震災で生息域が変化?コクガンの生きる海
2012/03/12
自然保護室の前川です。
コクガン(黒雁)という名前の鳥をご存じですか?主に北海道から東北地方の沿岸域に、冬になるとやってくる渡り鳥です。
日本で見られる他のガン類と異なり、この鳥は岩場の多い海岸や沖合いに生息します。環境省のレッドリストでも、絶滅危惧2類に指定されており、また国の天然記念物にもなっている数少ない鳥です。
先日、「暮らしと自然の復興プロジェクト」の現場である宮城県南三陸町を訪れた際、海岸でこのコクガンの10羽ほどの群を見ることが出来ました。
実はこのコクガンに、ちょっとした異変が起きているといいます。昨年までほとんど確認できなかった場所で、姿が確認できるようになったのです。
この原因として推測されているのが、東日本大震災による自然環境の変化です。
普段、海上に浮かんでいる生け簀やブイ、ロープなどには、コクガンの食物となる藻類がたくさん付着しています。しかし、津波が押し寄せた地域では、こうした漁具や養殖施設が、みな流されてしまいました。
さらに、地盤沈下が生じた海岸部には、新たな藻場が形成され始めています。既存の採食場の消失と、新たな採食場の出現。これが、コクガンの生息域を変えたのではないか、というのです。
「暮らしと自然の復興プロジェクト」のもう一つの現場である、福島県相馬市の海岸でも、このコクガンが数十年ぶりに確認されたといいます。
こうした変化が本当に震災の影響なのか、またさらなる影響を及ぼす可能性があるのかどうか。その確認には、さらなる調査とデータの蓄積が必要でしょう。ただ、自然の変化が確かに起きていることは、現場でのさまざまな調査活動からもうかがわれます。
引続き調査と情報の収集につとめたいと思います。