【インタビュー】より快適な毎日を、より多くの人たちに
2014/06/27
- ※各界で活躍されている方々に「One Planet Lifestyle」について語っていただきます。
カラフルなデザインや手頃な値段が人気のスウェーデンの家具会社、イケア。その店舗は、子どもを連れてのショッピングにもむいていると注目を集めています。実はイケアの人気を支える裏側には、数々の工夫と深い経営哲学がありました。 案内人:八木俊明さん (イケア・ジャパン サステナビリティ・マネージャー)
スウェーデン生まれの家具販売店:イケアが大切にしているものは?
イケアは今から約60年前に、スウェーデンのスモーランドというとても小さなまちから生まれた家具会社です。日本では船橋や神戸など7カ所に店舗を構え(今夏、仙台で新店舗オープン予定)、リビ ング、キッチン、ベッドルーム、子ども向け商品やアウトドアグッズを販売しています。
「イケアの商品は、手にすることが楽しくなるようなデザインや機能性を大事にしているんです」と説明してくれたのは、イケア・ジャパンのサステナビリティ・マネージャー、八木俊明さん。イケアの本拠地・北欧では、寒くて長い冬の間は、家の中で過ごす時間が長いため、気持ちが明るくなるようなカラフルなデザインの家具が多いそうです。その影響から、イケアの商品の多くは色彩豊か。機能性も高く、値段がお手頃であることから、たくさんの人たちに親しまれています。
ところで皆さんはイケアが、実はサステナビリティの最先端企業でもあることをご存知でしたか?
イケアのホームページを訪れてみると、人や環境、地球資源に配慮した世界を目指す「People & Planet Positive」の取り組みが紹介されています。それらは商品の開発から調達、販売のあらゆる段階で展開されている、とても多様なラインアップで成り立っています。
イケアがそれほどまでにサステナビリティに熱心に取り組む理由はどこにあるのでしょう。八木さんは、それはイケアの創業の地、スウェーデンの文化とも関係があると言います。
「より少ないものから、より多くをなす」
イケアの創業者、イングヴァル・カンプラート氏の出身地、スウェーデンのスモーランド地方は、表土を石に覆われた、資源の乏しい痩せた土地です。このことから、この地に暮らす人たちの間には「限られた資源をいかに有効に活用し、より多くのものをつくるか」という考え方が身体に染みついていました。そんな精神文化の中で生まれ育ったイケアもまた、サステナビリティを強く意識する遺伝子を持つ企業となったのです。
「より多くの人たちに」
イケアが経営理念に掲げるのが「より快適な毎日を、より多くの方々に」という考え方です。いくら環境や社会によくても、値段が高過ぎて一部の人にしか手に取ることのできない商品ばかりを提供していては、多くの人たちには広がりません。地球に与えるインパクトも、小さくなってしまいます。また、いくら商品が環境に配所されサステナビリティを意識したものであっても、手にする楽しさを感じられないデザインであったら、多くの人から選択されることはないでしょう。そこでイケアは、デザインや機能性、そして価格の全てにおいて、多くの人たちに魅力的に感じてもらえる商品づくりを心がけているそうです。
楽しく、気軽に、LED電球へ切り替える!
では、ここでイケアのサステナビリティの代表的な取り組みを見てみましょう。 イケアが今、日本で一番力をいれているのが、LED電球の普及です。LED(Light Emitting Diode:発光ダイオード)は寿命が長く、明るさも高い電球として、環境によいと注目されてきました。けれども、まだその良さや導入メリットが理解されず、実際には思うほど一般の人たちへの普及が進んでいません。 そこでイケアの店舗では、カラフルでデザイン性に優れたLED商品がたくさん提示され、それを導入するメリットを分かりやすく紹介しています。
例えば、展示フロアに紹介されているのは、LED電球を使った部屋(左)とそうでない部屋(右)の比較(写真)。 寿命が長く電気代がやすくてすむLEDの部屋の場合、間接照明を置いても、右側のLEDを使用していない部屋よりも省エネで、電気代も安くすむことが分かります。
大量生産により、値段をおさえて商品を提供していることもポイントです。価格の壁を下げることで、これまで「LEDは高いから買わない」と考えていた人の行動を変えることができるのです。 イケアが世界各国で実施した調査によると、環境によいということを購入の際の参考にすると回答した人たちの多くが、価格があまりに高いと、環境に良いものであっても購入しようとは思えない」と答えていたことがわかりました。つまり、価格の問題さえ解決することができれば、環境によいものを買いたいと考えている人たちが世界にいるということが、よくわかったのです。八木さんによると、この調査の結果はイケア社内で共有され、今後の商品開発の参考とされているそうです。
人にも地球にもやさしいデザイン開発
家具にも工夫がたくさんあります。例えば、イケアのラック製品の一部には、蜂の巣状にデザインされた再生紙が使われています。自然界の中で一番強い構造をしていると言われる蜂の巣を真似ることで、強度に問題がなく、自分で持ち運べるほど軽い商品が実現されたのです。 「中が空洞になっていることは外側からはわからないので、実際に手に取ってみて驚かれるお客様が多いですね」。八木さんの言う通り、イケアの商品開発の裏側にはたくさんの工夫がありますが、その多くは、まだまだ知られていないものも多いようです。
「商品を入れるパッケージにも工夫がなされています。コンパクトに収納できる商品を開発したことで、輸送にかかる時間やコストをおさえることにも成功しました。一度に多くのものを納品できるので輸送スペースの節約になりますし、CO2排出量の低下にも結びついています」。八木さんが語るように、イケアには、商品開発から物流にいたるまで、事業のあらゆる側面でサステナビリティの考えが反映されているようです。
部門を超えたコミュニケーションを行いやすくするためでしょうか。オフィスも開放的で、誰もが気軽に集まり、話し合える雰囲気が漂っていました。
最高サステナビリティ責任者(CSO)のいる会社
ところで、イケアには「最高サステナビリティ責任者(Chief Sustainability Officer)と呼ばれる、他の会社ではあまり目にしない役職が存在するそうです。これは「サステナビリティは経営上の中核課題」であるという認識のもと、2年ほど前に新設されたポジションで、現在は気候変動に取り組むNGOの創設者、スティーブ・ハワード氏さんが就任しています。
ハワード氏のリーダーシップのもと、イケアは2012年に新しいサステナビリティ戦略を制定し、2020年までの目標を設定ました。そこには、三つの優先順位があげられています。ひとつは、より持続可能な暮らしを目指すこと。ふたつ目は、資源とエネルギーに依存しないということ。そして、三つ目は、人とコミュニティに、より快適な毎日を提供するということです。
「『より快適な毎日を、より多くの方々へ』という考えは、イケアの社員であれば誰もが直ぐに応えられる経営理念です。これを実現するためには、環境・経済・社会のバランスがとれたサステナブルな社会が存在することが大前提となります。サステナビリティはイケアのビジョンに直結する、なくてならない課題なのです」。八木さんは、イケアにとってのサステナビリティの位置づけを、このように説明しました。
ハワード氏の掲げた2020年までの目標によると、イケアは、2020年までにイケア全消費電力の同等量の再生可能エネルギーの生産を目指しているそうです。このため、世界のイケアでは、太陽光パネルが合計25万枚、風力発電はヨーロッパを中心に126基のタービンをまわすなど、再生可能エネルギーの導入に積極的に取り組んでいます。 日本では現在、福岡店に750ワットの太陽光発電が設置されている他、2014年春にオープンしたばかりの立川店には、1メガ規模の太陽光発電施設が導入されています。
サステナビリティの広がりを世界・そして未来へ
イケアはこの他、I-WAYという行動規範のもと、取引のある会社にもサステナビリティへの取り組みを要求しているそうです。何故、その取り組みが必要か、どのようにサステナビリティに貢献するかを話し合うことは、イケアの哲学の共有と、サステナビリティへの理解を深めることにつながっていると、八木さんは言います。
イケアには、スウェーデンの子どもを大切にする文化が共有されていて、子どもたちを意識した商品開発や活動に熱心に取り組んでいるそうです。子どもたちの未来を考えることを通じて、サステナビリティを考える。イケアは、そんな機会をこれから益々増やしていきたいと考えているそうです。
イケアの取り組みの秘密を知ることで、店舗を眺める視点や楽しみ方が変わってきたきがします。商品づくりに隠されたストーリーを知ることで、世界が少し、身近に感じられる気がしますね。
One Planet Lifestyleへのメッセージ
One Planet Lifestyleは、子どもを通じて、環境というのを家族で考えるきっかけを与える素晴らしいツールだと思っています。イケアは、地球と子どもたちを一番大切な存在と考えています。サステナビリティは次世代を担う子どもたちのためにも大切なことなのです。子どもたちによりよい環境を残していくために、今こそ、親の世代の人間が、よく考え、行動を起こしていかなくてはならないときだと思います。One Planet Lifestyleは、子どもと大人、家族が、しっかりサステナビリティを考えるひとつのいいきっかけになると思います。イケアとしても、これからも是非、子どもを通じてサステナビリティを考える場を提供して行きたいと思っています。