が現在利用している、クロマグロの年間の総漁獲量は、資源を持続的に利用できると科学的に推計される上限を超えています。
WWFや現場の漁業関係者は、「大西洋本マグロ」が近い将来獲りつくされてしまうおそれがあると、強く懸念しています。
また、心配されるのは、遠い地中海のクロマグロだけではありません。
日本人が世界の生産量の8割を消費しているといわれるクロマグロは、地中海近辺で産卵し、大西洋西部のアメリカ東部まで回遊する「大西洋本マグロ」のほか、日本の南方の海で産卵していると推測される、「太平洋本マグロ」の2種があります。
この「太平洋本マグロ」についても、日本では国産の本マグロとして、漁獲、取引されており、消費者によって購入されています。地中海で危機が指摘される一方、この日本近海のクロマグロの資源状態には問題ないのでしょうか?
日本近海でもクロマグロ資源が、大幅に減少しているとみられています。「この数年、マグロがとれない」。「水揚げするサイズが小さくなっている」。現場の漁師たちからは、そんな声も上がるようになりました。
WWFジャパンでは、このマグロ漁の現場を取材。マグロ一本釣り漁業を生業(なりわい)とする漁師たち「日本のマグロの目撃者たち」の声をお届けします。
証言1: 勝本の漁師たちの証言
「みんなの利益を守る」から始まった漁法
長崎県壱岐勝本。ここには、一本釣り漁法を大切に守り続けている漁師たちがいる。島の人口は約3万、半数の島民は漁業に携わって生計を立てている。そのうち、勝本町には2,500世帯、6,500人が住んでおり、内、約800人が漁業協同組合(以下、漁協)の組合員だ。
本マグロといえば、青森・大間産が消費者の間では有名だが、マグロを扱う市場の業者には、ここ勝本の本マグロが高い評価を受けている。
品質の良さでは逸品だ。品質が良い理由は、古くから守られてきた漁法、一本釣りにある。
一本釣りは、漁獲の際にマグロに与えるストレスを極力おさえることで、品質保持を可能にする漁法だ。5トンクラスの小型船に1人から2人の漁師が乗り込む。文字通り竿1本、人の力だけで、時には200kg近い本マグロを釣りあげる。魚を追い込んで、一網打尽に漁獲する「巻き網」漁とは違い、獲る量を調整でき、魚の獲りすぎを防ぐことができる。
勝本では、海の恵みを平等に分かち合う文化が根付いている。
組合員の合意のもと、漁協は昭和30年代に「網」を使う漁法を全面禁止し、「釣り」のみで地域の漁業を行なうことにした。
その結果守られてきたのが、皆が平等に魚を漁獲する機会を得られる一本釣りだ。魚の豊かな勝本の漁場では、多い時には300隻ほどの漁船が操業する。明け方5時頃になると、決して広くない優良漁場に漁船が集中する。しかし一本釣り漁に限定した結果、豊かな漁業資源を守り続けることができていた。
海の生きものの多様性が育むマグロの豊漁
一本釣りの対象は、マグロに限らない。現在、勝本の水揚げの5割はイカ、4割はマグロ、他種が1割を占める。壱岐周辺は対馬海流の流れが入り込み水道を形成している。
そのため、遠くの漁場に行かなくとも、たくさんのイカや魚来遊し、これらの魚種を餌にするマグロも漁場にやってくる。待っているだけで十分な生産が可能な「守り漁」が成り立ってきたのである。
この周辺のマグロは餌としてイカを好むと勝本の漁師は言う。釣れたマグロの胃袋を調べると30本ほどのイカがそのままの形で出てくる(写真)。この海域はイカの産卵場所と考えられており、イカの一本釣り漁も盛んだ。海の中の生きものの食物連鎖がうまく機能し、生物の多様性が豊かな漁場をつくっている。それがこの海の特徴だ。
しかし、豊かであったはずの海で、今、本マグロが釣れなくなってきている。本マグロの餌となるイカの漁獲量も減少している。(15cm前後のイカ=バライカ)
「本マグロが釣れないことも問題だが、餌となるイカの漁獲量が減ったことも問題だ。それにより本マグロが漁場にとどまらなくなった。」と漁師は語る。海の中で生態系のバランスが崩れ始め、日本有数の豊かな漁場は姿を変え始めているのだ。
本マグロとイカが減っていることは、海の恵みを大切に守ってきた勝本の漁業にとっては大きな打撃だ。
釣れない原因は何か
「巻き網漁が原因だ」と漁師たちは口をそろえて語る。以前はアジ、イワシ、サバを対象としていた巻き網漁。しかし、近年、巻き網漁でこうした魚種が獲れなくなり、勝本周辺でイカを大量に獲るようになったと言う。一本釣りと巻き網漁とが競合するようになったのだ。
一度に大量にとれる巻き網漁が相手では、一本釣りでの漁獲量は減少する。効率の良さで巻き網漁にはかなわないのだ。これに加え、日本海では巻き網漁による本マグロ漁獲が大幅に伸びてきている。こうした巻き網漁の転換が、勝本の一本釣りに大きな影響を与えていると口をそろえる。
「一本釣りの漁師にとっても、巻き網業界にとっても、資源が持続可能に利用できるよう適切な漁業管理措置をとってほしい」と勝本の漁師たちは行政に訴えてきた。しかし、この紛争を収められるような有効な管理措置は未だとられていない。
資源量が徐々に少なくなっている上に、漁師全体が平等に恩恵を受けるために培ってきた勝本の地域的な漁業管理が、今、危機に立たされている。
証言2: ある若者たちの証言
受け継がれてきた業と精神
勝本で本マグロが主な漁業資源として台頭してきたのは、ここ20年くらいのこと。親の世代にはなかった新しい本マグロ一本釣り漁を支えるのは、20~40代の若い世代だ。
漁師の家に生まれた子どもたちは、そのほとんどが家業を継いできた。親の仕事が格好よかったし、漁業はお金が泳いでいるのと一緒。だからそれを獲ればいいと教えられてきたという。何の迷いもなく、漁師を継いだ。
とはいえ、決して楽な仕事ではない。夜中の12時に、餌であるイカなどを獲るために船を出し、そのまま獲れた餌を使って夕方6時近くまで海に出っ放しだ。餌資源が少なくなった最近では、3杯程度のイカで本マグロを釣らなくてはならないこともある。きわめて厳しい状況だ。
それでも、思い出に残る嬉しいことがあるという。それは本マグロが釣れた時だ。1尾釣りあげるのに、最短でも1時間半、長い時には20時間近く本マグロと格闘し、逃げられた事もある。それでも釣り上げたときの喜びはひとしおだ、と嬉しそうに語る。
魚のいない水族館
若い世代の漁師たちは、小さな子供を抱える世代でもある。最近の不漁は、彼らの生活にも暗い影を落とす。
「ひどい時には5000円ほどしか稼げなかった月もある。」とある若い漁師は悲痛さを訴えた。「皆さんが想像する以上に今、ここの海の状態は悪い。海の中は、まるで魚のいない水族館ですよ。」
格好いい親たちの仕事にあこがれて後を継いだ世代が今見ている海は、昔とは様変わりし、安定した収入を見込めなくなった漁師という仕事では、家族を養っていくことも難しくなりつつある。
この状況を変えるためにはどうすれば良いか。この問いに、「巻き網漁を中心に小型魚の漁獲規制や産卵期の操業禁止を含めた、何らかの規制が必要だ」と語る。もう一度、豊かな漁場を取り戻すためには、親魚も稚魚も十分に管理しなくては始まらない。
「人に出しても恥ずかしくない魚を獲っているので、多くの人に食べてもらいたい」若い漁師たちは、親の世代の頃と変わらず、漁師としての誇りと願いを持っている。漁師たちがいつまでも魚を獲り続けることができ、私たちがおいしい魚を食べ続けることができるために、生産者から消費者まで、日本人全員が持続可能な漁業を真剣に考える時代がやってきている。
9月7日から10日まで、長崎県でWCPFC(西部太平洋マグロ類委員会)の北小委員会がひらかれる(*)。その会議では、日本を含めた太平洋の本マグロ資源状況に配慮した漁業管理について話し合われる。適切な管理措置が本会議で合意されるかどうかが、勝本を含めた日本の小規模な沿岸漁業の将来にも大きな影響を与えることになる。
- *WCPFCは中西部太平洋まぐろ類条約の略称。北緯20度以北の条約水域に分布する魚種に関する措置の決定は、北小委員会の勧告に基づいて行なわれる。
3年後には産卵がゼロに? 地中海のクロマグロ(2009年4月14日)
このまま地中海でクロマグロ漁を続ければ、産卵可能なクロマグロが3年後には消滅する可能性がある!違法漁業や過剰な漁獲が続く地中海と東部大西洋で、巻網漁の解禁日を前に、WWFはクロマグロ資源の深刻な危機を指摘。漁獲と取引を規制する必要性を訴えました。
失敗に終わったICCAT会合と近づく解禁日
2009年3月24日から27日まで、スペインのバルセロナにおいて、大西洋まぐろ類保存国際委員会(ICCAT)の遵守委員会中間会合が開催されました。
この会合には、ICCATに加盟している、大西洋および地中海でクロマグロ(本マグロともいわれる)の漁獲や畜養を行っている地中海沿岸のEU加盟諸国や、北アフリカの諸国、および日本、アメリカ、カナダ、中国、韓国が参加。クロマグロを持続可能なレベルで漁獲するためICCATが定めたルールが、きちんと守られていない現状があらためて明らかになりました。
ところが会議では、明らかになったこの問題に対し、制裁のための措置は何ら講じられませんでした。地中海と東大西洋では、マグロ資源の過剰な漁獲が抑えられない、危機的な現状のまま、クロマグロ巻網漁が解禁される4月15日を迎えることになります。
資源保全のため求められる規制
WWFでは4月14日、このままクロマグロ漁業が続くことになれば、クロマグロの資源再生の母体になる産卵可能な個体群が、3年後には消滅する可能性があることを警告。その根拠として、クロマグロの産卵個体数が、この10年で激減しているデータを発表しました。
WWF地中海オフィス漁業担当セルジ・テュデラ博士は言います。
「この数年間、私たちは「いつクロマグロ漁が崩壊するのか」と問われてきました。今回の分析でその目処がついたことになります。それにもかかわらず、4月15日に、これまでと変わらないクロマグロ漁が解禁されます。壊滅的な資源状況にあるクロマグロの漁獲が解禁されることは、極めて不合理であり遺憾なことです」。
WWFでは地中海のクロマグロ資源を回復させるため、まずクロマグロの一時的な禁漁措置をとることを提案しています。そして、各国の消費者、小売業者、外食産業関係者といった消費者に対しても、理解と協力を求めていくことにしています。
また、現在の不十分な、地中海のクロマグロ管理体制を是正するためには、国際的なクロマグロの取引を、一時中断する措置の有効性も考慮し、2010年に開催が予定されているワシントン条約会議において、東部大西洋のクロマグロ個体群を取引規制の対象とすることに対しても、支援を検討しています。
記者発表資料 2009年4月14日
地中海のクロマグロ資源崩壊 漁解禁を目前にして
【ローマ発】 2009年4月15日、過剰な漁獲能力が問題となっている地中海のクロマグロ巻網漁業が解禁となる。これに先立ちWWFでは、この海域のクロマグロ漁業が現行通り続けば、2012年にはクロマグロの再生産に必要な産卵個体群が消滅する危険性を示すデータを発表する。
WWFでは、地中海のクロマグロ資源において、過去10年間で産卵個体数が急激に減少している実態から(図1)、クロマグロ漁業関係者が科学委員会による勧告を無視し、現行通りの操業を継続すれば、3年後には産卵個体は消滅してしまうだろうとの予測を発表した。
(図1)2012年までの東部大西洋クロマグロの産卵個体数の予測
Source: 実線はSCRS ICCAT Bluefin tuna stock assessment,2008のデータより。破線はWWF予測。
WWF地中海オフィス漁業担当のセルジ・テュデラ博士は「地中海のクロマグロ資源は崩壊の危機にある。今回提示するデータがそれを裏付けており、資源量の急激な減少傾向は明白である。WWFとしては、早急な禁漁措置を求める以外の選択肢がもはや残されていない。」と述べる。
地中海では再生産が可能とされるクロマグロ個体群(4才以上で重量35kg以上の個体)は、ほぼ漁獲され尽くされているといえる。2007年の産卵可能なクロマグロ個体数を50年前のそれと比較すると1/4に減少している。特に近年の激減は顕著である。
一方で1990年代以降、成熟したクロマグロの魚体サイズは半分以下になるなど小型化も進んでいる。リビア沖で漁獲された個体の平均重量では、2001年に124kgだったものが2008年にはほぼ半分の65kgにまで落ちている。WWFが科学委員会のデータを分析した結果、この傾向は地中海全域で確認されており、各海域ともに50%前後小型化していると推定される。(図2、3, 4参照)
この海域で企業的経営による大型漁船が導入される以前は、漁獲されたクロマグロ一尾の重量は900kgを超えることもあった。これら大型のマグロが枯渇し、中型よりもさらに小型魚の漁獲が増加している実態は、クロマグロが種として存続するうえでかつてない影響を受けていることのあらわれだ。
(図2)地中海西部:スペインの巻網によるクロマグロ漁獲サイズの変化
(図3)地中海中部:チュニジアの巻網によるクロマグロ漁獲サイズの変化
(図4)地中海東部:トルコの巻網によるクロマグロ漁獲サイズの変化
この海域で操業する漁船の漁獲能力は明らかに過剰となっており、法的に設定された割当量をはるかに超えて漁獲している。さらに密漁や魚群探索のためのセスナ利用、漁獲量の過小報告や禁漁期間中の違法操業も止まらない。また、科学委員会の勧告に従おうとしない漁業管理機構や世界的にクロマグロ需要が依然として存在することも、こうした急激な資源量減少の一端を担っていると言えよう。
「この数年間、我々はいつクロマグロ漁が崩壊するのかと問われてきたが、今回の分析でその目処がついたことになる。しかし、15日*1にはこれまで通りクロマグロ漁が解禁になる。漁獲対象魚種が壊滅的な状況にある中で操業を解禁することは、極めて不合理であり誠に遺憾である。」とテュデラ博士は述べる。
WWFでは地中海クロマグロ資源の回復のために、まずはクロマグロ漁について一旦禁漁措置をとることを提案する。さらに、危機的状況にある地中海クロマグロの枯渇を回避するべく、各国消費者、小売業者、外食産業など消費側へ協力を引き続き求めていく。
加えて、現行の地中海クロマグロ管理体制が不十分であることから*2、国際的なクロマグロ貿易を一時中断する必要性も考慮し、2010年のワシントン条約会議において大西洋クロマグロの掲載を支援することも視野に入れて活動を継続する。
- *1 2009年の地中海および東大西洋のクロマグロ漁は、過剰漁獲や産卵期を避けるため、4月15日から6月15日のみ(悪天候が続く場合は6月20日まで)解禁となる。
- *2 ICCAT遵守委員会中間会合:2009年3月24日から27日まで、バルセロナ(スペイン)において大西洋まぐろ類保存国際委員会(ICCAT)遵守委員会中間会合が開催され、大西洋におけるマグロ類の保存管理措置の加盟国の遵守状況について話し合われた。参加国は、日本、米国、カナダ、EU、モロッコ、リビア、アルジェリア、トルコ、クロアチア、中国、韓国等(大西洋クロマグロ漁業・蓄養業に関わる加盟国等)。会合の結果、遵守上の問題が生じている分野として、「まき網の漁獲能力の管理」、「漁獲証明制度」、「異なる国籍のまき網漁船が参加して行う共同操業」および「VMS(船舶位置モニタリングシステム)」が特定されたにも関わらず、国を特定した制裁措置が講じられなかった。
ヨーロッパウナギの輸入規制はじまる(2009年3月23日)
日本でも消費されてきたウナギの一種、ヨーロッパウナギの国際取引が、3月13日から規制されることになりました。ヨーロッパウナギは近年、乱獲による減少が報告されており、IUCNのレッドリストでも絶滅の危機が指摘されています。ウナギの資源保護と、その消費のあり方が今、問われています。
ウナギが取引の規制対象に
日本の川にも生息し、日本人にとってなじみの深い魚のひとつ、うなぎ。しかし、日本人が食べているウナギは、国内に生息するニホンウナギだけではありません。
ウナギ属(Anguilla.sp)に分類される魚は、世界に15~17種いるとされていますが、食用になっているのは、そのうちの4種。
その1種であり、日本でも輸入、消費されてきたヨーロッパウナギの国際取引が、2009年3月13日から、ワシントン条約によって規制されることになりました。
この取り決めは、2007年6月に開催された第14回ワシントン条約締約国会議で、ヨーロッパウナギをワシントン条約の「附属書2」に掲載する決議を受け、決まったものです。
絶滅の危機にあるヨーロッパウナギ
取引規制の背景にあったのは、ヨーロッパウナギの深刻な減少です。増加の一途をたどってきた、世界的なウナギの消費の圧力をうけてか、この20年ほどの間に、ヨーロッパウナギは激減。
北大西洋の海洋環境と漁業に関する政府間機関「国際海洋探査委員会(International Council for the Exploration of the Sea)の調査によれば、ヨーロッパ12カ国の19の河川で漁獲されたウナギの稚魚(シラスウナギ)の量は、1980年~2005年までに、平均で95~99%減少していることが明らかになりました。
2008年には、IUCN(国際自然保護連合)の「レッドリスト(絶滅のおそれのある野生生物のリスト)」にも、「CR:近絶滅種)」として、その名が記載されました。この「CR」は、野生生物の危機の度合いを示すランクの中でも、最も危険性が高く、絶滅に近いとされるランクです。
日本のウナギ消費への影響は?
日本は世界でも屈指のうなぎの消費国です。
しかしこれまで、日本の輸入統計では、輸入したウナギを全て「食用うなぎ」としてきたため、それがヨーロッパウナギなのか、アメリカウナギなのか、輸入された海外産のニホンウナギなのか、知る術がありませんでした。
このため、ヨーロッパウナギの正確な輸入量はわかっておらず、今回の取引規制が、日本国内のウナギの消費や流通に、どのような影響を及ぼすかも、まだわかりません。
それでも、ヨーロッパウナギが日本に輸入されていることは、間違いのない事実です。
日本で問題になっているウナギの産地偽装事件でも、DNA調査の結果、国産として売られていたウナギの中に、中国に運ばれ、そこで養殖された「中国産」ヨーロッパウナギが含まれていたことが、明らかになっています。
天然ウナギを使う「養殖うなぎ」
今回の規制は、養殖うなぎにも、影響を及ぼす可能性があります。
うなぎは現在のところ、卵から完全に養殖する技術が、まだ完全に確立されていません。研究は進められていますが、少なくとも、商業的に成り立つまでには至っていないのが現状です。
「養殖うなぎ」として、売られているものも、実はウナギの稚魚(シラスウナギ)を捕まえ、これに餌を与えて育てたもの。もとは、自然の海の魚です。
つまり食べられている食用ウナギは、その生産量のほぼ全てを天然のものに頼っている、ということです。
しかも、世界で生産されている食用ウナギの約9割以上は、この養殖生産によるものです。世界全体の総生産量が増加し、一方で養殖のための「種苗」、つまり元になる、シラスウナギの漁獲が減る中、その商品価値も非常に高くなりました。
国際取引にかかわる問題
トラフィックの調べでは、ヨーロッパにおける2000年から2001年までの、ヨーロッパウナギのシラスウナギの平均取引価格は、1キロあたり281米ドル(約3万2000円 / 当時1ドル=114.90円)。
非常に高い商品価値を有しており、このことが特に、ヨーロッパ南部などの一部の地域で、密漁と違法な取引を引き起こす呼び水となっています。また、その背後には犯罪組織の関与も疑われています。
ヨーロッパウナギ最大の国際取引のルートは、ヨーロッパからアジアに向けた、養殖用の種苗としてのシラスウナギの輸出。
こうした国際取引の現状もまた、ウナギ資源の不適切な利用を引き起こし、ヨーロッパウナギを減少させる、大きな要因となっているといえるでしょう。
日本に求められる、適切な取引手続きと管理
今回始まった、ワシントン条約による輸入規制は、取引を全面的に禁止するものではありません。
しかし、この条約の附属書2に掲載されたことによって、ヨーロッパウナギの国際取引には、輸出国の管理当局が発行する輸出許可書、または、一度輸入した国の再輸出証明書が必要となり、その取得のための手続きや管理などが求められることになります。
また今後、日本に「生きているうなぎ(活鰻)」を輸入する場合には、経済産業大臣の発行する「確認書」などの書類も必要となります。その際には、輸入するウナギがどの種のウナギなのか、学名や和名、原産国などを明らかにし、申告しなくてはなりません。
こういった管理が徹底されれば、従来の貿易統計では明らかにできていなかった、ウナギの種類や原産地、その輸入量などがそれぞれ明確になり、ヨーロッパウナギがどれくらい輸入され、消費されているのかも、明らかになるでしょう。
水産資源を持続可能な形で利用していくためには、漁業や、漁獲された魚の輸出入が、実際にどれくらいの規模で行なわれているのか、また、違法な行為が無いかどうかをチェックすることが必要です。
ヨーロッパウナギに関する国際取引の規制は、まだ現状がわかっていない、他の水産資源の利用や取引を考える上でも、今後参考となることが期待されます。
ヨーロッパウナギについて
バルト海や地中海沿岸のヨーロッパ諸国と、大西洋に面した北アフリカ沿岸諸国、および北大西洋に浮かぶカナリア諸島、マディラ諸島、アゾレス諸島、アイスランドなどの河川や湖に生息します。
一生のほとんどを淡水で過ごしますが、成長した個体は海へ下り、大西洋のサルガッソー海で産卵することが知られています。親魚は産卵を終えると死亡します。
孵化した稚魚(レプトセファルス)は、海流によって運ばれ、沿岸の河口域に達するころには、透明な身体をした「シラスウナギ」に成長し、多くは川を遡上して淡水域で成長します。
ウナギが減少している原因は、過剰な漁獲以外についても指摘がなされています。トラフィック・ネットワークは、2003年に発表した報告書の中で、漁業による影響に加え、生息地の消失や、産卵のための海への回遊への障害、汚染、寄生虫や病気の伝染などが、ウナギ減少の一因になっていることを指摘しました。
ICCAT第16回特別会合が閉幕 クロマグロ資源が危機に(2008年11月24日)
2008年11月24日、モロッコのマラケシュで開かれていた大西洋まぐろ類保存委員会(ICCTAT)の年次会合が閉幕しました。今回の会合で焦点をなっていたのは、資源状態の悪化が著しく、かつ違法な操業が指摘され続けながら何ら問題が解決されていないクロマグロ(本マグロ)の漁業管理をどう改善するかという点でした。
マグロ資源の持続可能な利用を求める動き
今回の会議の開催に先立ち、WWFでは、持続可能なレベルを大幅に超えた乱獲状態が続けば、近くこの海域の本マグロ資源が枯渇することを警告。本会合に際して、以下の3点をICCAT加盟諸国に対し求めてきました。
-
本マグロ漁業の一時停止または総漁獲量の大幅な削減
-
産卵海域や生育海域での禁漁区設定
-
産卵期である5、6月を含む禁漁期間の延期
また、2008年9月には地中海クロマグロ流通の日本国内最大手である三菱商事が「クロマグロに関する声明」を発表。資源管理の強化を求めるとともに、資源の持続性を前提とした本マグロ産業が実現されなければ、本マグロビジネスへの関与を見直す、と明言するに至りました。
一輸入企業が、資源問題に対し声明をもって言及するということは、過去に例が無く、クロマグロの資源問題がクロマグロを取り扱う業界全体の問題となっていることを浮き彫りにしました。
さらに水産庁も、ICCATの科学委員会が勧告する持続可能な漁獲量に基づき、クロマグロの総漁獲量を年間1万5,000トン以下に削減する、と事前にその交渉姿勢を明らかにし、国内関係者や各国代表の説得に努め、強い決意で臨みました。
止まらない過剰な漁獲
しかし、ICCAT会合が開幕すると、主要生産国であるヨーロッパ諸国や北アフリカの国々は、1万5,000トン以下に総漁獲量を削減する提案に、強く反発する姿勢を見せました。本マグロビジネスの急成長により、自国で増加し続けてきた漁船や畜養場の経営維持に支障をきたす、ということがその理由でした。
こうした抵抗から、日本政府も当初の1万5,000トン以下という適正ラインへの削減は不可能と判断し、結局、漁獲ルールが遵守されているかどうかの監視体制を強化するものの、2009年度の総漁獲量は2万2,000トンにするという提案で合意。WWFが主張してきた5月、6月を禁漁期間とする案も実現しませんでした。
WWFは、最後のチャンスともいえる2008年度の会合で、ICCATが有効な管理措置の合意に至らなかったことに対し、強く抗議。また、将来的にも地中海、大西洋のクロマグロ資源の恵みを享受できるよう、資源管理体制の確立を今後も強く求めました。
また、クロマグロが国際的な輸出商品となっていることから、「漁獲統計証明制度」をはじめ、国際的な貿易に関連する仕組みを有効活用することで、違法・脱法漁業からのクロマグロを買わない、取り扱わない、消費しないことを日本政府に強く求めることにしています。
地中海のクロマグロが絶滅し、人々の昔話にしか登場しない幻の魚になる前に、地中海本マグロの80%以上を消費している日本の果たすべき役割に注目が集まっています。
関連情報
WCPFCも閉幕
12月12日、ICCAT同様注目されていたWCPFC(中西部太平洋太平洋マグロ類条約)の年次会合も閉幕しました。
この会合では近年、資源量の減少が危惧されているメバチマグロの漁獲量を、2009年から3年間で30%削減することが合意されました。
また、小型魚漁獲の原因となっていた集魚装置の使用についても規制措置がとられることとなりました。次回の年次会合では、太平洋における、より具体的なマグロ漁業の管理体制の構築が大きな課題となります。
【報告書】最後のクロマグロを巡る競争 地中海クロマグロ巻網船団の漁獲能力と漁獲能力削減の必要性に関する考察(要約)(2008年3月1日)
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報告書(PDF形式:英文/6.11MB)
Race for the last bluefin:
Capacity of the purse seine fleet targeting bluefin tuna in the Mediterranean
Report published by WWF Mediterranean, March 2008
要約
本報告書はWWFの委託により独立系コンサルタント会社ATRTが調査・作成したものであり、地中海クロマグロ巻網船団の漁獲能力実態を初めて本格的に試算 したものである。その結果は憂慮すべきもので、これら漁船の漁獲能力の早急な削減を迫っている。―救うべきマグロが地中海にまだいるうちに。
大西洋クロマグロ(クロマグロ)漁業は、ICCAT(*1) 協定ゾーン全体、すなわち大西洋と地中海で、特に過去10年間(1996~2007年)、乱獲の横行に晒されてきた。その主な原因は、ICCATによる漁 獲可能量(TAC)の管理の甘さ(漁獲量が割当量に満たなかったとの嘘の申告に基づく漁獲割当量の体系的な上方修正)、ICCAT締約国によるクロマグロ 漁獲量の意図的な過少申告、際限のない漁獲能力の向上である。しかし、かなりの乱獲が地中海で起きており、その原因の大半を占めるのが、かつてない地中海 のマグロ畜養場で肥育する活魚需要の増大に活気づく巻網漁船団の操業となっている (*2) 。
地中海の巻網船は、1996~2006年のICCAT協定ゾーン全体におけるクロマグロの全漁獲量の50%を占めた。 2005~2006年の漁獲量に限ると、この数字はほぼ60%に上昇する。これだけ大きな漁獲割合を占めることとなった要因は、船団の大幅な効率性向上に 加え、船団の規模が拡大し続けていることである。そのため、クロマグロ漁業が商業的に崩壊に瀕する中、地中海で操業するクロマグロ巻網船団の漁獲能力を詳 細に試算することが急務となっている。本報告書は、実際のクロマグロ巻網船団の海上漁獲能力数量化における現状の不足を補い、東部大西洋と地中海のクロマ グロ資源への漁獲圧力の低下を目的とした現在進行中の管理プロセスに強く求められていた基準を提供することを目指している。基準の提供については、 2008年11月に予定されている2006年度ICCAT管理計画の中間レビュー、国別割当量に見合った漁獲能力によるクロマグロ漁業の年次漁獲計画の策 定を加盟国に課すEU要件、一部船団の能力削減のために国レベルで設立された欧州漁業基金(EFF)の利用が含まれる。
WWFの包括 的な新報告書『最後のクロマグロを巡る競争』は、この種のものとしては初の報告書であり、データベース検索と造船所の全数調査に基づき、とりわけ漁船の写 真記録から得た証拠を根拠として、地中海で現在操業しているBTF巻網漁船団のうち、アルジェリア、クロアチア、フランス、ギリシャ、イタリア、リビア、 マルタ、モロッコ、スペイン、チュニジア、トルコという11沿岸国の617隻がICCAT登録・未登録船からなることを明らかにしている。
この船団だけで年間潜在漁獲量が54,783メトリックトン(Mt)と算出されている。この数字は、ICCATが設定する年間合計TAC(2008年は 28,500 Mt)のほぼ倍、資源の枯渇を避けるべく科学者が提唱する漁獲水準(15,000 Mt)の3.5倍を超えている。この漁獲量には、残りのクロマグロ船団(延縄船団、定置網船団、釣り船、底曳網船、手釣り船など)の潜在漁獲量が計算に入 れられていない。
またこの報告書は、総登録トン数や機関エンジンの総出力だけでなく、船の数で見てもトルコが船団の過剰能力では群を 抜いてトップであり、イタリア、クロアチア、リビアがこれに続く過剰能力を誇ることを明らかにしている。しかし、メトリックトン単位での年間合計潜在漁獲 量が一番多いのは、トルコ、フランス、イタリア、クロアチア、リビアである。さらに、1997~2007年に操業を開始した新しいクロマグロ巻網船団に焦 点を当て、コストを賄い最低限の収益を生み出すのに必要な最低漁獲量(経済的損益分岐点)の詳細な分析も本報告書は掲載している。経済的分析では、特にト ルコ、リビア、クロアチア、イタリアで船団かなりの過剰投資がなされ、経済的に利益が出るクロマグロの最低漁獲量がマグロの合計TACを大きく超過してい ることを指摘している。
これらの知見に基づきICCATが設定する現行の持続可能とはいえない割当量と、資源枯渇を避けるために ICCATの科学者が勧告する最大漁獲水準(持続可能漁獲量)の双方を守るのに必要な大中型クロマグロ巻網船(全長28.6メートル超)の能力の最低削減 幅を、WWFは控え目に試算した。WWFの分析によると、法的割当量を遵守するためだけでも、リビア漁船は22隻の削減(58%の能力減)を、イタリア漁 船は17隻(36%の能力減)、フランス漁船は合計15隻(45%の能力減)を削減すべきである。持続可能な漁獲水準を守り資源を保護するには、さらに思 い切った船団の削減を行うべきである。減船すべき大型巻網船数は、イタリアでは31隻に上り(67%の能力減)、リビアでは30隻(78%の能力減)、フ ランスでは23隻(72%の能力減)となる。トルコは別格で、必要な推定能力削減幅は94~97%、大型巻網船168~173隻に相当する(*3)。必要 な船団削減幅は、アルジェリア、クロアチア、スペイン、チュニジアについても数値で示した。クロマグロ資源の枯渇を避けるために最低限必要な地中海の船団 の合計削減数(トルコを除く)は推定で大中型巻網船110隻に上る。
(*1)ICCAT ―大西洋まぐろ類保存国際委員会― (www.iccat.int)は、このクロマグロ漁業を規制する地域漁業管理機関。
(*2)マグロ畜養場とは、巻網漁船団が捕獲した野生の活きたマグロを水に浮いた囲いや檻に閉じ込めたもので、そこで6ヶ月ほど肥育してから日本市場に高値で売却する。
(*3)地中海の他の大型巻網船団と異なり、トルコ船団が獲ろうとしている魚種はクロマグロだけではない可能性がある。そうだとすれば、過剰能力に関する我々の数字はいくらか多く見積り過ぎているかもしれない。
本レポートの主な知見
地中海のクロマグロ巻網船団は大幅に過剰能力を有していることが明らかであり、マグロを漁獲対象とするすべての漁船から推定される潜在漁獲量の合計は、ICCATが設定した年間TACの毎年2倍となる。
WWFの報告書『最後のクロマグロを巡る競争』は以下のことを明らかにする。
1) ICCAT数量割当制度は完全に失敗
ICCATの数量割当制度は主に以下の3つの理由で、クロマグロ漁業でほとんど機能してこなかった。
-
割当量が科学的助言にまったく一致していなかった。
-
前 年度に割当量を漁獲量が下回ったと主張する国に対して、このうち数か国が違法操業や漁獲量の過少申告を行っていることが広く知られているにもかかわらず、 割当量の調整のこじつけが行われてきた。この割当量調整による1996年から2006年までの名目的な漁獲可能量の増加は39,366 Mtに上る。
-
ほとんどの国が深刻な割当量違反を行ってきた(ICCATへの公式報告とは関係なく)。
2) 過去10年間におけるクロマグロ巻網船団の規模と効率性の大幅拡大
合計229隻の新造巻網船が1997~2008年に地中海で就航した。これには、トルコ、クロアチア、スペイン、イタリア、チュニジアの造船所で建造中の25隻が含まれている。これらの新造船から成る新しい漁船団は現在推定される船団のなんと37%を占める。
また、操業中のクロマグロ巻網漁船の乗組員は、メインエンジンと巻網の吊り上げクレーンの機関出力向上、船の全長の伸長、巻網漁具の効率性向上、より効率 的なメイン巻網ウィンチとよりパワーのあるスキッフの設置、クロマグロ群の場所を見つけるためのマグロ探知航空機とソナーの使用によって、過去10年間に 漁獲効率を劇的に向上させてきた。しかも、1997年以降、効率的に漁業を行おうという巻網船団の勢いは強まってきている。これはマグロ畜養場の導入と拡 大によるもので、畜養施設の現在の収容能力は約59,842 Mtに上る。
3) 船団の能力が最大なのはトルコ、イタリア、クロアチア、リビア
2008年に地中海で操業しているクロマグロ巻網船614隻の40%がトルコ船籍で、17%がイタリア、14%がクロアチア、9%がリビア船籍である。船の隻数で 見ても、総登録トン数やメインエンジンの総機関出力で見ても、これら4ヶ国が地中海のクロマグロ巻網船団全体の80%を占める。大型巻網船(全長38.5 メートル超)の登録数が最も多いのがトルコ(88隻)とイタリア(25隻)であるのも当然といえよう。
4) EUでの過剰能力の最大の原因はイタリア
欧州連合の地中海漁業国のなかで、これまでクロマグロ巻網船団の過剰能力の最大の原因となってきたのはイタリアである。1997年以降、イタリアは27隻 の新船をクロマグロ巻網船団に就航し(*4)、合計を102隻としたことでトルコに継ぐ2番目の船団規模となっている。これにより、イタリアだけで地中海 クロマグロ巻網船団の合計潜在漁獲量の14%にあたる約7,538 Mtを占めると推定されている。この数字は、イタリア政府が同国の巻網船団に割り当てた2007年度割当量のちょうど2倍である。
1997年以降に巻網船団が大幅に拡大したにもかかわらず、イタリアが最大のクロマグロ漁獲量を申告したのは1997年であった(7,068 Mt)。これが事実なら、イタリア、そして同様にフランスとスペインが、漁獲量を過少申告しており、過去10年間にクロマグロの年間割当量を実際の漁獲量 が超えていたであろうことが明らかになる。4隻のイタリア巻網船を独自に調査したところ、各船の漁獲量が、2001年度クロマグロの個別割当量を夏の漁期 だけで3倍も超えていたことが分かった。
(*4)旧FIFG(漁獲指導基金)構造プログラムからのEUの資金が、イタリアの造船所で現在行われているクロマグロ巻網船の建造作業への資金提供に依然として使われている可能性がある。
5) スペインによるクロマグロ巻網船団の漁獲量の重大な過少申告
地中海の新世代クロマグロ巻網船の膨大な漁獲能力を最も如実に示す例がスペインである。水産業界が提供する公開情報によるスペイン漁業当局の内部報告と漁船 6隻の年次経済収支の2つの情報によると、近年の漁獲量は年間ほぼ3,500~4,000 Mtで、公式報告を最大で100%超過している。
6) クロアチアによる船団の大幅な過剰能力と漁獲量の重大な過少申告
クロアチアのクロマグロ巻網船団の推定漁獲能力は5,157 Mtに上る。これは、同国の2008年度調整済みICCAT総割当量の7倍を超える。この状況をさらに悪化させているのが現在建造中の2隻の新しい超大型 クロマグロ巻網船であることを本報告書は明らかにしている(ネプチューン1号・2号、テーノモン・プラ造船所)。
実際、クロアチアと日本の公式情報源を照合してクロアチアの畜養場からの輸出量に関するデータを分析したところ、2003年以降、クロアチアの畜養場は従 来通りマグロ畜養を行ってきており、過去年度からのマグロの大きな持ち越しはなかった(*6) 。この事実は、2007年にマルタ周辺の中部地中海海域で操業していたクロアチア船籍の巻網船の証拠写真によって完全に裏付けられた。同じ分析が示すとこ ろでは、クロアチアのマグロ畜養場の生産量を支えるには、クロアチア船団による2003年以降の実際のクロマグロ漁獲量が、報告された量(2006年は最 大4,793 Mt)よりもはるかに多くなければならないはずである。
(*6)クロアチアは自国のマグロ畜養を地中海の状況における例外であると常に報告してきた。アドリア海で捕獲した若いマグロの畜養であり、(地中海の他のすべての畜養場にあてはまるような数ヶ月間の畜養ではなく)数年かけて畜養するというのが理由である。
7) リビアとアルジェリアは記録期間中に船団の能力を過剰に開発してきた
リビアで最初のクロマグロ巻網船が操業を開始したのは2002年で、これは旧フランス船籍のマグロ巻網船の船籍変更によるものであった。こうして2003年 より、主に他の地中海諸国からのマグロ巻網船の船籍変更によるリビアのクロマグロ巻網船団の構築という思い切った計画をリビアは開始した。現在(2008 年)の船団は39隻の巻網船からなり、これには、フランス(12隻)、チュニジア(9隻)、イタリア(6隻)、トルコ(3隻)から移転された船に加え、パ ナマ(1隻)、マン島(1隻)、オランダ(1隻)から船籍が変更され改装された船が含まれている。報告漁獲量から計算した近年の漁獲率が、漁船団の強力な 開発と平行して下がっているのは非現実的であり、このことは、リビアのクロマグロ船団が実際の漁獲量を過少申告している可能性が高いことを明らかにしてい る。巻網船39隻の合計漁獲能力は推定で年間4,251 Mtに上り、リビアの2008年度総割当量の3倍に相当する。
リビアと同様に、アルジェリアも漁業開発計画を2005年に開始し、これは新しいクロマグロ巻網船団の開発を伴っていた(巻網船のクロマグロ漁獲能力が まったく無い状態から始まった)。合計14隻のアルジェリア船籍巻網船が2008年に操業を開始するが、これらはフランスの技術支援によりスペインとトル コで建造された。この新船団の推定能力は年間約1,740 Mtに上り、総割当量(延縄船など他のクロマグロ漁船団と共同で1,460 Mt)をはるかに超える。
8) トルコ船団の能力は大幅な過剰であり、緩和するには巻網船団を他の魚種に振り向けるしかない
巻網船240隻というトルコの巨大船団は、大型88隻、中型90隻、多魚種船62隻からなり、そのうちの71隻は1997年以降に就航した。この船団は、算 出されたクロマグロ潜在漁獲量が19,198 Mtであり、地中海巻網船団のクロマグロ総漁獲能力のなんと35%という数字になる。トルコのクロマグロ巻網船団は地中海のすべてのクロマグロ巻網船団の なかで最も非効率的で最も経済的利益が低いということを今回の報告書が見出したのは驚きに値しない。しかし、トルコの巻網船は多魚種を狙える多目的船らし く(近年ではカツオの漁獲量が多いことが報告されている)、地理に合わせて柔軟な操業が可能で(黒海、マルマラ海、エーゲ海で操業していることが知られて いる)、予想されるクロマグロ資源への巨大船団の圧力を少なくとも一部緩和できる可能性がある。
9) 地中海のクロマグロ巻網船団は深刻な過剰装備の状態にあり、経済的に乱獲せざるを得ない
最近10年間に建造された完全操業中の地中海巻網船(合計197隻)だけでも、クロマグロの年間漁獲量の損益分岐点(固定費・変動費を賄い最低限の経済的純 利益を生み出すのに必要な最低漁獲量)は約41,631 Mtに上る。この数字だけで、東部大西洋と地中海の資源の2007年度調整済み総割当量の1.3倍である。
これをクロマグロだけに頼ると仮定すると、トルコ、リビア、クロアチア、イタリアで過剰装備が特に顕著となる。これらの国は、新しい巻網船の推定損益分岐 漁獲量だけで、すでに各国の年間総割当量を超えている(トルコではICCATの国別割当量のなんと17倍、クロアチアとリビアは国別割当量の4倍、イタリ アは割当量の1.25倍で、これらの国が割当量を超えて漁獲する大きな誘因となっている)。
10) 現行のICCAT TACを遵守し、資源枯渇を防ぐために科学的に提唱される漁獲水準を守るには、巻網船団の能力をかなり大幅に削減する必要がある
地中海諸国の海上クロマグロ巻網船団の実際の規模と能力に関する貴重で前例のない試算情報を開示することによって、ICCATの2008年度TAC (28,500 Mt)と、資源枯渇を防ぐために科学者(ICCATのSCRS)が提唱する最大漁獲水準(15,000 Mt)とを守るのに必要な、地中海と東部大西洋のマグロ漁業の巻網船団の推定削減幅をWWFは算出することができた。
WWFは非常に 控え目なアプローチをとり、多魚種巻網船(全長20~28.6メートル)を巻網船団の過剰能力の計算から除いた。これは、これらの船が他の魚種に完全に依 存していると仮定し、そうしてクロマグロのすべての漁獲可能性をより特化された中大型巻網船に帰したものである。
これらの結果は実に 憂慮すべきものである。ICCATの2008年度TACを守るためだけでも、中大型船の漁獲能力を58%削減する必要があることをWWFは見出した。これ は、アルジェリアとスペインの2隻からトルコの168隻まで、229隻分に相当する。科学者が勧告する漁獲水準を守るには、中大型巻網船団の能力を78% 削減する必要がある。これは、スペインの4隻からトルコの173隻まで、283隻分に相当する。漁業国ごとの結果の詳細を下の表1と表2に示す。
結論
本報告書は、必要とされる地中海のクロマグロ巻網船団の能力削減について、これまでで最も信頼できる(現実の海上漁獲能力に基づく)基準を設定するものであ る。これは、東部大西洋と地中海のクロマグロ資源を確実に回復させるための大胆で科学的根拠に基づいた一連の管理対策を2008年に緊急導入するきっかけ になるだろう現在継続中の政策論議に貢献するものである。
前述のように、この分析は、現在クロマグロを獲っている主要漁業である巻網 船団に焦点を当てている。延縄漁業にこの分析を拡大すれば、膨大な過剰能力を減らす必要性について同様の結論に至る可能性が高いとWWFは認識している。 実際、巻網船団の能力を大幅に削減する必要があることを本報告書が明らかにしたからといって、地中海と北部大西洋でクロマグロを獲るアジアと現地の大中型 延縄船団(リビアの海洋船団など)の能力を同様に制限する必要が無いことにはならない。
これにより、商業的な絶滅と生態学上の絶滅か らクロマグロを救うために現在優先すべきことは、1) 科学的助言に沿った管理保護対策を含む現実的な回復計画の採用、2) マグロ漁船団、特に大型巻網船団の能力の思い切った削減、という2つであることをWWFの今回の報告書は立証している。
上記の対策がとられ、それらの実施条件が完全に整うまで、ICCAT締約国に対しては漁業モラトリアムの導入を、市民、小売業者、調理師、飲食店に対してはこの魚種のあらゆる取引と消費のボイコットを、WWFは呼び掛ける(*6)。
(*6)そもそも持続可能な仕組みを持つ定置網漁業を唯一の例外とする
マグロ類初の漁業認証が実現(2007年9月7日)
2007年9月6日、アメリカの漁業団体が北太平洋で行なっているビンナガ漁が、マグロ類の漁では初めて、MSC(海洋管理協議会)の漁業認証を取得しました。ビンナガは小型のマグロ類の一種で、主に缶詰に加工され、主に欧米を中心とした市場に流通しています。
アメリカのビンナガ漁が認証を取得
アメリカの米国ビンナガ漁業協会(AAFA:American Albacore Fishing Association)が行なっている、北太平洋でのビンナガ漁が、2007年9月6日、マグロ類の漁では初めて、MSCの(海洋管理協議会)漁業認証を取得しました。
MSCの認証を受けた水産物につけられる青いロゴのラベルは、国際的な「海のエコラベル」。ビンナガは小型のマグロ類の一種で、主に缶詰に加工され、主に欧米を中心とした市場に流通しています。
米国ビンナガ漁業協会は、家族経営漁業を中心とする小規模の組織で、所属している21隻の漁船が、北太平洋で引網と竿釣を使った操業を行なっています。海洋環境に対する意識は高く、今回のMSC認証の取得についても、組合員の一人であるウェブスター氏は、「消費者だけではなく、持続可能な方法で漁業を行う漁業者にとっても、漁業の将来に有効な方法だ」とコメントしました。
MSCのルパート・ハウズ最高責任者は、「今回の認証取得は、危機的な状況にあるマグロ類にとって朗報だ」と、認証の取得を歓迎。WWFアメリカのメレディス・ロプキーも、「マグロ類でのMSC認証取得は画期的なこと。この動きに他のマグロ漁業が追随してくれることを期待する」として、今後、同様の取り組みが拡大することを期待しています。
WWFは現在、持続可能な水産物の普及拡大を目指すため、各国でこのMSCの推進を目指しており、今回の認証の取得についても、WWFアメリカがその費用の一部を支援する形で行なわれました。
日本でも2006年からMSCの認証製品の販売が開始されています。
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WWFインターナショナルのサイト 06 Sep 2007
World's first sustainable tuna fishery certified in US
記者発表資料 2007年9月7日
マグロではじめてのMSC認証
米国ビンナガ漁業協会(AAFA、本部カリフォルニア州サンディ エゴ)が漁獲する小型のマグロ類ビンナガがMSC(海洋管理協議会)認証を取得した(2005年12月から本審査が行われていた)。対象となる製品は主に 缶詰にされ、米国内や海外市場で販売されている。ビンナガは主に缶詰の材料として世界中で利用されている。最近は日本のスーパーや回転寿司などでトロの部 分が「ビントロ」として売られるようになってきた。
マグロ類としてのMSC認証(*)取得は世界で初めて。今回の認証取得にあたっては、WWF米国が取得費用を一部補助し、資源量の急激な減少が心配されてい るマグロ類へのMSCラベル取得を支援した。近い将来、日本の消費者がMSCラベルのついたマグロ製品を店頭で選ぶことも可能になる。
現在、世界のマグロ資源に関して、資源管理を目的とした5つの国際条約機関があり、資源管理のためのルールをそれぞれ定めている。しかし、まだ十分なもので はなく、各機関によりばらつきがある。そのため、海洋生態系のバランスを崩し、マグロ資源量が減少している。世界に23ある商業マグロ資源すべてにおいて 資源量の深刻な状況が続いている。この内、少なくとも9漁業がほぼ資源を獲り尽したとされ、さらに4漁業で過剰に漁獲され、9漁業で生物の種として絶滅の 危機にあるとされている。また混獲による他の生物への影響も深刻になっている。
MSC 認証取得を支援したWWF米国のメレディス・ロプキーは「食卓からマグロが消える、ましてや海からマグロが消える・・・自分たちの孫にそんな状況に直面し てほしくはない。マグロ類でのMSC認証取得は画期的なこと。この動きに他のマグロ漁業が追随してくれることを期待する」と語る。
また、 MSC最高責任者のルパート・ハウズは「今回の認証取得は、危機的な状況にあるマグロ類にとって朗報だ。ますます減少するマグロ資源への消費者の関心は高 まっている。混獲を避ける漁法を採用する米国ビンナガ漁業協会がマグロ漁で認証を取得したことで、環境に配慮した持続可能な漁業がマグロ漁でも可能であ り、消費者が環境に配慮したマグロ製品を手にすることができることが実証される」と述べている。
米国ビンナガ漁業協会は、家族経営漁業を中心とする小規模の組織だ。協会員の海洋環境に対する意識は高い。協会員のウエブスター氏は「消費者だけではなく、持続可能な方法で漁業を行う漁業者にとっても、こうしたMSC認証取得は漁業の将来に有効な方法」と語る。
米国ビンナガ漁業協会では北太平洋で21隻が操業している。漁法は引網と竿釣。特殊な釣り針を使用し、糸の長さも短いため、海面近くを泳ぐ比較的若いマグ ロだけを漁獲することが可能。一般的にマグロ漁で使用されているのは延縄漁法で世界のマグロ漁の3/4で使用されている。この漁法では、特に漁獲を目的と していない様々の大きさの魚種や、ウミガメ類やサメ類などの海棲生物を捕獲してしまい、海洋生態系への悪影響が指摘されている。
マグロ類 は、大西洋・太平洋・インド洋近海など世界各地の海を回遊し、海の食物連鎖の頂点にたつ生物。日本は世界でとれるマグロの1/3を消費する世界一の消費大 国だ。日本に流通するマグロ製品にMSCラベルがつけられれば市場へ与える影響力も大きい。また、消費者は安心して、適切な漁業管理を行っている漁業者を 支援し、世界の海洋環境保全に貢献する製品を選ぶことができるようになる。
WWFはグローバルなネットワークを通じ、今後も海洋生態系へ考慮した持続可能な水産物が消費者の元に届けられるよう、MSC認証制度の普及を支援していく。
(*)MSC 認証は「海のエコラベル」として持続可能な水産物に対してつけられ、世界中に広がっている。厳しい審査を経て認可がおりるもので、持続可能で適切に管理さ れ、環境に配慮した漁業の証となる。日本でも昨年からラベル付き商品の販売が開始され、一般の消費者が選択できるようになった。
マグロの違法漁業、過剰漁獲の事例(2006年10月30日)
マグロの資源管理のための国際的な枠組みがあっても、それが活かされなかったり、枠組みを逸脱するようなことが横行すれば、資源は枯渇してしまいます。最近でも次のような違法漁業や過剰漁獲が行われてきたことが明らかになっています。
台湾船によるメバチの原産地偽装
2004年11月の大西洋マグロ類保存国際委員会(ICCAT)で日本政府は、台湾船が大西洋で漁獲したメバチを他海域で漁獲したと虚偽の報告をしてきたとする報告書を提出しました。
同報告書によると、同年6月海上保安庁は清水港に寄港した1隻の台湾系冷凍運搬船の立ち入り調査をおこないました。この結果、この冷凍運搬船は25隻の台湾漁船と3隻のバヌアツ船籍の漁船(台湾人オーナー)が漁獲したメバチを運搬していましたが、28隻すべてのマグロ漁船で二重の漁獲報告書(本物と偽物)が発見され、漁獲海域、漁船名(メバチの漁獲が許可されていない漁船から許可された漁船への付け替え)、転載地(認められていない海上での転載)の偽報告を行ったことが明らかになりました。
さらに同年9月水産庁は日本の大手商社系冷凍運搬の立ち入り調査を行ない、同様の手口の他に、漁獲した船の船籍を中国としたり、メバチを漁獲した海域が実際には漁獲枠の定められている大西洋であるにもかかわらず、漁獲枠が定められていない太平洋で漁獲したものと虚偽の報告をしていたことが明らかになりました。
同報告書はさらに、上記2隻の冷凍運搬船に関連する漁船だけでなく、台湾船が国別漁獲割当量が設定され厳しい規制のある大西洋産のメバチを資源管理措置がまだないインド洋産として多量に日本に輸出してきた可能性を指摘しました。
これらの問題を受けて、2005年11月のICCATの年次会合では、台湾に対してメバチを主に漁獲するマグロ漁船(メバチ専業船)を2005年の98隻から2006年は15隻に減らし、さらにメバチの漁獲枠を2005年の16500トンから2006年は4600トンに減らすという制裁がとられることになりました。これに加え、メバチ専業船について、全ての船にオブザーバーが乗船すること、指定した港で水揚げをして検査をすること、洋上でマグロを他の船に載せ替えることを禁止し、さらに小型のマグロ漁船を減らすことなどが決められ、これらが守られなければ、2006年の年次会合で貿易制限措置がとられることになりました。
中国船によるメバチの原産地偽装
2005年12月、日本の水産庁は太平洋産として輸入申請が行われた、中国のマグロ漁船が漁獲したメバチについて、港湾での陸揚げ時にサンプルを採取し、DNA検査を実施したところ、その漁獲海域が太平洋ではなく厳しい管理のルールが定められている大西洋であったことが判明したと発表しました。このマグロは中国政府が発行した証明書に基づき、漁獲海域を「東部太平洋以外の太平洋」として輸入手続が行われ、既に国内で流通・消費されてしまいました。つまり外国政府が発行した書類に基づき、正規の輸入手続をふんだのにも関わらず、ルールを守らないマグロが流通してしまったのです。マグロの流通に関係する企業は単に輸入手続を守るだけでなく、漁船がルールを守っているかどうかの確認をする必要があるといえるでしょう。
日本船によるミナミマグロの過剰漁獲
2005年10月に開催されたCCSBT(ミナミマグロ保存委員会)年次会合で、オーストラリアが行った日本の市場調査で、漁獲割当量を大幅に超えるミナミマグロが日本に流通している可能性が指摘されました。これを受け、2005年の年末に水産庁は日本船の水揚量の調査を実施したところ、2005年の日本船が1500トン (※最終的には約1800トンと報告された) を超える漁獲枠超過をしていたことが明らかになりました。日本のマグロの漁獲量管理方法は、漁船がファックス等で水産庁に漁獲量を報告するという方法が主にとられており、報告された漁獲量と実際の漁獲量が同じであるかどうかの検証をするのが困難でした。
このため、日本のミナミマグロの漁獲量のより正確な把握と漁獲枠の遵守を確実にすることを目的に、水産庁は「指定漁業の許可及び取締り等に関する省令」を一部改正し、漁業者ごとに漁獲量を割り当てる、番号を表示したタグをマグロに取り付ける、日本の港で陸揚げする際にはタグ番号を届け出る、割当量を上回って漁獲した場合、漁業者だけでなく、販売、加工した流通業者も、省令違反で罰金を科す、としました。
地中海のクロマグロの違法漁獲
地中海を含む、大西洋のマグロ資源を管理する国際機関「ICCAT(大西洋マグロ類保存国際委員会)」の科学委員会(SCRS:調査統計常任委員会)では、地中海でクロマグロを今後も持続可能な形で利用してゆくためには、各国の年間の漁獲量(漁獲割当量)の合計を、2万6,000トンと算定。加盟国に対して提言を行ないました。しかし、クロマグロの輸出を続ける地中海沿岸諸国の意向が反映された結果、ICCATでは2003年から2006年のクロマグロ漁獲割当量を、1年間で3万2,000トンに設定。科学委員会の提示した数値を大きく上回る条件が採択されることになりました。このことだけでも問題であるのに、さらに違法な過剰漁獲が行われてきたことが明らかになりました。
WWFは2006年7月に発表した報告書「2004年、2005年の地中海と東部大西洋におけるクロマグロの違法漁業」の中で、2004年と2005年に、それぞれ4万5,000トン以上のクロマグロが、漁獲されていた事実を発表。フランスを中心とするEU諸国と、リビア、トルコの漁船が、国際的な合意のもとで取り決められた漁獲量の割り当て(漁獲可能なトン数)を、大幅に上回る規模で、クロマグロを漁獲し、しかも、意図的に漁獲量の超過を報告をしなかった事実を指摘しました。また、2006年10月初頭に、スペインのマドリードで開催された、ICCAT科学委員会の会合でICCAT科学委員会が推定した実際の漁獲量は5万tで、このWWFの報告と一致する内容でした。
これらの地中海のクロマグロの多くは「蓄養」され、トロの多い「養殖マグロ」として日本に出荷されてきたのです。日本人がトロの多いマグロをいつでも安く大量に安定して食べることができたのは、このような違法な過剰漁獲と密接に関係していると言えるでしょう。
ミナミマグロの漁獲枠が半減?CCSBT会議はじまる(2006年10月6日)
2006年10月10日から13日まで、宮崎で「CCSBT(みなみまぐろ保存委員会:Commission for the Conservation of Southern Bluefin Tuna)」の第13回委員会年次会合が開かれます。今回の会合では、2005年に各国に対して勧告された漁獲枠の半減や、違法性が指摘された過剰な漁獲が、争点になることが予想されます。
指摘された日豪の過剰な漁獲
日本、オーストラリア、韓国、ニュージーランドが参加するCCSBTは、ミナミマグロの資源管理を行なうための国際条約に基づく組織で、関係国の合意のもと、毎年国別にミナミマグロの漁獲量を割り当ています。
2004~2005年の漁期にCCSBTが割り当てたミナミマグロの漁獲総量は、1万4,030トン。このうち、日本とオーストラリアはそれぞれ、内訳の1位と2位を占めており、それぞれ、6,065トン、5,265トンが、漁獲可能な量として割り当てられていました。
しかし、2005年の年次会合で、オーストラリア政府は、漁獲割当量を大幅に超えるミナミマグロが日本に流通している可能性を指摘。これを受け、水産庁が日本船の水揚量を調査したところ、2005年に1,500トンを超える漁獲の超過が確認されました。
そこで、水産庁は2006年「指定漁業の許可及び取締り等に関する省令」を一部改正し、漁業者ごとの漁獲量割り当てや、タグによる違法なマグロの流通を規制、漁業者だけでなく、販売や加工に携わる流通業者にも罰金を科すなど、国内での対策を進めました。しかし、それでもなお、オーストラリア政府が指摘した超過漁獲量と、日本の調査によって明らかになった超過量に、最大で1万トン近い開きがあるため、この差がなぜ生じたのか、今回の会議では大きな争点になることが予想されます。
一方、日本政府も、オーストラリアからのミナミマグロの輸入統計を分析した結果、オーストラリアが漁獲枠を超過している可能性を指摘。この問題についても、今回の会議で話し合いが行なわれるものと考えられます。
オーストラリアはミナミマグロをまき網で漁獲し、生きたまま一定期間「蓄養(ちくよう:いけすで餌を与えて太らせる)」した後、トロを多く含んだ刺身マグロとして、日本へ大量に輸出しています。
勧告された漁獲枠の半減
日本とオーストラリアの過剰漁獲が事実であれば、この両国の割当量は、その超過分に応じて今後の割当量から減らされるべきものです。もしも、漁業が十分に管理できないまま漁獲を続ければ、すでに資源状態が危機的といわれるミナミマグロはさらに減少し、今後も継続して獲り続けることは難しくなるでしょう。また、マグロがこのような形で漁獲されている場合は、それを輸入することも、大きな問題です。
資源状況を調査し、その結果に基づいて提言を行なうCCSBTの科学委員会は、2005年の会議に際し、ミナミマグロ資源を保護するため、各国の漁獲割り当て量の合計を、2006年に9,930トンまで下げるか、2007年に7,770トンまで下げる必要がある、と勧告しました。この2007年の漁獲枠の削減は、従来の漁獲量のほぼ半分に相当する、7,160トンを削減する計算になります。
しかし、2006年の削減については各国による合意が得られず、「2005年の漁獲量を越えないこと」が合意されたのみにとどまりました。また、2007年については、ニュージーランド、韓国、オーストラリアと台湾が、勧告どおり漁獲量を削減することを表明しましたが、日本はこの漁獲の削減について、実施するかどうかを、まだ明らかにしていません。
WWFはミナミマグロ資源の持続的な利用を実現するため、関係する全ての国に対し、違法・無規制・無報告漁業(IUU漁業)の削減と、CCSBTの科学委員会の勧告を尊重した漁獲枠の設定を求めています。
記者発表資料 2006年10月5日
ミナミマグロ、日本の過剰漁獲が争点か
【日本、東京発】みなみまぐろ保存委員会 (CCSBT:Commission for the Conservation of Southern Bluefin Tuna)の第13回委員会年次会合が、2006年10月10日から13日までの日程で宮崎で開かれます。みなみまぐろ保存委員会はみなみまぐろの資源管 理を行うための国際条約に基づく組織で、関係国へみなみまぐろの漁獲量を割り当ています。
今年の年次会合では次のような問題が大きな争点になります。
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科学委員会の漁獲枠半減勧告のとりあつかい
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日本の過剰漁獲問題
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オーストラリアの過剰漁獲問題
科学委員会の漁獲枠半減勧告の取り扱い
昨年、科学委員会は資源評価の結果、これ以上の資源の減少を避けるために、2006年に漁獲レベルを9,930トン(現在より5,000トン削減)まで下げるか、2007年に7,770トン(現在より7,160トン削減)まで下げる必要があると勧告しました。しかし、2006年削減については合意が得られ ず、2006年については2005年の漁獲レベルを越えないことが合意されました。ニュージーランド、韓国、オーストラリアと台湾は2007年までに削減 することを表明しました。一方、日本は2006年の削減の実施は困難とし、2007年の実施についても態度を表明していません。
WWF(世界自然保護基金)は、CCSBTが資源を回復させるために科学委員会の勧告に基づく漁獲枠を設定することを求めます。
CCSBTのみなみまぐろの2005-2006年漁期における国別漁獲配分
日本 6,065トン
オーストラリア 5,265トン
韓国 1,140トン
漁業団体台湾 1,140トン
ニュージーランド 420トン
合計 14030トン
日本の過剰漁獲問題
2004/2005年のみなみまぐろの漁獲割当量はCCSBT加盟国全体で14,030トンで、このうち日本の割当量は加盟国最大の6,065トン。日本はまぐろ延縄船によりみなみまぐろを漁獲し、冷凍した後、刺身向けに日本に供給してきました。
昨年の年次会合で、オーストラリアは日本の市場調査に基づき、漁獲割当量を大幅に超えるみなみまぐろが日本に流通している可能性を指摘し、その超過漁獲量 は8,696トンから11,260トンと推定しました。これを受け、昨年の年末に水産庁が日本船の水揚量の調査を実施したところ、2005年に日本船が 1,500トンを超える漁獲枠超過をしていたことが明らかになりました。これを受けて、日本政府は本年「指定漁業の許可及び取締り等に関する省令」を一部 改正し、漁業者ごとに漁獲量を割り当てる、番号を表示したタグをマグロに取り付ける、日本の港で陸揚げする際にはタグ番号を届け出る、割当量を上回って漁 獲した場合、漁業者だけでなく、販売、加工した流通業者も、省令違反で罰金を科すことになりました。
しかしながら、オーストラリア側が指摘した超過漁獲量と日本側が明からにした超過漁獲量に依然大きな開きがあるため、この差異がどのようにして生じたのかが大きな争点になります。
オーストラリアの過剰漁獲問題
オーストラリアの漁獲枠は日本に次ぐ5,265トン。オーストラリアはみなみまぐろをまき網で漁獲し、生きたまま一定期間いけすで餌を与えて大きく太らせる「蓄養(ちくよう)」をした後、トロを多く含んだ刺身マグロとして、日本へ供給しています。
昨年の年次会合で、日本は日本の輸入統計を分析した結果、オーストラリアが漁獲枠を超過している可能性を指摘。その後の追加的な分析に基づいて、本年の年次会合でどのような結果がでてくるかが大きな争点になります。
日本とオーストラリアの過剰漁獲が事実であれば、過剰漁獲をした国の割当量はその超過分に応じて減らされるべきであり、また、原因を特定し、同じような問 題が生じないような対策をとるべきです。漁獲管理能力のない国ではみなみまぐろ漁業を行うべきではなく、そのような国が漁獲したみなみまぐろを日本市場へ 流入すべきではありません。WWFは、あらゆる国の違法・無規制・無報告漁業(IUU漁業)の削減を求めます。
参考
*みなみまぐろ(Thunnus maccoyii)は、どんなマグロ?(CCSBT)
http://www.ccsbt.org/jp_docs/jp_about_s.html
*条約制定までの経緯 (CCSBT)
http://www.ccsbt.org/jp_docs/jp_about.html
*みまみなぐろの管理措置(CCSBT)
http://www.ccsbt.org/jp_docs/jp_management.html0-12