クマといかに共存してゆくか?島根県との共同プロジェクト


WWFジャパンは現在、島根県と協力し、ツキノワグマとの共存をめざしたプロジェクトを展開しています。集落に出没するクマの問題は、なぜ起きるのか。島根県の田橋町と横山町では、プロジェクト開始以来、およそ一年間に渡り、クマの出没する集落での住民への聞き取りやアンケート調査、集落点検などを行なってきました。クマと人の間に起きる問題。その原因をたどりながら、解決に取り組む活動を紹介します。

柿の町、田橋町と横山町

浜田市街地を見下ろす風景

港の様子。海にまで山林が迫ります

収穫された西条柿

島根県西部に位置する浜田市は、中国山地が日本海まで迫る、優れた自然景観と天然の良港に恵まれた地域です。

まとまった平地は少なく、豊かな自然に恵まれた「中山間地域」が多い土地柄でもあります。

中山間地域とは、「平野の周辺部から山間部に至る、まとまった耕地が少ない地域」のことで、田橋町と横山町もそのような中山間地域に位置します。

浜田市街地から車で約30分の距離ですが、丘陵地には水田や果樹園が点在し、のどかな田園風景が広がっています。

ここはまた、「西条柿」の産地でもあります。西条柿は広島県が原産とされ、中国地方を中心に広く栽培されている渋柿。

島根県の栽培面積は日本一で、島根の西条柿は、外観が砲弾型で四方に溝があり「打ち出の小槌」を連想させることから「こづち」という愛称で出荷されているそうです。

渋を抜くと(脱渋)、きめ細やかで上品な甘みがあるといわれています。

この田橋町と横山町では、1970年代から西条柿の栽培が盛んになりました。

ところが、近年では農業従事者の高齢化や後継者不足などの問題により、手入れが十分にされていないカキ園、あるいは放棄されたカキ園が見られるようになりました。

2000年代に起きたクマの大量出没の際には、これらのカキ園はクマの格好のエサ場となり、クマを引き寄せる原因にもなったと考えられています。

同じく大量出没の年であった2010年にも、この2つの町ではツキノワグマの出没が相次ぎ、7頭が捕獲されました。

島根県は、全国の中でも、クマ出没への対応体制が整っている自治体ですが、それでも、住民が抱く不安は、強いものがあります。実際、被害は農作物の被害のみならず、人身に及ぶ可能性もあるためです。

田橋・横山プロジェクトについて

田橋・横山町の田園風景。

半ば放棄されたカキ園。下草が覆い茂り、
樹木の枝は剪定されずに伸び放題になっている。

島根県と浜田市は、2012年度から田橋町および横山町を「鳥獣被害対策モデル地域」に指定して被害対策を始めました。

そして、これらの先行した事業と連携した形で、2012年7月、WWFジャパンと島根県の共同プロジェクト「田橋・横山プロジェクト」は立ち上がりました。

このプロジェクトでは、住民とクマをはじめとする野生動物とのトラブル軽減を目的としています。

住民と野生動物とのトラブルは、個人レベルの対応では解決が難しく、地域一体となって対策を行なうことで、はじめて効果が期待できるものです。

この田橋・横山プロジェクトでも集落が抱える問題をまず洗い出し、それらの問題に向き合いながら、住民が自らの手で実施・継続していける活動を計画・実行していきます。

田橋・横山町には6つの集落があり、どの集落にもカキ園が存在します。

しかし、どういうわけか、ツキノワグマによる被害が集中するカキ園と、ほとんど被害が発生しないカキ園があります。

その実態を把握するため、6集落それぞれの自治会長などのキーパーソンに聞き取りを行ない、プロジェクトの対象とする集落を絞り込んでいきました。

その結果、周辺の山林と接している4集落で被害が顕著で、その内側に位置する2集落ではほとんど被害がないことが明らかになりました。

そこで被害のある4集落を対象としてプロジェクトを進めていくことにしました。

田橋・横山プロジェクトについて

2013年3月~4月、プロジェクトでは、対象となっている4つの集落において、鳥獣被害、被害対策そしてカキ園の状況などの要素を考慮したアンケートを作成しました。

これを、各集落の自治会長さんのご協力のもと、4集落の計82戸に配布・回収しました。

たくさんの方にご回答をいただくことができ、アンケートの回収率は82.9%と非常に高いものとなりました。

この地域の高齢化率(65歳以上の高齢者の割合)は約41%と全国平均の約24%を大きく上回ります。世帯数は「1人」と「2人」を合わせると53%となり、高齢者の一人暮らしおよび老夫婦のみの世帯の割合が高いことが推測されます。このような担い手不足は、被害対策をしたくてもなかなか十分な対策が取れない現状を生み出しています。 総務省によると50年後の全国平均の予測は約40%となっており、田橋・横山町は50年後の日本の姿を写しているとも言えるかもしれません。


【質問】あなたは、ここ3年間(平成22年~24年)で、鳥獣による農作物被害を受けたり、出没による不安を感じたりしたことがありますか。

【質問】「被害がある」と答えた方は、どんな被害でしたか。(複数回答可)

野生鳥獣の被害(物理的・精神的)を訴える住民は約81%と非常に高い数字になりました。対象集落では、野生鳥獣の被害は日常化していると言えるでしょう。

対象集落では、農業を営む割合が約74%となっています。農家でなくても家庭菜園で野菜などを作っている住民も22%います。ほとんどの住民が田畑を耕しているので、農作物への被害は多くなっています。さらに、精神的な被害(不安や恐怖を感じる)を訴える住民は約65%になりました。その対象は、多くの場合がクマに対するものでした。


【質問】田橋町・横山町にイノシシやクマがいることについてどう思いますか?

クマ、イノシシ共に「いるべき」と答えた住民は皆無でした。クマについては、「町内には一切いてほしくない」とクマの存在を拒絶した住民が約41%に上りました。イノシシよりクマを拒絶する住民が多いのは、クマが人身被害を引き起こす可能性があるからだと考えられます。 一方、ほぼ同じ割合で、クマが「山や森から出てこなければ良い」と答えた住民もいました。


住民と一緒に集落内を歩き、住民自らの「気付き」を促す。
耕作放棄地にどのようにイノシシが侵入しているかを確認中。

現場での「気付き」を、手書きで地図上に記入しながら、
確認していく。手書きの地図は後で電子化する

集落点検の実施

集落点検とは、集落住民自ら地域の現状や課題を把握するとともに、地域にある資源の洗い出しと、それらを活用した地域活性化策の検討など、今後の集落のあり方を話し合うもので、住民参加型のプロジェクトによく用いられる手法です。

以下の点に注意しながら集落内を歩き、住民が自らの集落を「点検」します。

  • 被害を及ぼす野生動物の特定とその行動状況
    ⇒動物の種類、侵入ルート、農地依存度、足跡や糞の痕跡など
  • 被害の状況
    ⇒被害にあった農作物、被害量など
  • 集落環境の状況
    ⇒動物を引き寄せる原因(田んぼに捨てられたクズ野菜、放任果樹など)
    ⇒休耕地、周辺の林地、柵(電気柵、フェンス)の管理状況

田橋・横山プロジェクトでは、2013年6月にプロジェクト対象地である4集落において、集落点検を実施し、その結果をGISの手法を用いて地図上にまとめ「見える化」しました。

上図が手書きの集落点検マップ。

下図がそれをGISで処理したもの。農地の状況や防護柵の位置、過去の被害状況などが一目でわかるようになっている。 オレンジ色で塗られたのがカキ園。

これからの方向性

これら、聞き取り調査、アンケート、集落環境点検の結果を総合的に判断して、プロジェクト対象の4集落を「重点活動集落」と「指導集落」の2つに分けて、今後の活動を進めることにしました。

  • 重点活動集落:積極的に対策などの活動を行なう⇒田橋上、横山西集落
  • 指導集落:必要に応じてアドバイスなどを行なう⇒田橋下、横山下集落

重点活動集落では、クマを引き寄せている原因だと思われるカキ園での防除対策、集落内でクマを引き寄せている物の除去(放置果樹の伐採など)、人手が足りない現状をどのように打破していくかの検討などを実施します。

さて一年間におよぶ調査の結果、田橋町・横山町の全般的な状況、そして各集落で異なる詳細な状況がわかりました。その結果、すぐに対策ができる活動と、集落の意向を確認・尊重しながら進めなければならない活動があることが、わかってきました。

幸い2010年以降、この地域ではクマの大量出没は起こっていません。

次の大量出没がいつになるのかはわかりませんが、事後の対応ではなく事前に対応することで、住民とクマとのトラブルを減らしていくことができるでしょう。

トラブルを住民の許容範囲までに抑えることが、「人間とクマとの共存」の基盤になることは間違いありません。

その日を目指して、プロジェクトでは少しずつですが着実に活動を推し進めていきます。

田橋上集落での主な活動計画

  • 耕作放棄地の脇に点在する果樹は、伐採などの対策が必要⇒所有者の了解が必要。伐採を誰が行うかも要検討
  • 管理が不十分なカキ園を今後どう改善していくか、まずは所有者の意向確認
  • アライグマ分布拡大防止のため、目撃付近での調査
  • 獣害対策への関心が高い集落なので、講習会の開催
  • 集落近辺の古民家宿泊施設、茶園でのイベント情報を収集し、プロジェクトとの連携が図れるかどうか検討する

横山西集落での主な活動計画

  • 浜田市や西条柿生産組合を通じて放置柿園所有者に連絡を取り、今後の管理についての意向を確認する
  • 防護柵をしていないカキ園の所有者に、イノシシ、ツキノワグマによる被害の程度と鳥獣被害に対する考え方を確認する
    「鳥獣にカキを食べさせることは動物を集落へ誘引することになり、他のカキ園への被害につながる」ことを理解してもらう
  • 集落の戸数が少なくマンパワーが不足しているため、今後の活動を進める中で、何にどのくらいの労力が必要なのかを確認していく。まずは田橋・横山地域内での連携を強め、さらに必要であれば外部からのマンパワーの導入も検討する

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