『流域治水でめざす ネイチャーポジティブ ポイントブック -九州北西部からの提案-』を発行 共同研究の成果をふまえ、治水と生物多様性保全の両立のポイントとNbSの実践事例を紹介


公益財団法人世界自然保護基金ジャパン(東京都港区、会長:末吉竹二郎、以下 WWF ジャパン)は本日、『流域治水でめざす ネイチャーポジティブ ポイントブック-九州北西部からの提案-』を発行しました。
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ポイント

  • 気候変動により水災害が激甚化・頻発化する中、九州北西部でも被害が頻発しており、災害に強い流域環境づくりとともに生物多様性の保全が課題となっています。
  • 本日2026年4月24日に発行した『流域治水でめざす ネイチャーポジティブ ポイントブック-九州北西部からの提案-』は、九州大学、長崎大学、福岡県保健環境研究所の研究者とWWFジャパンとが、治水と生物多様性保全の両立を図り、生物多様性の損失を止め、回復へと反転させる「ネイチャーポジティブ」を実現するために重要なポイントと、九州北西部(主に福岡県、佐賀県)の事例について共同研究・実践の成果をまとめたものです。
  • あわせて、対象地域の実践的取り組みを紹介する2本のショートドキュメンタリー動画『The Journey of Water ~有明海へそそぐ水の旅~』『The Journey of Water~矢部川流域の知恵とつながり~』をWWFジャパン公式YouTubeに公開しています。冊子と動画の両方を通じて、九州地方をはじめ日本各地の流域治水(※1)に関わるあらゆる関係者に、NbS(Nature-based Solutions:自然に根ざした解決策)(※2)の実践に役立つ知見を発信します。

概要

気候変動を背景に、各地で水災害の激甚化・頻発化が深刻な課題となっています。九州北西部も近年、大規模な河川氾濫や土砂災害により、多くの被害が発生しています。現在、災害に強い流域環境づくりを行なっていくことが重要視される一方で、流域の構成要素である多様な生物の保全については、様々な課題が残っています。
公益財団法人世界自然保護基金ジャパン(WWFジャパン)は本日2026年4月24日、『流域治水でめざす ネイチャーポジティブ ポイントブック-九州北西部からの提案-』を発行しました。これは、九州大学大学院農学研究院生物資源環境科学府アクアフィールド科学研究室、九州大学大学院工学研究院流域システム工学研究室、長崎大学大学院総合生産科学研究科(工学系)、福岡県保健環境研究所の研究者とWWFとの共同研究・実践の成果をとりまとめたものです。
本冊子では、治水と生物多様性保全の両立を図り、ネイチャーポジティブを実現するために重要なポイントと、九州北西部(主に福岡県、佐賀県)の事例を紹介しています。本書が、九州地方をはじめとして日本各地の流域治水に関わるあらゆる関係者にとって、NbS(Nature-based Solutions: 自然に根ざした解決策)の実践において参考になることを願っています。

発行の背景

気候変動を背景に、各地で水災害の激甚化・頻発化が深刻な課題となっています。九州北西部も近年、大規模な河川氾濫や土砂災害により、多くの被害が発生しています。2020年に国土交通省が「流域治水」の考え方を打ち出し、流域全体での治水多作に舵を切りました。この考え方は、あらゆる関係者が協働して気候変動に適応し、よりよい流域環境づくりを行っていく機会である一方で、流域の構成要素である多様な生物の保全については、様々な課題が残っています。

発行の目的

本ポイントブックは、健全な生態系を確保し、治水・防災、気候変動対策、生物多様性保全といった社会課題を同時に解決するNbSの観点で、九州北西部の流域治水の取り組みを整理しています。具体的には、WWFと九州大学をはじめとする大学・研究機関の専門家(流域システム工学・保全生態学など)との共同研究成果を踏まえて、治水と生物多様性の保全の両立可能性や、地域の歴史・地形・生態系を捉えた流域治水の取り組みなどを、実践事例を交えて紹介しています。日本各地で流域治水に取り組むあらゆる関係者に、治水と生物多様性保全の両立にむけた参考資料として活用されることを期待しています。
ポイントブック詳細説明ページ:https://www.wwf.or.jp/activities/lib/6255.html

ポイントブック目次

Chapter 1 流域治水でネイチャーポジティブを実現するには

  • 九州北西部における治水対策と生物多様性
  • 流域治水でネイチャーポジティブを実現するうえでの課題
  • 流域治水でネイチャーポジティブを実現するためのポイント
Chapter 2 事例集
 九州北西部における12の事例を紹介
  • 筑後川流域の田んぼダムの取り組み
  • 柳川市・佐賀市のクリーク事例
  • 松浦川「アザメの瀬」遊水地事例
  • 矢部川流域の廻水路:伝統的構造物による利水と希少種保全の両立   など

Chapter 3 さまざまな「連続性」でみる九州北西部の代表的な生きもの

流域治水に関するショートドキュメンタリーも公開

ポイントブックと連動して、対象地域の取り組みを紹介した2本のショートドキュメンタリーを、WWFジャパン公式YouTubeで公開しています。

ポイントブック執筆者からのコメント(50音順)

川の改修だけでは、どうしても生態系に負担がかかってしまいます。これからは、川の中だけで人の安全を守る時代から、流域全体でみなさんの暮らしを守る時代がやってきました。きっと、それは、今までよりも生態系への負担が減って、川の中は生き物パラダイスになるでしょう。近い将来、お魚いっぱいになることを期待しています。(九州大学大学院農学研究院 資源生物科学部門 教授 鬼倉徳雄)

大きく変化する激動の時代だからこそ、自然や生物多様性といった変わらないものに本質的価値があるのかもしれません。このポイントブックを通じて皆様と少しでもその価値を共有できたらと願っています。(九州大学大学院工学研究院環境社会部門 流域システム工学研究室 特任准教授 鹿野雄一)

流域や地域単位での堅実かつ地道な活動が、世界的な社会目標であるネイチャーポジティブの達成に不可欠です。本ポイントブックを手に取っていただき、流域治水や生物多様性の保全・再生について少しでも興味を持っていただければ幸いです。(九州大学大学院農学研究院 資源生物科学部門 助教 小山彰彦)

流域治水を難しく考えないでください。誰でも、一人からでも参画できます。無理のない範囲で、できることを、できるだけ、やりたいだけ貢献すればいいのです。それは、皆さんの暮らしと身の回りの環境を守ることにつながっていきます。このポイントブックの中に、きっと自分らしいかかわり方のヒントがあります。(長崎大学総合生産科学域(工学系) 助教 田中亘)

生物多様性保全と災害対策は対立するものではありません。本冊子ではどのようにしたらこの2つの課題が両立し、調和できるのかについて、その方法や考え方がわかりやすく解説してあります。また、巻末ではこの地域を代表する多くの生き物も紹介しています。ぜひ多くの人に読んでもらいたいです。(福岡県保健環境研究所環境生物課 専門研究員 中島淳)

流域治水は、災害に強い地域をつくると同時に、自然の豊かさを再生する好機でもあります。本冊子を通じて、地域固有の歴史・地形・生態系を活かしたネイチャーポジティブな実践が各地で広がることを願っています。(九州大学大学院工学研究院環境社会部門 流域システム工学研究室 准教授 林博徳)

WWFジャパンからのコメント

「昆明・モントリオール生物多様性枠組」で国際目標として掲げられた、2030年までに「自然の損失を止め、回復軌道に乗せる(ネイチャーポジティブ)」を実現するには、社会基盤整備において、健全な生態系を確保し、生態系による恵みを維持・回復させ、自然資本を守り活かすアプローチが不可欠です。本書では、ともすると対立構造になりがちな、治水と生物多様性保全を両立させるアイデアを、九州北西部の事例に基づき整理しました。各地の自治体担当者の皆様、流域に関わる「あらゆる関係者」にぜひ手に取っていただければ幸いです。(WWFジャパン 自然保護室 淡水グループ 久保優)

用語解説

(※1)流域治水
河川管理者、行政、企業、住民など流域に関わるあらゆる関係者が協働し、集水域(雨水が河川に流入する地域)から氾濫域(浸水が想定される地域)まで一体となって水害を防ぐ・軽減する治水対策の考え方。気候変動による水害の激甚化・頻発化を背景に、河川やその周辺の湖沼、森林や湿地、草地、水田や水路といった流域全体で、流域に関わるあらゆる人が協働して、持続可能な治水対策を行なうことが求められています。

(※2) NbS(Nature-based Solutions: 自然に根ざした解決策)
自然のプロセスや生態系を活用して、環境問題や社会的課題に対処する方法。自然災害が多い日本では、自然の機能を活かしたグリーンインフラ、生態系を活用した防災・減災策(Eco-DRR(Ecosystem-based Disaster Risk Reduction))を包含する考え方として、NbSが注目されています。

謝辞

本冊子ならびに映像制作は、米国The Coca-Cola Foundation助成金プロジェクト「有明海流入河川流域を対象とした減災と淡水生態系保全の両立プロジェクト」の活動の一環として行なったものです。

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