種の保存法改正への提言


共同提言 2016年9月14日

環境省自然環境局局長 亀澤玲治 殿
絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律あり方検討会委員 各位

WWFジャパン 事務局長 筒井 隆司
トラフィック ジャパンオフィス代表 若尾 慶子

拝啓 時下益々ご清栄のこととお慶び申し上げます。
日頃より自然環境の保全にご尽力を賜り誠にありがとうございます。

さて、今年6月より開催されている「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律あり方検討会(以下「検討会」という)」の第4回検討会以降、講ずべき措置の検討をされるにあたり、WWFジャパンとトラフィックは、下記の16項目の提言が、前向きに検討されること及びその結果が明確に示されることを要望いたします。本提言の背景等は、次頁以降に記載しております。

ご高配のほど、よろしくお願い申し上げます。

敬具

重要度・緊急度が高く検討項目に加えるべき提言

1. 種という単位の概念から食物連鎖や生態系全体を保全する大きな方向転換の議論をすべき

2. 生息地等保護区における保全・監視制度の検討をすべき

3. 科学委員会の法定化検討を再度提言する

4. 事業者登録制の導入・情報公開と個体等登録の一部を義務化すべき

5. 国内に生息する国際希少野生動植物種の取引も適正に管理すべき

6. 違反標本の没収、登録/許可の取り消し等を明文化すべき

既に検討項目に挙げられているが更なる考慮が求められる提言

7. 二次的自然に分布する絶滅危惧種保全の推進に鳥類も加えるべき

8. 本法での交雑種の取扱いを明確にすべき

9. 動植物園等の公的機能の一環として国際希少野生動植物種の扱いについて議論すべき

10. 個体識別制度の対象とするかどうかを登録数の多寡で決めるべきでない

11. DNA等による個体識別の具体的な検討の推進をすべき

検討項目への追加が望ましい提言

12. 地方環境事務所や自然保護官事務所の機能も含めて保護増殖事業の支援方策を検討すべき

13. 生息域内保全の土地の買い取りのあり方についても議論すべき

14. 「対象種であることが容易に識別できる又は対象種であることを謳っている製品」を取引禁止すべき

15. 広告を出した事業者を明らかにすべき

16. 普及・啓発・教育について項目を立てて議論すべき

以上


背景

2013年の法改正時に付された附帯決議を受け、検討会では有識者・関係者にヒアリングを行い、課題の把握がなされた。第1回検討会では国内の絶滅危惧種について、第2回は国際希少野生動植物種の流通等について弊公益財団法人を含めたNGOや有識者が意見を述べた。これらの内容を基に第3回検討会配布資料3-5"絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存につき講ずべき措置について(検討項目)"(以下「資料3-5」)として今後検討する事項が整理されているが、検討会委員が指摘したとおり、前二回で提案・議論された事項が網羅されておらず、また取捨選択の理由も不明である。

重要度・緊急度が高く検討項目に加えるべき提言

1. 種という単位の概念から食物連鎖や生態系全体を保全する大きな方向転換の議論をすべき

第1回検討会においてWWFジャパンは、種の保存法の抜本的な見直しに向けて、法律の名称を変更し、種の保存のみならず生息地の保全と回復も含めた法律にすること、「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律」から生息地の保全・回復も含めた「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存および生息地の保全回復に関する法律」(種の保全法)とすることを求めた。同様に法の目的も「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存および生息地の回復を図る」とすることを提言した。しかしながら、検討項目においては、生息地の回復という記述はない。「二次的自然に分布する絶滅危惧種保全の推進」を進めるためには、荒廃した生息環境の回復も含めて検討するべきであり、種という単位の概念から食物連鎖や生態系全体を保全する大きな方向転換が必要と考える。EUにおいては、自然保護区ネットワーク「ナチュラ2000」の取組みも進んでおり、先進国の中でも日本は、立ち遅れている。2010年に世界が合意した愛知目標12においても、「既知の絶滅危惧種の絶滅が防止され(中略)最も減少している種に対する保全状況の改善が達成、維持される」ことが求められている。

2.生息地等保護区における保全・監視制度の検討をすべき

生息地等保護区の指定の際に種名や地域を公表しない制度の検討がされているが、違法な捕獲・採取を助長させないために、また、今後の保全活動を推進するためにも、当該地域のコミュニティへの積極的な情報提供と、地域や地元民間団体が生態系サービスの享受と共に保全・監視活動を継続する制度設計を検討すべきである。これは、資料3-5の2. ①の多様な主体と連携した活動とも連動する。

3.科学委員会の法定化検討を再度提言する

資料3-5の「6. 科学的な絶滅危惧種保全の推進」に関する記述は、あまりにも曖昧であり附帯決議を真摯に受け止めているとは思えないため、再度提言する。

  • 種指定の優先度と個体数回復などの目標、必要な保護管理計画などを勧告する、専門家による常設の科学委員会の法定を検討すること。
  • 種の保存法改正に際しての衆議院・参議院附帯決議五にあるとおり、「希少野生動植物種の指定は、科学的知見を最大に尊重して実施することとし、当面、2020年までに300種を新規指定することを目指し、候補種の選定について検討を行うこと。そのため、中央環境審議会自然環境部会の野生生物小委員会において、種の指定の考え方や候補種の選定などについて議論を行い、その結果を尊重すること。また、同小委員会の委員については、国民の理解を得られる人選を行い、自由闊達な議論を保障するとともに、希少野生動植物種の存続に影響を及ぼす明確な理由の存在しない限り、国民に対する情報の公開を徹底する」べきである。種指定の優先度と個体数回復などの目標、必要な保護管理計画などを勧告する、専門家による常設の科学委員会の法定を附帯決議四.2に基づいて真摯に検討すること。
  • 常設の科学委員会は、特定外来生物のグループ毎の専門家会合と同様の体制を検討すること。
    参考:特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律第2条第3項(定義等)
  • 平成25(2013)年改正時、WWFジャパン、日本自然保護協会、日本野鳥の会、トラフィック、イルカ&クジラ・アクション・ネットワーク、生物多様性保全・法制度ネットワーク、トラ・ゾウ保護基金、日本植物分類学会、日本生態学会自然保護専門委員会及び第二東京弁護士会が、常設の科学委員会の法定を求めた背景がある。(第183国会、絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律の一部を改正する法律案(閣法第66号)参考資料、平成25年5月 参議院環境委員会調査室より)

4.事業者登録制の導入・情報公開と個体等登録の一部を義務化すべき

事業者が、国際的に希少な野生動植物の生きた個体の取引を業として取扱うにもかかわらず、愛玩動物と同じ要求事項(動物愛護法における動物取扱業の登録)しかないという現状には疑問がある。ペットショップ等生きた個体を取扱う事業者の種の保存法に係る違法事例が多数示されており、また世界的に問題視されている野生捕獲個体の偽装取引が疑われる事例が国内でも散見されるなか、繁殖業者等生体を取扱う事業者を対象とした規制の強化が必要である。繁殖業者の登録は、ワシントン条約の決議12.10に準じる制度作りという観点からも議論されるべきである。また、密猟・違法取引の影響が甚大で、その対応に国際的な努力が強く求められている象牙取引において、一部の取扱事業者のコンプライアンスの低さを示す報告がなされている。ワシントン条約の決議10.10で求められるように特定国際種事業者(特に輸出入業者※を含めた象牙取扱業者)も登録の対象とされるべきである(現行の届出制度から登録制度へ移行)。登録制度の導入と事業者情報の公開により、すべての事業者による法の遵守が徹底されなくてはならない。

個体等登録は、本来禁止されている希少野生動植物種の譲渡等が例外的に認められるための要件である。販売が想定される繁殖業者等が保有する生体や国内に数千トンの在庫があると想定される全形象牙及び一定サイズ以上のカットピース等、より厳格な管理が求められる個体等を指定して識別・登録を義務付ける制度が必要である。合法なものと違法なものの明確化につながるこうした制度構築は、国際社会の一員であり、ワシントン条約アジア地域代表常設委員会メンバーでもある日本の義務といえる。

  • ※商業目的の国際取引は原則禁止されているため、禁止の除外要件を満たすアンティーク等の取引を行っている事業者を意味する。

5.国内に生息する国際希少野生動植物種の取引も適正に管理すべき

国際希少野生動植物種は、個体等登録をすることで例外的に取引が認められる。しかし、ウミガメ科やアジアクロクマ(ツキノワグマ)等国内にも生息する種は、同じ国際希少野生動植物種であっても、種の保存法施行規則第5条第2項により、関連法令に基づき国内で適法に採捕された個体(適法捕獲等個体)については適用が除外されている。したがって、現在、ウミガメの剥製等が登録票なしで販売されていても、国内で捕獲された可能性があるため、広告等からその違法性を判断するのが困難である。国内で適法に国際希少野生動植物種を捕獲して、取引しようとする者は、「適法捕獲等個体」であることを明示すべきである。

6.違反標本の没収、登録/許可の取り消し、違反にかかる生体の飼育・管理費用の負担について明文化すべき

鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律では、犯罪行為の用に供した物及びその犯罪行為によって捕獲した鳥獣等で犯人の所有にかかる物の没収が明記されているが、より希少性の高い希少野生動植物に対しては同様の規定がなく、バランスに欠いている。行政機関による没収、提出命令、解放命令等の規定を設けることが適正な法執行に不可欠である。

既に検討項目に挙げられているが更なる考慮が求められる提言

7.二次的自然に分布する絶滅危惧種保全の推進に鳥類も加えるべき

近年、オオタカを絶滅危惧種から解除することについて社会問題化した。オオタカは、里地・里山に生息する二次的自然に分布する絶滅危惧種でありながら本検討項目には、鳥類と言う記述が欠落している。鳥類も含めて検討すべきである。

8.本法での交雑種の取扱いを明確にすべき

資料3-5の4. ④に交雑種の取扱いついて検討する必要があると記され、第3回検討会では交雑種に関する具体的な事例が示されたが、個別交雑種の検討ではなく、個別の対応ができるように交雑種を本法でどのように位置づけるかが議論されるべきである。種の保存法の対象にしないのであれば、どの法令で担保するのかを明確にすべきである。

9.動植物園等の公的機能の一環として国際希少野生動植物種の扱いについても議論すべき

ワシントン条約に関連する違反や空港等による任意放棄等によって執行機関に確保された生きた個体の取扱いとして、動植物園等で一端、引き取られているが適切な動植物園が見つからず、たらい回しになる事例もある。種の保存のためには、生息域外保全のみならず国際希少野生動植物種についても、指定動植物園等の役割を明確にすべきである。

10.個体識別制度の対象とするかどうかを登録数の多寡で決めるべきでない

資料3-5の4. ②に「登録されている個体数が多くない種について個体識別措置を検討すべき」と書かれているが、個体識別措置の対象とするかどうかはその必要性で判断されるべきで、作業量の多少で判断するのは保全の目的から大きく外れている。

11.DNA等による個体識別の具体的な検討の推進をすべき

資料3-5の4. ②個体識別措置についてDNA等新しい技術による個体識別の具体的な検討もする旨、記述すべきである。

検討項目への追加が望ましい提言

12.地方環境事務所や自然保護官事務所の機能も含めて保護増殖事業の支援方策を検討すべき

資料3-5の2. ②において保護増殖事業計画の新規策定と事業・認定に関する支援方策の検討に関する記述があるが環境省が直轄する、地方環境事務所や自然保護官事務所の機能も含めて保護増殖事業の支援方策を検討すべきである。

13.生息域内保全の土地の買い取りに関するあり方についても議論すべき

国際希少野生動植物種の追加等に関する中央環境審議会答申の検討項目2. ②に記された「生息域外保全は、生息域内保全との連携に十分に留意して進める必要がある」について、環境省予算の生息域内保全の土地の買い取りのあり方についても議論すべきである。

14.「対象種であることが容易に識別できる又は対象種であることを謳っている製品」の取引を禁止すべき

特に絶滅のおそれが高く、取引の影響が大きい種(例 トラ、サイ)は、法令で定める器官・加工品の禁止ではなく、ワシントン条約同様「個体の部分若しくは派生物であって容易に識別することができるもの」の譲渡等を規制し、より速やかな法執行を可能にすべきである。現在、種の保存法施行令別表四に掲載されている器官・加工品が譲渡等の規制対象となっているが、中国で一般的な加工品である虎骨の指輪などは含まれていない。原則として取引が禁止される希少野生動植物種は、対象種であることが明示的である又は対象種であると謳っている器官・加工品を取引規制の対象とすべきである。

15.広告を出した事業者を明らかにすべき

2013年の法改正により、販売・頒布目的での広告の際には、登録票があること及び登録記号番号の明示が必要となったが、これらの情報のみでは、譲渡等を行おうとする者が事業者であるか、そうである場合には適法に手続きを行った者であるか判別できない。譲渡等を行おうとする者が事業者である場合は、オンライン上での取引に限らず、より詳細な届出/登録内容の表示を義務化すべきである。また、保護されている種を類似の別種と偽って取引することが国際的に問題となっている。これを防ぐため、意図的に異なった種名等を表示し広告した場合の罰則を設けることを検討すべきである。

16.普及・啓発・教育について項目を立てて議論すべき

社会的な理解の促進や積極的な普及啓発に関して十分な関心が払われていない。市民に対する啓発機会の提供や学校教育など積極的な取組を推進すべきであり、文部科学省とも前向きに議論して方策を見出すべきである。法第53条2項(地方公共団体に対する助言その他の措置)に「国は、最新の科学的知見を踏まえつつ、教育活動、広報活動等を通じて、絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関し、国民の理解を深めるよう努めなければならない。」と加えられた。これを着実に実行するための検討が必要である。また、生物多様性の主流化においても重要な課題であり別途項目を立てて議論すべきである。

関連資料

本件に関する問い合わせ先

WWFジャパン:草刈(kusakari@wwf.or.jp)

トラフィック:若尾(Keiko.Wakao@traffic.org)

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